今、芸大で学ぶ意義とは?
学びと社会の繋がりを伝える広報
Outline
タグラインに大学の価値観を込め、学びの特徴を伝えるパンフレットを制作
名古屋芸術大学(以下NUA)は北名古屋市に位置し、2学部2学科5領域(2021年4月時点)からなる芸術系総合大学です。NUAでは芸術家として活躍する人材を育てること、また芸術の軸を持ちながら他分野をかけ合わせた仕事をつくり出せる人材を育成することに重きを置いています。
若年層の人口減少が進む昨今、受験生を獲得していくためには、今まで以上に他大学との差別化が必要です。広報チームは、大学のブランド力を高め、若者への認知を拡大していくにあたり、何を打ち出していくべきか戦略に迷いがありました。
そこで2019年、NUAとロフトワークは大学の魅力や特徴を共通言語として醸成し、組織に根付かせ広めていくために内部リサーチを実施。コンセプトを検証するとともに、NUAの特徴を言語化しました。
広報施策の第一弾として、毎年制作が必要な大学パンフレットから着手。ロフトワークはリサーチ結果をもとに、学内の指針となる価値観を言葉に落とし込み、タグラインとメッセージを制作しました。
また、NUAでは何が学べるのか、社会で学びをどういかせるのか、学びの特徴についてポイントを絞り言語化しています。このプロセスでは、NUAの教員と有識者による対話の機会をコーディネイトし、「学内・業界・社会」という3つの視点でNUAの特徴について再評価することで、NUAの学びと現代社会との接点を明らかしました。
受験生に届けるための施策として、一般大志望の学生からも興味を引くよう、ターゲットに合わせて表紙のカバーを着せ替える工夫をしました。
撮影:成田 舞(Neki inc.)
プロジェクト概要
- 支援内容
プロジェクト設計、情報設計、紙面デザイン、インタビューコンテンツ制作、校正・入稿 - プロジェクト期間
2020年1月〜5月 - 体制
・クライアント
名古屋芸術大学
・デザイン
坂田 佐武郎:Neki inc.
・ライティング
土門 蘭:小説家
・ディスカッションパートナー
臼井 隆志:株式会社ミミクリデザイン・Director・Art Educator
林田 直樹:ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家
矢津 吉隆:美術家/kumagusuku 代表
浅野 翔:デザインリサーチャー
福田 敏也:777CreativeStrategies 代表取締役
・ロフトワーク
堤 大樹:クリエイティブディレクター
吉田 真央:プロデューサー
藤原 里美:プロデューサー
Outputs
名古屋芸術大学 大学案内2021
タグライン/メッセージ
MAKE JUST ONE
自分だけの「道」をつくる場所
かつて、今ほど複雑多様で変化の多い時代はありませんでした。
どんなふうに、どこへ向かって、どのように生きていけばいいのか。
今私たちは、正解のない時代を生きています。
言い換えれば、すでにある「答え」を見つけるのではなく、
新しく「答え」をつくる時代であるということ。
変化に寄り添い、学び、考え、解釈しながら、
「答え」をアップデートし続けることが求められています。
名古屋芸術大学は、あなただけの「答え」をつくる場所。
専門性を深め、領域を超え、さまざまな人に出会う場所です。
ここには「答え」はありませんが、たくさんの選択肢が存在しています。
たくさん迷い、たくさん考え、たくさん経験してください。
そして誰のものでもない、あなただけの「答え」をつくり出しましょう。
Points
虫の目・鳥の目・魚の目で問い直す
リサーチフェーズでは学内インタビューを通じて、大学強みや魅力・領域の特徴を言語化しました。しかし、学内での議論だけでは、多様な社会との接点には気づきにくいものです。リサーチ結果を補強するために、NUAの学びが現代社会においてどのような価値があるのか、専門家の視点を取り入れ各領域の特徴について問い直すアプローチを取りました。
パートナーには各領域で活躍する有識者5名を迎え、大学教員との対話の場を設けました。芸術とは何か、デザインとは何か、教育とは何か。皆で改めて視点をすり合わせ、丁寧に定義し、それを各領域の文章に落とし込みNUAの学びの特徴として表現しました。
多くの競合校がいる現代社会では、大学側からの視点だけで強みや特徴を伝えても、受験生には違いがわかりにくいのが実情です。「虫の目」=NUAと学生を理解する学内の視点、「鳥の目」=他大学の案件も手がけ広く比較できるロフトワークの視点、「魚の目」=時代の潮流を知り、社会との繋がりを示すことのできる有識者の視点、3つの視点から捉えることで、学生にNUAで学ぶことの意義を多角的に伝えられると考えました。
ディスカッションパートナー
- 子ども発達学科:臼井 隆志さん(株式会社ミミクリデザイン Director・Art Educator)
- 音楽領域:林田 直樹さん(ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家)
- 美術領域:矢津 吉隆さん(美術家/kumagusuku 代表)
- デザイン領域:浅野 翔さん(デザインリサーチャー)
- 芸術教養領域:福田 敏也さん(777CreativeStrategies 代表取締役)
新たなユーザー層に認知を広げ、リアルな質感を届ける
ターゲットにあわせた着せ替えで認知を拡大
芸術学部を志望する学生と、こども発達学科を志望する学生ではターゲット層が違います。そのため、こども発達学科の認知拡大については課題がありました。そこで、通常の表紙にデザインの違う帯を被せることで、芸術大学に対し敷居が高いと感じる一般大学志望の学生にも関心を持ってもらえるよう工夫しました。
大学の合同説明会などでパンフレットを陳列する際や、手渡しや紹介ができない機会でも、「保育」の現場を志す人がパンフレットの表紙を見ただけで、直感的に「自分にマッチする大学だ」と認知することができます。
広い視野で学ぶ環境を伝えるビジュアル
人物によった写真だけでは生活の様子や他大学との環境の違いが伝わりにくいため、パンフレットには学ぶ環境・キャンパス・大学周辺の様子や人々を、広い視野で捉えたビジュアルを意図的に配置しています。
大学が持つスケールと質感をリアル伝え、受験生にNUAに通うイメージを醸成させる狙いです。
Member
土門 蘭
小説家
坂田 佐武郎
Neki inc.
デザイナー
堤 大樹
株式会社ロフトワーク
シニアディレクター
吉田 真央
株式会社ロフトワーク
プロデューサー
メンバーズボイス
“今回の大学案内作成において、一番重視したことは、名古屋芸術大学ならではの魅力・特長の掘り起しでした。
大学案内の制作にあたり、作成すること自体を最終目的とするのではなく、「名芸大だからこそ行える教育や学びは何か」の再発見に主眼をおいたプロジェクトを実施。ロフトワーク様と弊学とがチームとなり、ディスカッションやワークを重ねることで、本学の中では「当たり前」だったことに新しい視点や気づきが入り、それらが「魅力」に転換されることで、本学の使命・役割が何かということを再認識することに繋がりました。
今回のプロジェクトにより、大学案内が単にこれまでのような広報ツールという扱いではなく、「名芸大からのメッセージ」が込められたものに昇華することができたのではないかと感じています。”
名古屋芸術大学 広報入試課 菊地 淳
“リサーチやディスカッションの中で、教員や職員の皆様の内側から「名古屋芸術大学における学びとは何か」という問いに対しての様々なキーワードが浮かび上がってきました。私が担ったのは、それらキーワードの根底を貫く『名芸大の本質』を見つけることです。それをみんなで主体的に言語化することによって、より本質への共通認識が強まり、外へ内へとメッセージが浸透されたのではないかと思います。お手伝いできて大変光栄でした。ありがとうございました。”
小説家 土門 蘭
“グラフィックデザインを進める上で特に重視したのは、「ある意味で混沌とした多様な学びの体系を、受験生や保護者の方々に整理して伝えつつも、それぞれの分野が持つ個性や、個性が寄り集まることによって生まれるエネルギッシュな雰囲気をいかに伝えるか?」という点でした。その課題に対するアプローチとして、6分野・全38コース分に対応したタイルのような柄を作り、その各コースを表す1枚のタイルが、時に複数枚が集まり1つの文字を形作ったり、背景の地紋を作りあげたり、あたかも人と人が集まって何かを作りあげていく様を抽象化したビジュアルを冊子全体に展開していきました。また、冊子の表紙では、箔押しや超光沢グロスニスによる特殊な印刷をし、芸術系大学ならではの、言葉を超えた表現で驚きや美しさを感じてもらえるよう、デザインや印刷のプロセスを構築しました。”
Neki inc. デザイナー 坂田 佐武郎
“デザインリサーチで出てきた言葉を実装するための、大学案内制作。大学のタグラインや各学部の特徴など大きな骨子はできていたのですが、さらに説得力のあるものにすべく、有識者を招いて先生方とディスカッションを行いました。文言がよいものになることはもちろんですが、大学としてどのような方角を目指しているのか改めてじっくりと知る機会となり、絶対に取りこぼしてはいけない部分のディティールがクリアとなってその後のデザイン制作にも生かせたように思います。
時間がない中でギリギリまで校内の調整や、文字校正に尽力いただいた加藤さん、菊地さん、松井さん。そして素敵な原稿とデザインを一緒に制作いただいた土門さんと坂田さんに感謝いたします。”
ロフトワーク クリエイティブディレクター 堤 大樹
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