なぜ、どのように、リサーチするの?
FIELD編 – いつ、どこで、だれを見るのか。覚えておきたい7つのポイント
ロフトワークでは、多様化するユーザーのニーズを汲み取るアプローチとして、近年デザインリサーチを取り入れています。多くのリサーチでは、定量分析だけでは分からないことを理解するために、現場〈フィールド〉に繰り出します。対象者の生活文脈〈コンテクスト〉に潜り込むことで、彼らの喜び、悲しみ、抱える課題を捉えるためです。フィールドでは、数字やアンケートでは得られない、奥行きのある(インパクトある)情報を得ることができます。
今回は、ロフトワークが手がけるリサーチプロジェクトについて、チームメンバーが共通して意識していることや、心がけていることをダイジェスト版でお送りします。
なぜ、現場〈フィールド〉に向かうのか
人間をプロセスの中心に置く
今日サービスや製品をつくる時には、関連するサービスや、それを可能にするシステムなど、様々な相互作用を前提とした包括的な設計をすることが求められています。
例えば、今皆さんが見ているスマートフォンやパソコンの画面の裏には、デバイスを形作るデザイナーのほかに、アプリケーションなどソフトウェアを作るデザイナー、体験を考えるデザイナーなど様々な作り手が存在します。そのほかにも、インフラを整える事業者や、法律まわりを整備する専門家にいたるまで、あらゆるプレーヤーがデザインプロセスに影響しあっています。
技術の進歩により複雑化する社会では、より多くのステークホルダーで問題を理解し、共有し、解決することが必要です。そのためには、多様なユーザーを巻き込みながら、リサーチ対象の人々の感情や経験など定性的なリサーチをベースに、あらゆるプレーヤーと協働することが重要です。
「文脈」に浸かって深く理解する
現場〈フィールド〉におけるリサーチは、リサーチャーが研究室に実験対象を持ち込むこととは異なり、自然な環境、つまり、既存のデザインが溶け込んだ――あるいはラディカルな改善を必要とする――状況〈文脈〉において、何が行われているのか、そのリアリティに迫ります。リサーチャーは、フィールドで人々の話を聞いたり、ふるまいを観察することで、対象となる人物が「何を理解しているか」を理解します。研究室は「脱」文脈的ですが、フィールドは文脈的であると言えるでしょう。
こうした背景を前提に、私たちは、どのように現場〈フィールド〉に向かえば良いのでしょう?以下では、全3編で構成される「なぜ、どのように、リサーチするの?」の中でもFIELD編として「いつ、どこで、だれを見るのか。覚えておきたい7つのポイント」を高齢社会のデザインリサーチプロジェクトの学びを中心にお伝えします。
どこを、見るか
リサーチでは、普段は見過ごしてしまいそうな場所にまで目を光らせ、ちょっとした違いや気になる状況をつぶさに記録しましょう。「なぜ、なぜ?」と問う気持ちが大切です。人々のふるまいと周辺状況を複合的に見て、インタビューができる場合は質問します。
point1. フィールドでは観察に徹し、解釈はやめよう
リサーチによって新たな発見を見出すには、フィールドにいる段階ではまだ「ここが問題だ、こう解決しよう!」と解釈・解決しないことが重要です。気になるものやふるまいや背景にあるストーリー、感情の動きをあらゆる角度から問い、記録して持ち帰りましょう。フィールドでは、自身の感情のひだが揺れる瞬間に耳をすませ、解釈の幅を柔軟に保つことが重要です。
だれを、見るか
定性的な調査においては、定量調査に比べて対象者一人の発言が強い意味や主張を持つものになるため、「だれを見るか」が極めて重要になります。
point2.「平均」以外にも目を向けよう
従来のマーケティングリサーチでは、会議室に「平均」的な人物を招き入れ、定量的なデータを取得していましたが、デザインリサーチでは、むしろ「極端」な人物も含め、広く対象を検討します。対象者に共通して見られる特徴やふるまい、思考パターンを抽出することで、思いがけない洞察を得ることができます。
point3. 対象者の選定理由を意識しよう
あらゆる「軸」で対象者を捉え、選定の妥当性を問い続けましょう。リサーチの初期には、基礎情報を丁寧に洗いだしながら、対象者の分布を見ます(スクリーニング)。リサーチ中盤には、どのような切り口から彼らの属性を捉え直せるかを見直し、どんな対象者を追加したいかを議論、アサインします。これはフィールドでの参加が困難なクライアント(企業や行政)のメンバーやその上長に対し、数少ない対象者をどのように選んだのか理解してもらう材料になります。 (詳しくは「高齢社会のデザインリサーチ プロジェクトに基づく 実践ガイド」p.39~をご覧ください)
いつ、見るか
フィールドには、環境を一定に保つことができる実験室とは異なり、変化しうる要素がたくさんあります。訪れる時間は「ふつう」の状況なのか、そうではないのかを意識しましょう。
point4. 訪れる時間に気をつけよう
海辺の朝市、年に一度の大規模な夏祭り、よく晴れた日の公園、カラオケ付きスナック。これらは、一時的にしか立ち現れない場所、あるいは昼と夜とで違う顔を持つ場所の例です。短い滞在期間の中で、こうした出来事に意識を向けることで、新たな発見を生んだり、思い込みや勘違いを回避することができます。
どう、見るか
複数のメンバーで、一定期間リサーチを行う場合、チームのパフォーマンスをいかに高めるか、そして日々増え続ける膨大なデータを確実に管理することが求められます。
point5. フィールドの慣習を理解しよう
フィールドには、多かれ少なかれ、何らかの慣習があります。歴史的な背景、宗教的なタブーなど事前に調べてわかることもあれば、世代間のギャップやコミュニティ独自のルールなど、インターネットでは知り得ないことも数多くあります。リサーチャー自身の思い込みを極力減らし、理解する姿勢を持ち続けることが重要です。
point6. リサーチャー全員の目で見よう
チームでリサーチをする最大のメリットは、多様なバックグラウンドを持つメンバーの視点から、多様な主張を導き出せることです。年齢・性別・出身も異なるメンバーの議論を活発にするにはどのような心配りやイベントがあるとよいかを考え、楽しみながら実践することが重要です。
point7.リサーチそのものをアップデートし続けよう
1~2時間を超えるインタビューが、30名以上、それも1ヶ月に渡って行われるとなると、リサーチ初期に持っていた仮説は大きく更新されます。日々、何が面白かったのか、反省すべきポイントはどこにあったのか、次はどのようなチャレンジをしたいのかを明らかにし、素早くプロジェクトに反映しましょう。
まとめ
- 1. フィールドでは観察に徹し、解釈はやめよう
- 2. 「平均的なユーザー」以外にも目を向けよう
- 3. 対象者の選定理由を意識しよう
- 4. 訪れる時間に気をつけよう
- 5. フィールドの慣習を理解しよう
- 6. リサーチャー全員の目で見よう
- 7.リサーチそのものをアップデートし続けよう
以上、フィールドリサーチにおいて、心に留めておきたい7つのポイントでした。
STUDIO編では、リサーチのための環境の作り方、SHARE-OUT編では、リサーチ結果の共有方法についてお伝えします。
〈参考文献〉
- 水野大二郎(2014)「学際的領域としての実践的デザインリサーチ―デザインの、デザインによる、デザインを通した研究とは」
- Ilpo Koskinen(2011)「DESIGN RESEARCH THROUGH PRACTICE. From the Lab, Field, and Showroom.」
- D. A. ノーマン(2015)岡本明、安村通晃、伊賀聡一郎、野島久雄(翻訳)『誰のためのデザイン? 増補・改訂版──認知科学者のデザイン原論』、新曜社
- クラウス・クリッペンドルフ(2009)小林昭世、川間哲夫、國澤好衛、小口裕史、蓮池公威、西澤弘行、氏家良樹(翻訳)『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』、エスアイビーアクセス
- ロフトワーク(2017)「デザインリサーチ実践ガイド Design Research 101」
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