ピジョン株式会社 PROJECT

パーパス起点の未来像が、社内外の有志を動かす
「人口減少の入り口に立つ」ピジョンが挑む組織変革

哺乳びんをはじめ、多様なベビー用品の製造で知られるピジョン株式会社は、半世紀以上にわたり、赤ちゃんの成長と育児を支える高品質な商品を提供し続けています。同社は、2019年より「赤ちゃんをいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします」という存在意義(=パーパス)を掲げています。

この存在意義の実現に向けて、社員一人ひとりが何をすればよいのかがわかりやすくなるよう、具体的な未来の姿に落とし込み、社員と組織がどのように実現していくのかを明確化する必要がありました。そのために行ったのが、2021年にロフトワークの支援のもと実施した「未来像言語化プロジェクト」です。ワークショップを通じて、企業として実現したい「赤ちゃんにやさしい場所」を具体的に描いた“赤ちゃんにやさしい未来像”として言語化しました。

ピジョンの経営理念とプロジェクトの関わりをまとめた図版。2019年に策定されたピジョンの存在意義に対し、未来像言語化プロジェクトを実施。6つの社会の姿として「赤ちゃんがいる光景が日常になっている」「育児の助け合いができるゆるやかな繋がりがある」「赤ちゃんの創造性が社会をワクワクさせる」「赤ちゃんを産み育てることがハードルにならない」「どんな状態で生まれても成長する力を育める」「赤ちゃんが環境危機に困ることなく心地よくいれる」が掲げられている
2019年に策定された存在意義を起点に、より具体的な社会の姿を示すため、「未来像言語化プロジェクト」にて「赤ちゃんにやさしい未来像」として言語化した。

プロジェクトの実施から3年が経った今、企業の存在意義や未来像はどのように社内外へと浸透し、社員、組織、そして社会にどのような変化を生み出したのでしょうか。その成果を探るため、「未来像言語化プロジェクト」に携わった、ピジョン株式会社 取締役専務執行役員の板倉 正さんと、現場の指揮を務めた、同社コーポレートブランディンググループ・マネージャーの小野 有紀さん、プロジェクトを支援したロフトワーク Culture Executiveの岩沢 エリの3名による鼎談を行いました。

存在意義や未来像を起点に、企業価値向上や組織変革への取り組みを続ける、ピジョンの挑戦に迫ります。

話した人

インタビューに参加した3名の写真。カメラに向かい笑みを浮かべている。

左から、
株式会社ロフトワーク Culture Executive 岩沢 エリ
ピジョン株式会社 取締役専務執行役員 板倉 正さん
ピジョン株式会社 コーポレートブランディンググループ マネージャー 小野 有紀さん

企業理念を「社員に届くもの」にするために。見直しを重ねてきた10年間

--ピジョンはロフトワークとともに「未来像の言語化」に着手する以前から、企業理念の見直しを行ってこられたんですよね。まずは現在の企業理念に至るまでの変遷についてお聞かせいただけますか。

ジャケット姿の男性の写真。隣の聞き手に向かい話している様子。
ピジョン株式会社 取締役専務執行役員 板倉 正さん

ピジョン株式会社 板倉 正さん(以下、板倉) はい。まずは2014年に当時の社長山下が、ピジョン社員の心と行動の拠り所として「Pigeon Way」を策定しました。それまでは、経営理念「愛」と社是「愛を生むは愛のみ」を掲げていましたが、事業のグローバル化が進む中で、日本のみならず海外の社員もその真意を理解し、共通した認識を持てるよう「使命」「基本となる価値観」「行動原則」「ビジョン」を加え、Pigeon Wayとして再定義しました。

2019年に現社長である北澤が社長に就任したときに、ブランドと事業戦略の一体化を目指すとともに、企業理念の見直しに踏み切ります。このタイミングで、これまでの「使命」を「存在意義(パーパス)」に置き換えました。

これまでの「使命」では、我々は何を成したいのかという自社起点の発想で社会への貢献のあり方を示していましたが、現在の「存在意義」に置き換えることで、社会にとってなくてはならない存在であるために我々は何をするのか、という社会やステークホルダー起点の考え方も含んだ双方向の発想に転換しました。

2023年には、グローバルナンバーワンを目指すという定量的なものであった「ビジョン」はなくし、「存在意義」の一つに絞り、Pigeon Wayの中心に据えました。さらに、存在意義で掲げる「赤ちゃんにやさしい場所」を具体的に示した「赤ちゃんにやさしい未来像」を策定することで、目指す方向性をよりわかりやすくしています。

ロフトワーク 岩沢 エリ(以下、岩沢)ロフトワークは、その2年前、2021年に「赤ちゃんにやさしい未来像」の言語化に伴走させていただきましたね。

板倉 さらに、2025年には、ピジョンの企業理念がより存在意義の実現に向けた内容となるよう、「基本となる価値観」「行動原則」を更新し、新たに「Spirit」として位置づけました。このように見直しを重ねることで、より社員にとってわかりやすく、行動しやすいものとなるよう、進化させてきています。

インタビューに参加した3名の写真。男性を中心にお互いに会話を交わしている様子。

--ブランドを大切にしながら定性的な価値を言語化していくことが、社員一人ひとりに企業の考えていることを共有するきっかけになると考えられたのですね。

板倉 そうですね。2019年以降、「ブランド」というものに対する考え方が組織として変わってきたと感じています。

私が当時の経営戦略本部の担当役員となった頃は、小野さんが所属する部署の名前は「ブランド管理グループ」でした。業務内容も店舗や展示会、パッケージの仕様書、色やフォントの管理基準・マニュアルなどのブランドにまつわるツールを“管理”するというものでした。

そこで、ブランドを使って経営の思いをかたちにしていくために、部署名に「デザイン」という言葉を取り入れ、「ブランドデザイングループ」に変更したんです。これは、ブランドへの意識変化を象徴する出来事だったのではないかと思います。

ピジョン株式会社 小野 有紀さん(以下、小野) 当時、ブランドデザイングループでは、2019年に新たに存在意義「赤ちゃんをいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします」が策定されたことを受け、その実現に向けて、具体的にどういった活動ができるのか、それを社員と共有してどう推進していけるのかについて検討しました。そこで必要になったのが、ピジョンが目指す社会の姿、未来像の言語化でした。

ピジョングループの経営理念をまとめた図版。経営理念、社是による「DNA」、存在意義とスピリットが支える「ピジョンウェイ」の2つがある
Pigeon Group DNAを、ピジョングループの核であり、この先も貫いていくものとして位置づけ、Pigeon Wayは社会において存在する意味とすべての活動における“心”と“行動”の拠り所であり「存在意義」と「Spirit」を掲げている。

「未来像の言語化」をどのように進めたのか?

--「未来像の言語化」を行った背景には、経営側としてどのような課題感があったのでしょうか。

板倉 定量的なビジョンは、数字だけを追いかけている印象がどうしても強くなってしまいます。2019年にPigeon Wayを更新した頃は、赤ちゃんや育児が好きでピジョンに新しく入社してきてくれた人たちがなかなか定着しないという課題もありました。

だからこそ、「この会社は何のためにあるのか」という存在意義に根ざしたかたちで、企業の方向性を具体的に示していきたいという想いがありました。

--そこで、ピジョンの存在意義で掲げる「赤ちゃんにやさしい場所」を「赤ちゃんにやさしい未来像」として6つの社会の姿が描かれた。具体的にはどのようなきっかけから始まったのでしょうか。

小野 ピジョンの存在意義が示され、その実現に向けた活動を考える中で、「ピジョンが目指す赤ちゃんにやさしい場所とは、具体的にどのような場所か?」という疑問に直面しました。そこで、育児を取り巻く環境の課題出しをすることから始めたんです。

それを基にチームで何度もアイデア出しを行うのですが、思うように進まず悩み抜いたあるとき、チームメンバーが大きな絵を描き始めたんです。絵にすることで、具体的にイメージが湧き、それによって発想も広がっていきました。

大判の紙に、鉛筆で書かれたたくさんの絵が描かれている様子を移した写真。色々な施設やシーンで、親子がどんな暮らしをしているのかが描かれている。
未来像の検討初期、プロジェクトメンバーが描いた「大きな絵」

岩沢 課題を整理するだけでなく、とても楽しそうな雰囲気が感じられますよね。

小野 私はこの絵を見たときに「赤ちゃんにやさしい場所」のイメージが湧くと同時に、存在意義の実現に向けた社員の真摯な想いやワクワク感が伝わってきて。これをチームの中に閉じ込めておかず、社内外に向けて発信していきたいと思いました。板倉さんのお考えとも重なりプロジェクトとして進める後押しをしてくださいました。

まずは社員と共に赤ちゃんにやさしい場所を考える「赤ちゃんにやさしい世界を描こうプロジェクト」を立ち上げました。ピジョンのグローバル社内報を使って有志を集め、7カ国51名の社員とオンラインワークショップを行いました。

合計12回にわたるワークショップを通じて、200を超えるアイデアが集まりました。このワークを通して、「赤ちゃんにやさしい場所」の実現を自分ごととして考える機会になりました。さらに、そこで集まったアイデアを動画にまとめ、社内報を使って世界中の社員に発信し、共感の輪を広げることを目指しました。次に考えたのは、社外への発信です。

岩沢 ロフトワークにお声掛けいただいたのは、このタイミングでしたよね。

小野 はい。社外に発信するものとして完成させるには、社外の視点を含めてブラッシュアップする必要があると考えていました。そこで、ロフトワークさんに入っていただき、「赤ちゃんにやさしい場所」の未来像をつくるプロジェクトがスタートしました。

社内のワークショップで集まったアイデアに加え、外部の目線からも未来を想像するために、3名の有識者の方をお招きしてオンライン座談会を開催しました。

子育て中のママパパをはじめとした多様なバックグラウンドを持った方々にもお集まりいただき、「赤ちゃん一人ひとりが生まれ持った輝きを育める、赤ちゃんにやさしい未来とは?」というテーマで、そのために必要だと思う商品や場所、サービスなど「赤ちゃんにやさしいこと」のアイデア出しにご協力いただきました。最後はオフラインの収束ワークで、集まったアイデアを分類・整理しました。

男性2名と女性2名が壁に貼られたたくさんの付箋や紙のシートに向かって議論している様子を撮った写真。
プロジェクト中の収束ワークの様子

岩沢 たくさんのアイデアの中には、「社会全体として子どもたちのためにできることとは何か」という幅広い視点から挙げられたものもありました。

それらを、ピジョンの強みや、今後強化していきたい活動とすり合わせながら収束していきました。たとえば、低体重の赤ちゃんへのケアなど、長年取り組んできた領域もそのひとつです。最終的には、6つの社会の姿に絞り込んでいきましたよね。

小野 さらに、グローバル視点が抜けないように、海外のママたちにもオンラインインタビューを実施するなどしました。日本の問題に偏っていないかを検証したうえで、最終的には現在の「赤ちゃんにやさしい未来像」としてまとめていきました。

赤ちゃんに優しい未来像のビジュアルイメージ。多様な生活シーンの中で過ごす親子の様子が、柔らかなタッチのイラストで描かれている。
2021年にロフトワークの支援のもと言語化された6つの社会の姿は、2023年にそのビジュアルイメージと合わせて「赤ちゃんにやさしい未来像」としてWebサイト上で公開された。

社内に浸透させるために、経営陣とともに国内外の拠点へ

岩沢 未来像を策定しただけでは、組織変革を起こすことは難しかったと思います。浸透の施策は必要不可欠だったと思うのですが、言語化した未来像を社員一人一人に浸透させていくために、どのような取り組みをされたのでしょうか。

女性の写真。聞き手に向かって笑いながら話している様子。
ピジョン株式会社 コーポレートブランディンググループ マネージャー 小野 有紀さん

小野 まずはグローバル社内報を使って、「経営層の未来像への想い」と「未来像策定までの道のり」を発信しました。社員一人ひとりに浸透するよう、経営層の想いはもちろん、策定プロセスについても理解してもらえるよう、読みやすいかたちで社員に届けました。

社内報を出した直後には、社長の北澤さんや板倉さんを含めた経営陣とともに国内外の拠点を回って管理職を対象としたワークショップを行いました。

板倉 いわゆる説明的なものだけではなく、私たち経営陣の想いを伝えたり、育児体験やワークも行ったりしたよね。

男性と女性が、それぞれ赤ちゃんサイズの人形を持って、抱っこをする体験をしている写真。
未来像の浸透を目的に、ピジョン社内で実施された体験やワークの様子
男性5名が、机に向かって何かを記入している写真。ワークの感想や自分の考えを書いている。

小野 企業理念、未来像について改めて説明することに加えて、存在意義の実現のために自部署が実践していくことを具体的にイメージしてもらうための体験やワークを行いました。

具体的には、私たちが寄り添うべき妊婦さんや赤ちゃんの目線に立って気づきを得てもらうための体験の時間をとった後、各人が仕事をする上で大切にしていることを書き出し、企業理念との繋がりを意識してもらうワークと、「赤ちゃんにやさしい未来像」と自部署の仕事の繋がりを考えるワークを行います。これを部門横断的に実施することで、お互いの仕事が未来像に向かって繋がっていること、各部門の担う役割を意識することができ、横の繋がりを再認識するきっかけにもなったようです。

板倉 社員からは「違う部署の困り事が、実は自分達の部署であれば解決できることだと気づいた」といった声も聞かれましたね。

ーー大きな未来像を共有していく中で、社内の交流も生まれた。それによって風通しも良くなったような印象ですね。

岩沢 このような浸透施策が、次のアクションにつながった事例などはありますか?

小野 この取り組みは2023年に行ったものなので、アウトプットとして現れるには時間がかかるかとは思います。ただ、拠点を回る際には、他の拠点での取り組みやフィードバックも必ず共有していました。異なる拠点同士、それらを参考にしながら実際の活動に繋がっていくといいなと思っています。

存在意義への高い共感で、社員の“心”と“体”の足並みが揃った

青い服を着た女性の写真。男性の話を感心しながら聞いている様子。
株式会社ロフトワーク Culture Executive 岩沢 エリ

岩沢 経営層である板倉さんは、先ほどの浸透施策含め、現在に至るまでの「存在意義」の浸透活動によって社内にどんな変化が起きたと感じていらっしゃいますか。

板倉 社員の存在意義への共感が高まったことにより、社員の判断と行動の足並みが揃うようになったと感じています。具体的には、ピジョンでは2019年から「Pigeon Frontier Awards(PFA)」と呼ばれる提案制度を導入していますが、そこではピジョンの存在意義に沿った提案がでてきます。

たとえば、使い終わった哺乳びんには誰しも思い入れがありますが、製品特性上、洋服のように“おさがり”として譲ることも難しい。なんとか捨てずに使えるようにしたいという社員の想いから、ストローパーツや蓋を作ることで、哺乳びんを長く使えるようにするアイデアがPFAで挙がり、実際に商品化につながりました。これはお母さんの想いに寄り添った結果であり、また環境問題への配慮にもつながっています。

哺乳瓶の商品の写真。シリコンの蓋とストローが一体化しているもの。
PFAでの提案から実際に商品化された、「母乳実感©パーツ ストロー・ふた」は2024年度のグッドデザイン賞を受賞した。

板倉 実際に人事アンケートを実施しても、外部の協力企業が驚くほどに、存在意義に対する共感度が高いことがわかりました。企業が定義した存在意義が、社員が行動するための拠り所になっていると感じますね。

社外のステークホルダーの支持を得た、価値創造ストーリー

岩沢 「赤ちゃんにやさしい未来像」について、社外のステークホルダーの方々からの反響についてはいかがでしたか?

板倉 弊社の価値創造の流れをひとつのストーリーに整理して示しているのですが、この未来像を長期的に目指す社会との共創価値として位置づけています。それが非常にわかりやすいと、投資家の方からは評価していただきました。

ピジョンの価値創造ストーリーを記した図版。
ピジョンの「価値創造ストーリー」。企業として長期的に目指す社会の姿として「赤ちゃんにやさしい未来像」も組み込まれている。

板倉 「赤ちゃんにやさしい未来像」の実現を目指し、各種資本を活かして重要課題(マテリアリティ)の解決に取り組み、中期経営計画を実行することで経済価値と社会価値を生み出していく。そのベースには、企業理念がある。企業が目指す定性的な未来像と、定量的な指標が接続された1つのロジックにまとめられたことで、理解が得やすくなったと感じています。

岩沢 企業価値と紐づく定量的な指標を押さえたことで、社外ステークホルダーからの理解が得られやすくなったんですね。

ピジョングループの重要課題を5つに分類して記載している写真。
存在意義を実現するために中長期的に取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定し、目標と進捗状況を公開している。また、マテリアリティの進捗度合いは役員報酬に反映させるという仕組みを設けるなど、組織デザインからさまざまな工夫を行っている。

ワークショップ時のアイデアが、「有志の社員」の行動変容を起こす

岩沢 小野さんが関わっている現場でも、外部からの反応を感じることはありましたか。

小野 実は、未来像を言語化する際のアイデアの一つだった「学校で赤ちゃんを知る授業をする」ことは、すでに実現しているんです。これは、未来像の原型となる絵を描いたプロジェクト担当者が当初から考えていたアイデアでした。

岩沢 そうなんですね!とても嬉しいお話ですね。ちなみに、その授業とはどのようなものなのでしょうか。

小野 「赤ちゃんを知る授業」は、日本全国の中学生に向けて提供している教育プログラムです。少子化や核家族化によって身近に赤ちゃんや育児中のご家族がいない環境で育つお子さんが増える中、未来を創る世代にこの授業を実施することによって、赤ちゃんに興味関心をもってもらい、社会の一員として自らできることを考え、赤ちゃんにやさしい行動を起こすきっかけを作っています。

学校の先生方が授業を実施するための教材を無償で提供していますが、一部の学校については、ピジョン社員が出向いて授業を実施しています。

授業の写真。ピジョンの女性写真が講師となり、資料を投影している。それを何人もの生徒が注目しながら聞いている様子
「赤ちゃんを知る授業」実施中の様子
授業内の体験ワークの写真。男子生徒1名と女子生徒2名が、赤ちゃんの人形を抱っこしている様子。

ピジョンは、「赤ちゃんにやさしい未来」を実現するために、「赤ちゃんを知る授業ー赤ちゃんにやさしい未来の実現のためにー」という教育プログラムを日本全国の中学生に向けて提供しています。

取り組みの詳細を見る(ピジョン Webサイトに遷移します)

小野 授業のプログラムでは、赤ちゃんが1日に何回母乳を飲むか、1日に何時間くらい眠るのかなど、赤ちゃんの特徴について学べるほか、育児中のママ・パパのリアルな困りごとやそのサポートのために生徒たち自身ができることを自ら考えることができます。

それ以外にも、ピジョンの社員が出向いて行う授業では、赤ちゃん人形の抱っこや、妊婦ジャケットを装着しての妊婦体験、ベビーカーの走行体験などに加えて、育児のリアルな困りごとを生徒さんにお伝えし、社会の一員としてどんな手助けができるかを考えるワークを実施しています。

2021年9月から始まったこの授業は、2024年12月末までで450校で実施され、約3万7000人の生徒さんが受講しました。私たち社員は年に数回しかうかがえないのですが、全国の先生方が興味を持ってくださったおかげで、ここまで広がりました。実際に、お会いする学校の先生方の中には「赤ちゃんにやさしい社会を実現したいというピジョンさんの考えに共感して、この授業を申し込みました」とおっしゃる先生もいらっしゃいます。

板倉 授業に出向くのは、小野さんが所属するコーポレートブランディンググループの社員だけではないんだよね。

小野 他の部署からも、毎年12〜13名の有志の社員が手を挙げてくれています。

岩沢 すごい!

板倉 部署を超えた主体的な活動になっているということは、存在意義への共感による行動変容が起きていると言っていいと思いますね。忙しい中、自分の仕事もこなしたうえで、この活動の役に立ちたいという気持ちで挙手する人がいるのは、社員一人一人が「赤ちゃんを知る授業」を、未来像を実現するための活動のひとつだと信じているからだと思います。

「赤ちゃんにやさしい未来像」を社会全体で共有していきたい

印刷されて壁に掲示されているピジョンの赤ちゃんにやさしい未来像の写真
取材を行ったピジョン本社の会議室内にも「赤ちゃんにやさしい未来像」が掲載されている

岩沢 存在意義が社員一人一人に浸透してきた証ですね。次のアクションについてはどのように考えられていますか。

板倉 形骸化しない工夫をし続けたいと思っています。社員により深く浸透し、自分ごととして考え行動できるようにするために、ピジョンの企業理念と、人事評価とのつながりをわかりやすくする準備をしているところです。

岩沢 未来像の策定によって、今後どのような社会的価値を生み出していきたいとお考えですか。

板倉 商品づくりだけではなく、「女性の社会進出」や「育児休暇の取得率の向上」といった社会課題に対してもお役に立てないかなと考えているところです。「ピジョンの取り組みによって、こんな社会が実現できた」と社会的に認められれば、社員のモチベーションもますます上がりますよね。

ピジョン一社としての取り組みではなく、賛同してくださる企業や一般の方々とともに、「赤ちゃんにやさしい社会を実現する」ためのムーブメントを起こしていけたらと思います。

岩沢 これまでの取り組みで得られたナレッジを、他の企業の方にも共有できる。新しいビジネスの裾野が広がりそうですね。

板倉 ピジョンのいるベビー用品業界は、出生数の減少によってピジョンが貢献できる対象人口が減っていることから、今後厳しくなると言われている業界です。しかし、人口問題はすべての産業や政治に関わる大きな問題ですよね。その人口問題の入口にいるのは、ピジョンなんです。

私たちが「少子化」「女性活躍」「労働人口の増加」といったさまざまなテーマにおけるソリューションを提案したり、事業形態を変えたりしていけば、他の産業や社会に変化をもたらせるはずです。最終的には、対象人口が減ったときに事業をどう転換していくか、そのパイオニアになれたらと思っています。

岩沢 赤ちゃんにやさしい未来像はピジョンだけが抱えるものではない、ということですね。

板倉 おっしゃる通り、私たちだけでなく社会全体に関わる未来だと考えています。そのために、社員や弊社に関わる外部のステークホルダーだけでなく、国内外のすべての人が自分事だと思ってもらえるような取り組みを続けていきたいですね。

インタビューに参加した3名が、お互いに笑みを浮かべながら話している様子を撮影した写真。

執筆:佐々木 ののか
聞き手・編集:乾 隼人
スチール撮影:飯本 貴子
企画・編集サポート:後閑 裕太朗(Loftwork.com編集部)

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