EVENT Report

新規事業のタネは、本業とは違う学びから見つけよ
LIXIL・ASNOVAが語る、社会課題解決への挑戦 

SDGs達成の2030年まで、残すところ10年。「行動の10年」がスタートした2020年もいよいよ終わりに近づく今、社会課題と向き合いながら、その活動を企業の利益につなげていくには、どうすればよいかと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

そこでロフトワークでは、新規事業を始める際に必要な視点を探るべく、オンラインイベント「実践者に学ぶ!社会と向き合う新規事業のつくり方」を開催。生活者の声を起点に社会や業界の課題をあぶり出し、事業戦略を設計・事業化した事例として、株式会社LIXIL「SATO」事業部 Head of Market Expansion 坂田 優さんと、株式会社ASNOVA 代表取締役社長 上田 桂司さんにご登壇いただきました。

社会課題解決を目指した事業開発の実践について、LIXIL「SATO」事業ASNOVAメディア事業、両者のクロストークを3回に渡りレポートします。

対話を通じて社会課題を“自分ごと化”する

LW小島:「社会課題をテーマにした事業」という言葉はよく耳にしますが、実践されている方はまだ少ない印象があります。そもそも、お二人が社会課題をテーマにした事業を始めたきっかけは何でしたか?

LIXIL 坂田さん:「SATO」を考案した石山が大学生の頃、バックパッカーで世界各国を回っていて、非常にトイレが汚いことに気付いたんです。そこから「トイレ環境を改善できるものはないか」という発想でスタートしました。もし新規事業を海外でやりたいと考えているなら、“現地に行って、現地の方々の声を聞く”というのが、一番早い課題の見つけ方だと思っています。

LW 小島:現地の方々と対話をするというのは、上田さんがお客様にアンケートを取って、生の声に耳を傾けられたのと共通していますよね。自分の頭の中だけで新規事業のアイデアを考えているだけでは、ダメだと。

ASNOVA 上田さん:そうですね。ただ、我々の業界では、「人材不足」という課題があることは、10〜15年前から、ずっと言われてきていたことではあります。だから、課題を解決したい人たちと日頃から対話をしていれば、課題を見つけること自体は難しいものではないと思うんですよね。何よりも「その課題を本当に自分が解決するぞ」と一歩踏み出すことが難しいのであって。私が新規事業をジャッジするときに大切にしているのは、ワクワク感です。「これ儲かりそうだよね」というお客様目線じゃないものは、往々にして期待外れに終わるんですよ。

LW 小島:確かに担当者がワクワクできるかどうかは、とても大事な気がしています。坂田さんもSATO事業を担当されることになって、ワクワクされていましたか?

LIXIL 坂田さん:現地に入って、本当に現地の人たちが課題に感じていることが実感できれば、やっていくうちに誰しもワクワクするものは見つけられると思いますね。

左から 株式会社ロフトワーク 小島和人、株式会社LIXIL「SATO」事業部 Head of Market Expansion 坂田 優さん、株式会社ASNOVA 代表取締役社長 上田 桂司さん

成果の見えない新規事業に投資してもらうには?

LW 小島:とはいえ、社会課題を解決するという壮大なプロジェクトを動かすには、ワクワク感だけでは乗り越えられないじゃないですか。事業である以上、投資に対する効果の視点は外せないと思います。その点、いかがでしょうか。

ASNOVA 上田さん:新規事業を行う上では、「すぐに利益を生み出せるようなものでなければならない」という考え方は、基本的にしていません。すぐ儲かりそうな事業というのは、すでに競争が始まっていて、疲弊するしかありませんから。それよりも、「何かしら世の中で困っているものがないか」という視点からスタートしています。だからといって、黒字化しなくてもいいということではありませんけどね。やはり利益を出すことに対しては、こだわりがあります。「目先の利益にはこだわらずに、最後は必ず事業化して利益を出すんだ」と。事業として継続できるからこそ、長期にわたって地域や業界の活性化ができると考えています。

LW 小島:上司を説得する立場におられる坂田さんとしては、「経済的な試算が難しい新規事業を始めたい」と上申する場合、気をつけているポイントはありますか?

LIXIL 坂田さん:私は、承認してもらえるようなプロセスを、経営層の視点から逆算して考えるようにしています。例えば、大きなプロジェクトはどうしても年数がかかるし、経済的な問題が発生してくるじゃないですか。それなら、まず小さなプロジェクトを何個かやらせてもらって、スモールスタートで進めていこうという発想ですね。

新規事業に失敗はつきもの。早く小さく失敗し、実験から学ぶ

LW 小島:プロジェクトを進めていくと、「これは失敗かな」と思うことも出てきませんか?

LIXIL 坂田さん:それはもちろんありますね。大きなお金をかけているので、どうしても取り戻したいという気持ちはあるんですよ。でも、そこに固執してしまうと、本当のゴールにはたどり着けないと思うんです。だから担当者としてやりたい気持ちはありつつも、一方で「“やめる”選択肢も持っておく必要がある」と常に考えながらプロジェクトを進めています。

LW 小島:これまでで一番苦戦したところはどこですか?

LIXIL 坂田さん:本当に「ずっと」という感じですね。確かにバングラディッシュはうまくやれていますが、その後に展開しているインドやアフリカは、まだまだです。それをどう改善していくか、試行錯誤している段階ですね。

LW 小島:インドやアフリカが、まだまだだと思われる理由は?

LIXIL 坂田さん:まだ損益分岐点までの道筋が見えていないからですね。

LW 小島:インドはトイレを製造・販売するための職人を育成するところから入っておられるということでしたが、その構想は最初からあったものなんですか?

LIXIL 坂田さん:いえ、途中でビジネスを転換しています。私たちは物売りだけで終わるのが、一番シンプルで利益も出やすいのですが。やっていくうちに、「技術も教えてくれ」という要望が現地から出てきたので、それに応えるために現地で職人の教育を進めて。そうすると、彼らから「自分たちで資材を買って販売したい」という要望が出てきたので、今度はそれに応えるためのトレーニングを入れながら進めています。

LW 小島:柔軟にビジネスモデルを変化させていらっしゃるんですね。

LIXIL 坂田さん:私たちの行動指針のひとつに「実験し、学ぶ(EXPERIMENT AND LEARN)」というものがありまして、小さな実験をたくさん積み重ねて、そこから学んでいくことを大切にしています。

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本業とは違う視点を育み、自分が本気になれるものを探す

LW 小島:では最後に、「社会課題をテーマにした事業をやってみよう」と思われている方に向けて、何かアドバイスをお願いできますか?

LIXIL 坂田さん:私たちの会社で社長がよく言っているのは、「常に勉強を続けなさい」ということです。最近だとITですね。「プログラミングをやってみたら」と。今まで自分が取り組まなかった分野に挑戦することによって、何か違う視点が自分の中に生まれるのではないかと思いますね。

LW 小島:知らないことに触れて、実際に手を動かすことで、これまでとは違った頭の動かし方をするのがいいのかもしれないですね。上田さんは、いかがですか?

ASNOVA 上田さん:やりたいことが正しいことであると信じられるならば、「最初から周りに理解してもらおうと思わなくていい」ということをお伝えしたい。目的に向かっていく過程で、自然と賛同者が集まって、大きな成果に結びつくものですから。まずは自分一人でも本気で目的に向かっていくことが大切です。我々も「POP UP SOCIETY」のプロジェクトを始めたときは、社内のほとんどの人間が反対していましたよ。それでも「いいからやり続けろ」と言って続けているうちに、外部の人たちが見にくるようになって、外から評判が聞こえてくるようになって、ようやく社内の人間も理解を示すようになりました。

LW 小島:やはり担当者の情熱が大切なんですね。担当者が情熱を持つ、つまり社会課題を自分ごと化するには、自分の目で見て、自分の心を動かすことが不可欠だと思います。インターネットで調べるところで止まるのではなく、「詳しそうな人に話を聞いてみる」というのでもいいと思うので、対話を通じて、自分の想いが正しいものなのか、本当に情熱をかけられるものなのか、といった答え合わせをするところから始めてみるといいのかもしれません。

今回のイベントを通じて見えてきたのは、社会と向き合う新規事業をつくる上では、ステークホルダーとの対話を大切にしながら、「社会課題の解決」「企業の利益」「個人の想い」の3つのバランスを取ることが重要であるということでした。

社会と向き合う新規事業を考える際にまずはロードマップを用い、実現したい未来を描くこと、そしてそこから逆算して今のアクションを導くバックキャスティング手法が有効です。こちらよりロードマップ作成のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ぜひお役立てください。

未来から逆算し、今できるアクションを考える ロードマップテンプレート

こちらから小島が作成したロードマップのテンプレート(PDF)がダウンロードいただけます。ロードマップを引く際のポイントも記載されていますので、ぜひご活用ください。

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