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なんでもハックするR&D拠点、FabCafe Bangkok ーサステナビリティに挑戦する最新プロジェクトを一挙紹介

FabCafeが新しくスタートしたイベントシリーズ「Around The FabCafe World in 180 Days 」。毎回世界中のFabCafeのリーダーたちを招き、その地域の特徴や取り組んでいるプロジェクトを紹介してもらい、その都市や地域が直面している課題にどのように対応しているかを見ていきます。

Vol.1では、FabCafe Bangkokの共同設立者であるKalaya Kovidisith(以下、カラヤ)が登壇。FabCafeがタイ政府や地元の自治体と連携して進めている、ゴミやエネルギー問題など、サステナビリティに挑戦するプロジェクトを紹介しました。後半では、蚕をテーマにしたプロジェクトのパートナーであるDivana Wellness(タイでエステなどの美容サービスを展開している企業)の代表者の2人を招き、タイの名産品で大きな可能性を秘めたシルクの新しい用途への取り組みや、今後の展望を語りました。

地元コミュニティのラボから、政府や企業のR&D拠点へ

FabCafe Bangkokは元々、Ari地区の一軒家を改装してスタートしました。コミュニティのものづくり拠点として開放し、地元の農業にテクノロジーをつなげるハッカソンやファーマーズマーケットのような取り組みを行ったり、地域の大学や保育園とクリエイターや企業を混ぜてローカルとグローバルをつなげる活動を展開しました。

3年間の取り組みでその活動は地域に根付いたものの、家賃の値上がりなどを理由に、2019年にFabCafeは別の場所を探すことに。バンコクの金融街に近い政府系ビル、Thailand Creative & Design Center (TCDC)にスペースを確保しました。この新しい拠点は、FabCafeの産業界とのつながりを後押ししていると、カラヤは説明します。

カラヤ スペースが変わったことで、クライアントもB2CからB2Bへ、個人や家族向けから企業向けへと変化しました。たとえば、定期的に開催しているものづくりのミートアップ「Future Fridays」では、クリエイターに協力してもらうために企業がプレゼンテーションを行うものです。新規事業や既存事業のイノベーションを支援するため、政府から資金援助も受けています。

コミュニティとの繋がりを強化することと、ビジネスを作っていくことの両立は、世界で活動するどのFabCafeも取り組んでいる課題です。地域のクリエイターのネットワークを活用したい企業にとって、地域の基盤は魅力的です。一方で、政府との連携を強化することは、産業界における新たなパートナー獲得に強みを発揮します。カラヤは、2つの拠点における異なる経験から学び、両方の良いところを組み合わせていきたいと考えています。

上の写真が2016年から2019年までのFabCafe Bangkok。下の写真が2019年からTCDCでスタートしたFabCafe Bangkok。R&Dラボとして自主企画を政府や企業に持ち込み、パートナーシップを構築していくスタイルが確立してきた。

サステナビリティに多方面から取り組むバンコクチーム

新しいスペースをきっかけに、サステナビリティに関連するプロジェクトが増えたというカラヤ。最初のプロジェクトは、Precious Plastics社とMaterial ConneXion社とのコラボレーションによる「Plastic Hack」で、プラスチック廃棄物をデザイナーやクリエーターのための原材料に変えることを目的としています。注目を集めたのは、プラスチック廃棄物を再利用して見事なサーフスケートボードを製作した「Waste Surfer」です(ケーススタディはこちら)。また、バンコクの公害問題をテクノロジーで解決した「Air Hack」もありました。

配達員のヘルメットでソーラーエネルギーをつくる

FabCafe Bangkokは、タイのエネルギー規制委員会(以下、ERC)とのパートナーシップで、2019年からエネルギーをテーマにプロジェクトを進めています。カラヤによると、タイの政府や企業にとって、大学以外に創造的かつ技術的なパートナーを得るのが困難なので、国内で新しいアイデアを研究・開発する機会が少なく、技術的なソリューションは国外から輸入する傾向があるとのこと。FabCafe Bangkokは、研究開発の専門知識を提供できることが強みとなり、他では実現できなかったプロジェクトを立ち上げることができたといいます。

カラヤ ERCとのプロジェクトの1年目に取り組んだ「Solar Vengers」は、太陽光を集めて製品化し、エネルギーに変えようとするハッカソンでした。そこで、太陽電池付きカフェマシンや太陽光発電床を備えた公園、渋滞時に発電できるバイクのヘルメットなど、日常生活の中でいかにエネルギーを集めるか、さまざまなアイデアが出ました。

4つのプロトタイプの中から、”Foresee”という、ヘルメットでソーラーエナジーを生産するコンセプトが採用・開発され、LinemanやFood Pandaなどのフードデリバリー会社のサポートを受けてテストされました。このスマートヘルメットは、バンコクデザインウィーク2020でデモンストレーションが行われました。

その他のアイデアやプロジェクトの詳細はこちらの記事を参照ください。
>> Bangkok Design Week 2020: FabCafe Bangkok explores the new potential of solar living

ヘルメットでソーラーエナジーを生産するアイデアは、実証実験まで行われている

ゴミを集めエネルギーに変えることで、人々の徳を積む助けをする猫型ロボット「Bun-Bun」を開発

2021年のERCとのプロジェクトでは、廃棄物エネルギーのソリューションに焦点を当てることに。FabCafeはロボティクス開発会社と協力して、タイ北東部コーンケン県で、住民がゴミを分別するのを手伝い、近くの廃棄物発電所に届ける猫型ロボット「Bun-Bun」を開発しました。

カラヤのチームは、コーンケンのゴミ収集にかかわるエコシステム全体を調査し、自治体、地域社会、ホームレスの路上生活者など、さまざまな関係者の相互作用を把握した上で、屋内外で使用できる異なるサイズの2台のロボットを開発しました。

スマートシティ化を推進するコーンケン。Bun-Bunの仕組みもその取り組みの一環としてデザインされていて、地元住民はLINEアプリでBun-Bunを呼び出し、ゴミを回収してもらうプログラムになっています。また、ホームレスの人たちにこのロボットをメンテナンスする仕事を提供する計画もあるとのこと。コーンケンでは、以前スマートゴミ箱を実験的に導入したことがありましたが、コミュニティでの利用率は低かったそうで、今回のFabCafe Bangkokのクリエイティブなアプローチは、地域住民の関心を集め、廃棄物エネルギースキームへの参加を促進することが期待されています。

ちなみに、このBun-Bunというネーミング、ロボットがブーンと走る様子を可愛らしく表現しているのと同時に、タイ語で「徳」という意味の「ブン」も掛けているとのこと。小乗仏教では徳を積むことが救済への道と考えられています。そこで、人々にとって、行動に対して対価を得るというより、徳が積めることのほうが、Bun-Bunのゴミ収集に協力するモチベートできるのでは?という望みを込めているのだそうです。

タイの歩道はガタガタしていてロボットが走行できず、ロボットは車道を走らねばならないとのこと。かなり危険そうですが、今のところ壊れずにテストできているそう…。

プロトタイピング・検証の場としてのタイの可能性とは

これまでのFabCafe Bangkokの取り組みをふまえて、サステナビリティプロジェクトのテストサイトとして、FabCafe Bangkok、さらにはタイという場所に可能性がありそうです。カラヤ曰く、タイ人はテクノロジーに詳しく、人とのつながりを大切にしますが、公共のインフラは不足していることが多く、そのギャップを埋めるための実用的なソリューションが求められています。FabCafe Bangkokは、これまで、現地の現実をリサーチ/マッピングし、現地のパートナーを見つけ、タイでは見つけにくい製品開発の専門知識を提供してきました。これはサステナビリティプロジェクトに限ったことではありません。以下に、その他の取り組み例をいくつか紹介します。

コロナ禍においては必要な医療器具の開発と量産体制を構築。詳細記事はこちら
FABCAFE FIGHT CLUB は、Unityとデジタルアルチザンとの共同プロジェクト。3Dスキャンした自身のデータをキャラクターに変換し、踊ったり格闘ゲームをするイベントを企画・開催した。

シルクのヘルスケア/美容業界における可能性とは

続いてカラヤは、同じくTCDCの支援を受けてコーンケンで進行中の主要プロジェクトである「Isan Silk Hack Jam」について説明しました。シルクは重要な特産品であり、政府は新たな用途を模索しています。そのためには、それまでの当たりまえを超えて考える必要があると、カラヤは説明します。

カラヤ ファッションやテキスタイルだけに限定すべきではありません。シルクはヘルスケアビジネスや化粧品にも高い価値があります。だからこそ、この分野で活躍するパートナーを見つけたいと思っています。Divana Wellnessもその一つです。

イベントでは、シルクを新しい化粧品にするためのアイデアを若いクリエイターに求めているタイの企業、Divana Wellnessを紹介。共同代表のPattanapong Ranurak氏と Tanet Jirasavekdilok氏が登壇しました。FabCafe Bangkokでは現在、学生がシルクを使った新しいアイデアを開発するハッカソンを開催していますが、Divana Wellness社は、そのアイデアを市場の需要やビジネスの現実に合わせて調整するための貴重なアドバイスを学生に提供することで、相互に協力しています。

カラヤはDivana Wellnessの共同設立者のふたりを招き、進行中の取り組みを紹介した。

「Isan Silk Hack Jam」は、在タイ米国大使館から資金提供を受け、これまでにシルクの新しい化学的応用、蚕を監視するIoTシステム、シルク農家と地元のクリエイターをつなぐプラットフォームなどのスピンオフプロジェクトを実施してきました。Divana Wellnessは、FabCafe Bangkokから生まれたテクノロジーのアイデアをふまえて、パンデミック後の観光客の回復を目的としたタイのスマート・ウェルネス・デスティネーションなど、今後のコラボレーションをすでに計画しています。

多種多様なグループをまとめて、国の産業を改革する

「Isan Silk Hack Jam」において、カラヤは米国大使館からの資金を確保しただけでなく、香港のバイオテック企業にアプローチし、タイの大学にも働きかけて、一連のハッカソンを開始しました。当初の資金提供期間は今年で終了するため、カラヤはDivana Wellnessのような企業を商業パートナーとして増やしていきたいと考えています。

シルクに加えて、カラヤはコラボレーションの可能性がある分野としてハーブを挙げています。タイでは現在、ハーブの10%しか収穫されていません。FabCafe Bangkokとのコラボレーションにご興味のある方は、カラヤに直接(kalaya@fabcafe.com)ご連絡いただくか、ロフトワークの問い合わせフォームまでご連絡ください。

ここまで、FabCafe Bangkokの最新の取り組みについて紹介しました。次回はバンコクからスペインはバルセロナに移動し、リーダーのDavid Tena Vicenteさんとともにお送りします。お楽しみに。

執筆

David Willoughby

AuthorDavid Willoughby(Freelance Writer)

David thinks and writes about sustainability, technology and culture, and has reported on many of our hackathons, talks and other events. He also works with Japanese companies to help tell their stories to the world.

編集・翻訳

浦野 奈美

Author浦野 奈美(マーケティング/ SPCS)

大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

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