FINDING 岡田 恵利子 2019.11.20

自然や周辺住民と共創しながら自分らしく暮らす
障害者居住施設Sølund(スルン)
デンマークの共創・参加型デザイン #01

本記事は、公立はこだて未来大学大学院に在学中で、現在デンマーク滞在中の岡田 恵利子さんによる寄稿記事です。
岡田さんは、カメラのUI/UXデザイナーを経て、共創・参加型デザインを研究されています。2019年9月より共創・参加型デザインの先進地域である北欧・デンマークに渡り、実践を交えながら現地をリサーチされています。今回の寄稿では、デンマークで見たこと・聞いたこと・感じたことなどを、月に1-2回のペースでご紹介いただきます。

#デンマークの共創・参加型デザイン

デンマークの首都コペンハーゲンから電車で約3時間、スカナボー(Skanderborg)という小さな街に、「スルン(Sølund)」という障害者施設と一般住宅が共生している場所があります。

入居する方の障害の程度は様々ですが、自然や周辺住民と明確な境界線なく自然豊かな場所で、スタッフの方のサポートを受けながら自分らしい暮らしを送っている様子が垣間見れます。その暮らし方を見ると、施設と呼ぶよりも村と呼ぶ方がふさわしいかもしれません。

偶然立ち寄ったこの土地で出会ったこの施設は、参加型デザイン・共創の事例を求めてデンマークに滞在している私にとても新鮮な驚きを与えてくれました。

本記事では、スルンの環境やアクティビティとともに、ここに暮らす人々の自分らしい生き方について紹介します。

豊かな自然に恵まれた街 スルン

リレソ(Lillesø)という名前の湖の西側に広がるこの赤丸エリア周辺が、スルンというエリアとして認識されているとのことで、このスルン周辺には豊かな湿地帯、老人ホーム、幼稚園、一般住宅など、様々な人の生活が息づいています。

赤枠で囲まれたエリアがスルン

左側が主に施設のあるエリア、右側が一般住宅のあるエリアですが、塀などの明確な区切りはありません。広大な草原を入居者はもちろん一般住民の方も日常的に散歩しているそうです。

居住施設、管理棟、アクティビティ施設、プール、など複数の建物がこのエリアに配置されており、エリアの地図を見てみると、本当に村のような集落になっているのがお分かりいただけると思います。

私の訪問時はちょうどタイミングが合わなく居住者の散歩の様子を拝見できなかったのですが、近隣に住んでいらっしゃる方から普段こんな感じで施設の方はお散歩しているよ、と馬に乗ってお散歩している写真を見せて頂きました。

周りの豊かな湿地帯にはリスやキツツキなど野生の動物が暮らし、またセラピー用に飼育されているというヤギや鹿、馬などの動物たちも、スルン村に住む一員として皆に愛されているそうです。

この動物達に餌をやっている家族連れの姿も日常的に見られる光景で、私が訪れた日も人参などの餌を各自持参して、みんな好きなように動物たちと触れ合っていました。

湖周辺は森林散歩ができるよう整備されており、一歩足を伸ばすだけで森林浴ができる本格的なトレッキングコースになっていました。お散歩好きなデンマーク人、毎日1時間のお散歩は普通とのことで、滞在時は近隣に住むご家族の散歩に付き合わせて頂きました。とても気持ちの良い時間でした!

現在私は、5才の娘と2人でデンマークに滞在しているのですが、娘と一緒に森を散歩し、動物と触れ合い、とても上質な時間を過ごすことができました。

アートな空間で居心地の良い住環境

また後日、日を改めて実際に施設入居者の方が暮らしている建物を見学させてもらいました。写真掲載は撮影の許可がでたところのみとなりますが、いわゆる施設っぽさが全く感じられない、自然とアートに囲まれた素敵な住環境でした。

障害の程度や相性によって居住グループが分けられているそうですが、3-6人のグループごとにひとつ共用リビングが与えられていて、それとは別に個室が割り当てられているそうです。部屋はひとつひとつ家具やアートなどが異なっていて、それぞれ個性が感じられるお部屋になっていました。

飾られていた絵のひとつは居住者の家族が選んでくれたものということで、居住者はもちろんその家族も一緒に快適な生活を作り上げていく仲間として、コミュニケーションを密にしていることが伺えました。

各建物にはそれぞれ共用キッチンがあり、別建物にある大きな厨房から、あと少しの加工で食べられる状態の料理が運ばれてくるようになっているそうです。できるだけ家と同じようなスタイルでホームメイドな料理が食べられるよう、そしてできるだけ居住者自身で準備・加工できるように工夫しているそうです。

そんなところからも、ここは施設ではなく家であり、みんなで暮らす村であるというスタイルを感じることができました。

約250名の居住者に対して56名のスタッフで運営されているとのこと。障害の程度に応じてサポートのレベルも違うそうですが、そんなに大人数が住んでいるとは全く感じられないゆったりとした作りになっていました。

外でのんびり過ごせるテラスや遊具など、屋内だけでなく屋外の設備も充実しています。

ここで暮らす方達の活き活きとした生活の様子は、こちらで写真を見ることができます。
http://solund.dk/galleri/?lang=en

オープンマインド&誠実さが心を開く鍵

入居者に対して、スタッフの方が心がけているのが何に対しても「オープンマインド(open mind)」そして「誠実(honest)」に接することだそう。

他の国で戦争に巻き込まれたショックで心を完全に閉ざし全く声を発することができなくなった方など、精神的なハンディキャップを抱える方もいるというこのスルン村では、入居者の方とじっくりとお互いを理解しあう対話の時間をとても重視しているそうです。何に対しても、スタッフの方がとる行動や行為について、都度きちんと理由や意味を伝える働きかけを行なっているとのこと。

入居者の方と対話する時に、日本でも幼児教育や病院で普及している箱庭療法と呼ばれるツールが、このスルン村でも日常的に対話の手段として活用されていました。

フィギュアや人形などを砂の上において並べていくことで、自分の経験や想いを言語化して表現することが難しい入居者の方から様々な話を引き出すのに利用しているそうです。話がしたい時にすぐに利用できるよう住居エリアの移動導線である廊下にこのツール群が置かれていました。時間をかけて入居者の方の心を解きほぐし、時には数年かけて入居者との信頼関係を築いていくとのことでした。

一緒に見学に連れていった私の娘がおもちゃと勘違いして喜んでいましたが、暖かく見守ってくださった施設の方に本当に感謝です。

五感を刺激する様々なアクティビティ

自然や動物以外にも、五感を刺激するアクティビティの数々が整えられていました。こちらのアクティビティに関しては、一般には公開されておらずあくまで入居者のためにオリジナルにデザインされたものということですが、そのクオリティの高さには驚くばかりでした。
その一部をこちらで紹介したいと思います。

こちらのお椀のような仏具のお鈴に似たこの道具、この中に両足を入れた状態で叩き棒で叩くことで音を全身で感じることができるのだそうです。
音を耳だけでなく全身で感じることで、セラピーの目的もあるのだそう。

こちらは、自分でオリジナルの音楽を作ることができるサウンドルーム。
おもちゃや楽器、また踏むと音のでるマットから出した音たちを録音・リミックスできる音楽スタジオのような施設になっており、五感をフルに使って音を楽しめる部屋になっています。

こちらは天井が高いプロジェクタールームです。
壁に教会や観光地など、様々な映像を投影することで、実際に訪れることは難しい環境へまるでトリップした感覚を体験できるようにするのだそうです。ドラえもんの「どこでもドア」のようですね。

こちらはホワイトルームと呼ばれていた部屋で、白く作られた山に登って楽しんだり、山の中の暗黒ルームとのコントラスト差を楽しみながら視覚刺激を楽しむ部屋だそうです。

こちらはボートに乗って海上散歩を楽しむ擬似体験ができるアクティビティルームです。
ボートの目の前にある透明のパネルは水が流れるようになっていて、パネルのすぐ左にあるドアからは外の風を取り込めるので、水の音や風を感じながら海の上をボートで揺られているような気分に浸ることができます。

ここで紹介したもの以外にも、五感をふんだんに刺激するデザイン性にも優れたアクティビティが多数用意されており、居住者の方のクリエイティビティを高め生活を豊かにする仕掛けが盛りだくさんでした。

また施設周辺での散歩やこのアクティビティの利用についても、明確に利用時間や利用順番が決められているわけではなく、あくまで居住者自身のタイミングや自主性を最大限に尊重しながら、スタッフがサポートしているそうです。

障害の垣根なく夜通し行われる音楽フェス

入居者の方と一般住宅の方は、お互いの存在を意識しつつも過干渉にはならず、散歩ですれ違って挨拶したり、園児が遊びに行ったり、周辺住民の方がボランティアでイベントを手伝ったり、ちょうど良い距離感で交流があるのだそうです。

このエリアで開催されるイベントとして特に興味深かったのが、毎年6月に開催されるという音楽フェスティバルです。

インスタグラムでも #sølundmusikfestival のタグで検索していただくとその盛り上がりを垣間みることができます。

Sølund Musik-Festival

公式サイトはこちらです。
https://www.solundfestivalen.dk

デンマーク語でしか記載がないですが、「音楽と愛」をテーマに1986年から始まった音楽フェスで、毎年6月に3日間・2万人もの方が来場する障害者のための音楽イベントとしては世界最大規模とのこと。

障害を持った入居者達が自然と人と会い、楽しみ、経験を共有し、友達を作り、そして恋人を作る。そのためには音楽が有効なのではとスルン村で働くスタッフのアイディアがきっかけで始まったというこの音楽フェスは、今年14年目を迎え、二千人以上のボランティア、そして多くのスポンサーのおかげで、年々アクティブなイベントへ成長しているそうです。

写真から、障害者も健常者も老若男女の垣根なくワイワイ楽しんでいる様子が伝わってきます。日本だと障害者の方が参加するイベントというのは、どうしても日中のいわゆる健全な時間帯に執り行われるものが多い印象ですが、このスルン村では音楽をとことん楽しみたいという人間の本能の赴くまま、夜通しアルコール有りで開催されるとのことです。

スカナボーの別エリアでは、日本でいう「フジロックフェスティバル」のような、更に規模の大きな音楽フェスも毎年8月に開催されるそうで、音楽と縁の深い地域なのかなと感じました。

デンマーク独自の地方自治体コミューンからの資本で成り立つ運営

スルン村の見学を通して湧いてくるのは運営資金はどこからくるのか?という疑問です。

デンマークには、日本でいう都道府県にあたるレギオン(Region)、市町村にあたるコミューン(Commune)と呼ばれる地方自治体があり、医療についてはレギオンが、介護・教育など福祉についてはコミューンが、国から自治権を移譲されているそうです。また住民税・固定資産税・国からの地方交付税などの収入をどういった予算配分で利用するかは各コミューンに委ねられています。

このスルン村があるスカナボーも、スカナボーコミューンが自治をしておりスルン村の運営に関わるお金はこのコミューンから出ているとのこと。入居者はお金を支払う必要はなく、ここで暮らす障害者の生活全てを地域で支えていることになります。そしてそれは、スカナボーの住民がスルン村含む福祉への税金の利用について納得し、この地域での暮らしに満足しているからこそ実現できているという事実に、高福祉社会デンマークの凄さを感じました。

自分らしい生き方を周りに頼って創る

サポートと一口に言っても過保護にケアするのではなく、できるだけ自立して「自分らしい生活」を送れるよう背中を押してあげる、難しい場合はどうすればそれが可能になるかを一緒に考える、など自主性を尊重しつつ見守るスルン村のあり方に、障害を持つ方含め全ての人が「自分らしい生き方」を周りと共創することは、当事者だけでなく周囲の暮らしも豊かにするのだと、今回スルン村の滞在を通じて感じたのでした。

岡田 恵利子

Author岡田 恵利子(デザイナー)

大学で情報デザインを専攻したのちキヤノンに入社、カメラなどの精密機器や写真関連アプリなどのデザインリサーチ・UI/UXデザインに14年従事したのち、2018年より参加型デザイン・共創・サービスデザインなどの知見を深めるため公立はこだて未来大学の博士後期課程に進学。2019年9月より半年、娘を連れてデンマークのITUに交換留学中。好奇心の赴くまま色んな出会いを広げ、新しいことに繋げるのが大好きです。
https://note.mu/coeri

Next Contents

わからないことに立ち向かう方法を想像することをデザインという
―言葉とイメージの狭間で

Loftwork magazine 月に2回、最新情報をお届けするメールマガジン