こんにちは、浦野です。

「バイオテクノロジー」という言葉だけ聞くと、以前はすごく限られた分野にしか関わらない技術だと思っていました(食品や医療品、繊維製品など)。 今、方々で「今バイオこそ注目すべき技術だ!」と言われています。でもそれはなんでなんだろう?

そんな疑問を持ちながら、先日、NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)のバイオテクノロジーセンター(NBRC)を見学しました。NITEは、経済産業省のもとに設置されている行政執行法人として、製品や化学物質などの評価や審査などを行っている機関で、今回伺ったNBRCは、NITEの中でもバイオテクノロジーを専門とする部門。世界中でバイオテクノロジーが注目されている昨今、日本の現状や世界の動向、今後の展望などについて、経済産業省の方のお話も伺えました。

バイオテクノロジーセンターは千葉のかずさアークという場所にあります。都心から高速バスで1時間程度。今回はMIT Media Labの日本メンバー企業の方とバスツアーを組んで見学に伺いました。

菌は国家間で取引されている

まず最初に、所長の木井さんにバイオテクノロジーセンターの役割や取り組みについてご説明いただきました。

お話の中で、個人的に興味深いと思ったのがこれです。菌の取引状況を示した図。

生物多様性の確保を図るため、1993年に生物多様性条約が結ばれてから、菌も資源と定義され、海外の菌に自由にアクセスできなくなったとのこと。そこで、二国間協定というものを国家間で結び、菌の取引をしているそうです。とはいえ、ロイヤリティービジネスで利益配分が複雑なので、あまり海外の菌に手を出さないことが多いとか。また、人間は自由に移動しているので、うっかり菌が付いてきちゃうこともあるとか…。

参加者の方の中で「世界中の菌が可視化されたら面白いですよね」とおっしゃってる方もいましたが、たしかに、情報がオープンになって、企業や個人単位で活発にトレードできる社会になったら、想像力や可能性も広がりそうです。

人1人のゲノムを読むのに3000億円→10万円!

経済産業省バイオテクノロジー担当課の西村課長からは、今世界のバイオテクノロジーの動向と今後の展望についてお話しいただきました。
※当日お見せいただいた資料はこちら。詳細資料はこちらをどうぞ。

ここ数年、急激にバイオテクノロジーが注目されています。その背景にあるのは、各遺伝子技術の超低コスト化。たとえば、1990年当時、人1人のゲノムを読むのに3000億円かかっていたのが、今は10万円!解析に必要な時間も1990年当時は13年かかっていたのが、今は1日で完了!!。もう個人でも何かできてしまう時代。今まで足を踏み入れられなかった業界にも参入するチャンスが生まれているそうです。具体的には、医療のほか、工業、エネルギー、農畜水産業などで開発が進んでいるとのことでした。

「個人が面白がっているものに企業が注目すると、新しいものを生み出していけるんじゃないかな?」と、経済産業省バイオ小委員会の委員も務めるロフトワークの林。「実際、デジタルファブリケーションでも、バイオテクノロジーの世界でもベンチャーはたくさん生まれてる。横断的なプロフェッショナルが協業できるような場所があるといいね」とメッセージを伝えていました。

参加者との質疑応答を経て、いざ施設見学へ!

抗生物質は菌からつくられる

これは、放線菌というもの。種類がとても多くて(何千種類もあるらしい)、抗生物質を生み出す可能性がある菌が一番多いのだとか。ここでは、あらゆる放線菌をひとつひとつテストして、抗生物質を生み出すものかどうか探しているんだそうです。気が遠くなる…。

バイオエタノールも菌からつくられる

こちらは微生物酵素の研究をしている部門。植物からバイオエタノールを作っているそうです。今、環境にやさしい燃料として、バイオエタノールの価値が上がっていますが、まだまだコストがかかります。技術だけいえば、すでに作れるものの、産業化するためにはコストを下げる必要があるということで、最も安く、効率よく分解できる酵素を探しているんだそうです。

藻から油をつくる

次は藻から油を作りだす施設で、これは藻を培養する装置。もっとメカニックな機械をイメージしていましたが、コスト的に内容はシンプルで楽にできるものにしたほうが良いとのこと。小学校の時の水槽のにおいが満ちていました。

ちなみに、いくつかの設備で、繰り返しコストの話が出ていたのが印象的でした。大学の研究機関とは少し違い、あくまで産業化/実用化が前提にあるからなのかな、と感じました。

光る菌、鉄を腐らせる菌、メタンをつくる菌…

こちらは特殊な性質をもつ菌を扱っている部門。超高熱エリアで生きる菌、光る菌、鉄を腐らせる菌、メタンを作り出す菌などなど…。私も光る菌を見せてもらいました。「光る」って無条件にわくわくします。あと、研究者の森さんの菌への愛が伝わってきて、わくわくしました。

バイオの研究者は職人らしい

最後は、微生物の種類を即座に同定(判定)する機械。バイオテクノロジーとはいえ、職人の世界なんだとか。今までは、研究者のカンで「むむむ、ここが怪しいぞ」と見ていた部分も多かったそうですが、こういう判定する技術ができたことで、職人技に頼らない方法も発展してきているそう。バイオテクノロジーの研究者って職人なんですね。

今回見せていただいた施設に共通して感じたのは、どれも怖くないし、すごく地道で地に足の着いた研究ということ。正直、アメリカのSF映画の世界みたいなものを想像していました。多分それは、今までバイオがなんとなく遠くてちょっぴり怖いイメージがあったから。でも、バイオに接する機会が増えて、個人レベルで生活の中でバイオテクノロジーを扱う世界になったら怖くなくなるのかも、と思いました。わたしも、キッチンや家庭菜園でバイオを扱う日がそう遠くない未来に来るのかもしれません。

あと、もう一つ印象的だったのは、職員や技術者の方々が口々に、「異業種の方ともっと関わっていきたい」とおっしゃっていたこと。個人的にも関われるチャンスには積極的に関わっていきたいと思う機会でした。

バイオに興味をお持ちの方、多彩な業種のプロが集まり、バイオの可能性を探るクラブ、BioClubにもどうぞ。

 

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浦野 奈美

Author浦野 奈美(マーケティング/ SPCS)

大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

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昨年度滞在制作作品が多数の映画祭で入賞。
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