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重松 佑 2016.09.28

デザイン思考に慣れてきたからこそ読みたい、視点を切り変えられる7冊

ユーザーの視点でデザインすることが当たり前のようになってきている。
そのためにプロジェクトの序盤でフィールドリサーチを行い、インタビューを繰り返し、ワークショップを重ねて、ユーザーインサイトを発見していくけれど…。

実はその度に心のどこかに少し引っかかることがある。それはデザイン思考のプロセスを踏むことによって「自分がユーザーのことを分かっているつもりになっているんじゃないか」ということ。さらに言えば「ユーザーが気づいていない本質的な課題を発見できているつもりになっているんじゃないか」という疑惑。

つまり僕が気になっているのは「ユーザーへの深い理解」はどうしたら出来るのか。その深度はどのように測ることができるのか。そして「ユーザーの視点で物事を考える」ことは本当の意味ではたして可能なのかということだ。

ユーザーに限ったことだけじゃないのかもしれない(「ユーザー」という言葉を「他人」と置き換えてもいいかもしれない)。例えば上司の視点、クライアントの視点、妻の視点であっても。誰か別の人の視点にたって世界を眼差すことは本当に難しい。ちょっと検索すればビジネス向けに整形された様々な手法やアプローチは知ることが出来る。だけど普段自分が見ている世界の捉え方とは異なる視点で物事を見る「視点を切り変える力」そのものはどうやって身につけ、養い、伸ばしていくことができるのだろう。

ここ最近そんな問いを意識の水面下に漠然と漂わせながら仕事をしている中で、多くの気付きを与えてくれたり、考え方のヒントになった本や写真集を7冊ここで紹介していきます。

1. 正体不明 / 赤瀬川原平

日常の風景の中に潜んでいる「微かに異質なもの」に焦点を当てた写真集。視点を変えることで、普段見ている世界とは異質の世界が在り在りと浮かんでくる。写真に添えられた文章もステキな視点を変えたものの見方を教えてくれる教科書のような一冊。

正体不明 / 赤瀬川原平

2. Driftwood Dinosaurs / 古賀充

海岸に漂流した流木を集めて、恐竜の全身骨格を作るインスタレーション作品の写真集。作家の想像力によって「価値の転換」が成された風景は、人と自然との関係性を問いかけてくる。悠久の時間の流れと、壮大な自然の力に触れることが出来るスケール感の大きな一冊。

Driftwood Dinosaurs / 古賀充

3. 土のコレクション / 栗田宏一

「土は何色?」と聞かれれば、条件反射のように茶色、または黒っぽいと答えると思う。この本にはピンク、オレンジ、黄色、青…。目の覚めるような美しい色をした土が並んでいる。そのどれもが足もとにある普通の土から採集されたもの。バイアスがかかることで世界の捉え方がどれだけ狭くなっているかを気づかせてくれる一冊。

土のコレクション / 栗田宏一

4. 指を置く / 佐藤雅彦、齋藤達也

グラフィックに指を置くことで、色々な感覚が立ち上がってくる。身体を関与させることで、目の前に見えているものの意味が変わり、自分の感覚すらも変わってくる。指を置くというシンプルな体験から、通り一遍ではない「解釈の深み」を味わせてくれる一冊。

指を置く / 佐藤雅彦、齋藤達也

5. 石はきれい、石は不思議―津軽・石の旅 / 堀秀道、中沢新一

津軽地方の海岸で拾われた石の写真と、石に魅せられた人達のコラム。人は古来から石の中に宇宙創造の凝縮を見出し、仏陀の遺骨と見立て、その模様や形状に想いを託してきた。些細な物事の周りにも「物語が潜んでいる」ことがよく分かる一冊。

石はきれい、石は不思議―津軽・石の旅 / 堀秀道、中沢新一

6. ANDY GOLDSWORTHY / アンディ・ゴールズワーシー

ランドアーティスト、アンディ・ゴールズワーシーによる作品集。特別な機材や技術を一切使うことなく、自らの身体と自然物だけで(彫刻のような)作品を生み出す様は「アイデアが世界を変える」ことを実例として教えてくれる一冊。

ANDY GOLDSWORTHY / アンディ・ゴールズワーシー

7. ABSTRACT REALITY / デニス・ホッパー

映画監督・俳優であるデニス・ホッパーが撮影した写真集。映し出されているのはグラフィティとも言えない街角の落書き、雨ざらしのポスター、シミや傷跡だらけの壁。「通りすぎさえしなければ、アートはどこにでも存在する。」という作家の言葉が、お前の視点はどこにあるかと問いかけてくる一冊。

ABSTRACT REALITY / デニス・ホッパー

まとめ

始めに感じていた「ユーザーへの深い理解」はどのように可能か。という問いに対する解を探すにしてはずいぶん回り道をしているようにも思う。それでも「耳を傾ける」「相手の立場で考える」「自分ゴトにする」といったような、よく消費される言葉にした瞬間にぬるりと通り抜けてしまう感覚的なものは必ずある。そういう言語にならないものをちゃんと掴み取れる力をどうにか伸ばしていきたい。

重松 佑

Author重松 佑(クリエイティブDiv. シニアディレクター)

シニアクリエイティブディレクターとしてブランディングを中心としたプロジェクトをリードする。クリエイティブの仕事において最も大切なことは「良いチームを作ること」を信条に、型に囚われないプロジェクトのデザインを行う。宣伝会議プロジェクトマネジメント講師。

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