株式会社ユニソン PROJECT

パーパスは組織の北極星になり得るか?
第二創業期に向け、ユニソンが踏み出した変革の第一歩

愛知県名古屋市に拠点を置く、エクステリア資材の総合メーカー 株式会社ユニソン。創業から30年が経過した同社は、これまでのトップダウン型組織から、ボトムアップで価値が生まれる組織へと転換を図るために、パーパスを策定。社員一人ひとりが自社の経営理念を自分ごと化しながら、より一層チャレンジできるような文化を形成するべく、パーパスを生かした組織デザインをスタートしました。

自社の社会的な存在意義を示すパーパスの策定には、どのようなプロセスが必要なのでしょうか。また、パーパスを策定した後、従業員が本質的にその内容を理解し、それぞれの活動へと繋げるためのパーパス浸透に向けて、どのような取り組みが有効なのでしょうか?

同社のパーパス策定プロジェクトを牽引した総合企画部の浅岡さんと広報企画部の川島さんに、パーパス策定を決定した背景とプロセスを伺いました。聞き手は、ロフトワーク顧問でFabCafe Nagoya 代表取締役の矢橋友宏と、ロフトワーク プロデューサー岩村絵理。策定後の組織の変化や今後のパーパスの活用の方向性を、ディスカッションしました。

執筆:吉澤 瑠美
編集:岩崎 諒子/Loftwork.com編集部
写真:イナダマサタカ/松千代

話した人

右から、

矢橋 友宏 FabCafe Nagoya 代表取締役/ ロフトワーク顧問 >>Profile
浅岡 宏臣 株式会社ユニソン 取締役/総合企画部 部長  
川島 聡 株式会社ユニソン 広報企画部 次長
岩村 絵理 ロフトワーク プロデューサー >>Profile

経営理念への腹落ちが足りない。社員と経営を近づけるためのパーパス策定

FabCafe Nagoya 矢橋(以下、矢橋) ユニソンさんが、パーパスを策定した背景について聞いてもいいですか?

ユニソン 浅岡さん(以下、浅岡) 当社は毎年期初に、全社員に向けて経営方針発表会というものを開催しています。当初は、課長以上のマネージャー職に対して経営方針の理解と共感を促し、それに沿った活動を推進してもらうための会でした。でも、時代の変化が早くなり、お客さまから求められることも多様化し、変化していくスピードも早くなっていく中で、もっともその変化を肌身で感じられるのは、やはり現場です。経営と現場の距離を近づけ、共通言語をつくるためにも、全ての社員に経営方針発表会に参加してもらうことになりました。

しかし、経営方針発表会に参加している社員の中には「なぜ参加しないといけないんだろう」という疑問を持つ人たちがきっと少なからずいたと思います。会社の理念やビジョンを理解してもらったほうがより働きやすいだろうという目論見でしたが、「理念を押し付けられている」ような感覚を持った人もいたかもしれません。

ただ、今ユニソンが利益をあげられているということは、ちゃんとお客さまに私たちの価値を認めていただけている、と言い替えることもできます。社員にも自分たちがやっていることの価値を理解してもらった上で、時代変化に合わせて自分たちの業務を変革させていく。そのためには、改めて経営理念を、経営者から与えられたものではなく、私たちみんなのものとして言語化する必要があると考えたのがきっかけです。

株式会社ユニソン 取締役/総合企画部 部長 浅岡 宏臣さん

矢橋 日頃の業務の中でも、パーパスの必要性を実感することはありますか?

浅岡 ユニソンの事業には、ガーデンエクステリア事業、ランドスケープ事業、温熱環境デザイン事業という3つの軸がありますが、なぜまちづくりをやっているのか、なぜ温熱環境事業をやっているのか、実はよく理解できていないという社員も存在します。それは、彼らのなかで経営理念が腹落ちしていないということでもあるのではないかと。例えば、新しい事業が立ち上がった時に、そのことに戸惑う社員に対して「経営としての軸は変わっていない」ということを理解してもらう必要があります。

ユニソン 川島さん(以下、川島) どこかで「会社がやっていることだから」と、一線を引いてしまっているのかもしれません。社員のみなさんはとても真面目に業務にあたってくれているのですが、一方で、会社から言われたから業務をやっていると考えている側面もあり、社員全員が仕事を自分ごととして捉えているわけではないのだろうなと。

こうした状況から、パーパスを策定することで社員が経営理念を理解し、自分のこととして考えるきっかけとなるんじゃないかと思いました。浅岡さんは総合企画部として社内の体制づくり、私は広報企画部として社外へのブランディングの観点から、共同でやっていきましょうとなりました。

ロフトワーク岩村(以下、岩村) 組織の内側からと外側、両面からやりたいこととタイミングが合致したんですね。

トップダウンではなく、現場から新しい価値が生まれる組織を目指す

矢橋 パーパス策定に期待したのはどのような点だったのでしょうか?

浅岡 多様性やデジタル化という大きな社会変化が起こっている中で、個々人が存在意義という物差しを持っていないと、瞬間的な判断やそれを自分ごとに落とし込んでいくことが難しくなってきています。経営理念そのものは普遍的で抽象的なものなので、それと今の時代をすり合わせていくツールがないと機能させることが難しい。個人の存在意義と経営理念、そして社会。3者の間をつなぐのがパーパスなんじゃないか、と考えたわけです。

矢橋 たしかに、経営者側の視点からそういったお話をよく聞きますが、現場の視点からはどうでしょうか? 変化の時代という点では、社員個人レベルで存在意義への自覚や判断する力を求められる場面が増えています。ただ一方で、従来のように、上長から「こうやってください」と直接指示を受けたほうが効率がいいんじゃないか、という見方もあります。

FabCafe Nagoya 代表取締役/ ロフトワーク顧問 矢橋 知宏

浅岡 事業が右肩上がりの時はトップダウンによる判断でよかったと思いますが、当社は創業から30年が経ち、事業が成熟期に入っています。今後、新しい事業を行うときは、当社が提供できる価値をもう少し拡張していかなければなりません。

社会のちょっとした変化を現場からキャッチアップすることで、「ユニソンはこういうことをやってきました。でも、私たちの価値をもう少し拡張して考えると、こんなこともできますよ」と経営だけでなく会社全体で考えられる組織にしたい。現在のわたしたちのフェーズでこそ、パーパスは力を発揮すると思います。

岩村 創業時は経営者の想いに牽引されて組織も進んでいきますが、30年経つと、経営者の想いだけでは同じように進まないですよね。そこにパーパスが機能していく。

川島 当社の社風として、チャレンジを積極的に受け入れる土壌があります。ただ、社員からの企画提案のような機会で、経営が求めていることと現場が目指すものとの間にギャップが見られるようなシーンもありました。そこでパーパスがあれば、社員も経営陣も、同じ方向を向いて議論することができるんじゃないかと考えたんです。パーパスは足かせや制約条件ではなく、「同じ方向に向かうものなら、その範疇で自由に創造できる」というフィールドなんです。「パーパスとずれていなければ会社との合意形成は取れているはず」と捉えれば、今まで以上にやりたいことを実現しやすくなっていくんじゃないか、という期待も込めています。

岩村 社員みんなの向かうべき方向性を揃えるために、パーパスが必要だった、というわけですね。

株式会社ユニソン 広報企画部 次長 川島 聡さん

第三者の視点から、今まで気づけなかった自社の価値を発見

矢橋 今回のパーパス策定プロジェクトはどれぐらいの社員を巻き込んで実施されたのでしょうか?

川島 直接意見をもらったのは約120名、全社員の約半数ですね。ロフトワークさんにも手伝ってもらいながら、経営陣や各部門のマネージャーへインタビューを行いました。加えて、若いメンバーにワークショップに参加してもらったのと、全社員を対象にアンケートを実施しました。

矢橋 社内プロジェクトだと「社内でできるものは社内で済ませよう」というケースも多いですが、ロフトワークに声をかけようと考えられたのはなぜですか?

浅岡 日本人って、自分が外からどう見られているかを気にするじゃないですか。そういった意味では、社内評価で発信するよりも外部からの評価のほうが説得力があるだろうと考えたんです。また、今回は取引先のお客さまにも取材しようということになったので、我々が直接ヒアリングするよりも率直な意見が引き出せるのではないかということで、第三者としてロフトワークさんに依頼しました。

矢橋 ご苦労とか、うまくいかないことは何かありましたか?

浅岡 当然と言えば当然ですが、組織には製造部門もいれば販売部門、間接部門もいるので、共通項を見つけるのが大変でした。インタビューで浮き上がってきた言葉自体は、社長が言い続けてきたことに影響されたものが多かった印象です。

川島 ロフトワークさんが介在することで得られた気づきは多かったと思います。たとえば、社員へのインタビューの中で「ユニソンは、顧客からの問い合わせ対応業務が多い」という話題が挙がりました。そうしたら、ロフトワークさんが「ユニソンさんは問題が発生するのを事前に防ぐ役割を担っているんですね。ユニソンさんがいなかったら、もっと大きな問題に発展していたかもしれない」と言ってくれました。そういう発想は、今まで社内から出たことがなかったので、第三者視点でこそ分かる自社の存在意義に気づけたのは良かったです。

また、パーパス案を役員会に上申した際、役員から「抽象度が高すぎて、どこの会社にも言えることなのではないか」と指摘されました。そこで、ロフトワークさんからすかさず「それでいいんです。唯一無二のものになってしまうと、パーパスに共感できる人たちの幅が狭くなってしまいます」と言ってもらい、たしかにその通りだなと役員会でも納得を得られました。

浅岡 最近は、社内だけで完結せず同業他社やOEMの企業と一緒に取り組む仕事が増えてきています。パートナーにも、パーパスを糸口に当社がどういう会社なのかを理解してもらった上でコラボレーションができると仕事の進み具合も格段にスムーズです。そういう意味でも、パーパスにおいて抽象度や普遍性は大事だと思いますね。

岩村 パートナー企業にとっても、パーパスを通じて「この会社には共感できる」と感じてもらえると、共創の可能性がどんどん広がっていくのではないでしょうか。私自身、お二人とお話ししていて楽しいなと思うのは、ロフトワークとユニソンさんとで近い感覚を共有できているからだと思います。

「コミュニケーション」を組織のコアスキルから文化へと昇華する

川島 中小企業では一般的に、会社案内やホームページは総務部が作り、製品カタログは営業部、といった兼任のケースが多い印象です。ユニソンのように、この会社規模で広報プロモーションを専門部署として設置しているのは珍しいと思います。

矢橋 ユニソンさんは、コミュニケーションがスキルセットの中核にある組織なのですね。製品の製造技術、販売技術はもちろんですが、経営も現場も管理職も、コミュニケーションというものに真摯に向き合う風土を感じます。

浅岡 社会とのコミュニケーションに関してはずっと意識してきたと思います。パーパスの策定以前から、当社は常々「社会にどう向き合うか」ということを軸にミッションを設定してきました。

川島 とはいえ、こうした今のカラーが組織文化というレベルで全社に浸透しているかというと、まだそこまでには至っていないかもしれません。今後、さらに30年先にも企業として存続していくためには大事な要素だと考えているからこそ、経営陣はパーパス策定を含めた文化形成にリソースを割いているのだと思います。

浅岡 この先30年の間に、私たちの暮らしや社会は大きく変わります。機械やAIによって私たちの業務の多くが代替され、残るのは私たちが生み出す価値のみ、という世界になるかもしれない。コミュニケーションを大切にする文化を組織全体に定着させるのはとても大事なことですよね。

次は組織の行動を変える。評価制度を見直し、自走スキーム確立へ

矢橋 次は、全社で見つけたパーパスを各セクションに浸透させるフェーズだとお聞きしています。

川島 会社のパーパスとステートメントが固まったので、各部門のステートメントに落とし込んだらどんな言葉になるのかを全4回のワークショップを通してディスカッションしました。来期はそのステートメントを具体的な行動へ移すフェーズに入っていこうと思っています。今までは認識を変えるフェーズでしたが、人の行動を変えるにはパワーが必要です。そのフェーズに入ったときにどこまで実行できるのか、現時点では未知数ですね。

浅岡 ユニソンという一つの組織の中にも、個人で見ればいろいろな人がいます。新しい取り組みに対して素直に賛同してくれる人もいるし、よくわからないと思う人もいれば、「また何か新しいこと始めるの?」と冗談めかす人も。その中で、どうすれば誰もが意味を持ちながらモチベーション高く働けるかということをずっと考えてきました。そのひとつの答えとして、4月からは新しい評価制度を導入する予定です。評価や賃金でフィードバックしながら、会社の中で正しいと思う行動がしやすく、そんな動きが広まっていくような仕組みを整えていきたいと考えています。

矢橋 新しい取り組みを推進するチームのメンバーが、その動きに前向きではない人たちとやり取りしていく中で、変革しようする空気そのものにブレーキが掛かることがあります。保守的な力というものはどの組織でも生まれるものですが、そういうときに「大丈夫、変えていこうよ」とみんなの背中を押していくのは、難しいけれど重要なことですよね。

浅岡 現状維持の力って、結構強いんです。人事を担当していると、やりたいことがあるのにブレイクスルーできず、離脱を考えているという声も耳に入ってきます。パーパスには、現状維持から脱却したいと考え、行動する人たちのエネルギーとして使ってほしいという思いもあります。一人ひとりが同じ軸を持ち、同じ方向を見ていることを確認できれば、壁を打開する糸口も見えるはずなので。

岩村 ロフトワークでも、パーパスの策定や浸透をお手伝いさせていただいてますが、こうしたプロジェクトでは特に「温故知新」を大事にしています。新しいものだけを推進するのではなく、先人へのリスペクトを持って、そのつながりを途絶えさせないことが大切ですよね。

矢橋 泥臭く続けていく必要がありますね。個人のエネルギーだけで回っていくのでは続きませんから、自走していくスキームが確立するといいなと思います。そこは今後の課題として、我々もぜひ一緒にアイデアを考えさせてもらえたら嬉しいです。

浅岡 ロフトワークさんには、私たちの気づかなかった価値を見出していただいてとても助かりました。外部からの視点、違った角度からの視点は大事だなと改めて感じました。またぜひお話をさせてください。

岩村 本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

ユニソンのパーパス策定プロジェクト

自社におけるパーパス(存在意義)とは何かを探り、既存の企業理念と合わせて確認することで、企業理念と社員と社会をつなぐことを目指した、ユニソンのパーパス探索プロジェクト。

現在の成熟した状態から、さらに未来への方向性として進んでいくために、各所からブレイクスルーとなるようなチャレンジが自発的に起こる状況へと組織を変革すること。現在の企業活動の延長線の上にさらなる機会領域が存在するイメージを描くべく、探索と整理を行いました。

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矢橋 友宏

Author矢橋 友宏(ロフトワーク顧問、株式会社FabCafe Nagoya 代表取締役)

岐阜県大垣市出身。1989年名古屋工業大学 電気情報工学科 電子工学専攻を卒業し、株式会社リクルート入社。名古屋と大阪で、通信事業の法人向け営業・企画を行う。1998年に東京に異動、リクルート初のポータルサイト「ISIZE」の立上げメンバーに加わる。その後、Webとメールを活用したコミュニケーションサービスの新規事業にジョイン。コミュニケーションプランニングや事業戦略の立案を担う。2006年にリクルートを退職し、創業6年目、人員数10数名のロフトワークに合流。マーケティング、プロデュース部門の立上げや、社内システム、人事、労務、経理などの経営環境の整備を行う。2020年にロフトワークと岐阜県のOKB総研との合弁で株式会社FabCafe Nagoyaを立上げ代表取締役に就任。東海エリアの様々な組織をデザインの力でアップデートする活動を始動している。

Profile
岩村 絵理

Author岩村 絵理(プロデューサー)

女子美術大学短期大学部卒。デザイナーとして空間設計やブランディング、商業プランニング、販促企画など空間のみならず様々なクリエイティブのディレクション業務に従事。また経営直結のグループデザインセンターの発足メンバーとして、nendo佐藤オオキの元コーポレイトブランディングや新規事業などデザイン経営に携わる。より社会へ向けたデザイン経営やアウトカムにこだわるプロジェクトに興味を持ちロフトワークへ。女性のキャリア形成や組織の多様性、またインクルーシブな社会に向けた二項対立を繋ぐ取り組みなどに興味あり。

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