「NEWVIEW AWARDS 2019」に見る、VR新世代の表現―ケン・ミン・リュー
世界のVR表現を更新するアワード、テーマは「超体験」
アート、ファッション、カルチャーのためのグローバルなVRアワード「NEWVIEW AWARDS」。Psychic VR Lab、PARCO、ロフトワークの3社によって2017年にスタートしたNEWVIEW AWARDSは、これまでVRが主戦場としていたゲームやエンターテイメントの分野を超えて、より広い領域をターゲットとしています。
2019年のアワードでは、「Ultra Experiences(超体験のデザイン)」というテーマのもとで作品を募集。審査員はFabCafeのグローバルネットワークを通じて、日本、カナダ、上海などで、様々なクリエイティブの領域で活躍するトップランナーを招聘しました。結果、世界中から145人あまりのアーティスト、デザイナー、ディベロッパーの作品が集まりました。(プロジェクトの詳細はこちら)
「これからのデザイナーは、VRのもつ可能性を常に意識するべきです。新しい知覚体験を提供するVRは、社会に対して大きなインパクトを与えることができます。」
こう語るのは、審査員のひとりで台湾のクリエイティブディレクター、ケン・ミン・リュー(Keng-Ming Liu)氏です。本記事では、リュー氏に NEWVIEW AWRDS 2019 の手応えと、VRによる表現の可能性を伺いました。
企画・編集:loftwork Global Team
執筆:蔡舒湉 (中国語) & Joanna Lee (英語)
日本語翻訳:杉田 真理子
日本語版編集:loftwork.com編集部
*本記事は、FabCafe ブログからの翻訳記事です。英語の記事はこちら。
語り手
Ken-ming Liu / Bito 創業者, クリエイティブディレクター
Summer Universiade、Golden Melody Awards、そしてGolden Pin Awardの映像のクリエイターとして、Liuの優れた視覚表現とオリジナリティ溢れたアジアの視点は世界的な注目を集めている。
また創業者であるLiuの下、Bitoは2つのADC賞を受賞。近年、Liuは多くの学問分野を横断するような試みに取り組んでおり、モーションデザインと人間の関係性を再定義することを目指している。
>> Bito
審査から見えた、VR表現のフロンティア
ーNEWVIEW Awards 2019の審査に参加した感想をおしえてください。
今回、審査員は日本、カナダ、上海などから、アニメーション、建築、映像制作のトップランナーが台湾に集結しました。全員が異なるバックグランドや個性、スタイルを持っていながらも、その場で互いに協力し合えたことに驚きました。テクノロジーとコンセプトが調和した表現について議論するのに必要な、視点・視座が揃っていたと思います。まさに、新しいVR作品を審査するのに最適なメンバーでした。
ー2019年の応募作品の傾向について、お聞かせください。
今回の応募作品のなかでも目立っていたのは、日本のアニメ文化に強い影響を受けた作品でした。たとえば、小江華あき《VR Manga World for Styly》などです。このようなタイプの作品で印象的だった作品は、いずれも日本のクリエイターのものでした。これは、日本ですでにバーチャルアイドルのような、デジタルアートとVRを横断する実験的なカルチャーが盛り上がりを見せているためだと思います。
一方で、台湾のクリエイターからは、ジェンダーに関する議論を喚起する、優れた作品が応募されました。たとえば、ウォン・ホイ・ラン《The 23 Year-Old Confession》は、性行為に対する自身のカオティックな妄想をVRで表現していました。
パーソナルな世界観から紡がれる超体験
ー受賞作品のなかでも、特に、ワイヤット・ロイ氏の《Piece of String》(アメリカ)と、たっくん氏の《たっくんミュージアム》(日本)を高く評価されていました。それぞれの評価ポイントを教えてください。
まず、《Piece of String》は、僕自身が以前住んでいたブルックリンのアパートの様子を彷彿とさせました。部屋の内部が非常に細かい部分まで作り込まれており、没入感があるんです。同時に、ところどころまるで絵の具で描かれているように見える箇所もあり、現実空間とは全く異なる体験です。思わず時間を忘れてこの部屋を探索してしまいました。ユーザー自身がこの空間を探検することで、非常にパーソナルな体験が生み出されていると感じます。
《たっくんミュージアム》は、「すべての子供達は生まれながらにしてアーティストである」という思いから生まれた、遊び心ある作品です。これまで蓄積してきた息子の絵やおもちゃのコレクションを、たっくんの親がVRを使ってデジタルダイアリーとしてアーカイブしています。そのメッセージも印象的です。
“あなたは自分が見たものを覚えていないでしょう。でも、自身をつき動かしたものを忘れることはないでしょう。”
新しい技術に挑みつづける意義
ークリエイターとして、VRというツールの可能性についてどのように考えますか?
VRは3Dドローイングや3D彫刻に通じる部分もありますが、受動的にオペレーションするソフトウェアではなく、独自の世界観をつくるのに適していると思います。
VRの魅力は、クリエイターが自身の実体験や、空想、潜在意識といった、自分だけが見えている視覚世界を他者に提示できるところです。また、その活用分野はエンターテイメントにとどまらず、飛行機のシュミレーションや手術の練習、ソーシャルデザインなど、多岐にわたります。
しかし、VRにも大きな欠点があります。それは、ヘッドセットを付けなければならないこと。これが普及を妨げています。この欠点に関しては、いずれ適切な解決策が生まれるでしょう。今、わたしたちクリエイターにできることといえば、VRという新しい技術をひたすら学ぶことです。
ー最後に、クリエイターがVRなどの新しい技術による表現にチャレンジする意義について、考えをお聞かせください。
新しいテクノロジーを積極的に学ぶべきというのは、デザインの仕事においても変わりません。同じ手法にばかり固執すれば、自動化によって仕事を奪われかねないのです。AIが、たった数秒間で20世紀の優れたグラフィックデザインをすべて分析し、最も効果的なものを選択し、すべてのデータを学習したところで、「魅力的な作品を作ることは不可能だ」なんて、本当に言えるでしょうか?
もちろん、テクノロジーだけでなく、コンセプトも重要です。テクノロジーとコンセプトは、常にバランスを保つ必要があります。だからこそ僕は、常々、エンジニアにもデザインを学ぶべきと説いています。
結局のところ、良いコンセプト、アイデア、ストーリーを伝える力が、一番重要です。2D、3D、そしてVRは、そのコンセプトを伝えるための手段でしかないのです。
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