株式会社ハイマックス PROJECT

社会課題と接続し、未来志向を組織の力に
SFプロトタイピングを活かした研修プログラム

Outline

事業のありたい姿や目指す社会を描き、逆算的に今必要な取り組みを導き出す「未来志向」のアプローチ。その一手法である「SFプロトタイピング」は、SF(サイエンスフィクション)が持つ物語の力を活用し、未来の社会や技術のあり方を創造的に描く手法として注目されています。フィクションを通じて現状の延長線上では生まれにくいアイデアを飛躍させ、そこから逆算して現在のアクションへとつなげるプロセスは、新たな価値創出を目指す企業にとって、有効な手段のひとつです。

同時に、長期的な視点で組織や事業の未来を考える際に欠かせないのが「社会課題」の視点。社会課題を単なる制約ではなく、新たな価値創造の機会と捉え直し、具体的なアクションへと落とし込めるか。それが、企業の未来を切り拓く鍵となります。

こうした視点に注目したのが、コンピュータ・ソフトウェアのシステム構築の企画、設計・開発、稼働後のメンテナンスまで全ての領域を担う株式会社ハイマックスです。同社は、クライアントの業種や課題に応じた高度なソリューション提供を得意としています。また、業務革新や競争力強化を図るクライアントのDX推進を、積極的に支援しています。一方、同社のビジネス企画開発事業部は、新たな挑戦として、複雑化する市場や社会の変化に対応するため、自ら新たなアイデアを創出し、未来志向の事業開発へとつなげる組織文化の醸成を目指していました。

そこで、ロフトワークの支援のもと、外部人材を招いた3日間の研修ワークショップを実施。「アート思考」「社会的インパクト」「SFプロトタイピング」という3つの視点を取り入れ、発想から価値の伝達までをワーク形式で実践しました。個人・事業・社会を繋ぐ新たなビジネスアイデアを模索し、創造的な思考を組織に根付かせることを目指しました。

Process

未来志向と社会課題を接続する、3日間のワークショップ

本ワークショップでは、3日間のワークショップの中で、「アート思考」「社会的インパクト」「SFプロトタイピング」の3つの視点を駆使し、未来志向のビジネスアイデアの発想・構造化・価値伝達までを実践的に学びました。

3日間のワークのプロセス図。初日はアート思考を用いた「発想」、2日目は社会的インパクトの視点を活かしたビジネスモデルの「構造化」、3日目はSFプロトタイピングにとる「価値伝達」を目的としたワークになっている。

DAY1

1日目は、常識にとらわれない想像力や思考の柔軟性を養うことを目的に、「アート思考」をアプローチとして採用。未来のハイマックスで展開しうるビジネスアイデアを自由な発想のもと考案しました。ゲストには、アーティストの高橋祐亮さんを招き、固定観念を超える発想法についてレクチャー。ワークでは「ときめき」をキーワードに、既存の製品・サービスを異なる視点で捉え直し、それらが本来持っていた社会的価値について議論しました。最終的に、ハイマックスの事業に活かせるアイデアとして整理し、どのような社会課題を解決できるかをアイデアシートに落とし込みました。

DAY1 Partner

高橋 祐亮
(アーティスト)

1992年生まれ。3DCGやゲームエンジンを用いた表現を中心に映像やゲーム、 VR 、インスタレーションの制作を行う。 Play(=遊ぶ・選択する・再生する・演じる)というワードを軸に、鑑賞者やプレイヤーが自らの固有性を想起するための拠り所となる「装置」としての作品制作を目指す。『WIRED』によるCREATIVE HACK AWARD 2017特別賞、NEWVIEW AWARD 2022 Grand Prizeなどを受賞。2023年、文化庁メディア芸術育成支援事業-創作支援プログラム-採択。慶應義塾大学SFC卒業、東京藝術大学大学院修了 。

高橋 祐亮さんが資料を投影しながらインプットトークをしている様子
女性1名、男性3名のグループで、付箋がたくさん貼られた机を見ながら議論している様子。

DAY2

2日目は、社会課題の視点を取り入れ、ビジネスモデルとして整理することをテーマに設定。ゲストとして、一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)事業部長の加藤 有也さんを招き、社会課題解決型ビジネスモデルの事例や、市場構造についての解説を受けました。

その後のワークでは、DAY1で発想したアイデアを「9セルフレームワーク」を用いて整理。その強みや課題を可視化し、より実現性のある形へと深化させました。さらに、「パーパスモデル*」を活用し、事業の目的に対して多様なステークホルダーが「なぜ関わるのか」「どのように関わるのか」を可視化。参加者はこのフレームワークを通じて、自分たちのビジネスが社会に与える変化を考察し、共創の可能性を整理しました。これにより、事業の社会的意義をより明確なものとしました。

*パーパスモデル:多様なステークホルダーが一緒に活動するための「パーパスを中心とした共創プロジェクトの設計図」。プロジェクトの共通目的を明確にし、ステークホルダーが共通目的に対して、関わる理由や関わり方を可視化することができるツール。

DAY2 Partner

加藤有也さんのプロフィール写真

加藤 有也
一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)事業部長/日本インパクト投資2号有限責任事業組合(通称:はたらくFUND)ディレクター)

株式会社講談社にて海外事業や国内外関連会社の企画、CVCの運営・スタートアップとの資本業務提携等に従事。
2019年よりSIIFに参画し、ベンチャーキャピタル型のインパクト投資ファンドであるはたらくFUNDやシステムチェンジ志向の新規インパクト投資事業など、インパクト投資の実践を通した知見作りを担当。

加藤有也さんが参加者に対して呼びかけている様子
全体のファシリテーター役の男性と女性が話している内容を、グループで聞いている様子。

DAY3

3日目は、アイデアの価値を社会に伝える方法を探ることを目的に、「SFプロトタイピング」の手法を活用しました。ゲストには、SF作家の人間六度さんを招き、SFプロトタイプの知見を起点とした、企業における「ナラティブ(物語)」活用の可能性について講義。ナラティブは、単に事業を説明するのではなく、共感を生むストーリーとして伝える手法です。

ワークでは、DAY2までに構想したビジネスアイデアを、仮想プレスリリースの形で文章化。さらに、サービスが社会実装された未来を描く4コマ漫画を制作し、「生活者の視点から見た変化」をストーリーとして表現しました。

こうして、新たな視点での発想から、社会への伝え方までを一貫して設計することを学び、ワークショップを締めくくりました。

DAY3 Partner

人間六度さんのプロフィールアイコン

人間六度
小説家・漫画原作者

1995年生。高校卒業後急性リンパ性白血病を罹患し、4年弱闘病。日本大学芸術学部文芸学科に入学。在学中に「きみは雪をみることができない」で第二十八回電撃小説大賞メディアワークス賞、「スター・シェイカー」で第九回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、作家デビュー。自著を刊行する傍ら、SFプロトタイピングや漫画原作、楽曲ノベライズなども手掛ける。中国の第2回百万釣魚城SF大賞でベスト新人作家になぜか選ばれていた。
「トンデモワンダーズ〈テラ編/カラス編〉」「AIになったさやか(早川書房”2084年のSF” 収録)」など。

SF作家の人間六度さんが立ってプレゼンを行なっている様子
男性が付箋を指差しながら、チームで話し合う様子。

Approach

外部人材との対話で、より自由なマインドセットを身につける

このプロジェクトでは、外部のクリエイターや専門家とコラボレーションし、彼らの知見を借りるだけでなく、共にワークを進行するスタイルを採用。単なるインプットに留まらず、参加者が新しい視点を実践する機会を生み出しました。

アーティストやSF作家との対話は、普段の業務の延長線上では得られない、新たな角度からの気づきを促し、創造的なアイデアを生み出すためのマインドセットを醸成します。また、インパクト投資の専門家を招き、経済的価値と社会的価値が交差するビジネスモデルの解像度も高まりました。

このように、外部人材とのコラボレーションは、参加者に「外部との接点を活用する重要性」を実感させ、組織全体に新たな文化を根付かせるきっかけにつながります。アイデア創出に留まらず、未来志向の事業開発に向けた思考の柔軟性と共創の視点を持つことの価値を、体感しながら学ぶ機会となりました。

ワークショップにて、男性のファシリテーターと高橋さんがグループに対して考え方のレクチャーを行なっている様子。
ワークショップにて、人間六度さんと参加メンバーが意見を交わしている様子

アーティスト・SF作家との共創を得意とする「MVMNT」ユニット

本プロジェクトを担当したのは、ロフトワークの「MVMNT (ムーブメント)」ユニット。エモーショナルな社会と文化の創造をミッションにアーティスト/クリエイターとともに未知のムーブメント(新たな伝説)を生み出すチームとして活動しています。

同ユニットは、アーティストと協業したプロジェクト支援の実績をもつ他、アートドリブンのアジャイル型開発である「TKMK(トキメキ)プロトタイピング」、領域横断型のSFコミュニティ「imkp Lab(イマケピ ラボ)」など、アーティスト・SF作家を交えての多様な取り組みを行ってきました。これらの知見やネットワークを活かしながら、本プロジェクトを手掛けています。

MVMVNT ユニット Webサイト

活動体として企画し、継続的な文化醸成の起点をつくる

組織全体の価値創造力を向上させるには、単発のワークショップで創造的な思考力を鍛えるだけではなく、未来志向を組織文化として根付かせることが不可欠です。

本プロジェクトでは、人材育成の視点に留まらず、中長期的な新規事業開発の推進を視野に入れ、「Hi-Fi Innovation Lab」という活動体として企画。ワークショップの枠を超えた実験の場としてデザインすることで、継続的なワークの実施や、部門を超えた社内コミュニティの醸成のための仕組みづくりを推進しました。組織内に持続可能な仕組みとして定着させ、実際の事業創出へとつなげていくことを目指しています。

グレーや緑を基調とした機械的な背景イメージの中に「Hi-Fi Innovation Lab」のタイポグラフィが掲載されたビジュアル
「Hi-Fi Innovation Lab」のキービジュアル(制作:田村 育歩)

プロジェクト概要

クライアント:株式会社ハイマックス
プロジェクト期間:2024年5月〜9月

体制

  • プロジェクトマネージャー:天野 凛
  • クリエイティブディレクター:丸山 翔哉
  • プロデューサー:室 諭志(以上、株式会社ロフトワーク)
  • ワークショップゲスト:高橋 祐亮, 加藤 有也(一般財団法人社会変革推進財団), 人間六度
  • キービジュアル制作:田村 育歩
  • スチール撮影:村上 大輔
  • イラスト制作:仮井 将之

執筆:後閑 裕太朗(Loftwork.com編集部)

Member

天野 凜

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

丸山 翔哉

株式会社ロフトワーク
MVMNTプロデューサー /サウンドアーティスト/imkp Lab.所長

Profile

室 諭志

株式会社ロフトワーク
バイスMVMNTマネージャー

Profile

Keywords