CMS導入が学内の意識を変えた、人や活動が見えるWeb広報へ
乱立していた特設サイトを根本から見直し、全学で足並みを揃えた情報発信への変革を始動
2011年に創立130周年を迎えた明治大学。これまで各学部・部門が独自に立ち上げてきたWebサイトを包含する形で、大学サイトの本格的な運用がスタートしたのは1990年代後半のこと。しかし、運用面で限界を感じる一方で、広報戦略的な観点でも課題を抱えていた同校は、創立130周年の記念式典に照準を合わせた一斉リニューアルを計画しました。
初めてのCMS導入に加え、8,000ページにも及ぶ移行作業、ステークホルダーの多さなど、難易度の高いプロジェクトをいかにして成功へと導いたのか。その秘訣を、明治大学 学長室専門員で広報センター副センター長を務める歌代豊・経営学部教授と、同学経営企画部 広報課の白石光治氏、プロジェクトを担当したロフトワークのチーフディレクター滝澤耕平の対談で振り返ります。
滝澤耕平(以下、滝澤) リニューアルの背景としては運用面での課題が大きかったかと伺っていましたが、具体的にどんな状況でしたか?
歌代豊氏(以下、歌代) 今回の創立130周年のタイミングで新しい運用基盤に移行できなければ、本学のWeb広報は他大学に大きな遅れを取るだろう、との危機感がありましたね。そんな中、学内に広報戦略本部、広報センターが相次いで立ち上がり、教学・法人が一体となって広報戦略を検討し、全学的なコンセンサスを図りながらプロジェクトを推進できる体制が整ったことが、リニューアルを後押しする大きな力になりました。
白石光治氏(以下、白石) 旧サイトも大枠での構造はそこそこ整っていたのですが、特設サイトなどが乱立し、サイトの全体的な統一感を損なってしまっていました。大学の教学改革の方針に沿って教育・研究・社会貢献活動を訴求するというストーリーもなければ、作りもさまざま。学部ごとに広報の温度差もあり、各学部・部門による分散管理を前提としながらも、実務を担う事務職員のスキルに差があり異動も頻繁。リテラシーのバラつきやモチベーションの差異を如何ともしがたいという問題を抱えていたのです。技術的にも、市販のホームページ作成ソフトでこれだけの規模のサイトをなんとか維持してきたのですが、限界を迎えつつありました。
一方で、明治大学の国際化推進、研究力の強化など、教学が打ち出した政策を効果的にWebで訴求できていない現状もありました。本学の教学改革の取り組みを目に見える形で社会に発信していく。そのためにWebでどう表現すればよいのか、考え直すべきタイミングに来ていたと言えます。
急がば回れ!2フェーズでの段階的リニューアルを通じて“Lean Startup”を実践
滝澤 当社が加わってプロジェクトがスタートしたのが2010年11月。率直にロフトワークを選ばれた理由を教えてください。
歌代 ロフトワークは、今の明治大学がやろうとしていることを理解した上で、プロジェクト全体を俯瞰したベストな進め方や、最適なCMS製品(WebRelease 2)を提案してくれました。また、中長期的に使い続ける基盤ですから、大規模サイトのリニューアル、CMSへの移行作業、フルCMS導入における実績も重視しました。
滝澤 ありがとうございます。こちらの印象としては、コンセプトがしっかりされていたので、提案もしやすく、優先順位も付けやすかったですね。ともすると作業ボリュームに意識が集中し、そもそも表現すべきことが疎かになりがちなのですが、その心配はありませんでした。進め方と言えば、一気にリニューアルするのではなく、まずは旧デザインのまま裏側でCMSを動かし、次に既存コンテンツのCMSへの移行を進めながら新デザインに落とし込むという、2フェーズでの展開を選択されましたよね。
歌代 時間とボリュームの2つの観点から、負荷を分散させることが重要と判断しました。まずは基盤を入れ、新しい仕組みの中で情報をどんどん出していけるパスを作り、物量的に移行しなくてはいけないものだけは一気に移行しておく。見た目のリニューアル部分は、そのあとでじっくり時間をかけて考えればいいわけです。
これはまさに、ロフトワークが推し進める“Lean Startup”ですよね。まずはやるべき部分をしっかりやって、その上で+αの部分を段階的に進めていく。ただそれを技術的にどう実現できるか具体的なノウハウがなかったので、そこはロフトワークとのやり取りの中で刷り合わせていきました。
成功要因のひとつは、長い目で見てプラスになるベストな進め方を選択できたこと
滝澤 今、改めて振り返ってみて、2フェーズに分けたのは正解だったと言えそうでしょうか。
白石 できるだけ現場に優しい運用を実現する上でもベストな選択でした。何より、学内の担当者が新しい情報発信のやり方に慣れる時間を確保できました。つまり、各ユーザがCMSを喜んで使ってくれるような、長い目で見てプラスになるやり方です。これは大きな成功要因になったと思います。
滝澤 ロフトワークとしては、極力二度手間になったり遠回りになったりしないように、重複する作業を排除しつつ、2フェーズで効率よく進行できるように調整しました。また、システム的な話がメインの第1フェーズと違って、第2フェーズではデザインの話も出てきますし、目指すべき方向性の検討も必要になります。
「少し頭を柔らかくするフェーズですよ」「スイッチを切り替えましょう」という意味で、提案書を手書きにしてみたり、ターゲットを知るために学生へのヒアリングの機会をいただくなど、こちらも楽しみながら取り組みました。
ヒアリングで印象的だったのは、大学サイト、学部サイトのあり方に対して、学生の意識が想像以上に高かったことです。 “人”をコンセプトの中心に据え、設計やデザインに反映していったのも、お話を伺う中で「人にフォーカスしたい!」という思いをさらに強くしたからです。
常に変化している大学を、リアリティを持って継続的に伝えていくための基盤を確立
滝澤 今回のプロジェクトでは、常に色々なことをみんなで議論し、一緒に創り上げていくようなライブ感がありました。デザインも、明治大学らしさや大学としての品格を重視した案ではなく、ちょっと冒険的で遊び心のある案が採用されたことで、より“人”にフォーカスしやすくなり、結果的にいい意味で“生っぽい”サイトを実現できたように思います。グローバルナビゲーションから入試情報を外したのもチャレンジでしたよね。その辺りはどのように感じていらっしゃいますか?
歌代 「常に変化している大学をリアリティを持って伝えたい」。これはRFPにも盛り込んでいた要望です。企業サイトで言えばスペックを出すのではなく、どう楽しめるか、使うとどうなのかが重要であって、我々の場合は人や活動について、どんどん生の情報を発信していく必要があります。ですから、デザインもそうですが、ある時点で完成ということはない。そのためのCMS導入です。
CMSという仕組みを使って、リニューアルの根底にあった“大学の人や活動が見えるサイトづくり”を運用の中で推し進めていけます。学生たちのつぶやきを見ても、リニューアルサイトは非常に好意的に受け止められているようです。実際に在学生がサイトのトップイメージに登場していたりして、よそ行きではなく、リアリティのある地に足が付いた感じが良かったのだと思います。
CMS導入を機に、現場の担当者のリテラシーやWeb広報に対する意識が大きく向上
滝澤 単に仕組みを作っただけでなく、CMSの運用をきちんと現場に根付かせているところも素晴らしいですね。使い方の研修だけでなく、CMSを導入したという事実を現場に徹底するための説明会まで実施されている。そこまでの段取りを組むケースはまずないですし、普通は手を抜きがちなところです。色々な場面で、学内できちんとコミュニケーションが取れていて、形だけではない承認や合意が得られていることは実感していましたが、具体的にどんな工夫をされたのでしょう?
白石 これまで、学内説明会などの運用サポートが足りなかったことから、サイトのあちこちにほころびが出ていました。その反省があったので、何度も「CMS」や「WebRelease2」といったキーワードを繰り返し、現場への浸透を図ってきました。各担当者向けの説明会や講習会を3キャンパスでそれぞれ実施したのも初めてのことです。その甲斐あって登録ユーザも増え、現在では約260名に上っています。皆さんかなりアクティブに使ってくれていますし、広報としても、色々なスタッフと連携を取りやすくなりました。
リニューアルを通じて、現場の担当者のリテラシーが上がり、ホームページやWeb広報に対する意識を高めてもらえたことは大きな成果です。もちろんこれは、サイトの基本構造の統一化や、わかりづらかった各コンテンツへの導線の整理、大学の方針に沿った表現方法の確立など、当初のリニューアル目的を達成した上での副次的な成果です。とはいえ、本学のホームページもこれでやっとスタートラインに立てたという感覚。いよいよこれからですね。
滝澤 成果についてのお話が出たところで、何か評価の指標を設定されているのであれば教えてください。
歌代 定量化したような指標は特に持っていません。今回のリニューアルは効果を検証することが目的ではありませんし、直接的な効果を期待するというよりは、じわじわ効いてくるような間接的な効果だと思うんですよね。それをじっくり見ていくつもりです。本学のホームページをどう見ていただいているのか、アクセスログなどから継続的に把握・分析し、関係性の改善につなげていきたいと考えています。
ソーシャルメディアとの関わりも視野に、今後も果敢に新たなチャレンジを継続
滝澤 今回のプロジェクトの成功要因については、どのように分析されていますか?
白石 「人」に恵まれたことですね。何より敏腕ディレクターの滝澤さんと一緒にチームを組んで走ってこられたこと、学内的には、広報センター副センター長の立場から歌代先生という教学に関わる良き理解者に参画いただいたこと、事務方システム部門はじめ担当者各位の献身的な協力、そして広報課へのWeb専門既卒者の着任など、いずれが欠けても成功はなかったでしょう。
また、実務的には、第1フェーズでCMSを円滑に全学へ導入できたことです。この段階でプロジェクトの成功は8割方約束されたと思います。それほど、今回のリニューアルで運用基盤を一新できたことは大きいと感じています。
滝澤 ありがとうございます(笑)。最後に、今後の展望についてお聞かせください。
白石 Webをテコに、ソーシャルメディアとの関わり方も考えつつ、各ステークホルダーを大学の動きの中にいかに巻き込んでいくかが課題です。この部分での具体的なアイデアなど、Webやソーシャルメディアに関して豊富な経験と知見を有するロフトワークの提案にも期待しています。
歌代 大学も常に変わっていく必要がある。ですから、ある意味実験です。実験しながら、どんどん良い方向に進化させていければいいですね。
滝澤 今後の明治大学の新しいチャレンジに、ロフトワークも知恵を絞りたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
※内容やお客様情報、担当ディレクター情報は本記事公開時点のものです。現在は異なる可能性があります。
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