真庭市 SDGsビジネスの共創プログラム 2年目の挑戦
農業・モビリティ・教育など、地域の未来を多角的に探索する
Outline
「SDGs未来都市」として、全国に先駆けて資源循環型の生活基盤整備を進めている、岡山県真庭市。多様性を受け入れ、住む人がいつまでも住み続けたいと思える「多彩な真庭の豊かな生活~真庭ライフスタイル~」の実現に向けて取り組んでいます。
そんな真庭市が抱えていた課題は、地域振興やまちづくりの担い手となる現役世代を惹きつけ、都市部からのU・I・Jターンによる起業・就業者を創出することでした。この課題を解消すべく、2021年からロフトワークと共にスタートした「真庭市SDGsビジネスプロジェクト創出プログラム -Cultivate the future maniwa-」2期目の取り組みをご紹介します。
2期目となる2022年度は、前年度の取り組みをさらにブラッシュアップさせ、SDGs領域のビジネスアイデア創発〜実装に向けたプランを検討。マッチングの質を高めアイデアの幅を広げることで、より持続可能なビジネスアイデア・パートナーシップを生み出すことを目指しました。
その結果、農業・モビリティ・教育など、事業の領域を超えた5つのチームが誕生し、3ヶ月という短期間で、真庭の未来を創る新たなビジネスモデルの考案につながりました。
執筆:野本 纏花
編集:船岡 美樹, 後閑 裕太朗(株式会社ロフトワーク)
2021年度のプロジェクト事例記事はこちら
プロジェクト概要
プロジェクト期間:2022年7月〜2023年3月(9ヶ月)
体制:
- クライアント:真庭市
- プロジェクトマネジメント:皆川 凌大
- クリエイティブディレクション:寺田 麻里子 、岩村 絵理、寺本 修造
- プロデュース:二本柳 友彦
Point
プロジェクトデザインのなかで、2021年度からアップデートしたポイントは大きく2つあります。
1.多彩な都市部のプレイヤーとのマッチング
2021年度の都市部企業の募集は、既に一定の活動実績があり、かつ地元事業者との対話や共創に対して高いモチベーションを持つミレニアル世代に設定し、これまでロフトワークが培ってきたネットワークを活用して人選していました。それに対して2022年度では、発展性のあるビジネスアイデア・パートナーシップの創出に向けて、地域課題や地元事業者の課題や想いを提示したうえで、都市部の多彩なプレイヤーから応募を募りました。結果として、さまざまな業種から参加希望者が集まり、双方の意向を踏まえた適切なマッチングができました。
2.真庭市の課題に寄り添う『10個の問い』を設定
2021年度はSDGsという大きなテーマを元にプログラムの参加者を募っていましたが、2022年度では、地元の企業・市民にヒアリングを行って作成した、「真庭の未来を創り出す10個の問い」という具体的なテーマを提示。プログラム参加者が真庭に対する共通の目的意識を持てたことで、互いの理解が深まり、マッチングからプログラム終了までスムーズに進めることができました。
Challenge
5つのチームが、真庭を舞台に新たなビジネスの創出に挑戦。地方と都市の異なる業種の企業・クリエイターをつないだことで、飛躍的なビジネスアイデアが生まれました。
アパレルブランド×テキスタイルアーティスト
(0867×鈴木純子(武蔵野美術大学 准教授))
地域発信のローカルカルチャーやローカルビジネスの底上げを図り、未来へ続く新たな挑戦をしたいと考えていた「0867」。先進国で作られた服が発展途上国でゴミの山となっている現状に課題を感じていた鈴木氏と共創したことで、“ひとつのものを継続して着る、使い続ける”という発想から何ができるかというマインドシフトにつながりました。今後は、真庭の自然を原料とした染色ワークショップの実施や、ポップアップショップの展開を検討していくなど、継続的に連携しながら活動を続けていきます。
タクシー事業者×都市データ分析のプロフェッショナル
(有限会社フクモトタクシー × Spatial Pleasure 鈴木綜真)
概要
真庭市勝山でタクシーやバスの交通事業を行なっている「フクモトタクシー」。脱炭素化に寄与する交通事業者に対して、カーボンクレジットの認証・計測を行うソフトウェアを開発している「Spatial Pleasure」。この両者がタッグを組むことで、タクシーやバスという既存事業の枠に捉われず、データ分析に基づいた最適な地域交通のあり方を模索した。
アウトプット
真庭市勝山を通る「JR姫新線」は、JR西日本が赤字路線のひとつとして公表した路線。もし、この姫新線が仮に廃止された場合の交通量の増減についてシミュレーションを行った。
交通事業以外での新規事業に挑戦したいと考えていたフクモトタクシー。Spatial Pleasureと出会ったことで、現実と理想をうまく融合させながら、「まちづくりという大きな視点で、エリアの付加価値の創出とサービスの構築を目指す」という新たな方向性が見出されました。プロジェクト内では公開データを中心に分析したものの、今後は有償データも加えて分析精度の向上を図り、シュミレーションツールの開発や、代替交通手段の検討をしていきます。
就労継続支援B型事業所×クリエイティブプランナー
(フリーズドライ工房まにわ×HONNOW)
概要
就労継続支援B型事業所として、地元の障がい者の就労を支えながら、フリーズドライご飯のOEM製造を行っている「フリーズドライ工房まにわ」。社会課題の“HOW”を“WOW”に価値変容し“本能”で良いと感じる体験をつくる「HONNOW」。この両者がタッグを組むことで、最先端技術のフリーズドライ製法によって、美味しく、楽しく社会課題を減らす取り組みを行った。
アウトプット
フリーズドライの可能性を訴求する営業資料を作成。本プログラムを通じて生まれた真庭市内のつながりを活かしながら、真庭の食材を活用した新たな商品を開発し、ECやふるさと納税などで全国に展開する予定。これからの食のあり方を考えるブランドへと成長させることを目指していく。
「フリーズドライの可能性や新たな価値を見つけ、食の選択肢や生産者の雇用をもっと増やし、社会課題を少しでも減らしたい」と考えていたフリーズドライ工房まにわ。HONNOWと行ったアイディエーションを通じて、「もう非常食とは言わせない。新たな食の選択肢」というコンセプトを設定。フリーズドライとさまざまなモノ・コトを掛け合わせることで、製品の新たな可能性を数多く見出すことができました。
カウンセリングサービス×モビリティ領域のコミュニケーションプランナー
(株式会社ココロの保健室 × トヨタ・コニック・プロ株式会社)
概要
保健室を飛び出し「出前保健室」というスタイルで、自分を愛するストレスマネジメントを日本中に発信している「ココロの保健室」。モビリティを使った地方創生を手がける「トヨタ・コニック・プロ」。この両者がタッグを組み、真庭の子どもたちのための新たな地域教育サービスの立ち上げを目指している。
アウトプット
自己肯定感を高める→「やってみたい」を実現する→リアルな成功体験を味わうという7日間のプログラム『動くTEEN’S 起業スクール EAGER SCHOOL(ええがあスクール)』を考案し、体験の場としてトヨタの給電車を活用する。
ココロの保健室では「ええがあLABO」というフリースクールを運営していますが、「送り迎えが大変」「教育の選択肢が少ない」「もっといろいろな人と触れ合う機会を創出したい」といった課題がありました。モビリティ技術と紐づけ、移動式体験スクールにすることで、課題を解決し、真庭の子どもたちがチャレンジできる可能性が広がりました。今後は、共創の主体を地元に精通した「岡山トヨタ」に移し、来年度から実証実験のスタートに向け準備中です。
果樹農園の直売所×コンサルティングファーム
(きよとうファーム株式会社 × ライズ・コンサルティング・グループ株式会社)
概要
果樹農園の中にある直売所「きよとうファーム」と、総合コンサルティング事業を手がけるライズ・コンサルティング・グループ。この両者がタッグを組み、きよとうファームを取り巻く課題と解決に向けた施策を考案。具体的な取り組みとして、まずは廃棄果物を活用したサステナブルなプロダクト開発に挑戦した。
アウトプット
きよとうファームオリジナルのフリーズドライおやつブランド「ONE FRUITS」の第一弾として、廃棄されてしまうあたご梨を加工したフリーズドライおやつを開発。ECサイトで販売を開始している。
デジタル化による効率化と付加価値の創造により、利益率の改善と事業規模の拡大を図っていた、きよとうファーム。魅力ある農産加工品を開発することで、年間を通じた商品の提供と海外展開を視野に入れていました。経営分析・戦略策定に強みをもつライズ・コンサルティング・グループと共創することで、今後の事業改善に向けてやるべきことが明確になり、今後はぶどうなど、他品目の製品化に向けて開発を進めています。
Process
プログラムにおける各プロセスの概要と、ポイントをご紹介します。
詳細については、「Cultivate the future maniwa 公式note」の記事をご覧ください。
1.参加企業の募集とマッチング
マッチングの質を上げるために、真庭市の事業者と都市部の企業が参加する説明会や個別相談MTGを複数回実施。都市部の企業が参加するイベントでは、真庭市の事業者が自らプレゼンを行い、自社の想いや課題感を伝ました。
2.ビジネスアイデア創出プログラム
約3ヶ月という短期間で、ユーザーリサーチやビジネスモデルの整理、プロトタイピングなどを実施。キックオフやアイディエーションワークショップは真庭市内で行い、市場調査やユーザーリサーチはオンラインで行うなど、オンラインとオフラインを組み合わせながら関係構築を図った。その後は、真庭市内でSetouchi Startups GP 藤田圭一郎氏によるメンタリングやビジネスモデルの整理を行い、プロトタイピングの構築を目指しました。
3.ピッチイベント
最後は、ピッチイベントを真庭のサステナブルの価値をより多くの人に知ってもらうための発信拠点施設「GREENable HIRUZEN(グリーナブルヒルゼン)」にて開催。イベントには真庭市長も参加するなど、地域内外に対してインパクトの大きいイベントとなりました。
Story
共感に基づくマッチングを目指した「真庭の未来につながる10個の問い」
真庭市ならではのビジネスアイデアを生み出すには、「SDGs」というさまざまなテーマを含有した抽象的な目標ではなく、実際の地域課題に向き合うことが欠かせません。また、ビジネスの実装まで辿り着くには、地元事業者と都市部の企業の間で強力なパートナーシップを構築することも大切です。
普段まったく異なる領域で活躍している双方が、共通の「想い」のもとにプロジェクトに取り組めるよう、本プロジェクトでは、地域の抱える社会課題をもとに「真庭の未来につながる10個の問い」という共通目標を設定。
この問いを設定するために、真庭市内でリサーチを実施。職業や年齢が異なる20名以上の方々からヒアリングを行い、さまざまな角度から生の声を集めました。その結果をもとに、真庭市の「強み・弱み」を抽出し、それぞれの相互関係を明確にしたうえで、多方面に影響を及ぼしているであろう重要な社会課題を、10個の問いとして言語化。地方事業者と都市部のプレーヤーがただ「ビジネス」を生み出すだけでなく、そのアイデアや活動が地域の課題解決につながることを目指しました。
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