FINDING 松本 亮平, 銭 宇飛, 加藤 修平, 小檜山 諒, 石川 由佳子 2019.10.15

新規事業の初速をあげる
超没入型海外フィールドワークのススメ

数字やロジックはビジネスで欠かせない。だからきちんと手法も学んで、入念な市場調査や現地視察も行った。でもどこか腹落ちしていないこの感じ。どうしてだろうか?

それは「圧倒的な没入体験(自分ごと化)が足りないから」。つまり、頭ではなく体で理解する必要がある。

では、どうすれば「圧倒的な没入体験(自分ごと化)」を生み出すフィールドワークができるのか。実践のポイントを具体的な事例をもとに紹介する。

先日モビリティ領域の新規事業プロジェクトにて海外フィールドリサーチを行った。

「新規事業開発プロジェクトのスタートにあたり、事業部として目指すビジョンを策定する」。それが今回のプロジェクトの目的だ。適切なチームメンバーを集め、議論をファシリテートしていくのが定石ではあるが、ロフトワークが大切にしたことは「メンバー自身が“自分の言葉”でビジョンを語れるようになること」。

グローバル市場を見据えたプロジェクトのため、ビジョン策定のリサーチの場は当然のように海外を候補にした。そして選んだのは、成長著しいアジアの都市であり、ロフトワークの拠点がある台北だ。台北でなら、他都市よりも柔軟で質の高いリサーチを行うことができる。

立ち上がったばかりのチーム・初めてのフィールドワーク・短期間・しかも海外というハードルを乗り越え、腹落ちできるフィールドワークができた理由をプロジェクトを担当したディレクター5人に話を聞いた。

左から、
クリエイティブディレクター 小檜山 諒
Layout Unit フェロー 石川 由佳子
Layout Unit ディレクター 松本 亮平
クリエイティブディレクター 加藤 修平
クリエイティブディレクター 銭 宇飛

聞き手・編集:loftwork.com 編集部

1. 組むべきはローカルガイドではなく、プロジェクトデザイナー

──今回、クライアントのチームメンバーの中に役員もいてかなり過密なスケジュールだったと聞いています。

松本:そうですね、今回クライアントが現地に滞在できる時間は1泊2日しかありませんでした。初日にプロジェクトに関連する政府の方、大学助教授の方とのインタビューをセッティング、夜にはFabCafe Taipeiを会場に現地の企業を招いたMeetUpを企画しました。2日目はフィールドワークを中心に組み立てつつ、メンバー全員でしっかり議論できるようにたっぷり時間を取り、我々がファシリテートしながら、ビジョンの言語化と自分ごと化をサポートしました。

松本:正直、過密なスケジュールだったと思いますが、予定していたゴールまで走りきれました。その大きな要因の1つは、ロフトワーク台湾チームと共同でプロジェクトを設計できたことにあります。ロフトワーク台湾のチームも我々と同様、フィールドリサーチの経験があります。同じディレクターの目線で事前リサーチやインタビュー相手のアサイン調整などをサポートしてくれたおかげで、現地に行く前からクライアントに質の高い情報提供ができたことが、今回のフィールドリサーチ成功のポイントだと思います。

ロフトワーク台湾のディレクターたちとフィールドワークのプログラムをブラッシュアップしている様子

加藤:普段から現地で暮らしている台湾チームのメンバーは、実際に台湾で暮らす人々の事情や肌感もよく理解しています。それを踏まえたうえで、こちらの提案に「いや、それじゃ足りないよ。こうしたほうがいい」とアドバイスをくれるのはすごく心強かったです。現地を案内してくれる単なるローカルガイドではなく、リサーチの設計をディレクションできるメンバーが現地にいるのはロフトワークの強みですね。台北だけでなく、香港やバンコクなど、FabCafeがある都市もそうです。

小檜山:具体的に言うと、現地の企業と触れ合う機会を作るためのMeet-Upでより質の高い出会いを実現するために誰に会うべきか、どういうコンテンツが最適なのか。参加者の候補からプログラム設計まで数日間で共に作り上げることが出来ました。

FabCafe Taipei を会場に、現地の企業を招いたMeetUpイベント

2. 多面的に、フラットにデータを得る

──台湾でのリサーチで、生の情報に触れる際に意識したことは何でしょうか?

石川:大切にしたのは “いかに現地で得られる色々な情報をフラットに捉え、インプットするか” ということです。

例えば、ITの発達や新しいサービスによって「街が盛り上がってきている」という言葉はどこの都市でも言われがちですが、盛り上がってるのは若者たちだけではないのか?その街に住むお年寄りは、本当に便利になったと感じているのか?というように多角的な目線で情報を収集する必要があります。

偏った視点で情報収集をするのは危険です。時間がかかっても、メリット・デメリット、違う属性ごとの意見など、双方の視点から情報に触れるようにしておくことが必要だと思います。

フィールドワークの合間の時間も、ディープな路地裏の通りへと足が勝手に動いてしまうディレクター石川

銭:そのために、フィールドワークで誰に話を聞きに行くべきなのか?は熟考すべきところですよね。限られた時間の中で、現地のリアルな声をどこにいけば聞けるのか。今回は大学教授から建築家、政府の方にインタビューやツアーを行い、起きている現象を多面的に捉えようとしました。

加えて私たちが意識したのは「現地の人たちと同じ生活をしてみる」ということです。
同じ時間の使い方をして、同じものを食べる。活動の場所も、実際に現地の人たちが集まっている場所を選びました。

まちの公共サービスも自分たちの身で体験してみる。より生活者の目線で、より自分ごと化する。
なるべく食事もローカルフードを選ぶ。プロジェクトメンバー皆で一緒の目線で過ごす。

小檜山:やはり、肌感覚で一次情報を得ることが大切だと思っています。台北はアジアのクリエイティブと製造業のハブだと言われています。若い優秀なクリエイティブ人材が集まり、街全体をコミュニティとして盛り上げていたり、人種や性別の多様性をいち早く受け入れています。変化のスピードが早く、ネット上の情報だけでは台北の「今」を捉えることはできません。

アジア全体にも変化を生み出している次世代のリーダーたちが何を考え、何を求めているのか。少し先の未来を体感するには台北がベストな都市だと思います。

3. 同じ釜の飯を食べる!

──腹落ち感があるフィールドワークができた要因はズバリ、何でしょうか?

松本:クライアントと共に過ごす環境(ハード面)で考えてみると、チームメンバー全員で集中的な議論やワークに取り組める環境を整えられたことも一つの要因だったと思います。

今回は空いていたロフトワーク台湾オフィスの1Fを即席でハックし、「ポップアップスタジオ」として拠点をつくりフィールドワーク期間中に利用しました。ここでプロジェクトメンバーでワークと飲食の時間を共に過ごしたわけです。

ポップアップスタジオの立地選定は大事で、

  • アクセスまでに時間と体力を消耗しないこと
  • 観光地化されず、繁華街と住宅街の間くらいの賑やかさがあること
  • 食料入手先が近くにあること(営業時間 / 予算を含めて要確認)

というのが選ぶ際のポイントで、フィールドワークから帰ってきた後の収束作業の生産性に影響します。

特に2つ目に関しては、 地元の雰囲気を感じられ、インスピレーション(ひらめき)が生まれやすい環境であることが多いのでオススメです。

昼間に有識者を招いてローカルな視点の示唆を得ている様子
夕方ポップアップスタジオに戻って振り返りのワークをしている様子

加藤:フィールドワークから帰ってきて、得たインプットをスタジオに残しておく。これを繰り返していくことで、議論の質と気づきを一気に高めることが出来ます。普段の会議室とは違った環境もメンバーの議論を活性化させる要因だと思いますね。

銭:もう一つポイントがあるとすれば、キーマン(意思決定者)が参加し、その場で柔軟な軌道修正、決断できる環境を作れたことです。日本での通常業務だと、なかなかキーマンも含めて同じ体験を持って議論を進めることが難しい今回のように短期集中でキーマンを含め全員が同じ体験た上で、議論ができると、再度説明したり解説する手間が必要なく、フィールドワークでわかったことを踏まえて、議論し、すぐに軌道修正できます。短期間のフィールドワークの中でも結果を出すためにはフィールドワークに参加してもらうメンバーの選定も大切です。

ビジョンを俯瞰して見ている様子。新規事業の意思決定者も、場を共にし、新規事業のビジョンをブラッシュアップした。

──今後もこういった海外フィールドワークは必要になってくるでしょうか?

松本:どんどん必要性が高まっていると思います。

未来は「坂の上の雲」の先にみえるものと言ってもいいかもしれません。登って行こうとしている山の頂上には雲がかかっていて、山頂の様子はよくわかりません。つまり、少し先の未来で人がどんなライフスタイル、どんなビジネススタイルを好んでいるかわかりません。そんな不確実な時代だからこそ、人がどんな過ごし方、働き方を望んでいるのか、どんな価値を大切にしているのかを自分の目で、かつグローバルな視点で、確かめておく必要があると感じています。まさに “Think Globally, Act Locally” です。

新規事業を創出し、推進していくのであれば尚更、チームで掲げるビジョンづくりの重要性は高いし、それを言語化、自分ごと化し、自らの言葉で誰かに伝える力が必要になります。

そんな時に、クライアントと一緒にユーザーの目線に立ち、不確実な時代でも、新しい価値を生み出すために泥臭く奔走したいと我々は考えています。

台湾フィールドワークのダイジェストムービー

今回のフィールドワークを企画・設計したメンバー

松本 亮平

株式会社ロフトワーク
Layout Unit ディレクター

Profile

石川 由佳子

石川 由佳子

株式会社ロフトワーク /
Layout Unit フェロー

加藤 修平

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

小檜山 諒

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

銭 宇飛

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

イベント開催決定:アジアフィールドワーク実施のポイント

今回のプロジェクトのように、グローバルなビジネス環境を見据えるため、都市としての成長が著しいアジアの都市を舞台に、フィールドワークを実施したプロジェクト事例から、新規事業の初速を高めるためのアジアフィールドワーク実施のポイントをご紹介するイベントを開催します!

【イベントでご紹介する事例】
CASE1:新規事業の初速をあげる、超没入型アジアフィールドワークのススメ
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 加藤修平

CASE2:「10年先のライオン」をつくるための、未知の機会領域を発見する
株式会社ロフトワーク プロデューサー 柳川雄飛
※関連記事:グローバルアワード「YouFab」からつかむ、新規事業創出の種

【11/7開催】Loftwork Toolbox Vol.1_新規事業の初速を高める、アジアフィールドワークのデザイン

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イベント概要
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開催日:11月7日 (木) 19:00 – 21:30(開場 18:45)
会場:loftwork COOOP 10
(東京都渋谷区道玄坂 1-22-7 道玄坂ピア10F)
参加費:無料
定員:30名
▶︎詳細/申込はこちら
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