EVENT Case Study

聖学院大、工学院大の広報担当者が語る
「自学の価値を研ぎ澄ます『外部視点』の使い方」

自学の価値を言語化し、自学らしさとして打ち出していく「大学ブランディング」が、今、大学広報担当者の重要なミッションになっています。ロフトワークは、これまで38大学の広報戦略やWebサイトのリニューアルをお手伝いしてきました。その中で、プロジェクトを共にするどの広報担当者も、大学のブランディングには「外部視点」が必要だと言います。

なぜ外部の視点が大切なのか? なぜ外部パートナーと連携することが、自学の魅力を見つけ、多くのステークホルダーを巻き込み、心が動くメッセージを創りだすことに繋がるのか?

そんな問いについて率直にうかがうために、ロフトワークがブランディング支援を続ける聖学院大学の清水均氏・工学院大学の佐野勇一郎氏を招き座談会を開催しました。ロフトワーク プロデューサー 柳川もモデレーターとして加わって繰り広げた議論の様子をお届けします。

テキスト:瀬戸 義章

想いを持った教職員たちが参加しやすい、オープンなチームづくりが大切

──自学ならではの独自性や特徴を見つけて、それを育てていくためには「仲間づくり」が欠かせないと思います。みなさんは広報チームをどのように形成していったんですか?

佐野(工学院大) 工学院大学では、2010年ごろに学内委員会が立ち上がりました。職員だけでなく、「なんとかしたい」という思いを持った教員も少しずつ集まって、いまのかたちになっています。この委員会でひとしきり話し合って、工学院大学の打ち出し方を決めていきました。

清水(聖学院大) 聖学院大学が「ブランド力向上委員会」を立ち上げたのは、ちょっと遅れて2015年です。このころ、僕たちは停滞感を抱えていました。広報が北関東を回っても大学のことがぜんぜん知られていない。受験者数は言わずもがなで、キャンパスさえ活気が無いように見える。そう見えてしまう僕もまた活気が無いわけです。

そんなあるとき、女性の職員から「この大学はもっとこうすればいいのに」と聞いて、ハッと気づきました。なんとかしたいと考えてる先生や職員が、僕以外にもいるじゃないか、ってことにです。すぐに学長を説得して「ブランド力向上委員会」を発足させました。ちなみにネーミングはアイドルの「制服向上委員会」から取ってます。

職員の持っている情報やパワー、そして優しさを活かさない手はない。

委員会には教務課・学生課の職員や各学科の先生から必ず一人は出てもらいましたが、それ以外にやりたい人は誰でも、というオープンなかたちにしました。特に職員の持っている情報やパワー、そして優しさを活かさない手はないと思います。横の繋がりをつくって、それに教員や学生を巻き込んでいく空気づくりが大切ではないでしょうか。

聖学院大学 人文学部長 清水 均氏

聖学院大学とのプロジェクト──大学の「光景」から言葉を生み出す

2017年の聖学院大学創立30周年に向けて、「面倒見のよい大学」に代わるブランドコピー開発を支援しました。「聖学院らしさ」を感じる場所の写真を撮影し、その光景から感じるイメージを、ブランド力向上委員会の皆さんと一緒に言葉へと変換していったのです。そして生まれたのが、信念を持って学生に寄り添うことを宣言する「一人を愛し、一人を育む。」でした。

創立30周年を迎える聖学院大学の新タグラインを制作、公開

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学生の取り組みをWebで継続発信。ステークホルダーとの交流を生み出すポイントは?

「何かひとつのことで、いろんな人がハッピーになる」ことを心がけています。

──大学には教職員・学生・保護者・受験生など、多くのステークホルダーがいます。コミュニケーションも単純ではありません。大学の特色をWebサイトでうまく伝えるためには何が大切でしょうか?

佐野 いつも手探りですが、私たちは「何かひとつのことで、いろんな人がハッピーになる」ことを心がけています。例えば、工学系の大学であることを強調しながらうまく発信するために、オーストラリア大陸を自分たちで作ったソーラーカーで縦断するレースに参戦している「ソーラーチーム」や、学生達が鳥人間コンテストに挑戦する「Birdman Project Wendy」といった学生プロジェクトを積極的に発信しています。

プロジェクト紹介ページを見ることで、卒業生には後輩が頑張っている姿が伝わりますし、在学生達には「見られている、応援されている」という良い緊張感が生まれます。両者に関係性ができたおかげで「卒業生が在校生のプロジェクトへ寄付をする」という流れも始まりました。

工学院大学 総合企画部 広報課長 佐野 勇一郎氏

工学院大学とのプロジェクト──情報発信の「型」を用意する

もともとは、「防災研究に関する特設Webサイトをつくりたい」という相談でしたが、私たちはともに考えた末、「情報発信のためのテンプレート」をつくることに決めました。凝ったWebサイトは更新が難しくなってしまいますが、テンプレートがあれば、特設サイトはもちろん、学内Web広報誌などの発信にも活かせます。各メディアの予算を集約して使える上に、工数を削減できるメリットもありました。学生プロジェクトの発信にもこのテンプレートが利用されています。


汎用的な記事テンプレートを用いることで情報発信がスムーズなだけでなく工学院らしさ・ブランドとしての統一感も出る

関連事例:フィールドリサーチの知見からつくるクリエイティブ 工学院大学「KU-SITE」

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外部視点からの「ダメ出し」も、広報戦略に活かせる貴重な意見

──広報チームがブランディングを推進する上で、外部パートナーと一緒にプロジェクトを進めることの意義をどのようにお考えですか?

佐野 私たちに限らず、発信する側は常に「どう受けとめてもらっているのか?」を気にしていると思います。ですが、大学という世界に長くいると、自学内だけでは限界を感じることもあります。ロフトワークは企業や自治体といった社会の繋がりを広げてくれました。新入生や他大学の学生の声を聞くことも、外側からの意見として貴重だと思います。

ときにはダメ出しをもらうことが必要です。

清水 確かに、外部視点は大学広報には不可欠ですね。大学内だけで意見を募集してもラチがあかないことが多い。実はロフトワークさんと出会う前に、教職員研修会でブランドコピーをつくろうとしたことがあったのですが、うまくいきませんでした。信頼関係を築ける外部パートナーとアイディアを一緒に考えたり、ときにはダメ出しをもらうことが必要です。

──コミュニケーション施策を実施した後の学内からの「評価」はどうされていますか?

清水 最もダイレクトに反映される指標は「資料請求の数」です。この指標は「大学のことを知りたい」という人の数ですから、受験者数と密接に繋がります。本学はブランディングを始めさまざまな施策を取ったおかげで、2017年度、2018年度と右肩上がりになりました。

在学生へのアンケートも定期的に実施しています。「調子の良いこと言ってる割にぜんぜんできてないじゃん」なんて辛辣な意見も多いですが、それだけ素直に言ってくれている訳ですから、耳を傾けるべきことは多いです。

佐野 聖学院大学さんが複合的な施策によって成果を上げたように、単体の施策だけで効果を判断するべきではないと感じています。ソーラーカープロジェクトは、当初はメディアに取りあげてもらう広告効果を狙いました。実際に取りあげられると、学生や教職員の意識が高くなり、自分から発信することの意義を分かってもらえるようになりました。こうした副次的な効果も、把握していく必要があると思います。

ブランドを言語化していくためのワークショップ

トークセッションの後、漠然とした頭の中のイメージを言語化するための実践的なワークショップを実施。ファシリテーターはクリエイティブディレクターの上村が担当。ひとりひとりが「少し変わった7つの質問」に答えながら、イメージを具体化・言語化してコンセプトに落とし込むプロセスを体感してもらいました。

学内施設や研究内容、偏差値といった事実や機能を伝えることに比べて、雰囲気や思想など情緒的な価値を言語化して伝えることは簡単ではありません。「大学ブランディング」は、今後もシリーズイベントとして実施していきます。大学広報でお悩みの方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか?

スピーカー・プロジェクトメンバー

清水 均

清水 均

聖学院大学
人文学部日本文化学科教授

佐野 勇一郎

佐野 勇一郎

学校法人工学院大学
総合企画部 広報課長

柳川 雄飛

柳川 雄飛

上村 直人

上村 直人

株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター 

大学のブランディングを支援いたします

大学の特徴や、教育・研究の質、実績を適切かつ魅力的に伝えることは簡単ではありません。ロフトワークでは様々な手法を駆使して、丁寧にそれぞれの大学の価値を言語化していきます。Webサイトのリニューアルはもちろん、映像やコンテンツ、大学案内など様々なメディアを起用した大学のブランディングを支援いたします。

・ロフトワークの大学との取り組み
・大学のブランディングに関するお問い合わせ・ご相談

イベント概要

大学ブランディング #01
外部視点を活用したこれからの大学広報戦略

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