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原 亮介 2018.06.20

非クリエイティブアスリートのための
常識を逆手にとるアイデア発想法

どうも、ロフトワークの原です。1975年生まれ、青春は90年代、今再びアツイ90’sカルチャー創った国内約190万人のうちのひとりです。

さて、ロフトワークのクリエイティブ・ディレクター陣は、いくつかのテーマのグループに分かれて自由研究を行っているんですが、ボクは広義のプランニング、狭義にはプロジェクト・デザインとかコミュニケーション・デザインと呼ばれる類を研究するグループに属して活動しています。

この活動では、一部の天才のものと思われがちな「クリエイティブなひらめき」への劣等感と反抗的精神から、凡人でも扱いやすい汎用的なアイデア発想法やプランニングのメソッドの探求・実践を繰り返してきました。大人になるとともに固くなりがちな脳をクリエイティブ脳であり続けさせる、いわば「クリエイティブアスリート」を目指しています。ここでは、そのなかからいくつかをシリーズで紹介していこうかなと思っています。

初回は「常識を逆手にとるアイデア発想法」です。

常識とは偏見のコレクション

「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションである」。

これはアインシュタインの言葉ですが、ボクら大人は、この「常識≒偏見」に束縛されていることに気づかずにいて、愚かなことにそのコレクションに自信や誇りすら感じてしまっています。個人的に常識や偏見というものは、日々の生活や長いスパンでの人生のリスクを回避しようする自衛本能よって身につけられていくコレクションだと思っていて、だからこそ拭い去り難い超やっかいなもの。

ここ最近、クライアントの方々から寄せられる相談のなかに、ざっくり言えば「自分たちの常識を壊して欲しい」というメッセージを含むものが多くなってきている実感があります。

「常識を壊そう! 常識にとらわれない、新発想をしようぜ!」とは意気込むものの、業界や自社の慣習や、正解を出そうとする思考(それも“常識”のひとつ)が邪魔をして、クリエイティブジャンプができずにいる……。そんな感じなんじゃないかなと思います。

極論、アイデアというものは、情報と情報の組み合わせでしかありません。そしてプラン、企画とは、そのアイデアにどんな企て(意志・狙い・思惑)を忍ばせるかということなので、普段から雑多な情報にアンテナをはり、たくさんの企みを抱えている人のほうが、有利です。つまり日々の習慣やトレーニングがないと、クリエイティブアスリートにはなかなかなれません。

今回紹介する「常識を逆手にとる発想法」は、実は主観的なものだったりする常識というものを“わかる”ことから始め、それを水平にズラすことで、それこそ「コペ転*」とかいわれる、世の中ががらりと変わるような見方を手にする方法です。そしてこれは日々の習慣やトレーニングの汎用性が高く、クリエイティブアスリートでない誰にでも扱えると確信している手法です。

[*コペ転……コペルニクス的転回。コペルニクスの地動説に因み、天地がひっくり返るくらいの展開が起こることを指す略語。1970年代頃若者の間で流行した。]

常識を構造化してみる

まず最初のステップは、対象とするものごとの常識を構造化すること。
目的は、常識を“わかり”、扱いやすい状態にすることです。

タクシーの常識を例にやってみましょうか。

タクシーは「車である」。「道路に立ち」「タクシーを発見し」「乗車後にドライバーに行き先を伝え」「ドライバーの土地勘や経験によってルートが決まり」「走ったメーターによって料金が決まる」「移動手段である」

こんなところでしょう。

この常識の構造化は、複数人でやることをオススメします。常識はさっきも言ったように十八歳までに身に着けた偏見のコレクションであり、実はとっても主観的なものなので、面白い違いがありますし、話も盛り上がります。なんたってこれは、お笑いでいうところの「あるあるネタ」ですからね。

タクシーとは「ドライバーの話術で乗車体験の質が変わるもの」なんてことを書く人もいるでしょう。

パーツを水平にズラしてみる

構造化の次のステップは、構造化したそれぞれのパーツを水平にズラす、です。いろんなパーツをどんどん水平にズラして、発想を拡げていくのが目的です。

さっきのタクシーを例に「ドライバーの話術で乗車体験の質が変わる」というパーツをズラしてみると、「話術のプロだけのタクシー」なんてコンセプトのアイデアは簡単に浮かびます。

「泣ける話タクシー」「怪談タクシー」「ゴシップネタタクシー」etc.ほらほらどんどんでてきます。こんなタクシーのオーダー方法は? 料金体系は? プロモーションは? などなど企画にまつわるアイデアもどんどん出てきそうですし、こんなタクシーはもう移動手段ですらなく、娯楽のひとつに変わってきました。

まじめにいうと、この常識をズラシてビジネスにまで企てたのは、ご存知「UBER」です。でもでも、まだまだタクシーにも余白はたっぷりありそうな気すらしてきます。

その常識はフィクションかもしれない

2017年にベストセラーになった『サピエンス全史』という本があります。多くの人類が常識だと信じる国やお金や宗教といったものは、実はフィクションだらけであり、そのフィクションを信じる力で人類は繁栄してきたというお話です。

この本がここまで話題になった背景には、スマホとSNSの普及によって、自分と他人の常識の違いがわかるようになったからだなと思っています。

常識を超えるには、常識を偏見のコレクションだと捉え、常識を整理整頓することから。

おまけ:クリエイティブアスリートのためのアイテム集

「コペ転」を掘り下げたいあなたは、こちらを必読。『Spectator〈36号〉 コペ転』(2016)
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