ヤマハ株式会社 PROJECT

デザイン思考だけでない新規事業のアプローチ

Outline

ヤマハがつくる音・ひと・社会の未来

楽器・音響機器のみならず幅広いプロダクト、サービスを手がけるヤマハ株式会社。コーポレートスローガンに『感動を・ともに・創る』を掲げ新しい価値創造を目指すヤマハ。「喜び」や「楽しさ」という感動の一側面だけではない、人の心を真に揺さぶり突き動かす”熱源"を創り出すため様々なチャレンジを続けています。

同じく、まだ見ぬ価値創造にクリエイティブでアプローチするロフトワークと共に2014年から、「音・ひと・社会」というヤマハらしい視点で、企業として新しい事業(=新しい価値)を共創することをめざした新規事業プロジェクトをスタートしました。ヤマハの新規事業担当 畑さんと神谷さん、ロフトワークのプロデューサー松井、ディレクター鈴木が描いたプロジェクトとはどんなものだったのでしょうか?

プロジェクト概要

  • 支援内容
    新規事業創出のための共創プロジェクト戦略策定
    クリエイターとの共創イベント企画運営(Play-a-thon)
    クリエイティブプラットフォームを使ったクリエイター協業のプロデュース
  • プロジェクト期間
    2014年3月,11月:ハッカソン『Play-a-thon』企画運営
    2015年1〜3月:『Play-a-thon』インキュベーションプログラム
    2016年1月~2017年3月:『YouFab』共創プログラム実施
  • 体制
    クライアント:ヤマハ株式会社
    プロデューサー:松井 創, 杉田 真理子
    ディレクター:鈴木 真理子, 岩岡 康太郎(FabCafe), 金岡 大輝(FabCafe)
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Outputs

共創テーマのデザイン/クリエイティブアワード開催

ヤマハとロフトワークは、2014年からの取り組みを「アート視点からの企業の新しい価値創造」へと昇華させ、YouFabとのコラボレーションを実現。まずは世界中のクリエイターとどんな価値を共創するのか?そのテーマを探りました。

ディスカッションを経て生まれたのが「エモーション」というヤマハのスローガンにも通じるコアコンセプトと、人の心を揺さぶるその瞬間を「スイッチ」と名付け、心が動く瞬間を作品として表現するという試みですヤマハとYouFabは特別賞『ヤマハ賞「エモーションのスイッチ」The switch to your emotions』を設置。既存の価値観にとらわれない自由なコンセプト(社会的な問い)と作品表現を世界中から募集しました。

種を育てるためのプロトタイププログラム

アワードの結果選ばれたのが『OTON GLASS』という視覚的な文字情報を音声に変換することで、文字を読むことが困難な方の「読む」行為をサポートするスマートグラス。3月8日から19日まで渋谷ヒカリエで開催する『YouFab受賞作品展示会』では、OTON GLASSをベースにヤマハ社員とOTON GLASSチームが共同で発案した『emoglass(エモグラス)』のプロトタイプを展示します。今後はより本格的に新しい価値創造のためのインキュベーション・開発に挑戦していきます。

『OTON GLASS』はもともと課題解決型のプロダクトとして開発されたものです。しかし、このプロダクトのアイデアの源泉や制作チームが込めた想い、そして視覚と聴覚で創り出す新しい体験にプロジェクトメンバーの「エモーションのスイッチ」が押されました。課題解決型のプロダクトでありながら、さらに新しい価値と体験を生み出す可能性を大いに持つ『OTON GLASS』は、審査メンバーをとても悩ませた作品でした。

Process

 

イラスト:たけだゆきひろ

Impact

世界中から集まった新しい価値創造のための"原石"

『ヤマハ賞』には応募期間中(8月~10月末)の3ヶ月で世界27ヵ国から147作品がエントリー。ヤマハの目指す共創のコンセプトをベースに、独自の視点で表現された作品が集まりました。集まった作品のアイデアや創発の視点は、ヤマハが今後取り組む新規事業創出のための貴重な資源としてかけがえのないインプットとなっています。またここで広がった世界中のクリエイターとのネットワークも、今後のプロジェクトの大切な財産となりました。

27ヶ国

約3ヶ月で応募があった国数

147作品

約3ヶ月で応募があった作品数

Member

畑 紀行

畑 紀行

ヤマハ株式会社
研究開発統括部新規事業開発部VAグループ

神谷 泰史

神谷 泰史

ヤマハ株式会社
研究開発統括部新規事業開発部VAグループ

島影 圭佑

島影 圭佑

株式会社OTON GLASS
代表取締役

松井 創

株式会社ロフトワーク
Layout Unit CLO(Chief Layout Officer)

Profile

鈴木 真理子

株式会社ロフトワーク
FabCafe PR&Marketing / YouFab Global Creative Awards ディレクター

Profile

金岡 大輝

株式会社ロフトワーク/FabCafe LLP
Fabディレクター

Profile

メンバーズボイス

“プロジェクトメンバー全員で「感動」を分解していき、「感動」を軸に心の奥深くまで踏み込んで、いろいろな気付きを言語化していったことは自分にとって納得感のある新しい体験でした。『エモーションのスイッチ』というテーマは、「これ面白い」「これやってみよう」と心が動いた瞬間にフォーカスして、コンマ何秒前の自分と比べて少し前向きに、そして主体的になる人の心をイメージしました。

日常にはそんな瞬間が訪れるスイッチが実は幾つも転がっていて、しかしその大半には気付かないまま、うつむいて通り過ぎているのかもしれません。世界中に散らばるそれを、誰かが押せるキッカケを作れたら、世界はもっと楽しくなるはずだという思いでこのテーマを設定しました。

今回のプロジェクトを通じて感じたのは、企業が単独で成し遂げられることには限界があるということ。それは企業風土や文化に根付いた「思考の檻」に無意識に囚われてしまうからであり、分かっていてもなかなか逃れなれない宿命でもあります。その檻からはみ出る為の策の一つが今回のYouFabでした。思考をはみ出させるに十分な刺激を持つアーティストの力をお借りすることで、想像だにしなかった面白い価値創造が次々に起こることを期待しています”

畑 紀行 ヤマハ株式会社 研究開発統括部新規事業開発部VAグループ

“デザイン思考が多くの企業で採用されるにつれ、課題が見え始めてきました。それは、人間中心のデザインプロセスが課題解決を目的としていることから、導き出されるソリューションが現行の社会システムにおける目前の困りごとを解決するようなものになりがちで、その結果として文化や社会にインパクトを与えるような革新的なソリューションが出て来にくいということです。

「感動を・ともに・創る」ヤマハが為すべき新規事業の在り方を考えた時に、このような課題解決のアプローチではなく、問題提起の視点から発見される価値を世の中に提示することがヤマハの社会的な存在意義であろうと考えました。

アーティストは、世の中で起こりかけていることの気配をいち早く察し作品という形で世の中に提示しますが、この視点はビジネス開発にも活かせるのではないかと考えました。

課題解決ではなく、アート思考による問題提起型の価値創出は、きっといままで見たことのない地平を切り開いてくれることを信じ、 Play-a-thon等の取り組みを経て、今回のYouFabヤマハ賞を企画しました。”

神谷 泰史 ヤマハ株式会社 研究開発統括部新規事業開発部VAグループ

“OTON GLASSの開発きっかけは、私の父の失読症です。2012年に父が脳梗塞を発症し、言語野に障害が残り、文字を読む能力だけが低下してしまいました。父の病気をきっかけに、読みをサポートするデバイスを開発することに決めました。それがOTON GLASSです。父のリハビリによる完治以降も、ディスレクシア、弱視者、訪日外国人へのよりよいサポートとなるべく、現在も実用化に向け開発を進めています。


このプロダクトが解決しようとしている問題は明確である一方で、実はその基盤になる「自分の見ているものが音に変換される」という体験自体に、知覚の拡張としてのおもしろさが潜んでいます。ヤマハ賞への応募は、そこをヤマハさんと協働できないだろうかという期待を込めたものでした。

OTON GLASSが実現するのは「誰もが文字を読むことができる世界」です。またそれと同時に、現実の社会が持つ音とは異なる「平行世界の音」を聴くことができる社会を実現することが可能だと考えています。OTON GLASSが人間の知覚を更新することで、私たち人類は目の前の現実をいかに更新しうるか、Youfab Creative Awardを通じたヤマハとの協働によってその一歩を踏み出せればと思っています。

ヤマハも、我々OTON GLASSも、それぞれに大きな使命を持ちながら日々活動しています。このYoufabを契機に生み出された良い意味での混沌によって、それぞれにとって予測不可能な展開に向かうことを期待しています。単なるアウォードに収まらず、また入念に設計されたオープンイノベーションにも収まらない、Youfabだからこそつくりだせる予測不可能性への投機として、新たな事例を生み出したいと思います。”

島影 圭佑 株式会社 OTON GLASS 代表取締役

“世間では、『「ペルソナ」を立てて「ユーザー・ニーズ(種)」や「課題」を掘り起こして製品開発をしても、当のユーザーが反応してくれない。』『課題解決ができたところで、そのアイデアがユーザーさえ気づいていない価値創造の源泉とは限らない。』などと囁かれ、ものづくり企業にとって苦難の時代。

人間のより普遍的で本質的な領域に新しい価値(新種)を見い出そうと、ヤマハをはじめ挑戦的な企業は『課題解決』だけでなく社会への『問題提起』を始めようとしています。その中で企業の価値創造のチャレンジテーマを「感性」や「感動」と置くことは決して特別ではなく、ごく自然な試みかもしれません。普遍性や本質的テーマと常に対峙しているアーティストと共に新しい価値を追求する試みもプロジェクト設計の定石でしょう。

一方で、アート(クリエイティブ領域)と新規事業創出(ビジネス領域)とは対岸にあるようにも思えます。トレンドとしてのスペキュラティブ・デザインでなく、「ヤマハにとって事業ドメインそのものである」と言ってみても、クリエイティブ領域からビジネス領域へと企業活動を繋ぐロジックには多少のギャップがありました。

このギャップの程よい触媒、橋渡しにYouFabという「仕組み」が貢献できると感じたのがこのプロジェクトが大きく動き出したきっかけです。神谷さんとは過去3年以上に渡ってコーポレートスローガン『感動を・ともに・創る』にのっとった共創プラットフォームの議論と実践、効果検証を繰り返して来ました。その流れでYouFabとのコラボレーションは必然と言えます。”

松井 創 ロフトワーク プロデューサー

“グローバルアワードであるYouFabには、日本中・世界中のクリエイターが参加しています。2016年度は、31カ国から196の応募をいただきました。参加クリエイターは回を重ねるごとに増え、作品のレベルも上がってきており、デジタルものづくり文化の成熟と、YouFab自体がアワードとして成長してきたことを感じています。

今回、ヤマハ賞への応募を募るなかで、今ヤマハがなぜアート視点での新しい価値創造を模索しているのかというストーリーを丁寧に伝えていきました。ヤマハのブランドや製品を知らない人はほぼいません。東京と海外4箇所のFabCafeで行ったイベントでは、今のヤマハの製品やブランドイメージに捉われてしまわないように、クリエイターの自由な創造性をそのままぶつけてほしいことを伝えました。海外のFabCafeは、バルセロナはデザイナーやスタートアップ、トゥールーズはエンジニアなど、クリエイターコミュニティにも特色があり、ヤマハの神谷さんには実際彼らと会うことで、直に彼らが何を考えているのかを感じてもらいました。

また、ヤマハ賞として選ばれた作品は1つだけですが、ヤマハ賞に応募された147作品はクリエイティブ、技術的な視点からYouFabチームが一つ一つ解説し、審査員である川田さん、畑さんに伝えています。クリエイターからのアピールに加えて、クリエイターが気づいていない価値を私たちがしっかり伝えることで新しい価値(新種)の「原石」となるアイデアを探してもらいました。”

鈴木 真理子 ロフトワーク パブリックリレーションズ / 「loftwork.com」「YouFab」コーディネーター

ロフトワークからのお知らせ

8/29 「アワード」手法について学ぶイベント開催

「AWRD presents イノベーションを生むのは個人か?それとも企業か?アワード型プロジェクトが”価値創造”を民主化する」
資生堂、全日空でアワード手法を組み込んだプロジェクトを推進している担当者もお招きし、アワードという手法の意義と具体的な使い方について、事例を中心にご紹介します。
詳細 => https://loftwork.com/jp/event/20180829_awrd

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複数年計画で取り組む「技術の里」として地域ブランディング
/ SUWAデザインプロジェクト

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