森ビル株式会社 PROJECT

子どもの創造性とパーパスを接続し、社会への価値提供を目指す
「ヒルズ街育プロジェクト」ビジョン策定・プログラム設計

Outline

子どもたちは、未来の都市づくりにおける重要なステークホルダー

「都市を創り、都市を育む」を掲げ、50年、100年先の長期的視野に立った都市のグランドデザインを描きながら、都市づくり事業を推進している森ビル株式会社。同社は一貫した姿勢として、街づくりには地域コミュニティの基盤が不可欠であると考えており、創業以来、常に地域の人々と対話し、信頼関係を深めながら街づくりを進めてきました。

森ビルは2007年より、次世代を担う子どもたちに街の魅力や街づくりのノウハウを伝えながら、子どもたちと共に未来の街について考える親子向け体験活動プログラム「ヒルズ街育プロジェクト」を続けています。森ビルが街づくりにおいて大切にしている「安全・安心」「環境・みどり」「文化・芸術」をテーマに、2007年以降の15年間で、延べ約550回開催し、約16,000名の親子が参加してきました。

2022年、取り組みをさらに発展させるために、新たにプロジェクトビジョンを策定。子どもたちを「未来の都市づくりにおける重要なステークホルダー」として定義することで、ヒルズ街育プロジェクトを自社事業と地続きの活動のひとつとして位置付け、組織横断型の探求学習プログラム「みらまちキャンプ」として再設計しました。ロフトワークは、この一連の取り組みをプロジェクトパートナーとして伴走し、その活動価値を高めるための支援を行いました。

執筆:岩崎諒子/loftwork.com編集部
編集:後閑 裕太朗/loftwork.com編集部
カバーアート:obak

Output

プロジェクトムービー

プログラムのリニューアルによって、これまで別々のワークショップとして行われていた「安全・安心」「環境・緑」「文化・芸術」を伝える取り組みを一連の体験として繋ぎながら、探究型学習を実践できる5日間のプログラムとして再設計されたヒルズ街育プロジェクト。子どもたちがアクティブに学ぶことを促し、等身大の目線から森ビルの都市づくりに対する発見やフィードバックを表現できるようになりました。

プログラムには、東京都内を中心に約20組の親子が参加。さらに、プログラムでファシリテーションを行った森ビル社員自身も、子どもたちに伴走しながら、また子どもたちの視点から学びながら、一人ひとりと関係を深められるようになりました。

キービジュアル

イラストレーション: obak / 写真提供:森ビル株式会社

展覧会

4日間のワークショップから得た学びや発見、インスピレーションをもとに、子どもたちが制作した「未来の理想の街」を、森タワーのエントランスにて展示しました。

ツール・グッズ

参加者がヒルズ街育プロジェクトの世界観を感じられるよう、タオルやネームカードといったグッズや、スタッフユニフォーム用のTシャツをオリジナルで制作しました。

Process

プロジェクトビジョン策定からプログラムの実施、展示まで、およそ6ヶ月間でプロジェクトを実施しました。

Approach

森ビル街育プロジェクトのビジョン策定とプログラムリニューアルにおいて、各フェーズで実施した具体的な施策のポイントをご紹介します。

プロジェクトビジョン策定フェーズのポイント:
ステークホルダーとの関係から「ありたい未来」を発想し、ロードマップとビジョンを策定

森ビル広報室メンバーとロフトワークのプロジェクトメンバーは、まずはじめにヒルズ街育プロジェクトのステークホルダーマップを作成。その上で、「これからの活動を通じて、ステークホルダーとの関わりがどうなっていくと良いのか」「その結果、どんな良い変化が起こるのか」を書き足し、ヒルズ街育プロジェクトが将来的に目指すべき変化を言語化しました。

これらの目指すべき変化を、それぞれ短期的・中期的・長期的変化として分類・整理しながら「目指すべきゴール」を書き出し、プロジェクトのロードマップを作成。最終的に、ヒルズ街育プロジェクトのビジョンを都市において、住民と子どもとの未来想像(創造)/共創が当たり前になっていくこと。そうやって生まれた未来の街のアイデアをコミュニティとして更新・成熟し続けていくこと」に策定しました。

プログラム再設計フェーズのポイント1:
ロードマップから逆算しながら、今期実施するプログラムのゴールを策定

プロジェクトチームは策定したロードマップとビジョンに基づき、初年度の取り組みを「探究型サマープログラム開発と展示の企画」と位置付け、以下の2点を実施要件として定めました。

  1. 子どもと森ビル社員が共に未来の街のアイデアを形に落とし込むプログラムの実施
  2. 生まれたアイデアについて継続的なコミュニケーションが生まれる工夫と環境の整備

また、策定したビジョンとロードマップからブレることなく、プログラムの再設計を進められるよう、初年度の取り組みのゴールを以下の3点に定めました。

  • 探究型のプログラムのコアとなるようなプログラムの雛形が生まれている
  • 探究型のプログラムを通じて生まれたアイデアが展示され、地域住民にも街育プロジェクトの意義と合わせて、そのアイデアに触れる機会が創出できている
  • プログラム期間中のグループ活動を通じて、プログラム終了後もコミュニケーションを取りたいと思える関係性が各グループ内で生まれている

プログラム再設計フェーズのポイント2:
既存プログラムに新しいアプローチを組み合わせ、探求学習プロセスを構築

これまで、ヒルズ街育プロジェクトでは、街づくりで大切にしている3つのテーマ「安全・安心」「文化・芸術」「環境・緑」を体験できる学習プログラムを、それぞれ別々のワークショップとして実施してきました。今回、設定したゴールに基づいて探究学習のフローを取り入れるために、別々だったワークショップを一連の体験として繋ぎ直しながら、新しい学習プロセスを加えた5日間のプログラムとして全体を再設計しました。

リニューアル後のプログラムでは、まず、1日目に「オリエンテーション+六本木探索ワークショップ」として、参加者と運営に参画する森ビル広報室のメンバーとボランティア社員、ロフトワークのメンバーが仲良くなるためのアイスブレイクを実施。また、子どもたちの「より良い未来の街」の発想の起点を発見するために六本木ヒルズ内を探索し、気づきを写真で記録するワークショップも行いました。

2〜4日目は、これまで街育プロジェクトで行ってきた「安全・安心」「文化・芸術」「環境・緑」の学びを全て体験できるよう、連続ワークショップを実施。子どもたちに森ビルの街づくりの特色とこだわりを網羅的に伝えました。

最終日は、クロージングとしてこれまでの4回のワークショップから得た発見やインスピレーションを「より良い未来の街」という形で制作・発表する「未来ソウゾウワークショップ」と修了式を行いました。

さらに、子どもたちが制作した「より良い未来の街」は、森タワーエントランスにて展示。学びを通じたアウトプットを、展覧会という形で六本木ヒルズを訪れる社員や街の人々に見てもらい、フィードバックを得られるサイクルを設計しました。

これら一連のリニューアルを通じて、子どもたちが街づくりを立体的に理解したうえで、自らが理想とする未来の街づくりを表現できる、探求学習のコアプログラムを実装しました

展示の様子

プログラム準備フェーズのポイント1:
プロジェクトに関わる全員に「街づくり」の自分ごと化を促す「キークエスチョン」の設定

今回のプロジェクトでは、ビジョンとロードマップを策定したほかに、プロジェクトに関わる全員が新しい価値の探究・創造に取り組むための「キークエスチョン」を設定しました。

森ビル街育プロジェクトのキークエスチョン

“いま都市に住んでいる人々が、都市を自分の故郷と思える
体験や活動とは、なんだろうか?”

 

仮説:都市に住む人が、街の利便性/機能面を享受するだけではなく、自身の故郷として街の豊かさを語る語り部になれば、東京の磁力は上がっていくのではないか。

キークエスチョンを置くことで、プロジェクト終了時に「その問いにいかに答えられたか?」という視点から、活動がいかにプロジェクトビジョンを体現できていたか、ネクストステップとしてどんな挑戦ができるのかといった、虫の目・鳥の目の視点からの多面的な検討が可能となり、事業の広がりを生むきっかけとなります。

ワークショップ運営に参加する森ビルのボランティア社員やクリエイターといった、多様な関係者に対して、プレーヤーをプロジェクトに巻き込むケースでは、関係者にキークエスチョンを共有することで一人ひとりにプロジェクトビジョンの理解を促し、自立的な判断やアクションを促す飛び石としての機能を果たします。

プロジェクト終了後、プロジェクトメンバー全員でビジョンとロードマップ、キークエスチョンを元にした振り返りを実施。プログラムを企画・運営を担当している森ビル広報室のみなさんからは、「今後1年間の、参加者とのかかわりをデザインすると良さそう」「長期的に街について考えるプログラムをやっても良さそう」「将来、森ビル海外拠点との連携も可能ではないか」など、未来への挑戦につながるアイデアが生まれました。

プログラム準備フェーズのポイント2:
子どもたちと向き合い、学びあう準備体操としての社員研修

ボランティアとしてプログラムに参加する森ビル社員が、子どもたちの創造性を引き出す役割を担えるように、今回、ボランティア社員向けの事前研修としてワークショップを実施しました。

ワークでは、デザインのアプローチから観察と価値のリフレーミングを実践。例えば、「おにぎり」や「コップ」など、身の回りにあるものの当たり前に気づいた上で、その当たり前を疑ってみることで新しい視点やアイデアを発想しました。このワークショップを通じて社員一人ひとりに柔軟な姿勢や考え方を共有し、社員自身が子どもたちの活動から新しい気づきや視点を得るための準備体操を行いました。

ボランティア社員向けワークショップの様子
プログラムを主催する森ビル 広報室・ボランティア社員・ロフトワークのプロジェクトメンバーがワンチームとして気持ちを高める工夫として、お揃いの「みらまちTシャツ」を制作しました。

プロジェクト概要

  • プロジェクト名:「ヒルズ街育プロジェクト」ビジョン策定とプログラムリニューアル
  • 実施期間:2022年5月〜10月
  • 実施事項:
    • プロジェクトビジョンとロードマップ策定
    • プログラム全体設計と実施支援
    • ツール制作
    • 展示制作
    • 記録映像制作
  • 体制:
    • プロデュース:新澤 梨緒、橋本 明音
    • プロジェクトマネジメント:林 剛弘
    • クリエイティブディレクション:東郷 りん、近藤 理恵
    • キービジュアル/イラストレーション制作:obak
    • 映像制作:立会 達也

Voice

長期的ビジョンをもとに子どもたちに寄り添い続け、
街との自発的な関わりと成長を後押しする

森ビル株式会社 広報室 田部 麗さん

—— プロジェクトビジョンを策定したことで、ヒルズ街育プロジェクトはどのように変わりましたか? 

プロジェクトのスタート段階で、短期、中期、長期、のビジョンを言語化したことで、新規プログラム「みらまちキャンプ」の内容詳細を詰めていく際の判断の軸となりました。プロジェクトメンバー間での共通言語ができ、スムーズな議論につながりました。

みらまちキャンプ開催がゴールではなく、長期ビジョンを見据えての通過点でしかなく、策定したプロジェクトビジョンが、今後の取り組みのさらなる拡大への後押しにもなっています。

 

—— 今回のプロジェクトでは、ヒルズ街育プロジェクトを探求学習プログラムとして再設計しました。プログラムを更新したことで、子どもたちの反応はどのように変わりましたか? また、子どもたちと森ビルのみなさまとの関係はどのように変わりましたか?

街育では、創造力、多面的・総合的な思考力、協調性など、子どもたちの社会を生き抜く上で必要な能力の開発・強化を強く意識しています。今までの1日完結型のプログラムでは、子どもたちの学習成果や能力向上に限りがありましたが、今回、プログラムを再設計したことで、継続的に子どもたちに寄り添うことができるようになりました。

保護者の80%が子どもの成長を実感し、能力向上に寄与したと回答。子どもの90%が楽しかったと回答し、「街の見え方が変わった!こんなものがあったら良いなと考えるのが楽しい」「街についてもっと皆で話し合いたい」等のコメントもありました。子どもたちは、プログラム後も街での発見や気づきから生まれた課題意識、解決のためのアイデアを自分で考え、さらなる成長を続けています。今後も継続的に彼らに寄り添い、自発的な行動を後押ししていきたいです。

 

—— ヒルズ街育プロジェクトが目指すこと、未来への展望についてお聞かせください。

今後も、内容の拡充と参加者層の拡大に取り組んでいきたいです。たとえば、みらまちキャンプで生まれた子どもたちのアイデアを「街」に実装し、自分たちのアイデアに人が集まり、そこから新たなコミュニケーションやさらに新しいアイデアが生まれていくといった経験から多くの刺激を受けることで、子どもたちの次のステップへの成長につなげたいです。

また、中高生まで対象を拡大し、子どもたちに寄り添うことで、さらなる自発的な行動を促す学びの機会を提供し続けたいです。

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