若者のお金との向き合い方を探った、
デザインリサーチの全容
ロフトワークは、金融庁の委託事業である「国民の資産形成促進のためのビデオクリップ教材制作業務」の一環として「若者のお金との向き合い方」にまつわるリサーチを行いました。ビデオクリップは、国民の安定的な資産形成の促進を目的として、新入社員を始めとする若年勤労世代向けの実践的な投資教材を目指して制作しています。本コラムでは、リサーチを行った背景と、そこでの発見をダイジェスト版でご紹介します。
金融庁と進めたプロジェクトについて
私たちは、ビデオクリップのターゲット層に、より効果的な訴求を行うため制作に先だって『投資に限らず、そもそも「お金」というものに若者がどのように向き合っているのか』という観点からリサーチを行いました。レポート内では、リサーチから得た若者とお金にまつわる発見や、若者の人物像を紹介すると共に、若者に資産形成の重要性に気づいてもらうためのアイデアを掲載しています。
今回のリサーチでは、東京とロンドン(NISA創設において参考とされたISAを擁する英国の首都)の2都市にて、20~34歳の職業、生活環境の異なる34名を対象にインタビュー調査を行いました。
リサーチ概要
- 総数
36名(東京24名、ロンドン12名) - 年齢
20~34歳(平均27.5歳) - 職種
大学生、公務員、教員、会社員(デザイン、通信、人材派遣、保険、FinTech、シンクタンク、コンサルティング、建設、メディア、IT)、フリーランス(ジャーナリスト、ライター)、自営業(レストラン経営)、起業家、デイトレーダー、NPO職員
なぜ、リサーチを実施したのか?
今回のリサーチにおいてはデザインリサーチの手法を採用しています。デザインリサーチとは、マーケティングリサーチとは異なり、これまでのマーケットの延長線上にはないようなプロダクトやサービスを生み出す気付きを得るものです。
お金を「稼ぐ」「使う」「貯める」「増やす」といった行為は普遍的なものですが、実際どのように行動するのかは、ユーザーである若者を取り巻く環境や彼らのニーズなど、様々な要因によって決定されています。 彼らに対する共感を得るため、定量的に得られるデータだけをもとに仮説を導き出すのではなく、対象となる人々の生活や環境に没入し、インタビュー、参与観察*やプロトタイピング**といった手法を用いてよりリアリティある言葉を引き出します。
こうしたリサーチは、複雑化する社会の中で多様化するユーザーのニーズを探り、大きな変化を起こす際に有効な方法とされています。
*リサーチャーが対象となる社会や集団に参加し、行動様式を観察・記述する手法
**必要最低限の機能でアイデアを試作し、対象者から新たな学びを得る方法
気軽には聞きづらい「お金」のハナシ。どのようにリサーチをしたか?
テクノロジーの進歩により、近年はお金と人との関係はダイナミックな動きを見せています。紙幣や硬貨といったカタチに縛られることなく、自由に取引ができるようになり、国や企業を介さずに、個人間での取引ができる仕組みも生まれています。 今までにないお金の使い方や貯め方が可能になると、個人同士で所有物やスキルを売買したり、共感や信頼を集めて資金調達を行う動きも出てきました。
今回のリサーチでは、こうした環境の変化を背景に、若年層が「人生の中でやりたいこと」と「お金」の関係をどのように捉えているのかを理解するため、以下の3つの問いを中心にインタビューをしました。
リサーチの問い
- 人生の中でやりたいことと、そのために必要となるお金の計画についてどう考えていますか?
- どのようにお金を稼ぎ、使い、増やしたいですか?
- 誰とお金の話をしますか?
インタビューの方法
- 若年層(20~34歳)を対象に60分~120分程度かけて実施
- 実施場所は彼らの生活状況を垣間見ることができる自宅や、職場、あるいは本人と関わりが深い場所で、リラックスして話せる環境を選択
使用したツールについて
インタビュー実施にあたっては、対象者が自由に記入できるワークシートや、リサーチから得たヒントを元に作成したペーパープロトタイプ*を使用し、よりリアルな対象者の声を引き出しました。
若者とお金にまつわる3つの発見
リサーチを通じて、日本の若者とお金の関係性について以下の3つの発見がありました。リサーチレポートには「Finding(発見)」としてまとめています。
目的なくしてお金の計画をたてられない
社会環境が複雑化し、住むところや働き方も多様化していると言われる現代で、若者はこうした社会状況やライフステージの変化に、漠然とした不安を抱えています。同時に、多くの若者は自分の将来について具体的なイメージを持てていません。
「いつ、何のために、どのくらいお金の準備をするのか」を自身で考えることが難しく、目的なくお金を貯めたり、増やすといったモチベーションも生まれにくいと言えます。また、投資を通じた資産形成が自身のやりたいことの実現を後押しする手段であるということに気づいていません。
「身近な異世代のお金の価値観」に影響され、社会状況の変化にリアリティを持ちにくい
日本、英国ともに若者にとってお金に関して話ができるのは両親やパートナー、職場の同僚や先輩、境遇の近い人などの身近な存在でした。 日本では、親世代のお金に対する考え方が、子世代である若者の考えに大きく影響を与えている発言が多く聞かれました。
母親から「若いうちに貯められるだけ貯めておきなさい」と言われたり、上司に給料はどのくらい上がるものなのかや、ライフイベントに関わる費用の相場を訊ねたりしていました。また、そのほかの身近な相談者として、親や職場を介して知った保険会社の販売員が挙がっていました。英国では、若者のお金に対する考え方について、多様なコミュニティから影響を受けている発言が多く聞かれました。その背景には、転職を繰り返しながらキャリアアップする考え方や、移民同士のネットワークなど関わりの強い人々の存在があるようです。
「資産形成に立ちはだかる壁」を乗り越える動機が生まれにくい
日本の若者は、将来の収入や支出の見通しについて「給料は年齢に合わせて上がっていくもの」「何かあった時のためにお金を貯めておきたい」という漠然とした声が多く上がりました。
社会的状況の変化が自分自身の人生にどのように影響するのかについてリアリティを持てず、資産形成の重要性にも気づきにくいです。 その結果、資産形成を始める事に対していくつかの壁を感じていることがわかりました。
リサーチで感じた3つの壁
- 言語の壁
資産形成に関連して使われる言葉の難しさ - 思い込みの壁
「自分が働かずにお金が得られる仕組みを信じられない」ことや、投資と投機を区別せずに、「過度にリスクの高いものである」などの印象を持っている - 情報過多、面倒の壁
数ある金融商品から取捨選択できないことや、書籍やネット上にある膨大な情報のどれを信じたらいいのか分からない、手続きに必要な時間や手間が多い
まとめ
私たちは、このリサーチを経て、若者に資産形成の重要性に気づいてもらうためには、資産形成の目的を明確にすることが特に重要だと考えました。
レポート内では、アーキタイプ(リサーチの対象者に共通して見られる特徴やふるまい、思考パターンを抽出し、ユーザーを代表する人物像)と、若者に資産形成の重要性に気づいてもらう3つのポイントを記載しています。
金融機関や金融サービスの提供者、企業の人事・福利厚生担当者、これから資産形成を支援したいと考えている企業が若者をサポートする参考として、また、若者自身が資産形成に向き合うきっかけとなれば幸いです。レポートは以下からどなたでも自由にダウンロードできるので、ぜひご覧ください!
資産形成促進ビデオクリップ教材制作のためのリサーチ
若者のお金との向き合い方(日本語・13.4MB)
プロジェクト概要
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