FINDING
松本 亮平, 室 諭志, 加藤 翼 2018.08.29

100BANCH『ナナナナ祭』での試行錯誤が教えてくれた、
デザイン思考におけるプロトタイピングの重要性

情報の共有から計画の立案、チームメイトとのコミュニケーションまで、効率化や生産性という観点から、ついオンライン上で進めてしまいがちですよね。しかし、展示などの空間づくりやゼロから形にしなくてはならないとき、また、多くの人のアイデアをまとめなくてはならいい場合は、リアルな場で手を動かして〝プロトタイプ〟を作ってしまう方が、意外とスピーディーに完成に近づくようです。

というのは、100BANCHの設立1周年イベント『ナナナナ祭』の空間演出や展示ディレクションを担当した松本亮平さん、室諭志さんが実体験から学んだこと。今回は、100BANCHのコミュ二ティーマネージャーでもある加藤翼さんも交えて、この一大イベントを通じて、彼らが得ることができた学びや気づきについて、ライターの内海がお話をうかがいました。

テキスト:内海 織加

実験区100BANCHの活動の軌跡と魅力を、 あえて圧縮せずリアルに伝える『ナナナナ祭』

100年先の未来を豊かにすることをテーマに、新しい時代を切り開いていく若者たちを支援する実験区として100BANCHが誕生したのが、昨年の7月7日。35歳未満の若者を対象にさまざまなプロジェクトを公募し、この1年間で66のプロジェクトを採択してきたこの場所の1周年を記念して、展示やワークショップなどさまざまな手法で100BANCHの活動を広く見てもらおうと、7月1日から8日間に渡って『ナナナナ祭』というイベントが行われました。

この『ナナナナ祭』の構成は、大きく分けて以下の2つ。

  • 100BANCHとはなにか?そして『ナナナナ祭』の魅力は?を紹介する展示
  • 100BANCHに入居するプロジェクトメンバーの活動を紹介する展示

それぞれの見せ方の企画・実装・運営まで、この祭りのために結成されたロフトワークチームが中心となり、100BANCHの入居メンバーと一緒に進めることとなりました。100BANCHの運営にも携わり、『ナナナナ祭』では入居者チームのまとめ役を担った加藤翼さんは、このイベントのはじまりをこう語ってくれました。

“入居者も来場者も一緒に、このお祭りを作る「実験」をしようっていう感じ”

Layout Unit ディレクター加藤 翼

「100BANCHは日本で一番多様なプロジェクトが集まっている場所だと思います。実験的なこの場所の様子を、1.5倍、2倍くらい魅力的に見せたいっていうところから『ナナナナ祭』はスタートしました。

見せ方のポイントとなるのは、難しいものを難しいままどう伝えるか、ということ。入居メンバーが取り組んでいるようなユニークなプロジェクトは、簡単・シンプルに表現してしまうと、つまらないものにしかならない。

展示内容がコンパクトにしすぎてしまうと、その多様さが見えづらくなってしまう。入居者も来場者も一緒に、このお祭りを作る”実験”をしようっていう感じで、8日間に渡って100人規模のワークショップイベントを日替わりで開催してリアルに体感してもらう試みも取り入れました。」(加藤)

「展示」というイメージに固執せず、リアルな場を体感することで個性を見出す

いざイベントの実施が決まり、ざっくりとした構成内容が見えてきても、誰の中にもまだ明確なイメージがない中でプロジェクトを進めるのは至難の技。

特に、「100BANCHとはなにか?そして『ナナナナ祭』の魅力は?」を紹介する展示に関しては、入居者メンバーのアイデアや、展示の要望にどこまで応えられるのかわからない状態で、準備の進行方法や展示プラン、什器デザインなどを考える作業は想像以上に難航したのだそう。

しかしその原因は、一般的な「展示」という言葉に引っ張られすぎてしまったために、100BANCHという場所の個性を見失っていたこともあったようです。空間構成や進捗管理を担当していた松本さんは、こう振り返ります。

“やっぱり行ってみないとわからないことはたくさんあるんですよね”

クリエイティブディレクター松本 亮平(写真左) / 室 諭志(写真右)

「展示と聞いて、一般的な美術館の展示とか、いわゆる完成品を見せるようなものをイメージしてしまっていたので、情報設計とか共通ルールを作ることに意識が向いてしまっていました。

肝心の100BANCH自体やそこで起こっている活動の価値について、ぜんぜん理解が追いついていなかったんです。そこでまずは100BANCHに長く滞在してみて、どんなエモーショナルな人の動きがあるのかとか、そういうことを体験することからはじめていました。

やっぱり行ってみないとわからないことはたくさんあるんですよね。そこに身を置いてはじめて、100BANCHらしいあり方とか表現みたいなものが見えた気がします」(松本)

100BANCHに身を置き自身も場を体験することで理解を深める

また、什器のデザインや実装などクリエイティブ全般を担当していた室さんは、実際に滞在しながら入居者と積極的にコミュニケーションをとるようになって、プロジェクトが動きはじめたのを感じた、と話してくれました。

「最初は、打ち合わせでしか入居メンバーと顔を合わせていなかったんですが、もっと100BANCHにいる人やプロジェクトを知る必要性を感じました。そこで用事がなくても、個別にコミュニケーションをとるようにしていったんです。

そうすることで、ロフトワークのスタッフたちも、この祭りを一緒につくる仲間なんだよっていう認識を入居者にも持ってもらうことができたと思います。空間の相談はこの3人にね!という相談掲示板を作ったのも、距離を縮めていく作業としてはよかったと思います」(室)

手を動かすことが、思い込みを脱却し、デザイン思考の本質を思い出させてくれた

約2ヶ月くらいをかけて準備を進めてきた『ナナナナ祭』には、全日程で6000人を超える人が来場し、多いに盛り上がり成功しました。しかし、それだけでなく、アイデアを形にしていくプロセスを見直し、忘れかけていたアナログなやり方の大切さを知ることができたという点でも、非常に意味のある機会となったようです。『ナナナナ祭』を終えて、スタッフの3人ににあらためてコメントをいただきました。

“「場」を形づくるプロジェクトではアナログな作業のほうがスピーディー”

「Webのディレクションを中心にやっている時は、資料は基本的にオンラインで共有して進めていくやり方がスムーズだったんですけど、この祭のプロセスを経験して、「場」を形づくるプロジェクトにおいては、作って試してみるっていうアナログな作業が、いい形にスピーディーに持っていけるということを思い出しました。」(松本)

「また、同時に、何か議論したいときにも、話し合いたい内容を紙に書いて貼り出して、レイアウトや動線などを指差し確認をしながら話し合えると、余白のあるいいディスカッションになりやすいことを再確認しました。

オンライン上で情報を共有しても、忙しいとなかなか見てもらえないけど、ここに来ないと見れないっていう状況をつくると、そこに足を運んでくれるしコミュニケーションが生まれるんです。リアルな場を設けることの大切さを感じました」(松本)

“失敗することを恐れず意識的にボツ案を出すようになりました”

「プロトタイプを作っては直してっていうのを繰り返しながら作り上げる体験をして、失敗することを恐れず意識的にボツ案を出すようになりました。いまいちだと思っても出してみる。すると、自分が考えていることや見ている視点みたいなものを伝えることができるんです。」(室)

「また、今回、タスクを付箋に書いて貼り出していたんですけど、スプレッドシートで管理しているよりも、断然、作業量がわかりやすかったですね。終えたタスクの付箋を手で折っていたんですけど、ファイルにチェックを入れるより達成感もあったし楽しくて。

反省点としては、入居メンバーの展示に関して、実験段階のおもしろさやこれから何か起こりそうっていう期待感を伝えるような編集がいまいちうまくできなかったこと。次回は、もっとプリミティブさや未熟さみたいなものをうまく表現できたらと思っています。来年のプラン、もう頭の中にありますよ(笑)」(室)

「今回は、完成じゃなくても見える形にすることの大切さを痛感しました。入居メンバーのプロジェクトについても、なかなか形が見えずに苦戦したところがあったので、粗い状態でもいいから早い段階で見える形にすることを勧めていきたいですね。」(加藤)

「しいたけは飛び、そうめんは流れる。」イベントの様子

「100BANCHとしては、この祭りを通して入居メンバーの結束も強くなりましたし、Webの数字を追って分析するなど、運営的なところでのジャンプアップもできたと思います。次回は、渋谷川の川開きイベントを開催するので、そこには今回の気づきを生かせそうです。」(加藤)

こうするべき、という思考に囚われず、一見、非効率と思われるようなアナログな作業でもトライしてみると、プロジェクトによっては、本当に求めているものに辿り着くことができたり、近道になることもあるようです。なにか行き詰まりのようなものを感じた時は、一度、思い込みから脱却してみる、という自分なりの「実験」をしてみるのもいいかもしれません。

今回話しを聞いたメンバー

加藤 翼

株式会社ロフトワーク
Layout シニアディレクター

Profile

松本 亮平

松本 亮平

株式会社ロフトワーク
Layout Unit シニアディレクター

室 諭志

株式会社ロフトワーク
バイスMVMNTマネージャー

Profile

内海 織加

Author内海 織加(エディター、ライター)

新潟生まれ。広告制作会社を経て2009年よりフリーランス。雑誌や広告プロモーション分野で企画・編集・執筆・コピー制作などを行う。ライフスタイル提案やカルチャー記事、インタビュー記事を中心に幅広いジャンルで執筆。ネーミングを担当した池ノ上のギャラリー&コーヒースタンド「QUIET NOISE arts&break」にて、展示キュレーションも行う。音楽のライブ、ダンスやお芝居の舞台にも頻繁に足を運ぶ。
https://www.instagram.com/ori_/

Keywords

Next Contents

街の緑、食品ざんさ……都市の「分解」を可視化する。
「分解可能性都市」展示レポート