セコム株式会社 PROJECT

オープンイノベーションによる探索とリニアな開発を合流
セコム 新ロボット開発

探索パートナーとして対話を深め、従来のアップデートと革新性を両立した開発に導く

セコム株式会社は、分野や業界の異なるパートナーと、未来の社会やサービスについて議論を交わすための場「セコムオープンラボ」をはじめ、オープンイノベーションについて継続的な取り組みを行っています。2019年には、新たな場で生まれる協働プロジェクトの製品について、「セコムらしさ」にとらわれず社会に実装することを目的に、専門ブランドである「SECOM DESIGN FACTORY」を設立しました。

こうした取り組みの中で、自律巡回型セキュリティロボット「cocobo」の開発プロジェクトは、これまでセコムが実施してきた警備ロボットの継続的な開発と、オープンイノベーションに基づく探索的な製品開発を合流させたものとなりました。

ロフトワークは、セコムの協働探索パートナーとして、プロジェクト計画と策定からリサーチの設計・実行、ならびにミーティングやワークショップのファシリテーションを担当。さらに、外部パートナーとして有限会社znug design取締役であり、デザイナーの根津孝太氏をアサインしました。

セコム・ロフトワーク・znug design(根津氏)の三者による開発チームは、警備ロボットが現代に求められる「意味」にフォーカス。それを再定義するための「問い」と、解決するためのデザインアイデアに至るまで、ディスカッションを繰り返しました。そうして開発されたセキュリティロボット「cocobo」は、従来の機能をアップデートしながら、「公共空間との調和」「威厳と親しみやすさ」という新たなコンセプトを反映したデザインとなりました。

ロボットが身近な存在になりつつある現代に、オープンなチーム編成でロボットの「意味のイノベーション」*に挑んだ本プロジェクト。その開発プロセスに迫ります。

*意味のイノベーション(デザインドリブンイノベーション)とは

ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンディ教授が提唱した、製品に新たな「意味」を与えることで引き起こされるイノベーションのこと。「意味」は製品が持つ役割や捉え方であり、これを従来のものから再定義することで、ユーザーに新たな体験価値をもたらすことが可能になる。
たとえば、通常ガラスのグラスには「使いやすくあるべき」という意味性があり、そのために軽量化が目指される。しかし「食事の時間」という新しい捉え方で見ると、使用に時間がかかり不便とされていた「重いグラス」に「食事の時間を豊かにする」という新たな価値が生まれる。
このように、製品の機能を高度化させるのではなく、デザインの発想を起点とし、時代や社会背景に合わせ意味を再定義することでイノベーションを起こすことができる。

企画・聞き手:岩沢 エリ(loftworkマーケティングリーダー)
執筆・編集:後閑 裕太朗(loftwork.com編集部)

登場する人

右から順に
田中 義久/セコム株式会社 技術開発本部 開発センター デザイングループ リーダー 
沙魚川 久史/セコム株式会社 オープンイノベーション推進担当 リーダー 兼 本社企画部 担当課長
根津 孝太(リモート出演)/znug design 取締役・クリエイティブコミュニケーター・デザイナー  
柳川 雄飛/株式会社ロフトワーク シニアプロデューサー
岩沢 エリ/株式会社ロフトワーク マーケティングリーダー

開かれたチーム編成で、異質なプロジェクトに挑む

ーー本プロジェクトが始まった背景について教えてください。

沙魚川さん(以下、敬称略):まず前提として、セコムはセキュリティやメディカルなど「サービス」を提供する会社として、マーケットや人々の価値観の変化や、その可能性をキャッチするためにオープンイノベーションを推進しています。私たちのチームは「セコムオープンラボ」を発足させ、他業種の方々とそれぞれの知見を持ち寄り、社会にどんなサービスが求められているのか、議論する場を醸成しています。

また2019年12月には、外部パートナーとの挑戦的・実験的な協働プロジェクト専用のブランド「SECOM DESIGN FACTORY」をローンチしました。これは、既存ブランドとは別のラインを作ることで、いい意味で製品が「セコムらしさ」にとらわれず、異質さを保ったまま社会実装することを目的としたものです。オープンイノベーションの出口として、新しい位置付けのもの、異質さのあるものにはこのラベルを付して取り組むと。

柳川:「cocobo」のプロジェクトは、まさにセコムのオープンイノベーションを基礎としたプロジェクトでしたね。パートナーとして、まずロフトワークにはどのような期待感を持たれていましたか?

沙魚川:そうですね。まず僕らがオープンイノベーション企画に期待することは主に2つあります。ひとつは「委託」ではないこと。成果を収めてくださいではなく、パートナーとして一緒に議論しながら取り組んでいきましょう、という姿勢が持てることです。もうひとつは、全く異なるマインドセットを持っている人と議論をすることにあります。

そのうえで、LWさんとはこれまでオープンイノベーションを進める中で何度かご一緒したことがあって。「異なるマインドセット」の代表格でありつつ、上層部からも一定の信頼があるパートナーであると判断し、新型警備ロボットの開発をロフトワークさんと一緒に始めよう、と。

柳川:ありがとうございます。セコムさんからお話をいただいてすぐ、デザイナーについても検討したのですが、「これは根津さんしかいないな」とチーム内で意見が一致しましたね。

沙魚川:はい。今回は警備ロボットの特性上、センサーと移動体の両方の知見がある方と議論がしたいと考えていまして。その点で根津さんはまさに最適なパートナーでした。

根津さん(以下、敬称略):なんだか照れますね(笑)

セコムの継続的なロボット開発と探索的な開発を合流させる

柳川:そうしたチーム体制で始動した本プロジェクトですが、大きな課題感として警備業界全体が人手不足であることが挙げられます。しかも、機械が代替しようにも大型商業施設や空港などのいわゆる有人環境においては、柔軟な対応が求められるシーンは人が担当せざるを得ない。だからこそ、そうした環境にも対応できる自律型ロボットを作りたかった。

沙魚川:そうですね。ただ自律型ロボットは、何も突然出てきたアイデアではないんです。このプロジェクトのポイントは「セコムの継続的なロボット研究開発と、オープンイノベーションをアプローチとして取り入れた探索的な製品づくりが合流した」、この点にあると思います。セコムは90年代から警備ロボットを作り続けています。有人環境で稼働できる自律型ロボットについても、以前から研究開発を行っている。

田中さん(以下、敬称略):特に「cocobo」の前身にあたる「X2*」開発の段階で大きなブラッシュアップがあって、有人環境を非常に意識した設計になっています。これを「cocobo」ではさらにアップデートしています。

*セコムロボットX2

2018年より稼働している、セコム開発の自律走行型巡回監視ロボット。レーザーセンサーによる自己位置を特定や搭載したカメラによる画像監視、アームによる不審物点検などの機能が搭載され、巡回監視や立哨などの業務を担うことができる。

沙魚川:このように、機能要件は継続的な開発の流れの中でさらに機能を充実させる。でも一方で、ロボットの外見のデザインや存在感は現状のままでいいのか、という疑問が経営陣含め出てきまして。これが今回オープンイノベーションで検討した、警備ロボットの「意味を再定義」した背景となります。

ロフトワークとともに「問い」を設定する

柳川:「意味の再定義」に関連して、このプロジェクトでは「問いの設定」がとても重要なフェーズになっています。今回は警備員さんが担っているもの、それも彼らの役割や機能だけではなく、警備員さんから私たちが感じ取っている「印象」をロボットにどう反映するか、をテーマとしていました。さらには、これがどういう場所や環境で導入されるのかも重要です。今回でいえば、「空港などの公共空間における警備ロボットには何が求められるのか」を考える必要があるわけです。

柳川:そんななか、プロジェクトメンバー内で出てきたキーワードが「威厳」と「威圧」です。これらは一見似たような言葉に見えますが、「威厳がある」と「威圧する」は、また印象が違う。この威厳と威圧のバランスをどのように設定しロボットに反映するか。これが大きな問いでした。

沙魚川:ここはかなり議論しましたね。

柳川:はい。警備員や軍人、ホテルマンなど、さまざまな職業における威厳と威圧のバランスの印象をマッピングしていきました。「これ威厳はあるけど威圧感はないな」であったり「これは威圧感が強いな」ですとか。

沙魚川:そうですね。マッピングの結果、今回は「威圧しないけれど、威厳がある」警備ロボットがコンセプトになりました。ただ、これは絶対的な正解ではなく、あくまで我々が「cocobo」におけるスイートスポットとして見定めた要素です。

ーーこれまでのセコムのロボット開発の中で、印象のマッピングや、「威厳と威圧」のようなキーワードでの評価軸はあったのでしょうか?

田中:「意味性を問う」というアプローチ自体は、これまでに社内でも検討されてきました。しかし、今回のプロジェクトで最も大きかったのは、この「意味性」をオープンイノベーションを通して外の視点から考えたことだと思います。社内だけだと、どうしても発想が縛られてしまいますから。

沙魚川:今回のプロジェクトのようにオープンイノベーションの企画、特に「SECOM DESIGN FACTORY」という建て付けにすると、セコムの中のデザイン哲学に縛られなくてよくなる。結果として色んな人の議論を聞きながら、そこにセコムのデザイン哲学を合わせる形で、新しいものを作り上げることができるんです。

田中:僕としても、アイデアがスケッチで形として現れていく過程など、とても刺激になりました。普段の仕事だと、ついまとめるところに注力しがちなのですが。

セッションのようなライブ感でアイデアを練り上げる

柳川:まとめるだけではない、というのはプロジェクト全体でも重要なポイントですね。このプロジェクトは、デザイン思考でよくいわれる発散と収束のダブルダイヤモンドから発展して、トリプルダイヤモンドで進めていきました。

柳川:まずリサーチとして、空港や商業施設などに出向き、警備員の方々がどんな所作をしているのかを観察しました。それを威厳と威圧のマッピングに落とします。次にアイデアスケッチとして、プロジェクトメンバーそれぞれがイラストを書いて付箋に何枚も書き出しました。ここは象徴的な発散のパートでしたね。

田中:ここは難しくもありました。決定したコンセプトは感覚としてはわかりますが、デザインとしてどうまとまっていくんだろうって。

柳川:セコムがこれまでのロボット開発で培ってきた機能要件があって、それを押さえながらでしたので、一層難しかったですよね。

根津:でも、面白かったですね。デザイナーって、体感的に会得しているデザイン筋みたいなものがあるんですが、今回はそれを使う前に、きちんと自分の頭で考える必要があるなあと思いまして。あと、ここで票が集まっているのは実は「2世代目」、つまり誰かが書いたものから派生させたものも多い。スケッチを描いては議論する、これを何回も繰り返しましたよね。

柳川:そうですね。その意味ではトリプルダイヤモンドどころじゃないかもしれない(笑)。このように意見やアイデアを出し合う形で発散と収束を繰り返すことで、本当にその場でデザインが進んでいく「ライブ感」が発生していました。こうしてデザインを最終的に3案に絞って、役員の方にアイデアを提案させていただきました。

沙魚川:評価を聞くだけではなく、役員の意見もまじえながら、さらに議論を深めていくイメージですね。この話し合いの末に「cocobo」のデザインスケッチが決定しました。

ロボットが身近になった時代に求められる「存在感」とは

沙魚川:こうやってスケッチが決まって、ここから本格的にデザインに落とし込む作業が始まっていくわけですね。

根津:はい。具体的に説明すると、威厳要素を「低重心で安定している」「機能を中央にレイアウトし、合理性と芯を感じさせる」デザインで表現しています。さらに「曲線的で柔らかなフォルム」で威圧しない印象を生み出している。また両側のパーツが変更可能なので、使用する空間によってカスタマイズできるようになっています。

またデザインについて、コンセプトの「威圧しない、威厳がある」はすでに説明しましたが、もっといえば「ロボットが珍しかった過去から、ロボットが身近になった現在」という世の中の流れがあるんですよね。すると、必然的にロボットの「存在感」が変わってくる。それをデザインに落とし込んでいます。

沙魚川:これはとても重要で、今回のプロジェクトの目的である「ロボットに持たせる意味の変化」になぜ取り組んだのか、という話につながってきます。これまで、90年代からセコムがロボットを設計してきた過程では、ロボットは珍しい存在で、公共空間を自律で走ることもなかった。その頃は、空間を利用する人たちが見ただけで「警備機能を備えたロボットである」とわかる必要があったんです。警備「然」とした見た目とでも言いましょうか。

ただ、現代においてロボットを見かけることは珍しくない。すると、これまでのように警備「然」とした形が必要なくなります。ゆえに、現代に求められるロボットの意味や存在感の再定義が「必要になった」んですね。セコムは自律型ロボットの開発を続けてきましたが、時代の変化にあわせ、新しい形が求められるはずだと考えました。

根津:これはプロジェクトの命題といってもいいですね。そもそも、威厳や威圧という言葉は「存在感」を表すんです。決してデザインを表しているわけではない。もちろん結果としてデザインに落ちてはいるんですけれども、どういう「存在感」を規定していくのかっていう問いは、すごく深いテーマだと思うんです。そしてその答えについては、誰も知らない状態から始まる。だからこそ「問い」と意見交換を通して、今回目指すべき警備ロボットの存在感をみんなで規定していったんです。

柳川:この点に関しては、リサーチの過程で、実際に公共空間を生み出す建築デザイナーの方々にもヒアリングを実施しています。多様な意見をインプットしながら、公共空間におけるロボットの存在感を捉え直しました。

沙魚川:その意味で、このプロジェクトはまさに警備ロボットにおける「意味のイノベーション(デザイン・ドリブン・イノベーション)」なんです。つまり、今まで私たちがロボットに求めていた意味を、ユーザーの心の中にどういう体験を根付かせたいかという視点から考え直し、再定義したんです。

このような経緯でロボットのデザインの意味を、既存の「誰が見てもその機能がわかる」から「公共空間との調和」や「威厳と親しみやすさ」という新たな意味性へ変化させた。これが、オープンイノベーションだからこそできた、このプロジェクトの要なんです。

 

対談後、メンバーのみなさんそれぞれに、今後「公共空間におけるロボットの意味」を考える上でのキーワードをあげていただきました。すると、なんと根津さんと田中さんの回答が「cocobo」のロゴを用いた「CO」で一致しました。「ロボットのイメージを温かなものにしたい」「公共空間を考えるためには、プロジェクト自体もオープンに取り組んでいきたい」と語るお二人。思わぬところで、プロジェクトチームの一体感を垣間見ることができました。

プロジェクト概要

  • クライアント:セコム株式会社
  • プロジェクト期間:2020年1月〜3月
  • 体制
    プロジェクトマネージャー:桑原 季
    ディレクター:高橋 卓
    プロデューサー:柳川 雄飛
    デザイナー:根津 孝太(有限会社 znug design)
     *肩書きはプロジェクト実施当時

セコムオープンラボ第21回開催レポート

セコムオープンイノベーションの公式サイト内でも、今回の対談のレポートが掲載されています。
サイト内には、セコムが取り組んできたオープンイノベーションの詳細な解説や具体的な事例も掲載されています。こちらも併せてご覧ください。

https://www.secom.co.jp/innovation/lab/event_21.html