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大学 Web Vol.1 ”自学らしさ”発見のアプローチ 開催レポート

企業サイトとは異なる難しさを持つ大学サイト。ロフトワークでは、そのあり方を考えるシリーズセミナー「大学Web」をスタート。2014年6月26日、“自学らしさ”の見つけ方をテーマに第一回が開催されました。スピーカー陣には、サイトリニューアルを経てさまざまな知見を得た大学の広報担当者を迎え、実際のプロジェクトを例に具体的なアプローチが紹介されました。

大学Webをコミュニケーションハブにして情報が価値を生む仕組みへ

あらゆる情報がオープン化され、ネットでできることが劇的に増えたいま、大学がリアルに存在している意味が改めて問われています。事例セッションを前に、大学サイトの今を俯瞰したロフトワークの矢橋友宏は、「情報を持つ人が強い時代から、情報をすばやく有効に使える人が強い時代へ。ここに情報がオープン化されることの意味や怖さがある」と指摘。

ロフトワーク 取締役 兼 CMO 矢橋友宏

つまり、「今まではクローズドな世界だからこそ感じてもらえていた価値が、“価値”として認識されにくくなっている」というのです。そこで重要になるのが、“自学らしさ”の追求であり、Webサイトがコミュニケーションハブになること。具体的には、Webに情報を集約していくと共に、広報と広告・宣伝の機能を組み合わせながら、ストーリーに基づいたベストな体験をユーザーに提供していくこと(質の高い情報の適材適所での露出)です。

ここで矢橋は、こうした戦略広報で成果につなげている事例を紹介。

●金沢星稜大学

第三者に注目されそうなアクティビティを意識的に企画。報道機関に情報発信していくことで、受け皿としてのWebサイトに人が集まる仕組みを実現。結果的に、訪問者にとって関心の高い情報がWeb上に蓄積されていき、直帰率が改善。大学のことをより深く理解してもらえるようになり、出願者数、最終的な志願者数も増加傾向。

●ロフトワーク

敢えて「営業しないWebサイト」というコンセプトで活動。セミナーやソーシャルメディアなど、日々の企業活動を通じてファンを増やし、「一回仕事してみたい」という気持ちを醸成していく。気長な作業ではあるが、広告費を2割も削っても商談数や受注数は増えており、売上も2割ほど増加。

最後に、これからの大学Webのあり方を次のように総括しました。

まとめ

  • Web の役割は「コミュニケーションのハブ」になること
  • 大学がよりオープン化することを受け、大学Webもオープンを志向すること
  • 広報とマーケティングを、ストーリーを持って連携させること

組織の枠を越えて“自学らしさ”を見つめ直す意義とは?

事例に学ぶセッションの1つ目は、埼玉に本部を置く聖学院大学。プロジェクトを担当したロフトワークの斎藤実帆が、聖学院大学の栗原直以氏、萩野紀之氏と共に、プロジェクトを振り返りました。はじめに、広報課の栗原氏は、聖学院大学における広報の課題と戦略を語りました。「3学部6学科、学生数は約2500人規模の聖学院大学は1999年のWebサイト立ち上げ以降大きなリニューアルを行っていませんでした。Webサイトからの情報発信に重点をおいてはいたものの、限られた予算の中でどのように情報発信を行うか。課題を抱えていました。」

聖学院大学 広報局 広報部 部長 栗原 直以氏

「予算が少ない中でゲリラ的な広報活動を展開するにあたり、ライブ感を大切にしている。息をするように書き、瞬きをするように撮る。日々の生活に広報することを沁みつかせている。」(栗原氏)

様々な外部メディアを活用し、Good Newsを発信するという聖学院大学の広報戦略

「大学はコンテンツの宝庫。学内にGood Newsを見つけ、外部に発信することが重要と考え、様々な外部メディアを活用しながら、積極的に情報を発信する戦略をとってきました。この戦略は一定の成果を産み、大学とは直接関係のないキーワードで検索した際に、結果が上位表示されたこともあります。しかし、このように学内外にあるGood Newsを集め、発信していく地道な活動を他部署に理解してもらうのは容易ではありませんでした。」と栗原氏。

「協力者が得られれば、もっと多くのGood Newsを集められるはず」と考えた聖学院大学はロフトワークに相談。担当の齋藤は、サイトリニューアルの要件定義にあたり、表と裏の2つのテーマでワークショップの設計を行うことからスタートしました。

「Good Newsをより集め発信し、さらにその活動を他の関係者にも理解してもらうために、まずは、「聖学院大学の“自学らしさ”を発見しよう!」という表のテーマを考えました。ただそれだけでは発見するだけで終わってしまうと思い、職員のみなさん自身に「聖学院大学の“自学らしさ”」「Good Newsの価値」に気付いてもらうという裏テーマ考えました。」と齋藤は語ります。

ロフトワーク クリエイティブディレクター 齋藤美帆

具体的なワークショップを設計するにあたり行ったのは、以下のプロセスです。

<ワークショップへのプロセス>

1)メンバー収集
複数部署から計12名を収集。

2)学生インタビュー
ターゲット像(受験生)を関係者間で共有するため、学生に受験生時代についてインタビュー。

3)ペルソナ作成
7名へのインタビューから得られた情報を集約し、1つのユーザー像を作成。

4)行動パターン作成
ペルソナ作成と併せて、学生の行動を時系列で整理。

<実施した2つのワーク>
ワーク1:聖学院大学の魅力を再発見する
3グループに分かれて、キャッチコピー「面倒見のよい大学」「入って伸びる大学」の具体的にどこがそうなのか、ペルソナに伝えるつもりで付箋に書き出す。

ワーク2:未来の施設を考える
「入って伸びる大学」であることが具体的に伝わりにくい。実感を持ってもらうにはどうすればよいかをブレスト。

聖学院大学 ワークショップの様子

ワークショップを行うにあたり、萩野氏は「いきなりワークショップをやります!と伝えてもなかなかポジティブなメンバーが集まらないと思い、事前に参加して欲しい人及びその上長に相談し、ワークショップに参加して貰えるようにお願いして回りました。」と語ります。

萩野氏の地道な活躍もあり、行われたワークショップでは、“自学らしさ”についてWebサイトの設計やデザインのヒントが集まった他、当日の参加者からも「部署が違うと視点も違って面白い」「大学全体の制度やシステムに関するアイデアや新しい企画を考えるきっかけとなった」など様々なフィードバックを得ることができました。また、「組織内に横のつながりが生まれるという副次的な効果もあった」と栗原氏は振り返ります。

聖学院大学 広報局 広報部 広報課 係長 萩野氏

同学のプロジェクトにおけるワークショップは、組織をまたいで“自学らしさ”を見つめ直す良い機会になったようです。

ワークショップのメリット

  • 限られた時間でアウトプットが出せる
  • 多様な意見が得られる
  • ステークホルダーとの共通認識を持つ

「言語化→分解→再構築」で“自学らしさ”を再発見

続く2つ目の事例は、現在リニューアル真っただ中の芝浦工業大学。“自学らしさ”発見の独自のアプローチが、同学の羽田朋弘氏、ロフトワークの小川友梨子による絶妙な掛け合いで紹介されました。

芝浦工業大学 経営企画部 企画広報課 羽田 朋弘氏

「ロゴを差し替えたら別の大学サイトになり得るような画一的なサイトにはしたくない。芝浦工大らしいサイトにリニューアルしたいとオーダーしたものの、いざ芝浦工大っぽさって何ですか?と聞かれると言葉に詰まってしまう」と羽田氏。

リニューアルの目的はブランディング。自学の魅力を発見し、Webサイトのコンセプトに落とし込み、見てくれる人に伝えることです。そこで、プロジェクトは“自学らしさ”を追求することからスタートしました。

ロフトワーク クリエイティブディレクター 小川友梨子

「一人で考えてもわからないなら、みんなで考えてみようということで、2つのワークショップを設計しました」と小川。“らしさ”を発見するフローは『言語化→分解→再構築』、期待されるワークショップの効能は『具体化・再発見・合意形成』です。

 

<ワークショップ1:“らしさ”の言語化>

概要:芝浦工業大学“らしさ”を考える
目的:芝浦工業大学の魅力・売りを端的に伝えるアピール文を作成する
内容:最大の長所、市場分野、競走相手、際立った差別化要因、顧客ニーズの5つの観点から魅力を洗い出し、その魅力を端的に伝えるアピール文を作成。

 

“らしさ”の言語化=>まっすぐ、真面目、ストイック、真摯

ワークショップ1:“らしさ”の言語化のプロセス

「みんなで考えてもやっぱりここに落ち着くんだということを再確認でき、自信を持ってこのキーワードを使っていこうという流れができた。」(羽田)

 

<ワークショップ2:“らしさ”の分解と再構築>

概要:イノベーティブなWebサイトを作るためのコンセプトを考える
目的:「まじめさ・ストイックさ・まっすぐさ」を魅力的に伝えるためのヒント、イノベーティブなWebサイトを作るためのヒントを得る
内容:「まじめさ・ストイックさ・まっすぐさ」がかっこよさにつながっていると思うモノ、ヒト、コトを1人10個以上写真付きで投稿するという宿題が出され、各自が選んできた画像をプレゼン。投票で得票数の多かったビジュアルから想起される言葉を書き出し、さらにカテゴライズして言語化。

 

再構築された“らしさ”=>シンプル、機能的、普遍/不変、重圧感、計算/数字、集合、上質、手づくり、疾走感/推進力

 

「『まじめさ・ストイックさ・まっすぐさ』という言葉から考えただけでは、これらのキーワードは出てこなかったはず。これが芝浦工大の魅力を表した言葉だろうという合意形成ができた。」(小川)

ワークショップ2:“らしさ”の分解と再構築のプロセス”

そして今、再構築された“らしさ”に基づいて、機能やコンテンツ、情報設計、デザインを考え、サイト構築へと昇華させる段階に入っています。コンセプトは見るサイトから使うサイトへ。キーワードから連想される要素を散りばめた、こだわりのサイトが完成しつつあるようです。

 

小川は、最後にもう一度“らしさ”を発見するフローに触れ、「今見えているものを敢えて壊し、そこから新しいものを再構築すると、再発見がある。さらに、一人ではなくみんな考えると広がっていく」と強調しました。

 

セッション終了後は、ロフトワークの君塚美香をモデレーターに、パネルディスカッションを実施。芝浦工業大学の羽田氏、ロフトワークの矢橋に加え、産業能率大学の村山滋氏、聖学院大学の山下研一氏を招いて、Webの効果的な運用、ソーシャルの活用、学内調整のノウハウなどをざっくばらんにディスカッション。難しさの多い大学Webも、アプローチ次第で道が開けることを知り、最初から最後まで登壇者から元気をもらえるセミナーとなりました。

産業能率大学村山氏 芝浦工業大学羽田氏 聖学院大学山下氏
パネルディスカッションの内容メモ

戦略的広報とWebの役割をさらに深堀りするイベントを開催!

イベント概要

教育機関、特に大学は、多様なステークホルダーに向けた情報発信が必要で、メディアも多種にわたります。Webだからこそ伝えられる自学の価値とはいったい何でしょうか?そこで、ロフトワークでは、大学サイトの在り方を考えるセミナーシリーズ「大学 Web」を開催していきます。

第一回目のテーマは「自学らしさの見つけ方・つくり方」。聖学院大学 松崎氏、芝浦工業大学 羽田氏をお招きし、「自学らしさ」の発見と情報発信、さらにその裏側にある教員の方々の協力を得るための学内調整などをご紹介いただきます。

会の後半では、学校広報ソーシャルメディア活用勉強会(通称GKB48)から、聖学院大学 山下氏、産業能率大学 村山氏にもご参加いただき

・Webサイトの運用体制、意思決定プロセス、予算
・広報に情報が集まる仕組み作り
・情報過多の現在、読まれる情報発信の仕方

などをテーマに会場の皆さんも交えディスカッションしていきます。
大学のWebサイトに課題を持っている方、自学らしい情報発信をされたい方は 必見のセミナーです。

開催概要

セミナータイトル 大学 Web Vol.1
 ”自学らしさ”発見のアプローチ
開催日時 2014年6月26日(木) 14:00~17:10(開場13:30~)
場所 loftwork Lab(ロフトワーク10F)
[ 〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア10F ]
地図
対象 ・教育機関の広報担当者/Web担当者
・Webリニューアルを検討中の方
・ユーザ視点でのサイト設計に関心がある方
参加費 無料
定員 40名
主催 株式会社ロフトワーク
ご注意 ※プログラムは、予告なく変更される場合があります。
※個人、同業のご参加はご遠慮いただく場合があります。
※当日の参加者の皆さんのお写真は、後日公開するレポートなどに掲載させていただきます。
※ご記入いただいた個人情報は、株式会社ロフトワークおよび、共催企業のみで共有し結果の分析および、ご案内以外では利用いたしません。

プログラム

14:00~14:30
大学サイトの今
・大学サイトの役割
・企業サイト、大学サイトの違い/共通点
・広報/マーケティングの課題
14:30~15:15
Case-1 聖学院大学
・”大学らしさ”発見のアプローチ
-ワークショップの紹介
-ユーザ(学生)インタビューの紹介
・サイト設計
-ロフトワークとのプロジェクトのプロセス
-ステークホルダーとの調整方法

学校法人聖学院 聖学院大学
広報局 広報部 広報課
松崎 綾子氏

15:15~15:25
休憩
15:25~16:10
Case-2 芝浦工業大学
・”大学らしさ”発見
-ワークショップの紹介
-エレベーターピッチ、コンセプトメイキング ユーザ視点でのコンテンツ設計
・大学サイトの役割
-芝浦工業大学のケース:「見る」サイトから「使う」サイトヘ
-情報設計のポイント

学校法人芝浦工業大学
経営企画部 企画広報課
羽田 朋弘氏

16:10~17:10
パネルディスカッション「オウンドメディアとしての大学Webサイト~「伝える」から「伝わる」へ」
・Webサイトの運用(運用体制、意思決定、予算等)
・広報(Web担当)に情報が集まる仕組み
・質の高い情報発信・・・情報洪水の中で、いかにして見つけて(読んで)もらうか

学校法人芝浦工業大学
経営企画部 企画広報課
羽田 朋弘氏

学校法人聖学院 聖学院大学
広報局長
山下 研一氏

学校法人産業能率大学
企画広報部長
村山 滋氏

17:10~19:00
懇親会

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