世界のVRプラットフォームへ挑め、NEWVIEWの挑戦
Introduction
ゴーグル型のデバイスを着用すると、一気に眼前に広がる異空間に存在できてしまうVR(ヴァーチャル・リアリティ)。2016年以来、デバイスの価格が手頃になり、体験型VR施設が増えたことで、実際にVRを体験し、楽しい!面白い!と感じたことがある人も多いのではないでしょうか。
「近い将来、10億人を超える人々が日常的にVRデバイスを身につけ利用する。現実と仮想現実の混在する多層世界で生活する時代が必ず来る」と話す山口征浩さんが代表取締役をつ務める、株式会社Psychic VR Lab。日本発のグローバルスタートアップである彼らが開発している「STYLY(スタイリー)」は、プログラミングスキルがなくとも、Web上で誰でも気軽にVRコンテンツを制作・配信することができる画期的なVRプラットフォームです。
ロフトワークとFabCafeは、世界中で使われるVRプラットフォームを目指す、STYLYのユーザーコミュニティの創造を支援。Psychic VR Lab、株式会社パルコとともに、「NEWVIEW」というプロジェクトを立ち上げ、新たなVRコンテンツクリエイションのムーブメントとコミュニティの創造と運営を行っています。世界を舞台に挑戦した、1年目の軌跡をお伝えします。
テキスト=鈴木真理子
プロジェクト概要
- 支援内容
ターゲットリサーチ
プロジェクト名の策定
ロゴ・VIの策定
Webメディアの制作
ファッションVR見本作品制作
イベントの企画・実施
グローバルアワードの企画開催 - プロジェクト体制
クライアント:Psychic VR Lab (https://psychic-vr-lab.com/)
ロフトワーク プロジェクトマネージャー:原 亮介
ロフトワーク クリエイティブディレクター:長島 絵未、山田麗音、林剛弘
プロデューサー:浅見 和彦
テクニカルディレクター:安藤 大海
ロゴ/キービジュアル:金田遼平
キュレーション:安東嵩史(TISSUE Inc.)
FabCafe Global ディレクター:鈴木 真理子
FabCafe Taipei ディレクター :Tim Wong, 陳 品樺 (Pinhua Chen)、黃 宜品(Yipin Huang) 、Paul Yeh
FabCafe Barcelona ディレクター:David Tena Vicente
FabCafe Bangkok ディレクター:Kalaya Kovidvisith
Process
ターゲットは世界のマーケット。海外市場に挑むための戦略とは
Psychic VR Labによるサービス「STYLY」は、誰もが簡単にVR空間を作ることができる制作ツールと、手軽にユーザへVRコンテンツを届ける配信プラットフォーム機能を備えた、画期的なプラットフォームです。
Psychic VR LabのChief Media Officer渡邊遼平さんは、会社としてのミッションを次のように語ります。
「私たちは、VRの研究開発を行うためのラボとして始まり、野球のバッティングフォーム改善ツールや小児歯科向けのVRコンテンツ開発などを行っていました。しかし、ファッションデザイナーとのコラボレーションを機会に、VRを通じてアーティストの創作意欲を解き放つようなプラットフォームが必要だと強く感じ、誰もが簡単にVRで新たな表現と体験が生み出せる『STYLY』を作りました。ソニーのWalkmanによって人々が音楽を外に持ち出すようになり、いわば音楽を”纏う”ようになったことと同じように、VR、MR、そして現実の各レイヤーを行き来できる“身に纏う空間”文化を、グローバルに浸透させていきたいと考えています」
現在、VRのデバイス市場を牽引しているのは、欧米や中国企業。ロフトワークはPsychic VR Labチームと共に、世界市場を見据えた戦略を策定。その戦略とは、クリエイターコミュニティを軸に、ファッション/カルチャー/アート分野の新たなVRカテゴリーを創造し、世界規模でのムーブメントにすること、でした。
初めに取り掛かったのが、対象ユーザーを深く知るためのリサーチ。ファッション、アート、カルチャーで活躍するのクリエイターや学生を対象にインタビューを行い、3次元空間での制作にまつわる意識を調査。これらのリサーチの結果をベースに、Psychic VR Labでグローバルマーケティングを行なう多国籍なチームメンバーを巻き込みながら、プロジェクトのコンセプトやメッセージを策定。2018年1月、「新たな視界」という意味をもつ、プロジェクト「NEWVIEW(ニュービュー)」を始動しました。
「プログラミング不要のSTYLYは、VR表現をあらゆるクリエイターに開放するツールです。3次元空間を、ファッション/カルチャー/アート分野のクリエイターに新たな表現のフィールドとして共感してもらい、さまざまな表現実験が世界同時多発的に起きる、そんな近い将来のビジョンを描きました。活動の初期には、このプロジェクトは『クリエイター主導のゲリラ活動』だ、なんて言い方もしていました」(ロフトワーク・原)
世界のFabCafe拠点を使い、同時多発で行われた施策
バルセロナ、台北、バンコクのクリエイターを対象にリサーチとハンズオンを実施
海外でのユーザーコミュニティ作りは、文化的・言語的な障壁のほか、現地のターゲットの実態を把握する難しさがあります。遠く離れた日本から、海外のユーザーが何を考え、何を見、何をクールだと考えているのかを肌感覚で知るのはほぼ不可能です。
NEWVIEWの海外進出において、大きな役割を担うのが、海外のFabCafeの拠点が持つローカルコミュニティの活用です。FabCafeではレーザーカッターや3Dプリンターなどを置き、制作するクリエイターたちが集まります。また、どの拠点でもワークショップやイベント、コラボレーションを行なっており、建築家、グラフィックデザイナー、エンジニア、写真家などの多種多様な作り手が集まる拠点になっています。
NEWVIEWでは、日本以外にある7箇所のFabCafeからバルセロナ(スペイン)、台北(台湾)、バンコク(タイ)を選び、クリエイターを集め、「STYLY」のハンズオンワークショップと、3次元空間での制作についてインタビューを実施しました。各地域におけるNEWVIEWとSTYLYへのユーザーインサイトを掴みます。
3都市をまわり、現地のクリエイターにレクチャーを行ったのが、Phychic VR Labでクリエイティブディレクターを務める八幡さん。実際に世界のユーザーと直接会い、何を考えたのでしょうか。
海外のどのFabCafeでも、質の高いクリエイターとアーティストに参加いただき、新しい表現の場、メディアとしてVRに興味を持っているクリエイターが世界に存在することを実感しました。今回はワークショップ後のサポートが足りず、つながったクリエイター/アーティスト達とコミュニティを形作るところまでできなかったという反省はありますが、コミュニティに対して、テクニカルスキルを伝え、製作モチベーションを喚起させ続けることができれば、質の高いクリエイターネットワークを大きくしていけると思います。(Psychic VR Lab クリエイティブディレクター 八幡純和さん)
FabCafeバルセロナ
FabCafeバンコク
FabCafe台北
台北のNEWVIEWコミュニティを先導したFabCafe 台北のPinhuaは、台湾のクリエイターたちのリアクションをこう語ります。
台北では、ワークショップを6回行い、クリエイターにVRコンテンツを作ってもらいました。これまで台湾でVRの作り手は、ゲームやプログラミング関係の人でしたが、NEWVIEWによって今まで3DやVRツールを使ったことがない人たちがツールと機会を手にし、クリエイターもワクワクしています。(FabCafe Taipei 陳 品樺 )
グローバルアワードによる、コミュニティの創造
また、プロジェクト1年目の大きな試みとして、グローバルアワード「NEWVIEW AWARDS 2018」を開催。NEWVIEWを世界的なムーブメントとして伝え、世界中のクリエイターから参加を募りました。
2018年6月1日から7月31日までの間に、世界7ケ国から219作品が集まり、世界各国から審査員を招いて審査会を実施。集大成として、受賞作品展示イベントを東京・渋谷の「GALLERY X BY PARCO」で行いました。
1年目は初回ということもあり、心配なことばかりでしたが、アワードで世界7ヶ国219もの作品が集まった点は『VR』というカテゴリに対して、世界中のアーティストが興味を示してくれたという実績だと感じています。既存VR市場では見られない新たな表現や体験をデザインしたコンテンツが生まれ、VR空間アーティストと名乗るようなアーティストが誕生しました。(Psychic VR Lab 渡邊さん)
本当に作品が集まるのだろうかと不安に思う気持ちが先立っていましたが、結果的に予想を超える量と質の作品が集まり、応募期間を終えた際は興奮と安堵の気持ちが共存していました。受賞した作品は、まだまだ荒削りな作品が多いと思っていますが、審査員の伊藤ガビンさんが仰っていた通り、荒削りだろうが何だろうが『何でもあり』な状況が初回ならではの一番の面白さだったと思います。(Psychic VR Lab 八幡さん)
初めての試みにもかかわらず、多様な国から多くの応募が集まりました。審査員の総評でもあったように”黎明期ならではのおもしろさ”があったと感じています。表現の新たな可能性を感じることができたと同時に、それぞれの国のお国柄がでたのも面白かった点です。(ロフトワーク原)
決して簡単ではない世界戦略。プロジェクトメンバーは確かな手応えを胸に、次なるステップへ。
そして、2019年に2年目を迎えたNEWVIEWプロジェクト。今年もプロジェクトメンバーの熱い思いと抜群のチームワークを推進力に、様々な試みを進行させています。
東京と京都では、VRを総合芸術として学ぶ「NEWVIEW SCHOOL」を開講。定員を上回る応募の中から選ばれたクリエイターたちが、多彩な講師陣からVR表現のための本質的な考え方と技術を学んでいます。
また、第2回目となるグローバルアワード「NEWVIEW AWARDS 2019 」を開催、今年も昨年以上に多様な3次元空間での新たな表現・体験を世界中から募集しています。展示イベントは、2019年秋に渋谷に再オープンする渋谷パルコを予定しており、多くの注目を集めそうです。
グローバルのコミュニティ創出としては、FabCafe モンテレイ(メキシコ)、FabCafe台北(台湾)の2拠点を中心に、現地クリエイターと一緒に活動しています。
2020年には、MRデバイスの一般向け製品が遂に発売され、益々バーチャルな世界が現実空間と重なり合い、人々の生活に入り込んできます。今はVRを作るということはまだマイノリティかもしれませんが、今後ますます当たり前のこととなっていきます。そのような文化やライフスタイルを先取りし、NEWVIEWに関わる皆で世界へ発信していきたい。(Psychic VR Lab 八幡さん)
今後ますます盛り上がっていく「NEWVIEW」。一緒にコラボレーションしたいという企業も募集しています。
Impact
応募数
7ヶ国
2ヶ月で応募のあった国数
219作品
2ヶ月で応募のあった作品数
Member
林 剛弘
株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター
浅見 和彦
株式会社ロフトワーク
シニアプロデューサー
安藤 大海
株式会社ロフトワーク
テクニカルディレクター
鈴木 真理子
株式会社ロフトワーク
Public Relations/広報
陳 品樺
ロフトワーク台湾
コミュニケーションマネージャー
黃 宜品
株式会社ロフトワーク
Fab Master
Kalaya Kovidisith
FabCafe Bangkok
Founder
Platform
多様な視点で共創するなら 、“AWRD (アワード)”
ロフトワークが運営するエントリー型のオープンなプラットフォーム、AWRD。
パンデミックやテクノロジーの進化、多様化する価値観、サステナブルな社会への移行など──常に変化する社会において、私たちは多くの課題に直面しています。AWRDはこれらの課題解決に向けて、アワードやハッカソンなどの手法を通じて世界中のクリエイターネットワークとのコラボレーション・協働を支援し、価値創出を促進します。
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