AR技術で木材製造の遠隔プロトタイピング
バッファロー大学建築学科 × 飛騨の木材加工プログラム
Background
アメリカの最新技術を学ぶ建築学生が、飛騨で木材の特性や伝統的な加工技術を学ぶ
FabCafe TokyoとFabCafe Hidaは、2018、2019年の2年間にわたってニューヨーク州立大学バッファロー校のサマープログラムを企画・実施してきました。プログラムの目的は、建築の最新技術を学ぶ学生たちが、東京で最新のデザイントレンドをインプットし、さらに、飛騨独自の大工・工芸の歴史を学び、地元の木材製造業が現在直面している課題に対する建築的ソリューションをプロトタイプ化するというものでした。
2022年の新たなチャレンジは「遠隔設計・製作システムのテスト」
3度目となる2022年のサマープログラムでは、コロナ禍の影響で学生たちは日本に行くことができませんでした。パンデミック発生以来、世界中の国際的なチームは、さまざまな渡航制限に遭遇し、遠隔でのコラボレーションは大学や企業にとって不可欠な手段となりました。
すでに多方面で変化が生まれているように、コロナ禍が落ち着いたとしても、この傾向はなくなるどころか、一般的な働き方になるでしょう。一方で、遠隔における共創には、必要な技術やシステムのさらなる発展が必要です。そこで、2022年のサマープログラムでは、別々の場所や時差を越えて、拡張現実(AR)や3Dを使ってグローバルなチームがどのように協働できるかを検証することに挑戦しました。
Outputs
遠隔プロトタイピングと共創のプロセスにAR技術を導入
FabCafe Tokyo/Hidaチームは、日本の木材加工業とアメリカの建築家が遠隔でコラボレーションできる効率的なワークフローを提案しました。まず、学生たちが3Dモデルデータを飛騨の大工職人に共有。職人はHoloLen(ARヘッドセット)を用いて、切断や組み立ての段階で木製のブロックにデータを実際に投影して加工するというプロセスです。さらに、試行錯誤した結果はオーストラリアのソフトウェア開発者へフィードバックし、設計技術、施工技術、そしてソフトウェア開発の3点において、ARや3D技術を建築設計に活用する制作プロセスを検証。将来に向けてより標準化されるためのヒントを得ました。
ARの可能性はエンターテインメント分野で広く追求されていますが、FabCafeとニューヨーク州立大学は、このプログラムを通じて、空間デザイン、プロダクトデザイン、エンジニアリング、製造などの分野で、AR技術を用いた共創プロセスの可能性に手応えを得ました。
Point 1:3Dモデリング、AR、HoloLensの実体験
今回、FabCafe Hidaから提供されたLiDARデータをもとに、Fologramというプログラムで小さな構造物やパビリオン、家具、造形物などを3DとARでデザインしました。そして、そのモデルデータを飛騨の大工職人に送り、現場でHoloLensを装着してARモデルを版木に投影し、それに合わせて切断・組み立てを行いました。
その過程で、飛騨の職人たちが難点をフィードバックすることで、学生たちは設計を練り直し、データを改善していきました。このプロセスにより、机上の理論ではない、人と人との対話と共創を通した、活用可能な技術を身につけることができたのです。
学生たちが作成した3Dデータ
大工職人からの要望で、チェーンソーの3DモデルをAR投影に取り入れた
試行錯誤の結果、操作のワークフローを改善し、より正確な結果を得ることができた
プログラムの最後には、学生たちがバッファロー大学でプレゼンテーションを行いました。Fologramのソフトウェア開発者は、この発表会にバーチャルで参加し、プロジェクトで自分たちの製品がどのように使われたか、フィードバックを得ました。
Point 2:時差を活用して、実質6日間のプログラムを3日間で実現
今回のプロジェクトでは、13時間の時差を活用したコミュニケーションフローを実施しました。たとえば、ニューヨークの大学生が作成したデータを、現地の夜(=日本では朝)に日本のチームに共有し、学生たちが寝ている間に職人たちが検証。そのフィードバックを日本チームが夜(=ニューヨークでは朝)にシェア、職人たちが寝ている間に学生たちがデータをブラッシュアップする、といった要領です。
結果的に、プログラム自体は24時間止まらず、実質6日分のプログラムを3日間で凝縮して実施することができました。
3日間のスケジュール。学生はデータを提供し、Zoomで大工からフィードバックを受け、データを更新するというサイクルを回しました。
プロジェクト概要
- プロジェクト期間:2022年3月〜5月
- クライアント: ニューヨーク州立大学バッファロー校
- プロジェクトメンバー: Nicholas Bruscia (ニューヨーク州立大学バッファロー校)、柳 和憲(株式会社柳木材)、金岡大輝 (FabCafe Tokyo)、岩岡 孝太郎(FabCafe Hida, “森を”事業部) 、浅岡 秀亮(FabCafe Hida, “森を”事業部)
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