“共感”でつながる地域と都市。
岡山県真庭市の実践から見えてきた、
持続可能なビジネス創出のヒント
2022年7月20日に、持続可能な地域と都市の関係性を探るイベント「地域×都市をつなぐ、SDGsビジネスプロジェクトのつくりかた」を開催しました。本イベントでは、2021年度に岡山県真庭市が実施したプロジェクト「真庭市 SDGsビジネスプロジェクト創出プログラム」で得た知見をもとに、地域資源や課題のかけ合わせで生まれる、持続可能な事業の価値と可能性を見いだしました。
登壇したのは、プロジェクトを担当した岡山県真庭市役所の平澤洋輔さんと、ロフトワーク クリエイティブディレクター 寺本修造、皆川凌大。ロフトワーク マーケティングリーダーの岩沢エリがモデレーターとして登壇しました。「地域と都市の連携」をテーマにプロジェクトの実践を紹介したほか、「関係人口のつくり方」「地域資源の価値と魅力」という2つのトピックについてディスカッションしました。
執筆:佐々木 まゆ
撮影:村上 大輔
編集:岩崎 諒子・森 実南(loftwork.com編集部)
登壇者
平澤 洋輔
真庭市役所産業観光部産業政策課 係長
岡山県真庭市について
プロジェクトの舞台となった真庭市は、岡山県北部に位置する人口約4.4万人の市です。2018年には、「SDGs未来都市」選出。「SDGs未来都市」とは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、SDGsの17つの目標、169の達成基準、地方創生に寄与するかを判断軸に、内閣府に選定された都市のことです。
同市は、“回る経済”を掲げ、バイオマス産業に特化。木材加工時に出る端材や林地残材などを利活用し、エネルギーへと変換する取り組みを実施しています。
先駆的な取り組みを推進している真庭市ですが、他都市と同様に、「地域の担い手不足」という課題を抱えていました。この課題解決のため、都市部の現役世代と関係を築き、U・I・Jターンによる起業家や就業者と有機的な関係を構築する「真庭市SDGsビジネスプロジェクト創出プログラム」をロフトワークと立ち上げました。本プロジェクトでは、ビジネスをきっかけに関係人口を増やす試みを開始し、10年、20年と続いていくビジネスの創出を目指しています。
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共感をきっかけに、地域との長期的な関係人口を生み出す
真庭市は山に囲まれ、緑が多く、空気も水も綺麗。『田舎暮らしの本』(2021年 宝島社)では、「住みたい田舎ベストランキング、人口10万人以下の小さな市部門」で6位に選ばれるなど、移住先としても注目を集めています。
真庭市役所に勤める平澤さんも家族五人で真庭市に移住した一人です。イベント冒頭では、平澤さんの移住ストーリーを伺いながら、地方での「関係人口のつくり方」について、四者で意見を交わしました。
平澤さん(以下、平澤) 私はもともと神奈川県在住でした。電通でプロデューサーを務めて、ビジネスの立ち上げに携わっていたんです。電通を退職後は、地域に特化した商社に転職して、広報やオウンドメディアの運営、新規事業開発を担当していました。
地域に移住するのは、実は真庭市で2箇所目です。その前は岡山県西粟倉村に移住しました。仲間と一緒に西粟倉村で会社を立ち上げて。その後、様々なご縁から、真庭市の公務員になりました。
寺本 企業に勤めていた平澤さんが、なぜ地方公務員の仕事を選んだのでしょうか。
平澤 僕自身が、やったことがないことに挑戦することに貪欲なんです。一方で、民間企業に比べると、行政ではなかなかそういう人に出会えないなと感じていました。それなら、自分が行政の側に行ってみて実証実験してみようか、と。
皆川 平澤さんのように、仕事をきっかけにこれまで真庭市と関わりがなかった人が移住するケースは、関係人口を増やす上でも重要なポイントになりそうですね。
寺本 「関係人口を増やしたい」と考えている自治体は多いですが、増やし方がわからないという声もありますよね。
平澤 そもそも関係人口の定義は難しいですよね。総務省が“「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉”と定義しているように、様々な関わり方が包括されていますよね。
私の場合は、起業や地方公務員といったビジネス文脈での関わり方でしたが、地縁や血縁の場合もあるし、過去にその地域に住んでいたり、出張で訪れる場合もある。今はNFTを活用した「デジタル村民」という先進的な関わり方も出てきています。
寺本 確かに、一口に“関係人口”といっても様々ですよね。自治体が関係人口を評価する場合、「質と量」という考え方があると思いますが、「関係人口の量」は目に見える数値で判断できても「関係人口の質」には明確な指標がありません。ともすれば、地域側の主観や都合で「質」が設定されかねないのですが、もしそれが地域の外の人々にとって「地域との関係を持ち続けよう」という動機と有機的につながっていない場合、施策を打っても思うような成果を得られないという状況にもなりかねません。
僕は、関係人口の捉え方は地域の数だけあると考えていて。だからこそ、それぞれの地域がウチとソト両方の視点から「自分たちの考える、質の良い関係人口とは」という問いに真摯に向き合いながら、言語化することが必要ではないかなと。
平澤 そうですね。地域ごとに関係人口のあり方を定義し、評価する必要があると思います。関係人口を増やす方法は地域によると思いますが、持続的な関係性を築いていくスタンスとして「お互いに共感できること」が大切だと思います。
地域側の「やってください」という受け身、都市側の「やってあげます」という高圧的な態度ではなく、ビジョンを共有し、共感しあいながら、意見を交わせるような関係性を作れると、持続的な関わりが生まれるのではと考えています。
例えば、真庭市と阪急阪神百貨店で取り組んでいる『GREENable』というコミュニティ・ブランドでは、“一緒にやる”という姿勢を意識し、プロジェクト開始の段階に、「人と自然が共生する社会をつくる」というビジョンを共創しました。そのため、プロジェクト内でのコンテンツ開発や、ブランドの運用を行う際には、常に”人と自然の共生につながるかどうか”という判断軸を持ってプロジェクトを進行しています。
寺本 あとは、外から来た人が地域への思い入れや共感を育む上で、どれだけその地域に足を運べるのかも大事ですよね。その場所で地元の人たちがどんな生活をしていて、どういう仕事をしているのか。エスノグラフィー(※1)的な手法で地域に入り込みながら、徐々に目線を合わせていく。
皆川 今年度、また新たに始まる真庭市さんとの取り組みでは、より一層「地域に対する深い共感を醸成していくこと」に注力していきたいですね。
去年実施したプロジェクトでは、真庭市の事業者が持つ課題をテーマにしましたが、今年は地域側と都市側どちらもが抱える共通の課題を扱おうと思っています。同じ課題に立ち向かう者同士、双方の視点を解像度高く理解でき、共感が生まれやすくなるのではと考えているんです。良好な関係性を築きながら、新たなアイデアを生み出していきたいです。
※1 エスノグラフィー:民族誌。フィールドワークに基づいて人間社会の現象の質的説明を表現する記述の一種。(Wikipediaより)
地域資源を生かした持続的な事業創出を目指す
「地域には都市にない資源がある」といわれることも多いですが、地域では、一体どんなものが資源になりうるのでしょうか。そして、その資源をどのように活用し、持続可能な社会を実現していくのでしょうか。地域資源の価値について掘り下げていきます。
寺本 地域に関わるプロジェクトをいくつか担当した経験から、僕は「人が資源になりうる」と考えています。地域には、“新しいものをつくるのが好き”という方が多いように感じているんです。でもいくら新しいものが好きだからといって、見知らぬ人が自分の地元で突然新しいことを始めたら、いい気持ちにはならない。
その地域に入っていく者の責任として、地域の人に自分を知ってもらい、地域の人のことも知っていく必要がある。双方が「知らない」ことを「知っている」状態になった上で、地域の人に自分たちの取り組みに共感してもらうことが大切だと思います。
地域内で一緒にプロジェクトに参加してくれそうな人を探すことも大事ですが、同時にプロジェクトには参加しなくとも、取り組みそのものに共感して、“見守ってくれる人”を周囲に増やしていくことも大切にしていきたいですね。
皆川 地元の人たちに「プロジェクトを応援したいな」って思ってもらえると、良い影響が街全体に広がっていきますよね。
平澤さんは、真庭市の地域資源を活用して、プロジェクトを推進されています。真庭市のどんな地域資源を活用しているのでしょうか?
平澤 “価値がないと見なされているもの”です。
例えば、木材の加工時に出る樹皮や木くずなどの端材。今までこれらの端材は、“価値がないもの”と見られて、処分していました。しかも、お金をかけて処理していたんです。そこでこれらの端材を、価値あるものに変えられないかと頭をひねります。そして辿り着いたのが、端材を燃料に電気を発電する「バイオマス発電」でした。
このバイオマス発電は、CO2を増加させずにエネルギーを生み出せるんです。廃棄物の再利用や減少も可能になるため、持続可能な循環型社会の実現に向けた一歩となります。
皆川 確か、各家庭から出る生ゴミも価値のある資源として活用し、液体肥料をつくっていますよね。
平澤 そうですね。真庭市内にある企業の活動をひとつずつ見ていくと、“実はSDGsにつながっていた”結果もあります。
例えば、岡山県産の鶏肉を使い、焼き鳥やハンバーグを製造している松川食品株式会社では、年配の女性職人たちがすべて手作業で調理しています。この焼き鳥は地元の、50代・60代の方たちにとても人気があるんです。しかし、若い人たちからあまり知られてないということもあり、自分たちの世代がいなくなって事業を続けられなくなってしまったら「地域の働き口がなくなってしまう」と将来を危惧していて。若い人たちからの認知を高める活動が、結果として、事業を継続し地域の雇用を守ることにつながっていたということがありました。
寺本 SDGsの観点からすると、松川食品さんの雇用を生むための広報活動は、持続可能な産業を守ることでもあるんですよね。ここで重要なのが、“結果的に”SDGsに寄与していること。SDGsを目的化していないんです。
大義名分としてSDGsを捉えると、なにから始めていいのか迷ったり、本質的な課題解決ではない短絡的なアウトプットに終始してしまったりします。しかし、自分たちの産業を持続させていく方法を考えれば、おのずと地域の資源を活用し、持続可能な社会にアプローチしていけるのではないかと思います。
近隣の自治体と連携しながら、広域経済圏としての活性化を目指す
地域企業各社が自分たちの事業や組織に真摯に向き合い、どんな未来をどのようにつくっていくかを考えていく。まずは自分たちで自社の課題を解決していこうとする地域企業の存在が、地域振興につながり、持続可能な社会の実現への第一歩になるのかもしれません。
ここで、寺本が「地域をもう少し広い範囲で捉え、近隣の市町村と合同の経済圏を作れないか?」と地域間連携の可能性を示唆します。
寺本 真庭市の方にヒアリングした際に、鳥取県にも足を運んでいるという話を聞きました。他の地域でも、例えば岐阜の県南の人は名古屋に、富山県の人は金沢市(石川県)に買い物へ出かけることもあるそうです。日常的に県を縦断したり、横断したりしているんですよね。
近隣の市町村と協業し、役割を分けながら経済圏をつくっていければ、さらに地域を活性化させ、持続可能な経済が作れるのではないかと考えています。
平澤 岡山県では、岡山市を中心に8市5町の「岡山連携中枢都市圏」が形成されているんです。実は、真庭市も参画しています。
これは総務省が持続可能な社会を目指して実施している政策「連携中枢都市圏構想」(※2)に基づく取り組みです。
岡山市は岡山県のなかでも特に経済規模が大きく、交通インフラも整っている。真庭市には、ジャージー牛の飼育頭数が日本一の蒜山(ひるぜん)高原があり、乳業が盛んです。地域ごとに得意な産業があるんです。一方で、岡山市は岡山市なりの、真庭市は真庭市なりの弱みもある。“連携”というかたちをとることで、お互いに影響を受け合いながら、補完しあいながら、持続的な経済成長を実現できるのではないかと考えています。
※2 連携中枢都市圏:日本における市町村の広域連携である。一定要件を満たす都市が「連携中枢都市」となり、周辺市町村と連携協約(地方自治法252条の2第1項)を締結することで、「連携中枢都市圏」を形成し、圏域の活性化を図ろうとする構想。(wikipediaより)
地域の課題に向き合った結果、持続可能性の高いビジネスが生まれる
真庭市とロフトワークが取り組んだ「真庭市SDGsビジネスプロジェクト創出プログラム」を振り返ると、そのプロセスは地域の事業者が都市の人々と協働しながら自らの事業課題の解決を目指し、同時に持続的な事業をどのようにつくっていくかを試行する取り組みでした。
一方で、真庭市がこれまで取り組んでいる、阪急阪神百貨店との協業プロジェクト『GREENable』、岡山連携中枢都市圏構想といった、地域でのビジネス活動や地域間のコラボレーション事業は、いずれもすぐには成果が見えづらい長期的な取り組みです。これは、持続可能な事業づくりには近道がなく、腰を据えて取り組み続ける必要があることを示唆しています。
地域と都市の企業が一緒になって未来につながる持続可能な事業をつくっていくためには、各自治体は地域の課題解決と持続的な未来を見据えながら「関係人口」「地域資源」をそれぞれ適切に定義し、共創の土台を整えていく必要があります。他方、地域と共創したい都市部の人や企業は、地域との共感を能動的につくっていく。こうして、双方の関係性を一つひとつ丁寧に紡いでいくことが、地域と都市の長期的な関係づくりをはじめる第一歩なのではないでしょうか。
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持続可能な社会を目指したSDGs領域の事業を創出するために、地域と都市の連携した活動がいま求められています。ロフトワークが支援した「真庭市SDGsビジネスプロジェクト創出プログラム」の事例紹介と共に、実践者とのディスカッションを通じ、そのポイントを紐解きます。
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地域×都市をつなぐ、SDGsビジネスプロジェクトのつくりかた