ASUSの強みを生かし、新製品の種を見つける
6週間の集中イノベーション・プログラム
Outline
自分たちの強み、スピード感を生かしたプログラム設計
ユーザーによりよい体験を提供するための技術革新と、トレンドを生み出すスピード感、そして機能と価格の合理性も追求するASUS(華碩電腦股份有限公司)。2019年4月からロフトワークと共に、新製品開発プロジェクトを始動。自社の強みである高い技術力と製品化へのスピード感を生かしながら、ユーザー視点で新製品をデザインする集中プログラムを実施しました。
“新たなモバイル・エクスペリエンスをデザイン”する
ASUSはスマートフォン、ノートパソコン、タブレットなどのモバイル分野で大きく成長してきました。しかし一方で、製品カテゴリという縦割りの考え方に陥りやすいという課題がありました。生活者の視点から考えると、モバイルデバイスは生活や趣味などの目的を達成するツールです。カテゴリを越えて、生活者視点から徹底して考えることで、今までにない用途、デザインや機能が求められいることに気付けるのではないか?「問いのリフレーミング」からプロジェクトは始まりました。
プロジェクト設計 / プロジェクトリードを担当したロフトワーク台湾の藤原が、台湾・日本の2拠点で行ったプロセスと触覚デザインの専門家から得られたUIデザインの知見を紹介します。
プロジェクト概要
クライアント
- ASUSTeK Computer Inc. (華碩電腦股份有限公司)
支援内容
- デザイン・リサーチ集中プログラム設計
- 新製品コンセプト開発サポート
- クリエイターワークショップ実施
プロジェクト期間
- フェーズ1: 2019年4月〜5月 (6週間)
- フェーズ2: 2019年6月〜7月 (3週間)
体制
- プロデューサー / プロジェクト責任者:Tim Wong (ロフトワーク台湾 Co-founder)
- プロジェクト設計 / プロジェクトリード:藤原悠子(ロフトワーク台湾 シニアクリエイティブ・ディレクター)
- ワークショップサポート:陳 品樺、葉博允(ロフトワーク台湾)
Process
プロジェクトを2つのフェーズに分けて実施。
フェーズ1では、台湾の生活者のリサーチからアイデアを生み出し、プロトタイピングまでを目標にしました。フェーズ2では日本でのワークショップを通じて国外の視点からプロトタイプをアップデートすることを重視しました。
フェーズ1: リサーチからプロトタイピングまで。6週間の集中プログラム
デザインリサーチのメソッドを基本にしながら短期にプロトタイピングまで行うことを目標に全体プログラムを設計。企画、UXデザイン、ハードウェア・エンジニアリングなど異なるスキルセットを持った20人の社内メンバーが参加。デザイン分野が得意とするユーザー体験を重視した思考と、エンジニアリング分野が得意とする実現可能性や実装方法の検討。その両方の強みを活かすチーム編成とプログラム設計で、1週間に2度のワークショップを行い、その間に課題も平行して行うなど濃密な6週間となりました。
プログラム概要(フェーズ1)
WEEK_1 : 初期仮説 / 問いのリフレーミング / ユーザーインタビューガイド準備
WEEK_2 : ユーザーインタビュー / 仮説のアップデート / ペルソナ策定
WEEK_3 : 1st アイディエーション・ワークショップ &プロトタイプ
WEEK_4: 2nd アイディエーション・ワークショップ &プロトタイプ
WEEK_5: ユーザー・ジャーニー・マップ / 最終プレゼンテーション
WEEK_6: フェーズ2 に向けた準備
「問いのリフレーミング」とは、現状の固定概念を崩し本質的な課題を捉えるための「レンズ」を手に入れるために行います。
今回のプログラムでは、1980年代に初めて”ノートパソコン”が販売された当時と近未来の二つの時代を比較して、生活者のモバイルデバイスに対する概念の変化やユーザー像の変化など、既成概念を広げる問いを設定しました。プロセスが進んでいく中で、ユーザー視点を離れて既存製品の高スペック化のようなアイデアに寄ってしまうなど、煮詰まる場面もありましたが、繰り返しプレゼンテーションとフィードバックを行うことで、最終プレゼンテーションには生活者のニーズをとらえた今までにないプロトタイプを提案することができました。
トップマネージメントへのプレゼンテーションを行い、4つの製品アイデアがフェーズ2に進みました。
フェーズ2: 言葉の壁を超えて、日本人クリエイターと共にコンセプトを検証
製品アイデアをブラッシュアップするために、日本人クリエイターとの2日間におけるワークショップを渋谷のFabcafe MTRLで開催しました。
このプロジェクトのために、ASUSからは全ての部門(UXデザイン、エンジニアリングなど)の精鋭メンバーが参加。一方、外部からはビジュアルアーティストや起業家などを招待し、ASUSの専門分野とは異なる視点で議論できるようチーム編成をしました。両者にとって、文化、思想、専門分野の違いを越えて議論を積み重ねる濃密な体験となりました。
WORKSHOP DAY_1 :製品アイデアのコアを見直す
- ターゲットユーザーの視点から製品アイデアを見直す
- 製品アイデアのコアとなる価値と機能を再定義する
- それらの機能がもつ新たな可能性を考える
WORKSHOP DAY_2 :ユーザーシナリオによって体験全体をデザインする
- ユーザーの生活のなかに製品が馴染み、どう役に立つのか?を「線」として見直す
- デザイン、UIを見直し、スケッチやプロトタイプを制作する
インプット・プレゼンテーション紹介
DAY1:渡邊 恵太氏 (明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科専任講師/ 「融けるデザイン」著者)
渡邊氏の著書「融けるデザイン」では、IoT(Internet of Things)が生活者の日常にとけ込み、無意識で使ってしまうようなユーザー体験やUIの重要性を提示しています。
当日のプレゼンテーションで強調されていたのが「Approachability (アプローチャビリティ)」という考え方。ほとんどの製品は使用されてていない時間(待機時間)の方が長いからこそ、その製品がユーザーにとって使い“始めやすい”位置にあることを意識してデザインされているか?また使い始めのユーザーの文脈や状況が考慮されたUIデザインになっているか? UI=ユーザーが使用している間のユーザビリティを考えがちですが、渡邊先生は「人は、製品が使えるからといって、使うわけではない」と強調されていました。製品をつくる側にいると、主語が製品になってしまい、製品としては「使える」けれど、ユーザーにとっては使いたいとは思わない製品になってしまう。自分たちの製品アイデアの主語が「人」になっているのか、自分たちの議論を批判的に見直すために、多くの示唆をいただきました。
DAY2:南澤孝太氏(慶應義塾大学 メディアデザイン研究科教授)
触覚などの身体的な経験をデータで再現することで、ほかの人と経験を共有することのできる「ハプティクス(力触覚)」を研究され、その技術や価値を考えるコミュニティ「Haptic Design」を主催する南澤氏。
「触覚デザインの難しいところは、実際に体験してもらわないと価値がわかりにくところ」と南澤氏が話す通り、当初参加者の中で「Haptic Design」について知っていたのは1/3くらいのみでした。身体の感覚をハックするとは?と言葉だけでは理解できない様子の参加者でしたが、実際に「TECHTILE」をデモで体験させてもらった瞬間に「これは、すごい!」と笑顔に。南澤氏は「データの精度を上げること以上にこの触覚デザインによって、誰にどういう価値を提供するのか、どういう新しいビジネスにつながっていくのかを分野を超えた職業の人たちと一緒に考え、エンターテイメントや社会課題の解決など、様々なフィールドで触覚や身体感覚を取り扱える人々が増えていくことが重要。」とおっしゃっていました。
まとめ
ワークショップの最後のプレゼンテーションでは、台湾で生まれた製品アイデアが様々な人たちに「揉まれる」ことでより明確な芯を持ったコンセプトに成長していたのが印象的でした。プロセスをオープンにし、より多様な視点を取り込むことで新たな機会領域でのものづくりを試みること。国境を越えたオープン・コラボレーションが生み出す熱量と確かな可能性を確認することができました。
Member
藤原 悠子
株式会社ロフトワーク
シニアクリエイティブディレクター
陳 品樺
ロフトワーク台湾
コミュニケーションマネージャー
メンバーズボイス
“ロフトワークを私たちのクリエイティブパートナーとして迎え入れ、ユーザーとのエンゲージメント、特にアーティストやクリエイターをプロセスに巻き込めたことが大きな収穫でした。プロジェクトの過程で多くのことを学びましたが、とくにメンバーのインスピレーションを刺激するワークショップ設計やインプットは、固定概念の外からの発想(Out-of-box thinking)をもたらしてくれました。また、東京でのワークショップでは日本のクリエイターやFab Cultureを深く知る、よい経験になりました。ASUSはこれからも、創造的な人々に最高のデバイスとその体験を提供することをミッションとしています。今回のワークショップは私たちにとって重要なプロセスであり、ロフトワークの支援に感謝しています。”
ASUSデザインセンター 蔡 敦仁
“短期間で多くの情報を吸収しながら、同時にスピード感を持って形にする。そんなASUSメンバーの柔軟な姿が印象的でした。クリエイター・ワークショップでは、日本人クリエイターとの間に言葉の壁がありながらも、議論の内容を欠かさずメモし、常に実際に商品化する前提で議論を行う。そんなパワフルなASUSメンバーに私自身も多くの刺激をもらいました。今回の製品コンセプトが実際の製品化へ進み、さらに今後もASUSと日本のクリエイターたちとの繋がりが続くお手伝いができればと思っています。”
ロフトワーク台湾 シニアクリエイティブ・ディレクター
藤原 悠子
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