ネットプロテクションズの事例で見る、
コーポレートブランディングの正しい進め方とは
どんな社会価値を生み出したいか。どんな仲間を集めたいか。独自の地位を確立するためには、会社のビジョンを具象化し、デジタルも効果的に活用しながら伝えていく「ブランディング戦略と実践」が重要となります。今回は、大胆なコーポレートブランディングを行い組織変革を実践しているネットプロテクションズの担当者をお招きして、話を伺いました。
執筆:野本纏花、企画・構成:loftwork.com編集部(岩沢エリ)
2分で分かる、ネットプロテクションズが実践したコーポレートブランディング
まず、ネットプロテクションはどんな会社なのか。なぜコーポレートブランディングを始めたのか、どんなことをしたのか。簡単にご紹介します。
「NP後払い」をはじめとする後払い決済サービスを展開しているネットプロテクションズ。2000年に創業した同社は、後払い決済の草分けとして、事業と組織を順調に拡大してきました。現在、同社の正社員209名のうち、75%を新卒が占めており、若手が裁量権を持って活躍できる組織づくりをしているのが特徴です。
そんなネットプロテクションズのミッションは「つぎのアタリマエをつくる」。社内では共通認識として浸透しているものの、抽象的なワードであることから、“企業の存在意識や使命として、社外の人に共感してもらうのが難しい”という課題があったと言います。
そこでミッションを事業(BUSINESS)・組織(CULTURE)という2軸に分け、それぞれの分野で「目指す姿」をサブミッションとして言語化しました。
さらに、新たに言語化された「目指す姿」を具象化するために、ロフトワークとともにサイトのリニューアルを行いました。(リニューアルプロセスの詳細ついては、「Credit Tech企業の雄、ネットプロテクションズが目指したコーポレートブランディング」をご覧ください)
言語化とコーポレートウェブリニューアルを実施した結果、以下のような成果が得られたそうです。
- サブミッションに置いた言葉が浸透し、「Credit Tech」や「ティール組織」が題材のメディア連載や登壇依頼、書籍紹介が増加。
- 採用のマッチング度が上がり、ここ数年での新卒採用離職者がゼロ。
- コーポレートサイトのPV数が半年間で2倍以上に向上。
社内資料や特設サイトをつくる際のデザインテイストもコーポレートサイトのデザイントンマナに合わせられ、自然とビジュアルメッセージも整っていったと言います。
改めて問う「いいコーポレートブランディング」とは?
ここからはネットプロテクションズの事例をもとに、「いいコーポレートブランディングとは何なのか」について、今回のサイトリニューアルに携わったネットプロテクションズの中堀 那由太さんと池田 康平さん、ロフトワークの高井 勇輝と山田 麗音の4名のお話をロフトワーク岩沢 エリが伺います。
中堀 那由太
株式会社ネットプロテクションズ
池田 康平
株式会社ネットプロテクションズ
高井 勇輝
株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター
岩沢:まずはサイトリニューアルに関わったロフトワークメンバーから、当時を振り返ってもらいたいと思います。今だからこそ聞いてみたいことはありますか?
高井:ネットプロテクションズさんでも、サイトリニューアルの前に、ミッションをブレイクダウンして、「目指す姿」を言語化するところから始められたと思うのですが、まさにコーポレートブランディングは、単なる見せ方の話だけではないんですよね。ネットプロテクションズさんでは「次のアタリマエをつくる」というミッションから、「credit tech」や「ティール組織」といったキーワードを導き出したことで、ミッションの解像度がグッと上がったと思います。こうしたキーワードにたどり着くまでに、社内ではどんなプロセスがあったのですか?
中堀さん:ブランドは“ステークホルダーへの約束”だと思っているので、「どう見られるべきであるか」を追求し、結果として我々の提供価値を定義する必要があると考えています。そこで事業に関しては、我々の後払い決済サービスの強みや、その根底にある哲学を言語化しながら洗い出し、そこから本当に伝えたいことを収斂させていきました。組織については、ちょうどティール組織が流行っていた時期でもあったので、当社はティール組織を目指して作ったわけではないし厳密には少し異なるのですが、組織設計に興味を持つ方に認知していただけるよう、使わせてもらったという感じです。
高井:強みや哲学の深掘りは、誰がされたのですか?
中堀さん:その必要性を感じていたのが広報の領域だったので、まずは広報の人間でたたき台をつくりました。それをもとに営業やカスタマーサクセスの人たちとともに議論を重ね、最終的に経営陣の合意を取ったという流れになります。さすがに全社員が関わっていたわけではありませんが、プロセスはすべて公開しながら進めていたので、最終決定するタイミングでは、ほぼ浸透している状態でしたね。
岩沢:池田さんも社内のそうした動きはご存知でしたか?
池田さん:はい、もちろんです。途中経過をすべて理解していたので、アウトプットに対する違和感はほとんどありませんでしたね。もともと当社はWhyから対話を生む文化があるんです。社内のいろいろな人から寄せられる質問を、中堀が回収しながら進めていたので、どんどんみんなの視点が合っていって、気づいたら納得感のあるものができあがっていた感覚です。
高井:その時々の“ありのまま”の考えを、社内でちゃんと情報交換できる文化があるのは素晴らしいですよね。当たり前ですが、「ティール組織」といった言葉をWebサイトに書くだけでは、そうはならないじゃないですか。アイデンティティは狭義の表層的なデザイン以外にも滲み出てくるものなので、コンテクストとアウトプットに一貫性があるというのは、ブランドとしての統一感や説得力に結びついていくのだろうと思いますね。
岩沢:どうやったらコンテクストとアウトプットに一貫性を持たせられるのですか?
高井:そこに魔法の杖のようなものはなくて。やはりネットプロテクションズさんのように、自分たちの強みや哲学の抽出を、丁寧に時間をかけて何度もやるしかないですよね。そこで最後に残ったものは、実体をともなったコンテクストになっているはずなので。そこまでいけば、あとは「どう伝えるか」というアウトプットにつなげていけばいいだけです。
重要なのは、コアとなる強みや哲学の抽出のところを、一部の限られたメンバーだけで閉鎖的に行うのではなく、経営層から現場まで多様な人に入ってもらうことですよね。さらに、我々のような外の目線からの意見も取り入れることによって、どんどん磨かれていくと思うので、そこの手間を惜しまないというのは、ロフトワーク自身が大切にしているところでもあります。
岩沢:ですね!では、すこし視点を変えて山田さんに聞いてみたいのですが、言語化と同様に、それを具象化するデザインも重要かなと。今回のリニューアルでブランドコンテクストをつたえるために、デザインで工夫したところをひとつ教えてもらえますか?
山田:たくさんあるんですが(笑)。ネットプロテクションズさんのサイトリニューアルでは、例えばトップページで事業と組織を並列に見せながら、他のさまざまなページも回遊してもらうことで、ネットプロテクションズの情報に自然と触れて、理解を深めてもらえるサイト設計にしています。ただ奇抜で面白いのではなく、ミッションを表出させるデザインにこだわったところがポイントですかね。
岩沢:トップで最初にどんな情報と出逢うか、そのあとどんな風に回遊するか、という情報設計においても、コンテクストとアウトプットの一貫性を保つ工夫ができるんですね。
コーポレートサイトはあくまでもブランドを伝えるための手段
山田:そもそもサイトリニューアルって、「外注で新しくしたWebサイトを、どう全社に説明しようか」と悩む担当者の方もいらっしゃると思うのですが、池田さんは、僕たちロフトワークよりも、よっぽどWebサイトのデザインについて語れるじゃないですか。それが本当にすごいなと思っていて。どうやってサイトリニューアルを自分ごと化していったのか、というのを伺ってみたかったんです。
池田さん:もともとリニューアルプロジェクトは、会社から「やれ」と言われたわけではなくて、自分から手を挙げてやったことなんです。信頼して任せてもらえたからには手を抜けないというか、「自分が誰よりもちゃんと会社のことを考えなきゃ」と思いますよね。我々は「まず信頼してみる」という考え方をとても大切にしているので、それが心地いいプレッシャーというか原動力になっていました。
岩沢:本当にいい会社…!サイトリニューアルは、まさに会社の顔に関わることだから、レポートラインも複雑になりがちで、忖度も発生しやすいところだと思うんです。それがないというのは、理想的ですね。いいコーポレートブランディングにしていくためには、「信頼して権限委譲する」というのが大切なんだなと改めて感じました。ではそろそろ締めに行こうと思いますので、高井さんから今日のまとめをお願いします。
高井:そうですね、今自社のコーポレートブランディングやウェブリニューアルに関わっている人が読んでくださっているとしたら、コーポレートサイトのリニューアルプロジェクトは、「コーポレートサイトのリニューアル自体が目的ではない」ということをお伝えしたいですね。あたり前のことですが、プロジェクトを進めていくと抜けやすいところなので。
企業として伝えたいこと・大事にしたいことがあって、それを伝えるためのアウトプットの手段としてコーポレートサイトを活用する。だからあくまでも「何のために、誰に、何を、伝えたいのか」を丁寧に抽出して結晶化させることこそが、何よりも重要なんです。ウェブリニューアルやオフィスリニューアルなど、どんなブランディングプロジェクトであっても共通して肝になるプロセスです。ぜひ担当者の方はそこを意識してプロジェクトを組み立てていってほしいです。
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