3社3様のリニューアルプロセスに学ぶ
担当者が知っておくべきWeb戦略の策定と実行のキモ
年間30件以上のコーポレートサイトのリニューアル・構築を手掛けるロフトワーク。リニューアルにあたり、担当者がいま考えるべきこととは何でしょうか?
「DX実現が本格化する今、本気で始めるコーポレートサイトリニューアル」と題し、事例をもとに大切にしたいポイントを紹介したイベントにはリニューアルPJ進行中〜情報収集中の方を中心に多くの参加者が集まりました。その中でも特に大事なポイントをレポートします。
対面接点が減少するなか、考えるべき3つのポイント
オンラインシフトによる対面接点の減少により、Webサイトから受ける印象が企業の印象に直結することになっている、とシニアプロデューサー 柏木は話します。Webサイトの戦略もそれに合わせ見直す必要があるとして、見直しの3つのポイントを提示しました。
- 戦略立案(経営方針、誰に何を伝えるか、Webの役割定義)
- 戦略実行のプラットフォームづくり(更新性の担保、社内の共通認識の形成)
- 情報発信の継続(編集会議、情報を集めるフロー、効果測定&改善)
この日のイベントでは、特に1と2について事例を用いて具体的なアプローチを紹介しました。
事例1 強みを活かすために焦点を絞る要件定義
今年7月にWebサイトをリニューアルしたJAFメディアワークス。2016年の企業合併後初めて行うリニューアルは、新社長の号令によりスタート。ITメディア部が主管となり進行しました。
1,220万部発行の定期刊行物「JAF Mate」の強みを活かし、広告掲載のリード件数を増やすための情報設計とセールスシナリオ仮説が本プロジェクトのポイントです。
プロジェクトがスタートし、要件定義フェーズでヒアリングをしていくと、リード獲得、社員採用などさまざまな目標の優先度をつける必要があることが分かり、まずここから整理することに。プロジェクトで焦点を絞るべき点の合意形成を行い、プロジェクト全体のデザインを行いました。
ヒアリングには、各部署から構成されるコアメンバー8名が参加。ITメディア、営業、編集、制作、バックオフィスと、異なる目標と業務に携わる部署間で早期に共通認識を形成しました。
セールスシナリオは営業の方に「シャドーイング」といって 実際に再現していただき、ユーザージャーニーを整理することでターゲットと施策の優先順位づけに役立てました。社内共有の面でも、他部署の方々に理解してもらいやすい形になりました。
一方で、プロジェクトをリードした冨田が強調しているのは、「要件定義で決める方針は、PJの制約ではなく、指針である」ということです。一度決めたら変えられないものではなく、PJの進行中に調整が必要な場合は、その都度相談し、最適解を見つけていきます。また、ターゲットや目的の優先順位をつけるプロセス自体が、信頼関係を築くチームビルディングでもあり、利害衝突しやすい部門横断型体制でもスムーズな進行を可能にしたと言います。
緊急事態宣言が出たことで、MTGもオンラインにせざるをえないタイミングで要件定義を進めることになりましたが、オンラインで人が集まりやすいことに加え、社内リーダーである市倉さんにより積極的に意思決定や社内分担が行われたため、オンラインによる弊害はほとんどなかったと振り返りました。
事例2 「らしさを伝えるデザインの計画と実装」
次に紹介したのは、2019年にリニューアルを行なった株式会社ネットプロテクションズ。「NP後払い」など金融サービスで新たな挑戦を続ける同社は、サービス名でのブランディングはできているものの、会社名でのブランディングに課題を感じていました。今回のリニューアルでは、デザインチームが主管となり、コーポレートブランドを体現するデザインをつくりだすことを目指しました。
「課題・要望をなるべく明確にしておいてもらえるとプロジェクトは成功しやすい」と、コンセプト立案とアートディレクションを担当した山田は話します。
今回は、事業や組織がもつブランドイメージと企業イメージを接続したいという要望をいただいたので、それをどうしたら実現できるかを考えました。具体的には、ネットプロテクションズらしさの「再確認>言語化>表現」というステップですすめました。
このプロセスの前半を「とても濃密な時間だった」と振り返る山田。数名のコアメンバーに参加を限定し、議論に多くの時間を費やしました。デザインスプリントの手法を取り入れ、ロフトワーク「COOOP3」にプロジェクトスペースを設置、メンバーはそこに缶詰になって深掘りをしました。デザイナーも参加。KJ法を用いてアイデアを集約し、短期間でコンセプトに昇華させました。最終的にはワイヤーフレームまで作成。「毎週開催の定例MTGベースではこの期間とクオリティを出すことは難しい」と、スプリント方式の価値について話しました。
コンセプトの表現
「ひとりひとりのらしさの集積が企業のらしさの集積になる」と、コーポレートカラーを象徴的に使わず、挑戦や変化をカラーグラデーションとアニメーションで演出した今回のリニューアル。こうあるべきに拘泥せず、あくまでネットプロテクションズらしさを追求した結果、他のサイトにはないUI/UXが生まれました。数値的にも成果が現れた以外に、「社員がこのWebサイトをもとに自社らしさについて議論できるようになった」と担当者の方のフィードバックもありました。社員にも良い影響をおよぼし、企業ブランディングに寄与している今回のデザインですが、「プロジェクトメンバー間でデザイン決定のための評価軸を定めておくこと。その基準に沿って判断することも良いプロジェクトには不可欠」であることも伝えました。
事例3 Webマーケティング基盤を支えるインフラ設計
最後に紹介したのは、2019年にリニューアルを行なった株式会社イッツ・コミュニケーションズ(イッツコム)。インターネット、ケーブルテレビ、電気・ガスなど、生活インフラを扱う同社の Webサイトは、サービスの分かりやすさだけでなく、安定性も強く求められるのが特徴です。品質の高い運用基盤を担保するためのインフラ設計と実装について、ロフトワークのテクニカルディレクター 大森が紹介しました。
オープンソースから有償・大規模まで幅広く経験し、場面に応じた適切な提案をしてきた大森。
「専門知識がないと及び腰になる担当者の方も多いが、検討プロセスは明確。ポイントを押さえ、運用を見越して考えましょう」と話します。
イッツコムの場合、13サイト・12,000ページがプロジェクトの対象です。
- Webサイトのサービスレベル
- サイト規模
- 既存サイトの更新フロー
この3つの視点から、戦略>戦略実行に適切なCMS>CMSを動作させるインフラの順に考えていきます。
「まずリニューアルにおいて重点的に解決したいことを考えましょう。SEO対策、クラウド化、商品情報整理、見込顧客への訴求など、様々あると思います。次に、それらを解決するために適切なCMSを検討します。」
それを踏まえて、ようやくインフラの仕様を考えることができます。
「イッツコムの場合、トラフィックの増減が大きいにもかかわらず、拡張性がひくいサーバ構成をとっていました。成長にともない拡張できるのがベストな構成と考えるべきでしょう。ただし、過剰な投資は不要です。運用を含めたコストとサポート、この2軸で最終的に判断するのがよいでしょう」
また、CMSの変更により、サイトの運用体制も変化が生じることを知っておいてほしいと言います。
CMSに必要な機能は、運用担当者へのヒアリングでまとめることができます。例えば、基本機能、テンプレート、セキュリティ、ユーザー管理、外部連携、アクセス解析、配信方法などの軸を設定し、点数づけによる客観評価が効果的です。
「CMSは戦略に応じて選びましょう、別々に考えるべきではありません。」と締め括りました。
プロジェクト事例
登壇者紹介
冨田 真依子
プロデューサー
大森 誠
株式会社ロフトワーク
テクニカルグループ テクニカルディレクター
ロフトワークのWebサイト制作PJの資料ダウンロード
資料内容
・Webサイト制作プロジェクトの課題
・支援内容
・プロジェクト紹介
・モデルケースと価格
・会社紹介