創造性教育と社会、企業をつなぐ新事業のデザイン
「子どもの子どもまでプロジェクト」
子ども向け工作キットを手がける株式会社ピコトンは、教育施設による子どもの創造性を育む教育を支援するためのプロジェクト「子どもの子どもまでプロジェクト」を立ち上げました。クリエイターや企業、生活者などが協力しながら、社会全体で教育施設や児童福祉施設を支えるネットワークづくりを目指しています。
Outline
子どもの未来のために、長期展望から社会と事業を接続
「子どもの想像力と創造性を応援する」というビジョンのもと、多彩な工作キットを企画・製造・販売している、株式会社ピコトン。同社の工作キットは、大型商業施設や博物館などで開催されるイベントの集客ツールとして活用されたり、自動車販売店で子どもが待ち時間を過ごすために提供されるなど、幅広いシーンで利用されています。
しかし、手軽な価格帯で利用できる工作キットは顧客から支持されている一方で、キットを使うエンドユーザーからはピコトンのブランドが認知されにくい状況でした。また、同社は「子どもの創造性や想像力を育む」というビジョンを体現するために、より高品質なプロダクトを開発したいと考えていましたが、既存顧客のニーズとコスト感の中で実現することが難しい状況でした。
さまざまな課題を抱えていたピコトンは、ロフトワークが2021年に実施した、中小企業経営者に向けてデザイン経営実践を支援するプログラム「Dcraft デザイン経営リーダーズプログラム」に参加。7ヶ月間のプログラムを通じて、「ほめるをつくる」というパーパスを策定しました。
さらに、同社はプログラム終了後もロフトワークのメンバーとの対話を続けながら、自社のビジョンとパーパスを体現するための新しい事業を模索。「子どもの子どもまでプロジェクト」を立ち上げ、企業や個人が教育施設や児童福祉施設での創造性教育を支援するためのプラットフォームを構築しました。ロフトワークはプロジェクトの立ち上げに伴走し、サービスデザインとブランディング、Webサイト制作を支援しました。
プロジェクト概要
*肩書きは、プロジェクト実施当時
- プロジェクト名:子どもの子どもまでプロジェクト
- プロジェクト期間:2021年12月〜2022年9月
- クライアント:株式会社ピコトン/内木 広宣、田中 大、笠原 信城
体制:
- プロデュース:井上 龍貴(ロフトワーク)
- プロジェクトマネジメント/クリエイティブディレクション:東郷 りん(ロフトワーク)、北尾 一真(ロフトワーク)
- Webサイトデザイン:清水 ゆうか(nicotto lab)
- イラストレーション:佐藤 香苗
- プロダクトデザイン:倉本 仁、時岡 翔太郎(JIN KURAMOTO STUDIO)
- プロダクト制作:五十嵐 康三(五十嵐製紙)
- モデル:井上 栞子、井上 泰子(mazeru)
- スチール撮影:大塚 淑子、小川 真輝
- ワークショップコーディネート:山内 洋輔(VIVISTOP)
- ブランドコンセプト 監修:阿部 広太郎
Challenge
教育施設に、創造性や想像力を育む教育を届ける仕組みを実装
日本では、就学前教育にかける公的予算のGDP比率が2.4%*とOECD内でも水準が低く、就学前教育における私費負担割合も高いため、経済的格差が教育格差につながりやすいと言われています。また、保育園や学童といった多くの教育施設や児童福祉施設は限られた予算の中で運営されており、子どもたちの創造性を育む教育をサポートしづらい状況です。また、学童保育にかける国家予算は保育園に比べて約1/10であり、就学後においても最低限必要な備品プラスアルファで創造性を育む教育をサポートするのに十分な環境であるとは言えません。
こうした状況に課題を感じていたピコトンは、ロフトワークとともに、企業や個人が能動的に施設を支援するための新しい社会貢献のプラットフォームを構築。「子どもの子どもまでプロジェクト」として、支援者がWebサイトを通じて工作キットやおもちゃを購入することで、支援を必要とする施設にも同じ製品が届く仕組みを設計、実装しました。
*参照元:OECD (2023), Public spending on education (indicator). doi: 10.1787/f99b45d0-en (Accessed on 21 March 2023)
プラットフォームと支援の仕組み
支援を必要とする施設と支援者とのネットワークづくりに向けて
「子どもの子どもまでプロジェクト」は、2022年 キッズデザイン賞協議会長賞を受賞。これをきっかけに、プラットフォームに参加登録する教育施設・児童福祉施設が徐々に増えています。
同社はこのプラットフォームを通じて、子どものために支援したい・活動したい人や企業と施設とをつなぐハブとしての役割を果たしながら、支援の輪を広げていくための取り組みを続けていきます。
子どもたちとのプロダクト開発
また、学童保育施設と協力して、学童に通う子どもたちとの商品開発のプログラムも展開。ワークショップを通じてアイデアを出し、一部のアイデアはピコトンの社員と一緒にブラッシュアップを重ねています。
ここで制作された作品はサイト内「子どものお店」での販売に向けて、テスト販売として「ゲームマーケット」に出店。実際に作品を購入してもらいました。子どもたちにものづくりと、作ったものをだれかに伝えてフィードバックをもらう機会を提供することで、つくるよろこびや楽しさ、自身の創造性に対する自信や自負を育むことを目指しています。
Output
メインビジュアル&ロゴ
メインビジュアルとロゴの制作は、イラストレーター佐藤香苗さんに依頼し、かわいらしくも幼くなりすぎないビジュアルを目指しました。
フワフワ柔らかい「感性の形」を思い浮かべました。
いろんな気持ちと純粋な好奇心を集めて、それぞれが自由な形を創り出し、楽しく触れ合うイメージ。
幸せな空間がここにあるのだなと思います。佐藤 佳苗/イラストレーター
Webサイト
プロジェクトにおいて、支援者と施設をつなぐハブとなるWebサイト。
オリジナルプロダクト「自然の音をあつめる楽器 オトノミ」
今回のプロジェクトでは新しいチャレンジとして、子どもの感性を高めるためのフラッグシッププロダクトを、JIN KURAMOTO STUDIOと開発。自然から木の実などを集めてきて、中に入れて振ることで色んな音を楽しむことができる、音の器「オトノミ」を制作しました。素材は、福井県越前市の五十嵐製紙が製造する、地元の廃棄野菜をアップサイクルした「Food Paper」を使用しています。「オトノミ」は公式サイトから販売しており、商品が購入されたら、プロジェクトに参加登録している施設にも1つが届くようになっています。
コンセプト
身の回りの自然には、たくさんの驚きが隠されています。
「おとのみ」は自然の不思議に気づくきっかけをつくる楽器です。
草花や木の実に、触れて、入れて、鳴らす。
さあ、草木が奏でる自然の音を、親子で集めに出かけましょう。越前和紙の職人によって、100%土に還る、
野菜や果物から作られた和紙「Food Paper」で丁寧に作られています。
イメージビデオ
Voice
子供たちのために、持続的な支援の仕組みをつくる
株式会社ピコトン 代表取締役 内木広宣さん
ピコトンは、子どもの想像力をテーマに17年で5,300回程のイベント提供を行い、約100万人の親子が参加した「工作キット」や「キッズワークショップ」を企画提供する子ども専門企業です。ミュージアムの常設コンテンツをつくることもありますが、大型ショッピングセンター等で工作イベントを行うことがメインです。
ありがたいことに、イベントを見た児童館やボランティア活動をしている方から相談を受けることが何度もありました。しかし、子ども達に届けたくても予算だけの問題で提供できない状態が何年も続きました。
無料や割引提供を行っても、持続性をもたせられない。「継続する仕組みをつくれないか?」という考えから生まれたのが当プロジェクトです。世代を超えて続くようにと願いを込めて「子どもの子どもまでプロジェクト」と名付けました。
ロフトワーク東郷さん、北尾さん、井上さんにプロジェクト参画いただき丁寧な打合せを重ねたという自社だけではつくれなかった取り組みが、始まったばかりにもかかわらず、キッズデザイン賞「奨励賞 キッズデザイン協議会会長賞」という評価に繋がったと感じています。ぜひ一度、Webサイトをご覧いただければ幸いです。
Member
北尾 一真
株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター
東郷 りん
株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター
井上 龍貴
株式会社ロフトワーク
プロデューサー
メンバーズボイス
“このプロジェクトの概要欄を見て、改めて、多くのパートナーにご一緒していただいて実現したプロジェクトだったなと振り返っています。ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。ロフトワークとして、サービスの開発からWebサイト制作、プロダクト開発まで一貫して担うことができ、私としてもやりたいことを詰め込ませてもらって、大変学びの多いプロジェクトでした。
本当のスタートはこれから。「子どもの子どもまでプロジェクト」が起点となり、一人でも多くの子どもに、何かを思い描くワクワクやつくる楽しさ、世界の不思議さを共有し、感性や想像力、創造性に対する自信を育むことにつなげられるよう、今後も活動をサポートしていければと考えています。”
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 東郷 りん
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