「Social Well-being」の社会実装を目指す
研究開発のビジョンを策定
Outline
少子高齢化や晩婚化・非婚化が進む日本。根本的な社会構成の変化によって、コミュニティの基礎を担ってきた社会システムのアップデートが求められています。日本電信電話株式会社を持株会社とするNTTグループは、これまで電話やインターネットなどの情報インフラ・通信技術を通じて社会課題の解決に貢献してきました。では、社会変容に伴い、課題が山積する時代において、通信技術やインフラにはどのような役割が求められるのか。また、システムやサービスのデザインによって、いかに課題を解決できるのでしょうか。
NTTグループにおいて、技術研究・開発を担うNTT R&Dの中で、ICTにより高度化する社会システムや人間社会の変革と発展に貢献する技術の研究開発を行うNTT社会情報研究所はWell-beingに関する研究を行っており、2021年に「個人の自律と集団の調和を利他的に共存できるつながり」を「Social Well-being」として定義しました。これを可能にするために、哲学や社会学等の理論を踏まえたデザインの実践による人文・社会科学的知見と、デジタルとリアル空間の行動を支援し、行動変容を促す技術的基盤からなる「Social Well-being Network」の実現に向けた研究プロジェクトを遂行しています。
NTTによるSocial Well-beingの定義や取り組みについては、以下をご参照ください
人と社会のWell-beingを可能にする研究開発の取り組み Social Well-being:個人の自律と集団の調和を利他的に共存できるつながり ーNTT技術ジャーナル
Social Well-being Networkを社会に実装していくためには、この新たなテーマを社会に広めながら、ステークホルダーとの共創を生み出していく必要があります。しかし、研究開発の価値を発信していくにあたり、研究を通して目指したい社会像がどのようなものなのか、誰に/何を/どのように伝えることが有効なのか、明確になっていない状況にありました。
そこで、NTT社会情報研究所とロフトワークは、Social Well-being Networkにおける研究活動の中長期的な指針となる、コンセプトや重点領域を策定しました。さらに、報道陣向けの展示を通じて、組織内外に対して研究テーマの認知度を高め、人々の共感を呼ぶようなコミュニケーション施策に挑戦しました。
執筆:吉澤 瑠美
編集:後閑 裕太朗・岩崎諒子(Loftwork.com編集部)
プロジェクト概要
- クライアント:日本電信電話株式会社 社会情報研究所 Well-being研究プロジェクト リビングラボ推進グループ
体制
- 株式会社ロフトワーク
- プロジェクトマネージャー:林 剛弘
- ディレクター:上村 直人、柳原 一也
- アシスタントディレクター:飯澤 絹子、関本 武晃
- プロデューサー:小原 和也
- 日本電信電話株式会社 社会情報研究所
- 宮本 勝(Well-being研究プロジェクト プロジェクトマネージャー 主席研究員)
- 渡邊 淳司(Well-being研究プロジェクト リビングラボ推進グループ 上席特別研究員)
- 西川 嘉樹(Well-being研究プロジェクト リビングラボ推進グループ グループリーダー 主幹研究員 )
- 渋沢 潮(Well-being研究プロジェクト リビングラボ推進グループ 主任研究員)
- 足利 えりか(Well-being研究プロジェクト リビングラボ推進グループ 研究主任)
- 駒﨑 掲(Well-being研究プロジェクト リビングラボ推進グループ 研究員)
※肩書きはプロジェクト実施当時
Process
Social Well-being Networkという研究テーマの価値を明確化するだけでなく、受け手が共感できる形で伝える必要がありました。そこでプロジェクトチームは、研究テーマの具体的なビジョンやコンセプトを明確にしたうえで、ステークホルダーとの適切なコミュニケーションをデザインすることを目指しました。プロジェクトのプロセスを、ビジョン・コンセプトを策定するPhase1と、展示会におけるブース設計・制作を行うPhase2に分け、一気通貫で進行しました。
Concept
Phase1では、研究開発を活性化し事業に結びつけていくための第一歩として、「Social Well-being Networkが実現するとどのような未来になるのか」を明確にするために、ワークショップとワーキンググループでの議論を通じて、研究開発のビジョン・コンセプトや、重点領域「#well-working・#well-learning・#well-bonding」を策定。さらに、それぞれゴールにしたい社会像を描きつつ、その達成に向けたアクションプランをまとめました。
Output
Social Well-being Networkのコミュニケーション施策として、NTT R&Dの各研究所における最先端の取り組みを社内外に公開・発表するフォーラム、「NTT R&D FORUM 2022 Road to IOWN」内の報道陣向け展示会に出展。展示では、NTTグループが推進する「Self-as-We(われわれとしての自己)」の概念に基づいて、Social Well-beingを「支援する」「計測する」ための手法を紹介しました。
Social Well-being Networkは抽象的なテーマだからこそ、言葉による説明だけでなく、プロトタイプを展示しユースケースを見せることで、受け手がその価値を実感しやすい展示を目指しました。また、ビジネスパーソンが自分ごととして捉えやすい「ビジネスの現場におけるSocal Well-being」の文脈から課題意識を共有しました。
展示物
プロトタイプ活用シーン紹介映像
わたしたちのウェルビーイングカード
展示パネル
Aprroach
プロジェクトメンバー自身が「Well-being」であるためのプロジェクト進行
Well-beingに限らず、新たなコンセプトやビジョンの普及においてしばしば陥りがちなのは、実感を伴わず机上の空論に終始してしまうことです。当事者のいない「議論のための議論」には説得力や共感力がなく、結果的にステークホルダーを巻き込むことは難しくなります。同時に、Well-beingは誰にとっても自分ごとである問題。だからこそ、プロジェクトを進めるうえで、メンバー一人ひとりがWell-beingであることを重要視しました。
そこで、毎回の定例ミーティング開始時に「わたしたちのウェルビーイングカード」を使用したチェックインを実施。良い状態だけでなく悪い状態も含めて、互いの人柄やコンディションを継続的に共有することで、相互理解を深めました。また、Well-beingに対する共通認識を時間をかけて醸成し、本質的な議論や、コンセプトやコミュニケーション方針に対する強い実感を生み出すことにつながりました。
時間軸と視点を拡張し、より広い視野から「Well-being」な未来に向かうための道筋を探る
コンセプトを策定するワークショップでは、NTTグループから、同じ課題意識を持つさまざまな立場のメンバーが、事業領域や拠点を超えて参加しました。これにより、コンセプトに多角的な視点を取り入れるとともに、NTTグループ内の横断的な交流を生み、今後のコラボレーションの種となることを目指しました。
また、ワークショップで特に活発な議論が交わされた3つの領域「仕事」「学び」「家族」をさらに深掘りすべく、領域ごとに3つのワーキンググループを設立。「目指したい生活イメージ」と「技術や仕組み」の両面から議論を重ね、より具体的なアイデアを検討しました。最後に3つのワーキンググループでまとめた内容を再度統合し、プロジェクトのコンセプトを定めました。
定めたコンセプトを適切なユーザーコミュニケーションへと反映
今後、さまざまなステークホルダーとSocial Well-being Networkの実現への道のりを議論できる状態を目指し、前提知識がほとんどない人に対しても「Social Well-beingを自分ごととして捉えてもらい、Social Well-being Networkの価値と可能性を感じてもらう」ような展示の制作を行いました。
展示の方針として、日本電信電話株式会社の島田明 代表取締役社長が就任会見で語った「CX(Customer Experience)をEX(Employee Experience)で創造したい」というメッセージとも接続しながら、展示会参加者に向けて「職場におけるSocial Well-beingと、それを実現するSocial Well-being Networkの可能性」を感じてもらうことを目指しました。
また、研究の内容や意義を説明するためのスクリプトを作成するなど、展示物の制作に留まらず、包括的な視点からコミュニケーションを支援しました。
結果として、展示をみた来場者、とりわけチーム内での関係づくりや組織変容に課題を感じている方々からは大きな反響がありました。好意的な反応を確かめられたことで、今後研究グループとして共創パートナーを探すうえでの一つの成功体験にも繋がりました。
本プロジェクト終了後も、「Social Well-being Network」浸透に向けた次のステップとして、研究活動の更なる発信を目指す取り組みが始まっています。
Member
メンバーズボイス
“Social Well-being Networkがゴールとしたい社会像を描くうえで、また、プロトタイプ展示を制作するうえで、これまでに多くのパートナーと共創を実践し、豊富なデザイン経験を有するロフトワークの皆さんとともに考えることで、研究者だけでは難解になりがちなイメージを解きほぐし、わかりやすい形で伝えられるようになったと感じています。
本プロジェクトで作り上げたコンセプトをさらに具体化して社会に届けられるように、今後も様々なステークホルダーの皆様と共創しながら研究開発を進めていきたいと考えています。”
日本電信電話株式会社 社会情報研究所 Well-being研究プロジェクト
リビングラボ推進グループ 主任研究員 渋沢 潮さま
“Social Well-being Networkという研究テーマをゼロから立ち上げるにあたり、全てが手探りの状態でした。また、ロフトワークと一緒にプロジェクトを実践するということも初めてだったため、期待もありながら不安もありました。そういう状況の中、ロフトワークの皆さんから、プロジェクトの進め方や議論方法などを提案いただきながら一緒に検討することで、両社のメンバー全員が徐々に一つのチームになっていき、ビジョンやコンセプト、プロトタイプが具体的になっていきました。このようなプロセス自体がSocial Well-beingにとって重要であることに気づくことができ、研究の方向性にも大きな影響を与えました。今後も関係を持続し、さらに多様なパートナーと一緒に研究を推進することでWell-beingに寄与する研究成果を共創していきたいと考えています。”
日本電信電話株式会社 社会情報研究所 Well-being研究プロジェクト
リビングラボ推進グループ グループリーダー 主幹研究員 西川 嘉樹さま
“Well-beingと聞くと、どこか心身が良い状態のことをイメージしがちですが、このプロジェクトを通じて、「よい状態だけではなく、わるい状態の克服の過程も含めた持続的なもの」であることを実感しました。この気づきから、プロジェクトマネージャーとして日常的なミーティングの中でも、「点ではなく、線的な人と人との持続的な関わり」を実感できるプロジェクトデザインを意識しました。「今日は実は良いことがあって、!」「今日このあと重要な会議があって…」というようなアジェンダとは直接関係のない「その人の今日のWell-being」が、プロジェクトを前進させる機会が多々あり、Well-beingな社会に向けた自分自身の関わり方の兆しを発見できたプロジェクトでした。”
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 林 剛弘
“今回のプロジェクトでとくに印象的だったのは展示物のひとつであるアニメーションを制作する際に、具体的にどのようなシーンでどのような状態になることが「Social Well-being Network」に繋がるかをプロジェクトメンバーで議論したことです。リモートワークが普及し自宅で働くことが増えてきている中、同僚の存在感を触覚通信を通して程よい距離感で表現することで働く際のモチベーションにつなげるいう方向性は、人の感性や内面にアプローチしており、かつ触覚の伝送技術がなければ実現できないという点で、本プロジェクトならではのアイデアになりました。
自分自身のWell-beingだけでなく、他者にも寄り添い、ともにWell-beingな状態を実現するという「Social Well-being Network」が多くの方にとってより身近な概念になっていけばと思います。”
株式会社ロフトワーク MTRL クリエイティブディレクター 柳原 一也
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