起案後わずか9ヶ月で展示会実施へ
フェムテック新ブランドの立ち上げ、スピードの秘訣を探る
高機能素材「光電子®」(以下、光電子)を展開する繊維素材メーカー株式会社ファーベスト(以下、ファーベスト)は、女性が抱える身体と健康の悩みに応えるべく、フェムテックブランド「efe エフェ by KODENSHI」(以下、efe)を新たに設立しました。
急速に拡大しつつあるフェムテック市場に乗り遅れないため、スピードを重視しながらどのようにインパクトのある発信をしていくかがプロジェクトのキーポイントでした。結果、2021年4月に社内で起案した後、同年12月には新ブランドを立ち上げ、顧客向けの展示会を開催。スピーディな展開をみせています。
同社は積極的に情報発信をしていく必要があると判断し、ブランドの魅力をより早く伝えていくため、展示会の実施を決定しました。ロフトワークは企画展ぬくもりLAB展「ぬくもりのありか」の企画・設計・制作を担当しました。
本展示会はアパレル商社や関連メーカーなどの既存顧客を中心に集客をし、完全予約制で実施。インスタレーションを通して、「光電子」が持つ保温性という機能とブランドの世界観を顧客に伝えました。展示会には62社企業130名が来場し、新たな商談が生まれています。
同事業は入社1〜2年目の若手女性社員の起案によりスタートした新規事業です。ブランドの起案後、わずか9ヶ月で展示会を実施できたスピードの秘訣はどこにあったのか?「efe」のリーダーを務める株式会社ファーベスト鈴木彩花さん、株式会社ファーベスト代表取締役社長の長谷享治さん、ロフトワークMTRLプロデューサーの井田幸希がプロジェクトを振り返ります。
ぬくもりLAB展「ぬくもりのありか」
関連リンク
- 光電子について:https://firbest.co.jp/company/
- ブランド「efe」について:https://efe.firbest.co.jp/
執筆: 佐々木 まゆ
企画・編集: 横山 暁子(loftwork.com編集部)
話し手
長谷 享治
長谷虎紡績株式会社/株式会社ファーベスト
代表取締役社長
鈴木 彩花
株式会社ファーベスト
「efe」プロジェクトリーダー
井田 幸希
株式会社ロフトワーク
FabCafe Nagoya 取締役 / MTRLプロデューサー
身近な人の悩みを解決するため、フェムテック業界に参入
井田 まずファーベストという企業について教えていただけますか?
長谷 ファーベストは光電子という特殊機能繊維素材の開発と販売を行う素材メーカーです。1887年創業の長谷虎紡績株式会社のグループ会社です。私は、2社の代表を兼務し、「素材で世界を変えていく」ということを目指しています。
井田 光電子はどのような素材なのでしょうか。
鈴木 セラミックスを練り込んだ機能繊維です。このセラミックスによって、人から発せられた遠赤外線を吸収、放射。これを繰り返すことで、身体を保温します。
井田 私も実は光電子を使用した靴下や腹巻を愛用しているんです。温かさが「じんわり」としていて、とても心地がいいです。
鈴木 使ってくださっているんですね。ありがとうございます!光電子には、リラクゼーションやリカバリー、快適な睡眠を促す効果があることが実験でわかっています。この光電子で、女性が抱える様々な身体に関する課題を解決しようと立ち上げたのがフェムテック新ブランド「efe」です。
井田 なぜフェムテックという分野に着目したのでしょうか。
鈴木 私の身近に生理痛が重くて悩んでいる方がいたんです。話を聞いてみると、生理をタブー視している感じがあって、周りに相談できずにいるとのことでした。彼女の他にも、きっと生理について悩みを抱えている人がいるかもしれない。だったら、悩みを気軽に共有したり、一緒に解決方法を探ったりできるようなプロジェクトを立ち上げ、彼女たちの一助になれたらと考えるようになりました。
井田 あまり口にしないだけで、生理に関しての悩みを抱えている人は多いと私も感じます。
鈴木 そうですよね。いち企業としてどのように世の中の課題にアプローチしていくか構想を練っていたときに、「光電子と女性の健康の問題は相性がいいのではないか」という仮説を持ちました。
その仮説を検証するため、臨床実験を実施。お客さまに光電子を使ったアイテムを着用いただき、生理時の痛みに変化があるかどうかを試してもらいました。すると、痛みが軽減したという声を多くいただいたんです。効果を目の当たりにしてやりたい気持ちが高まり、起案。長谷社長に早々に承諾をいただいて、プロジェクトが始動しました。
井田 スピード感がありますね……。長谷社長はこの新プロジェクトの立ち上げに迷いなどはなかったですか?
長谷 恥ずかしながら、この起案を受けるまでは「フェムテック」という言葉を知らなかったんです(笑)。でも、企画の内容を聞いて、すぐに「やろう」と判断しました。
経営に携わっていたり、決裁する立場であったりすると、失敗を恐れてしまう場面は多々あります。それでも、まずはチャレンジしてみることが大切だと思っています。
ただ、やみくもにチャレンジするのは会社にとってリスクです。判断するにあたって、ふたつの決め手がありました。まず、企画内容に共感できたこと。私自身、「素材で世界を変える」をビジョンとして掲げており、事業を通して社会の課題を解決していきたいと思っているので、メンバーの話を聞いて、「光電子という素材を通して、女性に関する社会課題を解決していきたい」という熱い思いには特に共感しました。
ふたつ目は、起案内容に説得力があったこと。メンバー自身が実体験に基づいて必要性を感じている内容の発案であり、このような内容なら、世の中の多くの女性にも求められる製品が生み出せるのではないかと考えました。
3ヶ月で展示会実施へ。急いだ理由は「危機感」
井田 事業を行う目的・パーパスが明確になっているので詳細な検討を待たずにスピーディに決断ができたんですね。決裁後は、どのようにプロジェクトを進行していったのでしょうか。
鈴木 社長の承認後の1ヶ月間は、市場調査や分析を実施しました。その後、さらに1ヶ月間をかけて、efeがブランドとして、なにを実施していくのかの企画の詳細を詰めていきました。
当時考えていたのは、プロダクトを制作し自社ECで販売することでした。ただ私たちはBtoCビジネスやEC運営の経験がなかったんです。フェムテック業界の知見もないに等しい。未経験な内容が多かったため、事業として走り出すには時間と手間がかかってしまうなと判断し、すでに製品をつくったり販売している企業に対して素材の販売へと思い切って方向転換をしました。
これまで培ってきた素材販売のナレッジを活かしたBtoBビジネスの方が、フェムテック業界に早く入り込め、私たちのブランドを知っていただける機会がより増えるのではないかと考えたんです。
井田 BtoCやECを検討したことで、自社の強みを改めて認識し、戦略が立てられたんですね。
鈴木 そうですね。方向転換をしたあとすぐに、ロフトワークに展示会の相談をさせていただき、3ヶ月ほどの準備を経て展示会を開催しました。プロジェクトが始動してから9〜10ヶ月程度で、展示会実施まで至りましたね。
井田 「3ヶ月後には展示会を開催したい!」とご相談を受けた時には、あまりにも期間が短いので驚きました(笑)。プロジェクトの起案から展示会のご相談までも非常にスピーディだったというお話しでしたが、なぜこんなに急いだのでしょうか?
長谷 「危機感」があったからです。新型コロナウイルスの感染拡大で、世の中がめまぐるしく変わり、繊維業界全体も厳しい状況に立たされました。以前と同じようなビジネスを続けていくと数年後には淘汰されてしまう……。そんな危機感が一層高まりました。
また、フェムテック市場は急拡大をしており、参入企業も驚くようなペースで急増しています。この流れに乗るためにも、いち早く名乗りをあげて社会にプレゼンスを示す必要があると思いました。
私だけではなく社員にも正しい危機感を持ってもらい、どんどん新たな挑戦をしていってほしいと思っています。失敗はつきものですが、それでも一歩踏み出すことの大切さを私自身の後ろ姿で示さなければと思い、スピード感重視で決断しました。
起案から展示会までのプロセス
感性に働きかける体験を通して、素材の魅力を伝える
井田 efeの初めての展示会となる、ぬくもりLAB展「ぬくもりのありか」は、2021年12月に3日間かけてloftwork COOOP10 にて開催しました。多くの方に足を運んでいただけましたね。
鈴木 完全予約制の展示会だったのですが、合計62社、130名の方に来場いただけました。反響をいただき、嬉しかったです。
井田 ロフトワークは展示の企画・設計・制作をお手伝いさせていただきました。efeと光電子の魅力を伝えていくには、ありがちな製品や布地をそのまま展示したり、パネルで機能の説明をするような方法では表現しきれない。
「ぬくもり」をいくら言葉や画像で説明しても、限界があります。光電子の魅力を伝えるためには、その「ぬくもり」とその心地よさを体で感じてもらうべきだ。そんな考えから進めた企画が、巨大な光電子の繭のようなシェルターインスタレーションです。
井田 シェルターの中に入ると、骨組みに貼り付けた光電子の中綿が人の体温を輻射して、じんわりとしたぬくもりを感じることができます。来場された方はまずこのシェルターを見て驚きの歓声をあげます。みなさん、必ず中に入りたがって(笑)。まずは光電子の仕組みについて説明させていただいた後に、いよいよシェルターに入っていただくと、その穏やかなぬくもりに光電子を体で理解してくださいます。
さらにシェルターの中では、野草茶ブランド「tabel」とコラボレーションによる、身体を内側から温めるお茶を提供しました。対処療法ではなく、自身の内側を整えることで体をよくする野草茶を光電子の機能性と重ね合わせ、ブランドの価値を多角的に伝えていきました。
efeは女性向けブランドということもあって、感性に働きかけ、ブランドの世界観や素材の機能性を実感してもらえる展示体験を目指しました。
「ティーセレモニー」と称して、身体をあたためリラックスさせる効果のある、クロモジやジンジャーを配合した野草茶を提供した。
目的を見失わないことが展示会成功の秘訣
井田 ご来場くださった皆さんも、ファーベストの皆さんもとても楽しんでいらっしゃって、展示会はとても盛り上がりましたね。展示会をやってみて、気づいたことはありますか。
鈴木 体験がトリガーとなって、自分の思いや欲求に気づくことがあるんだなと。というのも、展示会時にお客さまから「こういうものがあったら良かった」「こういうものが本当は欲しかった」という声をたくさんいただいたんです。
足を運んでくれた方たちは私たちの既存のお客さまが多かったのですが、改めて光電子の効果や魅力に驚いてくださって。「体験」によって私たちの思いや光電子への理解をより深め、新しい発見を提供できる場になるんだなと感じました。
井田 3ヶ月という短期間で展示会が開催できた秘訣は、なんだったのでしょうか。
鈴木 まず、手段にとらわれずに目的を見失わなかったことですね。。ECの立ち上げから展示へと施策を方向転換しても、「光電子の技術を活用して多くの女性が抱える身体の悩みを解決していく」というブランドが目指すべきところは変わりませんでした。
また私たちの強い思いに共感してくれた方々の協力も大きなポイントですね。業界の知識だけではなく、新しい取り組みはわからないことだらけです。自分たちだけでなんとかしようとせず、ロフトワークを含めて外部パートナーとプロジェクトチームの知恵を積極的に借りたからこそ、質が高くかつスピーディに展示会を実現できました。
井田 長谷社長はいかがでしょうか?
長谷 経営者として「成功とは何なのか」を考え抜いたからだと思います。目先の利益にとらわれて、とにかく多くの集客すること=成功と定義してしまいそうなところを、「プロジェクト開始1年目の成功とは」「今のタイミングでやることの成功とは」「展示会の成功とは」と一つひとつ考えていきました。
熟考を重ねた末に出た私たちの今回の展示会における成功は、「世の中の興味関心がフェムテックに向いている今、いち早く情報発信をしていくことにしていくこと」でした。
とはいえ、2年後、3年後の成功の定義はその都度変化していくはずです。そのため、決裁側と担当者とで「どのような成功に向かっていくのか」について定期的に目線合わせをしておくことが重要だと思います。
井田 手段が目的とならないためにもメンバー間のすり合わせはとても大切ですね。最後にefeの今後の展望について教えてください。
鈴木 今後はefeの認知拡大を継続していくことと、女性の身体の悩みを解決するようなアイテムを検討している企業との製品開発を進めていきます。展示会は今後も積極的に実施していきたいです。
また身体を温めることの大切さも発信して、自分の身体をいたわり悩みを解決することができる女性を少しでも多く増やしていきたいです。
井田 ありがとうございました。今後の展開を楽しみにしています。
プロジェクトメンバー
鈴木 彩花
株式会社ファーベスト
「efe」プロジェクトリーダー
古市 淑乃
古市淑乃建築設計事務所
アーキテクト / Layout Unit ディレクター
武田 真梨子
FabCafe
FabCafe クリエイティブディレクター
井田 幸希
株式会社ロフトワーク
FabCafe Nagoya 取締役 / MTRLプロデューサー
未来を起点組織・事業の 変革を推進する『デザイン経営導入プログラム』
企業 の「ありたい未来」を描きながら、現状の課題に応じて デザインの力を活かした複数のアプローチを掛け合わせ、
施策をくりかえしめぐらせていくことで、組織・事業を未来に向けて変革します。