株式会社富士通ゼネラル PROJECT

価値創造に、全社を巻き込め。
挑戦できる土壌育む新規事業創出プログラム

Outline

空調機・情報通信・電子デバイス事業を展開する株式会社富士通ゼネラルが、2016年に新たな価値創出に向けて設立した社内組織「Being Innovative Group(以下BIG)」。2020年5月にウェアラブルエアコン「Cómodo gear(コモドギア)」を発表するなど、その活動を通して富士通ゼネラル社内に新たな価値創出を行う土壌が生まれはじめています。

2020年、BIGはその活動の一環として、社内公募型の新規事業創出プログラムを開始。いかにして幅広い層の社員に参加を促すことができるかが課題でした。そこで、ロフトワークをパートナーに迎え、社内にアイデア創出の手法とフレームワークを浸透させることで、新規事業創出の機運を高めることに挑戦しました。

プロジェクトの第1フェーズでは、短期集中で未来社会の洞察から自社のアセットを活用した事業アイデア創出までを実践する2日間のワークショップを実施しました。第2フェーズでは、前回生まれたアイデアを土台に、2つのチームがビジネスモデル構築〜事業化検証までを進めていく、およそ週1回・全13回のワーキンググループ活動を実施。プロジェクトの締め括りとして、同社社長をはじめとする役員に向けて事業化を問うプレゼンテーションを行いました。

本記事では、BIGマネージャー 津野純一さんと、ロフトワークのプロジェクトメンバーがこれまでの取り組みを振り返りながら、プロジェクトを通じた学びと成果、さらに次に行うべきアクションについて語りました。

聞き手・執筆・編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)
写真:村上 大輔

Interview

話した人

右から、敬称略。
津野 純一/ 株式会社富士通ゼネラル Being Innovative Group マネージャー
伊藤 望 / 株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
近藤 理恵 / 株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター
飯澤 絹子 / 株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター (オンラインで参加)

取材場所は、富士通ゼネラル社内に今回の新規事業創出プログラムのために開設した、プロジェクトルームにて行いました。

プロジェクトの経緯

——BIGという組織が生まれた背景と、今回の新規事業創出プログラムを実施した経緯について教えて下さい。

富士通ゼネラル 津野純一さん(以下、津野) 2015年に現社長の斎藤が富士通ゼネラルの社長に就任してから、自社の風土・文化を刷新していくための取り組みが始まったんです。その一環として2016年に、新しい事業を創出していくための組織集団としてBeing Innovative Group(BIG)ができました。元はボトムアップでチャレンジしていきたい人たちの集まりで、クローズドな組織形態でした。

私は、2020年4月1日にBIGのマネージャーに就任して。社内の風土・文化を変えていきたいという思いから始まった組織なので、新事業開発を内部だけで閉じるんじゃなく、もっと開いていきたいという視点がありました。だから、着任早々に新規事業開発の公募プログラムを作ったんです。

津野 とにかく全社からアイデアを集めて、同じ意識を持っている人たちを見つけていきたかった。3〜4ヶ月で制度設計して、そのまま勢いで募集開始。全部で50件のアイデア応募が来ました。

——スピーディですね! 初めての公募で全社から50件集まったのは、良い結果だったのではないかと感じますが。

津野 社長からは「50個もきたのか」と言ってもらいましたが、本当は倍くらい来て欲しかった。もっと多くの人が興味を持ってくれるんじゃないかと思っていたので。

ロフトワーク 伊藤望(以下、伊藤) 公募の二次審査に、僕と新澤(ロフトワークのプロデューサー)もお邪魔したんです。応募されたアイデアは練られているものが多く、驚きました。

——果たして、ロフトワークの出番は必要だったのかなと思ってしまいますね。

津野 ロフトワークさんには、アイデアを創出していくためのフレームワークを提供して欲しいと考えていました。公募にエントリーできなかった人の中には、アイデアを発想できずに困っている人もいたんじゃないかと思うんです。興味を持っているけれど踏み出せないという層をカバーするために、きっかけを作りたくて。

——まだまだ、アイデアを眠らせている人たちを後押ししたかったんですね。なぜ、ロフトワークに興味を持っていただいていたんですか?

津野 これまで、ロフトワークさんのイベントにときどき参加させていただいて。元々、個人的に興味のある組織ではあったんです。クリエイター視点やデザイナー視点で伴走してもらいながら、企業として新しいものを作り上げていく。アイデア発想する際に視点を変える手助けをしてもらえるのは、一つの良い方法なのではないかなと考えました。

2日間のオンラインワークで、アイデアを生み出すフレームワークを体験

——ロフトワークと一緒に新事業開発プログラムのプロジェクトをスタートしたのは、2020年8月からでしたね。

津野 そうですね。ちょうどアイデア公募を始めた時期に、公募の盛り上げ施策としてオンラインワークショップを行いました。

伊藤 富士通ゼネラル全社を対象に、希望者に向けて実施しました。お題は、「これからの社会を見据えた新事業アイデアを提案する」。当時、ロフトワークとしてもオンラインワークショップはまだ試行錯誤中でしたが、事業化の検討に値するおもしろいアイデアが生まれましたね。

Phase.1 オンラインワークショップ 概要

オンラインワークショップでは、2日間で、アイデア創出のプロセスを集中的に体験するプログラムを実施。社内から8つのチームが参加し、デザイン思考のフレームワーク・ダブルダイアモンドをベースにした、トリプルダイヤモンドのプロセスでワークを行いました。

■ DAY1(WORK1〜3)
チームに分かれて現状の社会から未来社会の洞察を行い、課題解決のチャレンジを検討。

■ DAY2
Day2はチャレンジからアイデアをまとめた後、全チームによる発表を実施。全チーム発表では同社役員の方々も参加し、アウトプットに対して前向きなコメントがありました。

ワークショップで創出された新規事業のアイデア

  • 省エネ・省資源に関する行動をした人が得をするサービス
  • 年齢や容姿にとらわれず、好きな場所で働くためのサービス
  • 距離が離れている友人と一緒に過ごす体験を豊かにするサービス
  • 個人が外出先でも室内と同じように快適に過ごすためのプロダクト
  • 突然体調が悪くなったときにすぐに助けを呼ぶことができるサービス
  • モビリティの移動体験を充実させるためのプロダクト
  • 自宅でも商品の実物を疑似体験しながら買い物ができるプロダクト
  • 災害の影響を受けない農場を作るためのプロダクト
ワークショップで撮影した集合写真。共通のZoom背景を使用し、オンラインでも一体感のある場を創出した。

津野 ワークショップの成果を社長に報告して、「いいアイデアもたくさんあるので、この後も引き続き事業化を検討したいです」と伝えたんです。社長からは「そう言うなら、やってみれば」と。

そこから2つのチームを次の事業化検討フェーズに進めたのですが、そのうちのひとつ「あけびチーム」が考えたのは、「天候に左右されずに野菜が収穫できる菜園を作る」でした。元の内容は、都市圏での空きビルの増加と、そして天候不順によって野菜が安定的に育たない状況という2つの社会課題から、空きビルを利用した菜園をつくるというものでした。これは具体的に何ができるの、という感じでよくわからない。わからないけど、おもしろそうだから進めてみようと。

伊藤 津野さんから「菜園のアイデアを次に進めようと思う」と聞いたときは、びっくりしました。

津野 実は、富士通ゼネラルの情報通信部門が農業の選果システムを開発していて。技術的な背景はつながっているんですよ。

伊藤 今となっては納得感しかないですけれど。その時は「富士通ゼネラルさんが、農業?」って思っちゃいましたよね(笑)。

複数の部署を横断しながら、新事業を生み出す

——次のフェーズでは、オンラインワークショップで生まれた2つのアイデアを起点に、より具体性の高い事業アイデアにブラッシュアップしたんですよね。

伊藤 半年間、週に1回ぐらいのペースで全13回のワークショップと、中間報告・最終報告でそれぞれ経営層へのプレゼンを行いました。

フェーズ2・ワークショップのプロセス

津野 最初は「こんなに長期間なのか」と思っていましたけど、やってみるとあっという間で。参加した社員は全員、本来の業務時間を割きながらこのプログラムに参加していました。それを考えると、15日間で約6ヶ月かかるものなんだなと。

伊藤 いくつかの部署を跨って社員の方々が参加するという前提があったので、プログラムを設計する際に配慮したんですよね。本来の業務をやりながら参加してもらうには、週に1度、ちょっとずつ進めるのが現実的かなと。

津野 これまで部門を横断した活動機会自体がなかったので、やってみたかったんですよ。富士通ゼネラルは空調だけではないし、新規事業開発も各部署を横串で通すような組織形態が必要だと思い、いろんな部門からリソースを出してもらいました。

——各事業部門の上長の方たちとの調整は、難しくはありませんでしたか?

津野 各部門の役員の方たちに、BIGの活動に対する理解があったのは幸いでしたね。ただ、それを中間層の方たちまで理解してもらえているかというと、そこは説明が必要で。中には本業との兼ね合いで参加が滞っている人もいました。

そのときに、すかさず役員の方に相談して「プログラムへの参加を優先してもらえませんか?」と相談しました。せっかく新事業のアイデアを生み出す機会で、議論に入れないのはもったいないですから。それ以降は、フルコミットで参加してもらいました。

伊藤 他社では、ここで躓く担当者の方も多いんですけれど。津野さんの調整力に支えられました。

津野 役員の方たちが新しい価値を創る活動が必要だという意識を持っていて、中間層の方達を説得してくれました。決して私の力じゃなく、恵まれていたんだと思います。

「部室」のような空間が価値創造を加速

——今回のプログラムで、富士通ゼネラル社内にプロジェクトスペースを立ち上げました。この場所を作ったのはどういう経緯でしたか?

キャンプ用のタープやビーズソファが据えられたワークスペース。経営陣に向けた最終プレゼンも、このプロジェクトスペースで行われた。

伊藤 プログラムが終わった後にも、物理的に残るものがあったらいいなと思ったんです。もし仮に検討した新事業のアイデアが潰えてしまったとして、取り組みそのものが全部消えてしまったら、せっかくの学びも、マインドセットの変換も根付かない。だから今回、空間を残してみようと。

津野 私自身、新事業を生み出す活動にはツールが大事だと思っていたので、伊藤さんから場の重要性について聞いたときは納得感がありました。アイデアを議論したことが形として物理的に残るという、連続性が重要で。WordやPowerpointなどのデジタルな記録だけだと、後で読み返したときに議論していた時の熱量や感覚が消えてしまいますよね。

伊藤 そうですね。今回の空間づくりには、2つのねらいがありました。ひとつは、空間を通じて参加者の考えに影響を与えること。ホワイトボードの広さ一つをとっても、議論しやすさは変わるし、議論の内容や質にも影響する。そういう観点から、プログラムに参加するみなさんの思考の枠を外したかったんです。

2つめは、気持ちを切り替えること。こういうアイデアワークは、普段の本業との切り替えがすごく重要なんです。ここに来ると「なんだかスイッチが変わる」と感じて欲しかったので、ちょっとラフな空間にして「部室っぽさ」も意識しました。結果として、みなさんにいい感じでハックしてもらえましたね。

津野 以前は3Dプリンターと、あとは机とホワイトボード1個しかない場所だったので。血が通った空間になったと思います。

この場所ができてから、広報やCSR部門の人たちにも取り組みを知ってもらえたようで。最近、他社の方が来られた時の社内見学コースに、この場所が組み込まれたんですよ。「ここで、こういう形で議論をして、新しい事業を構想しているんです」というのをわかってもらえるので、アピールにつながるんです。

1年間の取り組みを経て、発見できたポテンシャル

——足掛け1年のプログラムでしたが、ファシリテーターとして直接参加者の方たちとやりとりをしていた、近藤さん、飯澤さんは、どんな変化を感じましたか? 

近藤 理恵(以下、近藤) 一番最初のワークショップの頃から比べると、すごく深くまで議論できるようになったと感じます。はじめは、互いに遠慮のある状態でやりとりが終始してしまうことが多かったので。

飯澤 絹子 プログラムが始まったばかりの頃は、みなさんから「どうやって、不確定なアイデアを言葉にしたらいいのか」という迷いを感じましたね。でも、徐々に自信がついてきたのか、円滑に意見を伝えたり、私たちがいない間も積極的にプレゼンテーションの準備を進めてくれたり。徐々に、皆さんが「作り手」として変化していく姿を見れたのが印象的でした。

近藤 最後は、アイデアに対してもっと突っ込んで「なぜ」を問う所作ができていて。人の行動や思考に対する興味や疑問が深まっていったと感じました。

プロトタイプのプロセスも、当初は段ボールを使ったダーティプロトタイプを作ってもらう想定でしたが、蓋を開けてみたら3DプリンターとArduinoを使って本格的なものを作っていて。「本当に光るんだ」と驚かされましたね。

ロフトワーク 飯澤絹子

伊藤 僕は、変化以上に、富士通ゼネラルの皆さんが個々で素晴らしいポテンシャルを持っていることを実感しましたね。プロトタイピングをする時も、みなさんすごく生き生きとしていて。ただ適切なステップを用意するだけで、いろんな新サービス・新事業の芽が出てくると思います。

津野 多分、いい意味でこの会社の人々は「超真面目」なんですね。プロトタイプをやるからにはちゃんとしたもの作りたいとか、議論をするからには事前に資料を準備していかなければならないなど。そういう真面目さが、いい形で出たんだと思います。

アイデアが生まれる組織文化を醸成するために

——アイデアが生まれて、この先の事業化へ進む上で、どんな制度や仕組み作りが必要だと思いますか?

津野 新しい事業アイデアを生み続けるという組織文化を、きちんと根付かせる必要があります。そのためには、アイデアの発案者や「何かやってみたい」という意思を持っている人たちを、BIGが適切に支援する制度設計が必要です。

新事業の0→1(ゼロイチ)は、今回のプログラム設計である程度、制度の形が見えてきました。しかし、1→10(イチジュウ)はどうするのか。次はその領域に取り組まなければなりません。

——プログラムから生まれた新事業のアイデアについて、この後どうなりますか?

津野 「あけびチーム」からは、事業化したいという声が挙がっています。次の私の仕事は、まず、経営層に対して事業化の検討を進めさせてくださいと伝えること。そして、新しいサービスとそのプロトタイプが本当に顧客の課題解決や、プラスアルファの価値提供ができるのか、新しいシーンを創出できるかを検証していくことですね。

伊藤 そうですね。「あけびチーム」のサービスは仮説ができつつあるので、プロトタイプを作りながらユーザーにヒアリングしつつ、本当にそのような課題があるのかを確認していきたいです。

津野 このプロセスに、ロフトワークの得意領域でもあるクリエイター視点やデザイナー視点を掛け合わせていって、新しい価値を作れたらいいですね。

——これからの展開も楽しみですね。ぜひ、事業ローンチまで頑張ってください。今日はありがとうございました!

Member

津野 純一

津野 純一

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Being Innovative Group マネージャー

伊藤 望

株式会社ロフトワーク
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飯澤 絹子

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