ロフトワークは、初の海外拠点となる台湾現地法人「Loftwork Taiwan Inc.」を2015年2月に設立しました。台湾は日本からも近く、人も優しそう、なによりご飯が美味しいイメージがあります。そして2013年5月、FabCafe Taipeiもオープンしました。

でも
「なぜ台湾にロフトワーク?」 「ロフトワークと一緒にアジアでどんなビジネスができるの?」 「FabCafe Taipeiとどんな関わりがあるの?」

…そんな疑問に迫るべく、ロフトワーク代表取締役社長の諏訪光洋とロフトワーク台湾を設立し、FabCafe TaipeiのオーナーでもあるTim Wongの対談インタビューをお届けします。

ロフトワーク台湾をスタートさせたTim Wong

香港出身で12歳まで香港育ち、その後アメリカで17年。建築と都市設計を専攻、そしてハーバードの大学院に進学、都市設計を学ぶかたわら、都市政策や不動産金融も学びました。 その後サンフランシスコで、ロンドン五輪や東京ミッドタウンも手がけたEDAWという会社に7年半勤務、そして起業するためにアジアに戻ってきました。

Tim: 当時は(ロフトワークやFabCafeのような)オープンスタジオを香港でスタートさせる事は、現地のクリエイターの獲得の難しさや、高いスタジオ賃料など、さまざまな難しい事情があった。香港ではないアジアの他の都市を考えた時、台北とシンガポールが候補に上がった。そして中小企業への環境の良さから台湾に決めたんだ。

ロフトワーク 台湾 ファウンダー Tim Wong

2011年7月に台湾に引越して1年後、東京に来て初めてFabCafeを見た。すぐにFabCafeを知っている知り合いに電話して、FabCafeのオーナーとミーティングしたいと申し込んだんだ。それが最初の最初、FabCafeをグローバルネットワークにしようという第1歩。 プレゼンが終らないうちに、チアキ(ロフトワーク代表取締役林千晶)は「やろう!」って言ってくれたよね。

台湾はアジアへの扉を開く第一歩

Tim
台湾はビジネスをする上でどのような特徴があるかというと、まずワークライフバランスがいい。街自体は東京よりもゆっくり時間が流れている。そして新しいチャレンジをしている人が沢山いる。97%のビジネスはメディアと中小企業で支えられていて、それらの中小企業や個人の多くはローカルを中心に展開している。
一方、さらに大きなターゲットを目指して拡大していく事が難しく、みんな試行錯誤している。チームを作ってローカルのクリエイターがより大きなマーケットに出て行く手助けができれば非常に大きいと考えた。

東京は労働時間は長くて大変かもしれないけど、常に多くのことが起きていて刺激をうけることができる。台湾は東京ほど刺激的ではないけれど、この東京的カルチャー、ニューヨークやサンフランシスコみたいな大都市の刺激を台湾にもちこみ、クリエイターに影響を与えられたら素晴らしいと思う。チャレンジだけど、同時に可能性でもある。もちろん、美味しい小籠包も台湾の魅力だよ(笑)。

諏訪
台湾は日本と親しい関係にあるし人の交流も豊富。一方で中国とも歴史的にもビジネスでも大きな関係がある。そして台湾自体のパワーや魅力が絶対値としても日本との関係でも大きいしもっと関係は深くなっていくと思う。日本を訪れる観光客の中で一番たくさん来てくれているのが台湾から。次が韓国、三番目が中国。一方で、日本にいる留学生の80%は中国人。もっと台湾から学ぶ人や働く人が相互に増やせると思う。台湾は多くの日本人がイメージするよりも世界をリードする企業も多いし、ここ最近は国としてクリエイティブに力をいれている。日本にとっての台湾の持つ経済的・地理的な魅力、そして人的な交流が生む力はこれからもっと大きくなると思う。

ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪 光洋

Tim: ロフトワーク台湾を語るとき、台湾だけに注視しているのではないというのは大事なポイント。拠点を台湾にしているというだけで、ターゲットとしているのはもっと広いエリア。台湾は、東京にも香港にも上海にも近くて便利だからね。

諏訪: そう、ロフトワーク台湾は中国やシンガポールなど中華圏、そしてアジア全体への扉という役目を果たすと思う。香港でのFabCafeのポップアップイベント(参考)はいい事例だと思う。日本企業がもっとアジアで活躍するために、いろんなサポートをすることができると思う。今年の1月にはタイにFabCafeバンコクもでき、連携もはじまってるしね。

ロフトワーク台湾ができるまで

Tim:
FabCafeは、BtoCビジネスとしても人を集めるプラットフォームとしても確立されてきている。次のステップではBtoB、つまりビジネスプラットフォームとしての価値をつくれると思った。FabCafeにはフリンジバリューがある。フリンジバリューとは、つまり、その場所に来ることで僕らが様々な可能性を作りだすことができるということなんだけど、それらの可能性すべてをFabCafeだけで形にできるわけじゃない。

東京で実現しているクリエイティブエージェンシーとFabCafeという組み合わせに大きな可能性を感じていたんだ。だからFabCafeを企業のクリエイティブニーズとつなげるプラットフォームとして考えてみるっていうのは、FabCafe Taipeiの設立計画において初めから構想として考えていた。東京に来て、ミツ(諏訪光洋)に僕の計画を話した。そしたら彼は「じゃあロフトワーク台湾をつくらない?」と言ってくれた。僕たちはいろいろアイディアを書き出して、5分くらいで「いいね!」「やろう!」って(笑)。

諏訪:
その話を持ちかけられた瞬間、「完璧!」って思ったよ(笑)。

Timは、コミュニティのイメージ、どのようにコミュニティを作っていくかのイメージをしっかりと持っていた。コミュニティが社会の中でどのような価値を持ち、経済活動を担うのかということもね。

今でも覚えているのが、最初にTimに会ったときに、彼が持ってきてくれたPowerPoint(プレゼン)のスライド。イギリスの雑誌「エコノミスト」2つの号の表紙を出していたんだけど、FabCafeを見たこともないのに、その本質を完璧に理解してくれてた。FabCafeが生むコミュニティとビジョンを、会う前から共有できていたと思う。そんなTimから「ロフトワーク台湾」っていう言葉が出たら「ぜひおねがい」って言うしかないじゃない(笑)?

最初にTimが描いたFabCafeの姿(のスライド)

Tim:
時間で考えるととても短かったね。話をしてすぐにまとまった。
大きな会社に属して、アジアのあちこちで都市設計プロジェクトをやっていたという僕の今までの経験もあったと思う。だからこそ、これからの都市設計は1つの大企業や地方政府だけの仕事じゃないと思った。デザイナーや小さな企業や街に住む皆も関わるボトムアップなやり方ができると。それと大きな可能性があると思うのはローカル(地域)のデザイン。

RooootsプロジェクトやUSIO Design Projectのように、伝統的な価値観を、最新技術を用いてクリエイティブな方向に持っていくということ。飛騨プロジェクト(現在進行中のロフトワークのプロジェクト)もそうだよね。

USIO Design Project
ROOOOOTSプロジェクト

これは中国でも大きな可能性があると思っている。ここ10年ほど中国では、とにかく建物を建てまくって近代化をしてきた。それが落ち着いてきて、今地域がそもそも持っている価値に注目してきている。

今まで、シェラトンやグランドハイアットという外資系ブランドを取り入れて価値を高めてきたけど、今は中国でもその地域自体に何があるのか、ローカルの価値というものを考え始めている。ローカルデザインとうコンセプトは、特に中国、でも中国だけでなくアジア全域でとても可能性があると思う。新しい価値やブランドを作るという点でね。ロフトワークが行った石垣島のUSIOデザインプロジェクトやRooootsプロジェクトはそれを先取りしていると思う。

ロフトワーク台湾では何ができる?

Tim:基本的に 2つの役目があると思う。

1つは日本で培ってきたサービスの拡大。

例えば、ロフトワークの顧客の中にはアジア進出を考えている会社が多くある。台湾に拠点をもつことは、香港やシンガポールのマーケティングリサーチを行なう上で大きな助けになるはず。中国本土に進出するよりもリスクを低く、中国やアジアにアプローチすることができると思う。日本ですでに行なっているクリエイティブソリューションをアジア全域にに拡大できる。

もう1つは、新しいプロジェクトへの挑戦、新しい価値観の提供。
USIOデザインプロジェクトや飛騨プロジェクトのように、さまざまなプロフェッショナルがあつまってプロジェクトに取り組む「共創」の取り組みをロフトワークはしてきている。クリエイターと共に、新しいエレメントを加えて価値を生み出す力をアジア全体に広げてみたい。

台湾でも多くの会社は基本的に自社内でイノベーションをつくろうとするけれど、それだと限られた結果、1つの方向性しかでない。YouFab(FabCafeが主催するデジタルファブリケーション領域のクリエイティブアワード)で実証されたようにロフトワークにはすでに世界中2万2000人のクリエーターネットワークとコミュニティがあって、そこから生まれるものも多様性がある。

諏訪:ロフトワークの東京-京都拠点のように、例えば深センとコラボするなど、アジアチームとして一丸となっていきたい。
もし、東京だけにしかチームがなければ、グローバルな挑戦は難しかったはず。複数都市に拠点があることで、ローカルとローカルがつながり、グローバルなチームとしてプロジェクトに望めるようになる。

Tim: その通り。例えば、ロフトワークが手がけているプロジェクトでも積極的に顧客にアジアでの展開のチャンスや適切なローカライゼーションを考えてみたい。
日本でしか販売されていないプロダクトをアジア市場へ拡大しようとする時、適切なローカライゼーションやニーズの調査は大切だと思う。日本の消費活動とアジアの消費活動は違うから。それを、例えばFabCafeで行なうイベントやフィールド調査を通して新しいアイデアや適切なコミュニケーションをつくる。日本だけではなくアジアの企業はイノベーションをつくるための、オープンデザインやコ・ワーキングというコミュニティと共に考える手法を模索している。ロフトワークはユニークな価値をアジアの企業に提供できると思う。

諏訪:中国市場は巨大で、今なお成長している。インドネシアや他の東南アジア、そしてインドも成長している。この巨大な経済エリアの中心に台湾はある。日本企業は、新商品をまず日本向けにつくりマーケティングを行うケースが多い。そうすると、どうしても日本特有の「作法」に最適化してしまう。台湾を中心としたアジア全域の最適化も同時にできる、そういう場所にできればと思っている。

Tim:東京と台北にチームを持ち連携するという考えは、これから上海や香港でもできると思うけれど、プロジェクトを拡張させていくために、FabCafeという場とロフトワークの両方があることで大きな化学反応をつくれると思う。FabCafeはロケーションとしてその地域に、ロフトワークはエージェンシーとして世界のあちこちでプロジェクトを行なう。「両方ある」というのが本当に強みになっていると思う。ダイナミックなチームで一緒に働いていくことにわくわくするよ!

諏訪:1月にFabCafeバンコクのオープニングにタイに行っていたのだけど、台湾や中国と同じく日本の製造業はアジア各国にずいぶん以前から進出している。でもタイでも台湾でもクリエイティブがそれぞれの国で本当に価値を生み出すのはこれからだと思う。

世界でも世界統一品質のファストフードやサービスを提供している世界企業はまだ元気だけど、一方で地域や文化もまた世界で重要な価値を生むキーワードになっているしその比重が高まっていると思う。
タイのクリエイター、台北のデザイナーと日本の企業とのコラボレーションをみてみたいし、すでにFabCafeバルセロナでは現地の無印良品とコラボレーションを行っている。

ロフトワーク台湾がアジアの多様な文化・クリエイティブ・クリエイター・歴史と企業をどう結びつけていくのか。僕は台湾はアジアのへそみたいな場所になっていくんじゃないかと思ってるしロフトワーク台湾がそこで面白い役割を果たせればいいなって思ってる。

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