紙オムツ問題は、誰もが関わる問題。産官学で拓く未来。
「Deasy Conference Vol.1」
こんにちは!ロフトワークPRの尾方です。ロフトワークがサポートしている国土交通省とDeasy委員会*主催の「下水道への紙おむつ受け入れに向けた連絡会議「Deasy Conference Vol.1」に参加してきました。
オムツメーカー、住宅メーカー、下水処理施設、研究所の方々など、様々な分野の方が集まったこのイベント。参加者を交え、今後のアクションについてディスカッションした第二部は多くの意見が飛び交い大盛り上がり!今後の活動に向けて勢いづく、価値ある場になったと感じました。
多くの方にこの課題や取り組みを知ってもらうこと、このカンファレンスの動きを加速させることがより良い未来への一歩に繋がるという想いも込めてイベントのレポートをお届けしていきます。
*Deasy実行委員会:下水道と住宅関連の女性エンジニアによる「下水道・LIFE・えんじん研究会報告書」の提案実現を目指して活動する委員会。 http://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo13_hh_000401.html
開発から下水道受け入れまで。オムツの課題と現状。
第一部では、下水道への紙オムツの受入に関わる様々なステークホルダーが、具体的な取り組みや、今後検討していくべき視点などを共有。
[登壇者とテーマ]
紙オムツの実態や開発状況について
|日本科学未来館 科学コミュニケーター 伊達 雄亮氏
紙オムツ処理にまつわる最新の取り組みについて
|パナソニック株式会社松田 源一郎氏
|株式会社リクシル 福本 克久氏
紙オムツの下水道受け入れ現実に向けた検討について
|国土交通省 阿部 千雅氏
人生100年時代の地域づくりに向けて
|内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 伊藤 明子氏
紙オムツの実態と開発状況
まず「紙オムツの実態や開発状況」をテーマに、過去にオムツ開発に携わった経験のある日本科学未来館の伊達氏が登壇。利用者の状況・ニーズ、オムツの素材構成や開発状況など、オムツに関する様々な情報を提供。
自然環境に優しい紙オムツの開発には、現在使用されている素材の中でもポリマーとバックシートが課題。ポリマーほどの吸水性とコストを実現できる素材が見つかっていないことや、どういう設計にすると良いかもはっきりわかっていない状況であるため、開発コストが高くなっている。という課題の共有もありました。
紙オムツ処理にまつわる最新の取り組みについて
次に「下水道受け入れに向け、使用後の紙オムツをどう処理できるとよいのか」というテーマで、パナソニックの松田氏、リクシルの福本氏が現在取り組んでいる「紙オムツ処理装置」の実証事業の経過を報告。
現在、介護施設での装置導入を想定して実証実験中。
100床ほどの規模の介護施設だと、150kg〜200kg/日の紙オムツを保管、処理しなくてはならない状況。使用前の紙オムツは約50gだが、使用後は約300g〜500gの重さになる。それが100床分となると、かなりの量。この量を毎日運ぶのは、重労働であること、保管するとなると臭いの問題も生じるといった課題が共有された。
今回の実証実験では、2つのモデルが取り組まれいる。
1つは、「紙オムツと汚物を分離させる装置」を活用したモデル。使用済み紙オムツを分離装置に入れ、紙オムツのみ取り出し、排水は下水へ。紙オムツは回収し、燃えるゴミとして処理する。介護者がゴミを捨てにいくという作業は残るが、重量はかなり減る。保管時の臭いも軽減される。
もう1つは、「紙オムツを破砕後、分離させる装置」を活用したモデル。装置に入れてしまえば、紙オムツが粉砕され、紙オムツ成分と、し尿とに分離し処理できるようにする。こちらも分離することで、紙オムツ自体の重量が軽くなる。かつ介護者がゴミを捨てに行くという作業もなくなる。
実際に処理機で分離することに成功していることや、処理済みの紙オムツは、重量が使用後の約300gの1/3ほどの100g未満に減量できていることなど、具体的な成果も報告。2019年内に実際に施設でテストを開始できるよう開発を進めているそう。
下水道受け入れに向けた紙オムツ処理方法の詳細や、実証実験のロードマップなどは以下のリンクに詳しく説明があります。ぜひご参照ください。
紙オムツの下水道受け入れ現実に向けた検討。国の課題から見た本取り組みの社会的意義
そして「紙オムツを受入れる下水道」の情報提供として国土交通省の阿部氏が登壇。本カンファレンスが開催されるキッカケである国土交通省が進めている「下水道における紙オムツの受入実現に向けて」の経緯や活動の紹介、下水道の歴史的背景や、インフラとしての可能性についても言及。
また紙オムツ処理の過程で出る排水に対して、下水道での受入条件などの内容をまとめた「下水道への紙オムツ受入に関するガイドライン(案)」が公開になったことも報告。
最後は、「人生100年時代の地域づくりに向けて」という題で内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 地方創生総括官補佐 伊藤 明子氏が登壇。「長寿命化と高齢期の長期化」「人口減少」「海洋プラスチック問題」といった今の日本を取り巻く課題から見た、今回のプロジェクトの社会的意義という観点で話がありました。
様々な立場が集まるからこそ深まるオープンディスカッション
第二部では、チームに分かれて第一部で共有されたことも踏まえ
「今日の発表を聞いて魅力に感じたこと」「これからの挑戦」というテーマで参加者の方々とディスカッション。
ファシリテーターは、ロフトワークでクリエイティブディレクターを務める桑原 季が担当。
普段からプロジェクトでオープンディスカッションやワークショップのファシリテーターを勤めています。今回も参加者が意見を出しやすい場づくりをサポート。
「下水道に流すという取り組みが進んでいることを実感した。実現は非常に近いのではないかと感じた」
「介護施設導入の実証実験だけでなく、ごみ収集業者、ゴミ処理施設など含めて社会実験していけるといいのではないかと思う」
「これまで要介護者に向けて商品を考えてきたが、元気に活動できるアクティブシニアの方が、紙オムツを捨てられないためなかなか外に出られないという状況をあることを知った。様々なところに導入が進むことで、アクティブシニアの方が自由に外を出歩けるような世界を作っていけたらと思った」
「素材的なところで別のアプローチができないか。オムツの素材を作るメーカーとして、そのまま流しても紙オムツが下水で自然に処理できちゃう!みたいなところをチャレンジしていけたら」
「様々な立場の方と対話するなかで、下水処理メーカーは暮らしとの関わりが見えにくいという反省があると思った。
いつもの会議室ではなくこういったオープンな空間でやることもいいものだなと思った。これからもこういう活動継続的にしてほしい。日本全国版も是非やってほしい」
「18年くらい前に、父がなくなった。オムツを履くのを嫌がっていた。オムツの問題は、人間の尊厳に関わることなんだと感じた。この経験があって、この課題に関しては取り組むべきだと強い想いを持って参加している」
「高齢化の波は、多くの国がこれから直面する課題。この紙オムツの課題への取り組みは、日本初世界モデルを作れるプロジェクトになりうるはず」
様々な立場の方が参加することで、今まで考えつかなかった視点や気づきを得ることができ、課題解決に繋がる糸口が見つけられる可能性が高まること。想いを持ったメンバーが集まることで、更なるエネルギーがを生まれることを感じる場になりました。
最後は、園田実行委員長からの
「多くのご意見頂けたり、活動をみなさんに広く知ってもらえて頂けたことが嬉しい。1+1=2じゃない。3や4になる。
いろんな人を巻き込んで、社会実験をやろうよ。という声も出た。様々な人にこの取り組みを知ってもらい、いいところ悪いところを出し合う。これからもこういう場つくっていきます。これからも応援してください。ありがとうございました!」
という熱いメッセージで今回のカンファレンスは締めくくられました。
今回のカンファレンスは、スタートライン。紙オムツを取り巻く課題を解決していくことは、人間の尊厳を守ること、より豊かな未来を築いていくこと。実現に向けて、今回の高い熱量を持って引き続き活動を続けていきます!
日本が向き合う課題にデザインの力で貢献
日本はこれから紙オムツの問題だけでなく、少子高齢化社会を迎えるにあたり様々な課題に直面し、解決する力が求められます。
ロフトワークでもこれまでに経済産業省の委託業務「平成28年度産業技術調査事業(社会課題及び技術シーズを起点としたビジネスモデルの構築に係る調査)」に基づき「高齢化・高齢社会」をテーマにした東京・吉野・成都(中国)3都市でのデザインリサーチを実施。高齢化が引き起こす諸問題の解決に寄与することを目指し報告書をまとめました。
「課題先進国」と言われて久しい日本。今、日本が率先して「課題解決」の先進国としてソリューションを提示することは、地球規模の課題解決に寄与することであり、新たな産業創出にもつながります。今回のDeasyの取り組みだけでなく、これからも日本が向き合っていく課題へデザインの力で貢献していきます。
PRとして引き続き、ロフトワークが取り組む様々な課題やそこで得た知見や気づきなど発信していきます。