株式会社ASNOVA PROJECT

足場レンタル業から、価値提案型企業へ転換
6年間・15のプロジェクトであゆんだ企業変革の道のり

Outline

事業の多角化を目指し、企業変革をし続けた6年間

社会が複雑化し予測不可能な時代、企業が持続的に成長しながら競争力を高めていくために、組織の変革が求められています。一方で、事業や組織を変容させる取り組みは、一筋縄ではいかないのもまた事実。事業開発や人材の育成、ブランディングなど、幅広い施策を横断的に推進していく必要があります。

愛知県名古屋市に本社を構える株式会社ASNOVA(以下、ASNOVA)は、仮設足場のレンタルを柱に事業を展開する企業です。同社は2018年に“事業の多角化”を目指しロフトワークをパートナーに迎え、建築業界が抱える人材不足の課題の解消や、より柔軟な事業創出に向けた組織変革を目指し、多様なプロジェクトに取り組んできました。

これまで、コーポレートブランディングに向けたコーポレートサイト基盤事業である足場レンタルサービスのサイトのリニューアル、業界外との接点拡大に向けたメディア『POP-UP SOCIETY』の立ち上げ、サービスやプロダクトの検討といった新規事業開発、人材育成プログラムの実施など、約6年間でロフトワークと実施したプロジェクトは15件にも及びます。

2022年に名証ネクスト市場へ上場し、2023年には東証グロース市場へ上場するなど、約6年間でASNOVAを取り巻く環境は大きく変化しています。その前後でロフトワークは、事業フェーズごとのさまざまな課題解決に向けて複合的にプロジェクトをデザインし、伴走を続けてきました。結果、世の中からの注目度が徐々に高まり、採用エントリー数が10倍以上に拡大するなど、変化が生まれ始めてきています。

今回はこれまでの印象的な取り組みを振り返りながら、長期にわたる伴走と、数々の活動を通じて、どのような企業変革を起こしてきたのか、ASNOVA 取締役 管理本部 本部長の加藤大介さん、ASNOVA 経営企画室 室長の小野真さん、ロフトワーク プロデューサー 小島和人で軌跡を辿ります。

ASNOVA×ロフトワーク 6年間の取り組み

Story

話した人

小野 真

小野 真

株式会社ASNOVA
経営企画室 室長

加藤 大介

加藤 大介

株式会社ASNOVA
取締役 管理本部長

小島 和人(ハモ)

株式会社ロフトワーク
プロデューサー / FabCafe Osaka 準備室

Profile

真の課題は“無関心の壁”。『POP UP SOCIETY』が立ち上がるまで

ロフトワーク 小島和人(以下、小島) ご一緒させていただいてからもう6年ですか。最初にロフトワークに相談された当時どのような課題があったか、という話から改めてお話いただけますか?

ASNOVA 小野真さん(以下、小野さん) ずいぶん前になりますね。当時「足場レンタル」だけを事業の軸とするのではなく、主軸に置きつつも“事業の多角化”を目指し、さまざまな領域へ展開したいと考えていました。しかし、当時の私は新規事業を担当する「事業企画室(現在は「経営企画室」に統合)」へ異動になったばかり。「足場業界の課題を解決する」ことをテーマに事業を構想し、リサーチしていたものの、内容に確からしさを感じられず行き詰まっていました。社内で考えるには限界があったため、ロフトワークにコンタクトを取りました。当初、ロフトワークは私たちが想定していた課題に対しても疑問を持ち「ASNOVAが本当に取り組むべき課題は何か?」と根本から問い直していただけて、信頼できると感じました。

小島 事業の多角化を目指す上で、人材不足にフォーカスしてプロジェクトを進めていこうとロフトワークから提案させていただきました。しかし、進めるにあたって業界の課題を解決するためのリサーチが不足していると感じましたよね。

小野さん はい。徹底的なリサーチの結果、見えてきたのが「無関心の壁」でした。私たちはてっきり、足場業界が「3K」といわれるように「キツい・汚い・危険」という印象があるのだろうと考えていました。しかし、外から見る人はそもそも足場業界に全く興味がなかった。興味がないからイメージすらなく、業界の課題を解決するにはまず無関心の壁を壊すことが重要だと自覚しました。

この結果を元に、メディア『POP UP SOCIETY』の立ち上げへと繋がっています。メディアの立ち上げはロフトワークに要望していたものではなく、リサーチした結果、ロフトワークが提案してくださったものでしたね。

Webマガジン『POP UP SOCIETY』

Webマガジン『POP UP SOCIETY』:2020年3月〜2022年3月まで運営。仮設(カセツ)という切り口で、国内外のユニークで実験的な取り組みを、人物・企業へのインタビュー、体験レポートなどを通じて紹介。現在はASNOVAのオウンドメディア『カケルバ』内にて発信中。

小島 『POP UP SOCIETY』を立ち上げるにあたって最も苦労した点はどこでしたか?

小野さん 事業の多角化を目指し、新規事業の構想からスタートしていたので、『POP UP SOCIETY』を立ち上げることで「新規事業にどうつながるのか」を社内で提示するのが難しかったです。

小島 新規事業担当者の悩むべきポイントですよね。新規事業は成果がすぐに出にくいため、担当者は不安を感じやすいです。また、担当者の熱量や偏愛によっても新規事業の命運は大きく分かれていくとも言えます。そこでロフトワークは小野さんの不安を受け止めて、熱量が高まるようにアイデアを出していきました。

『POP UP SOCIETY』に関しては、リサーチ後のアウトプット(出口)として「メディアサイト」だけで提案するのではなく、あらかじめ新事業の100個のアイデアを出していて、その中のひとつであることを示しました。他のアイデアを出しながら挑戦することで社内の疑問をクリアにしていきましたよね。また、メディアサイトの運用によってどのような効果が出るのかロードマップを作成し、コーポレートサイトやサービスサイトに与える影響を想定した資料もつくっていました。

2019年当時ロフトワークが示したロードマップ

小野さん 特に、社内でどう伝えていくかという部分は、何度もやりとりさせていただきました。小島さんからはスパーリング相手のように、出たアイデアに対して意見を次々に打ち返してもらっていましたね。

小野さん 『POP UP SOCIETY』を立ち上げるプロセスでは、小島さんから「カセツ」というキーワードを出していただきました。これはゆくゆく当社のパーパスに繋がる大きなターニングポイントにもなりましたね。『POP UP SOCIETY』の立ち上げによって、事業の多角化への一歩になっただけではなく、当社のカルチャーを築いていく礎にもなったと感じています。

小島 上場したタイミングである2022年4月より、公式オウンドメディア『カケルバ』も開設しましたよね。

小野さん はい、『POP UP SOCIETY』は今カケルバ』に形を変えています。これまでの取り組みを礎に、これから会社をさらに大きくしていく中で誕生したものです。無関心の壁を無くしたいという思いを抱きつつ、会社のフェーズが変わりつつある当時、ASNOVAを応援してくれるステークホルダーに当社の今と未来をより届けていきたい。『カケルバ』はそんな思いから生まれました。『カケルバ』はメディア開設から累計75本*の記事を出していますが、自社でコンテンツ制作を担い、運営も行っています。

*2022年4月公開時から2024年9月末時点の実績です。

オウンドメディア『カケルバ』

ASNOVAの思想や新たな取り組みに関するプロセスを発信するオウンドメディア。ASNOVAがコンテンツ制作、メディア運営を自社で全て担っている

プロジェクトから生まれた“カセツ”というキーワード。 やがてパーパスにもなった言葉の影響力

小島 先ほど小野さんがおっしゃった「カセツ」というキーワードですが、現在はASNOVAのパーパスになっていますね。

「カセツ」は当初、あくまでプロジェクトにおける活動の軸でした。事業の多角化を考え、無関心の壁を突破するために、取り組みを置き換えられる言葉を探していたときに「仮に設計する・仮に企画する=カセツ(仮設・仮説)っていいのでは?」と浮かんだのを覚えています。当時はパーパスに繋がるなんて誰も思っていませんでしたよね。

小野さん 本当にそうですね。ロフトワークと何度もディスカッションし、さまざまなプロジェクトに取り組むなかで「仮説」と「仮設」を繰り返したことで、社内でも「カセツ」のカルチャーが徐々に醸成されていき、パーパスへ繋がっていったのです。足場レンタルだけではなく、それ以外の取り組みを拡大させていきたいという当社の思いにぴったりな言葉でした。

新規事業の検討においては、プロダクト開発にも挑戦。3組のクリエイターとともに、3つの商品プロトタイプを制作しました。
「カセツ(仮説・仮設)」というキワードのもと実施したパルクールイベント。名古屋市の中心地、久屋大通公園に建設足場を用い巨大アスレチックを建設し、パフォーマンスと体験会を実施。

小島 皆さんが試行錯誤をしながらさまざまなチャレンジをしてくださったから、「カセツ」が社内に浸透していったんですよね。「カセツ」の言葉が持つパワーをどのように感じていますか?

小野さん 会社の意思決定の軸が言語化できたので、すごく大きいと感じています。今後新しいものを生み出すときに、どんな新規事業開発をしていきたいのか、どのような人材がほしいのかなどの指針にもなるため、強いパーパスができたことで会社の思いも伝わりやすくなりました。加藤さんはいかがですか?

ASNOVA 加藤大介さん(以下、加藤さん) 取引先や求人への応募者に対しても、会社のスタンスを説明しやすくなりました。相手もどのような会社なのかがイメージしやすくなったのではないかと感じます。

ASNOVAのパーパス

2022年2月に策定されたASNOVAのパーパス:「カセツ」の力で、社会に明日の場を創りだす。(ASNOVA Purpose Bookより)

足場とは「仮設」の機材のこと。「仮説」と「仮設」を繰り返すことで、目指すものへと一歩ずつ近づく思いが込められている

進む、事業の多角化。人材育成プログラム「AMP!」が貢献したこと

小島 人材育成の観点からはどのような取り組みや変化がありましたか?

加藤さん ロフトワークに当初相談したタイミングで、当社の中で事業をつくったことがあるのは代表の上田だけ。そのため、まずは新規事業を担える人材を育成するべく、文化や社風づくりが必要だと考えました。最初は上田と総務担当者と私の3人で、今後の人事制度について毎週話をしたり、人事に関する本を読んで勉強したりしていましたね。しかし、具体的なプロジェクトを徐々に進めるほうがいいのではないか……と思い至り、小島さんに相談して、社内教育プログラム「AMP!」(アンプ)が生まれました。

加藤さん AMP!では、テーマを提供する地域の事業者、テーマを形にする外部クリエイターのサポートを受けながらASNOVA社員がプロジェクトを進め、新しいプロダクトをつくっていきます。AMP!を通して、“自社が変化していく”という会社の思い、パーパスを社員に浸透させられたと感じています。また、『カケルバ』を通して、事業創出を担う人材の育成を目指した人事制度「ASNOVA WAY」の取り組みも発信できるようになり、ASNOVAの思いに共感し、興味を持ってくださる人が増えました。

小島 新規事業開発の観点からはどのような取り組みや変化がありましたか?

小野さん 2021年には、イベント業者や建設デザイナー、個人の方と足場施工業者をマッチングさせる「マッチングサービス」の構想を検討しました。また、2023年にはパートナー企業からASNOVAの足場材をレンタルできる新規事業「ASNOVA STATION」がスタートしています。カセツのキーワードが生まれ、さまざまなプロジェクトに取り組む中でこうした新規事業が生まれたのも、ロフトワークがパートナーとして伴走してくれたからこそ。当社の可能性が大きく広がり続けていますよ。

人材育成プログラム「AMP!」

2021年から実施された「AMP!」(ASNOVA – Metamorphose – Program – !)。Metamorphose(メタモルフォーゼ)は「変容」を意味する言葉。これからは受動的な「型」のインプットではなく、「自ら学ぶ意欲」と「目標に向かって成長する」ことが重要。そうした背景からASNOVAの事業の創出を担う人材の育成を目指した人事制度「ASNOVA WAY」が誕生した。AMP!は、その人事制度の教育コンテンツのひとつ

6年で社員のマインドも大きく変化。最適なパートナーとして走り続ける

小島 改めて、ロフトワークとの6年間を振り返って、どのような変化を感じていますか?

小野さん これまで事業の多角化を目指して走り続け、その根底には「企業価値を高める」という思いがありました。「企業価値を高めることは、結局『人の価値を高める』ことに繋がる」と考えています。この「人の価値を高める」ためには、会社の成長だけではなく、個人の成長や会社に対する期待値などの熱量も必要だということをプロジェクトを通して実感しました。

また、私は熱量を生み出せると人材の能力や組織力が養われ、人としての価値が高まるのだと考えていましたが、そもそも熱量があるだけでも会社の魅力になり、社員の価値を高めていくのだと、この6年間の取り組みから感じています。ロフトワークと一緒に活動したことで、さまざまなプロジェクトが生まれ、社員のマインドセットもポジティブに変化していますね。

加藤さん 会社を変えたいのならば、上司自身が変わっていくことを姿として見せながら、部下に言葉として伝えないといけないと感じるようになりました。私はまだ入社して4年ですがロフトワークと一緒に活動したことで、“変化”に慣れて変わってきたと思っています。

小島 仮説を立て検証を繰り返したからこそ、変化も多かったかもしれませんね。あっというまの6年間でしたが、ASNOVAの可能性を広げ、変革を起こせたことはとても嬉しく思っています。

小野さん もうひとつ思ったのは、ロフトワークのみなさんは、軸を大切にしつつも、その軸さえも疑って壊して新しくつくっていくイメージがある(笑)。だからこそ、さまざまなプロジェクトを通じて私は変化を恐れなくなりましたね。たとえ相談内容があいまいな状態でも、ゴールに辿り着くプロセスを一緒に考えてくれる、よきパートナーだと思っています。

小島 ありがとうございます! あいまいな状態でも相談していただけたことで、私たちの提案に柔軟性が生まれたことは間違いありません。だからこそ、これまで多くの面白いプロジェクトが生まれたのだと思います。

小野さん これからも守る部分を大切にしつつ、変革を続けて、足場業界の課題解決に向けてともに取り組んでいきたいです。

執筆:田中 青紗
編集:野村 英之
企画・編集:横山 暁子(loftwork.com編集部)

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