ステップ別・デザインリサーチを学ぶための10冊
こんにちは、広報の原口です。先日、経済産業省からの委託事業として実施した「高齢化にまつわる基礎調査」について、プロジェクトメンバーの神野にインタビューをしました。
どんな調査をしたのか? どんなことを見つけたのか? デザインリサーチで調査対象(生活者)や文化、環境のことを見つめるプロセスや学びを聞けば聞くほど感じたのは、鋭い観察眼と豊かな解釈の力が鍵を握るということ。
デザインリサーチでは、調査対象者の生活を徹底的に理解するために、テーマにまつわるありとあらゆる情報を集めたり、インタビューや観察をします。生身の人間を相手に、瞬時に状況を察したり違和感に気づく嗅覚や、多面的に理解するために視点を切り替える柔軟性や解釈の力は、そう簡単に身につくものではないでしょう。ましてや、Tipsを作れるものでもない。
そこで、インタビューのスピンオフとして同じく神野に参考書籍をピックアップしてもらいました。 誰も気づいていないけれど、多くの人が求めていた製品やサービス、制度や仕組みを生み出すための観察力・解釈力を鍛えたいという方、必読です!
デザインリサーチについて
「デザインリサーチ」の特徴は、調査を行う主体が実際に事業や製品を設計・デザインしていく本人であること。従来のマーケティングリサーチではマーケターやリサーチャーが調査主体となりますが、実際にデザインに携わる人が調査段階から関わることで、人々の生活のニュアンスまでも汲み取った理解につながります。
またデザインリサーチは、定量調査や形式的な定性調査では明らかにすることが難しい、生活者の行動や思考の裏側にあるコンテクストも含めた“Why”に着目します。本人さえ気付くことのなかった視点や心的態度を明らかにし、より本質的な課題発見につながる調査手法といえます。
まずは心構えとケーススタディ。デザインリサーチ初級編
日常の見方を変えてみる
『地球家族』(マテリアルワールド・プロジェクト、1994、TOTO出版)
家にあるものを全部家の前に出して撮った写真を、30カ国分集めた写真集。家具・家電ばかりの家族、乗り物が多い家族、最低限の物しか持たない家族。「人の暮らし」という当たり前の景色も、写っているものから「なぜこんなに物があるのか?」「これは何に使うんだろう?」と背景に思いを馳せるとまったく違うものに見えてくる。「見えなかったものが見えた」ときの感覚をぜひ味わってみてください。
フィールドでの視点を養う
『考えなしの行動?』(ジェーン・フルトン・スーリ/IDEO、2009、太田出版)
暑くてTシャツをハタハタしたり、靴紐を結ぶ時にひょいっとフェンスに足を乗せたり。私たちが無意識にする行為は、本能や習慣、経験にもとづいています。Tシャツはうちわ代わりに、フェンスは足台にするなど、無意識に機能を転用することは一体何を意味するのか。世界中の“考えなし”かもしれない行動を、ユニークな視点のキャプションと写真で紹介しています。
『サイレント・ニーズ』(ヤン・チップチェイス、2014、英治出版)
デザインリサーチは、調査対象者の生活を事細かに観察します。場合によっては、財布や冷蔵庫の中までも。人々が当たり前だと思っている些細なことを見つけて分析すること。デザインリサーチのエキスパート、ヤン・チップチェイス自身が調査で感じた「なぜ?」を追うことで、読み手も日常で見えてくる景色がすこし変わるかもしれません。
メソッドを身体に馴染ませる
『This is Searvise Design Thinking』(マーク・スティックドーン、ヤコブ・シュナイダー、2013、ビー・エヌ・エヌ新社)
『リサーチデザイン、新・100の法則』(ベラ・マーティン、ブルース・ハニントン、2013、ビー・エヌ・エヌ新社)
機能・流通に価値が置かれる時代を経て、いまは使い手自身の価値観に応じて選択がされる時代。しかし単にニーズを聞きそれに応える製品をつくればいいというわけではなく、エスノグラフィ調査などを通して本人も無自覚な需要に気づくことが大切です。その「気づき」を促すためのメソッドが、細かなフェーズに分かれ事例と共に解説されています。辞書的に手元に置いておくのがおすすめ。
より体系立てて理解したいあなたへ。「学」としての応用編
現場で活きる
『フィールドワークの技法―問いを育てる、仮説をきたえる』(佐藤郁哉、2002、新曜社)
社会学、心理学、経営学などを学ぶなかで現場調査を行う人、ジャーナリストなど現場取材や調査を行う人向けに、フィールドワークの要素や技法を紹介した実践手引書。現場で対象に馴染むように振る舞いながらも、観察者としての頭も働かせるには? 見ている状況を、偏見や思い込みなく事実としてどう書くか? 準備から記録の残し方まで丁寧に解説しています。暴走族や現代演劇といったテーマ、ナラティブな表現で描かれていて読み物としても楽しめます。
デザインの系譜で深掘る
『生きのびるためのデザイン』(ヴィクター・パパネック、1974、晶文社)
「デザインは、人間の本当の要求にこたえるような道具たれ」。持続性のない“人目をひく”デザインが出回った戦後、筆者はデザイン学校で教鞭をとりながらデザイナーの社会的責任を訴えます。「デザインのプロセスについての新しい考え方」が生まれることを期待して書かれた本書は、まさにデザインリサーチの背景を丁寧に辿り理解するのにぴったりの一冊。
『インクルーシブデザイン』(ジュリア・カセム他、2014、学芸出版社)
平均的なサイズ、重さや形状をとるマスプロダクション(大量生産)では、どうしても障がい者や子どもなど“排除”されてしまう人がいます。デジタルファブリケーションの技術が発達した今、マイノリティとされてきた人々も含めたデザインが可能になってきました。デザインプロセスに使い手自身が参加できるとしたら、一体どんな関わり方ができるのだろう。生活者の個別具体的な課題をデザインに組み込む、“実践”のアイデアや視点が詰まった一冊。
肩の力を抜いて読みたい、番外編
『木をかこう』(ブルーノ・ムナーリ、1985、至光社)
木をかこう、と呼びかけてくるタイトルの通り、実際ページを開くと確かに木のかき方が書かれている絵本です。でも、かく行為を通じて、「観察する視点」が育まれていく一冊。観察を通して知らない世界が見える体験を味わえます。
『モノからモノが生まれる』(ブルーノ・ムナーリ、2007、みすず書房)
プロダクト、グラフィック、映像、彫刻などさまざまなデザインを行うムナーリによる、「企画設計」の方法論を提示した一冊。料理や家具、おもちゃや建築などの構成要素を分解して、「動作とデザイン」が機能しているところをそうでないものの検証を通して、著者の「デザインの社会的役割とは何か」という問いと期待が透けて見えてきます。
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