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岡田 恵利子 2019.12.20

KAOSPILOTで学んだ、ワークショップが活きる環境づくり
デンマークの共創・参加型デザイン #02

本記事は、公立はこだて未来大学大学院に在学中で、現在デンマーク滞在中の岡田 恵利子さんによる寄稿記事です。
岡田さんは、カメラのUI/UXデザイナーを経て、共創・参加型デザインを研究されています。2019年9月より共創・参加型デザインの先進地域である北欧・デンマークに渡り、実践を交えながら現地をリサーチされています。今回の寄稿では、デンマークで見たこと・聞いたこと・感じたことなどを、月に1-2回のペースでご紹介いただきます。

#デンマークの共創・参加型デザイン

世界から注目されるビジネススクール

デンマークの首都コペンハーゲンから電車で片道3時間のオーフスという街に、世界から注目を集めるビジネススクール「KAOSPILOT」があります。
www.kaospilot.dk

ビジネススクールというとMBA取得?と思いがちですが、KAOSPILOTではMBAではなくクリエイティビティを軸にしたビジネスを学べるそうで、近年たくさんの起業家を輩出しています。
私はここ 1-2 年で色んなところで目にするようになり、とても気になっている教育機関のひとつでした。

KAOSPILOTはプライベートスクールの扱いになるため、教育費が無料のデンマークでも学費が必要で、かつ3年で卒業しても特に学位は貰えません。なのに、どうして生徒が絶えないのだろうと、不思議に思っていました。

日本人初のKAOSPILOT卒業生である株式会社レアの代表・大本綾さんが、日本とデンマークを繋ぐ橋渡し役として活躍されており、その活動を通じてKAOSPILOTの日本での露出が増えている印象を受けます。

KAOSPILOT生の多様なバックグラウンド

生徒全員とお話できたわけではありませんが、私がお話した生徒さんは、もともとどこかで社会人経験を積んだことのある方ばかりでした。

思い出すだけでも、納豆ベンチャーをデンマークで立ち上げた人、ジーンズメーカーを立ち上げたことがある人、舞台演出をずっとやってきた人、広告業界で人事をやってきた人、など実に多様です。

KAOSPILOTに入学する試験は一味も二味も変わっているそう。入学動機はもちろんのこと、好奇心の強さなどその人となりを最重要視されるとのことです。応募時に海外にいたとしても、必ず対面の試験がプロセスとして組み込まれていて、先生だけでなく在校生もその選考過程に加わり、この人と一緒に学びたいかなど、その人となりも加味されて選抜されるそうです。

そんなプロセスを得て入学した生徒が、がむしゃらになって進めるプロジェクトが、面白くないわけがない!

話を聞いて、素直にそう感じました。

また、KAOSPILOTの授業で行われる実践型プロジェクトは、国内外の様々な企業とコラボレーションするそうですが、そういった連携先企業も生徒自らが見つけてくる必要があるそうで、胆力と行動力が常に求められ続ける学校という印象を受けました。

実際、そのタフさが必要な環境から、ドロップアウトする生徒も多くいるとのこと。それでも座学ではなく本当の実践から学びを多く得られるこの環境が、多国籍の生徒を惹きつけているKAOSPILOTの魅力なのだと思いました。

私が参加したワークショップ

今回私が参加したワークショップは、日本からのツアー参加者向けに企画・設計されたもので、日本から持ち込んだアイデアをブラッシュアップし、再び日本に持ち帰り社会実装しようというものでした。

1週間のプログラムでは、ワークショップだけでなく、 在校生とお話しする機会やインキュベーション施設の見学などもあり、それぞれが濃い内容で個別に記事が書けそうなのですが、その中でも私が特に刺激を受けたのが「全員から多角的な意見を集めるテクニック」の数々でした。

全員から多角的な意見を集めるテクニック

ワークショップを受けていて個人的に素晴らしいなと感じたのは、できるだけ多角的な視点を汲み取ろうとするTipsや発言しやすい環境作りが随所で行われていたことでした。

● Tips 1:意見・アイディアを出す順番と範囲

例えば、意見やアイディアを出し合うとき、必ず最初は一人で考える時間が与えられます。そしてその後に隣の人と意見交換をし、更にそのあとチームで話す、といった具合です。個人 → 2人 → チーム → 全体、と段階的に伝える対象を広げ、全員の意見を反映させる工夫がありました。

この段階的というのが味噌で、個人で考えた後、いきなりチーム内での意見交換になると、話す時間よりも他の人の意見・アイディアを聞いている時間の方がどうしても長くなってしまいますし、チーム内のまとめ役の方の意見に引きずられてしまいがちです。議論する人数を少しずつ増やすことで、ひとりが話す時間を増やせるので各個人の思考も深まり、話しているうちにアイディアもブラッシュアップされ、意見が偏りにくくなると感じました。

● Tips 2:なりきりフィードバック

各チームの作ったプロトタイプやプレゼンテーションに対して、ターゲットユーザになりきって意見を言う、そこで暮らす人になりきって意見を言う、そこで働く人になりきって意見を言う、など、何になりきってフィードバックするかが設定されていることがありました。

関係者になりきることで多角的な意見が見え、アイディアを実装する際に気にしなければならない多様な視点を得ることができます。なりきる際には、カツラを被ったり、お面をつけたり。こういったユニークなツールを使うことも、多角的なフィードバックを得るのに重要なエッセンスになっていると感じました。

● Tips 3:盗み聞きフィードバック

各チームの提案に対して、別のチームがフィードバックを行うのですが、その際にフィードバックを受けるチームは背中を向いて、別チームの方達が話している内容をただ聞いているという、まるで盗み聞きをしているかのようにして受け取るフィードバックです。(盗み聞きフィードバックという名前は私がつけました。)

これは、対面で行うフィードバックよりも、素直で実直なフィードバックを受けることができる良い方法だと感じました。相手の表情は見えなくても、ちょっとした言葉のつまりや声のトーンで、そのコンセプトにどれくらい賛同しているのかが伺えますし、提案者が敢えて口を挟まないことで話がコントロールできないので、思いも寄らない方向に話しが逸れることもあり、それが新たな視点を与えてくれると思いました。

背中を向けているだけなのに、人って結構言いたい放題言えるようになるものなのですね。実際、私がいたチームが提案していた「働きたくても働けないママをサポートする仕組み」について、この盗み聞きフィードバックで「そもそもママになる前から、自分の可能性について知りたいよね」「男女関係ないよね」という意見を引き出すことができ、それまで「ママ」にしていたターゲットを一気に「中学生」に変更した、ということがありました。

● Tips 4:質問は受けるだけで回答しない

上記1-3では共通して、フィードバックや質問は受けても「敢えて答えない」ということが徹底されていました。
つまり言われっぱなしです。これにより、質問をテンポよく出させることができ、普通の質疑応答よりも幅広い意見をたくさん収集することができます。

実際、プレゼンテーションの場で質問が出た際に、そのプロジェクトチームの誰かが代表で答えることが一般的と思いますが、その回答が実はチームの総意ではない、ということは往々にしてあるのではないかと思います。
議論やアイディアを深めるタネをできるだけ多くもらうために、敢えて回答する時間を設けず、テンポよく沢山のフィードバックや質問をもらうことに集中するというのは、とても理にかなっているフィードバックの受け方だなと感じました。

他、ワーク中に散りばめられたアクティビティの数々

他にも、休憩の合間に全員のパーソナリティを理解できるようなミニゲームや、頭や緊張をほぐすエクササイズが随所にあり、全員が能動的に議論できるリラックスした環境づくりが意識されていると感じました。

自分の名前と好きなことを叫びながらポーズを取り、それを全員が真似する
「SOCO SOCO BATI BATI」という曲に合わせて行うエクササイズ

また、ワークショップで何を得たいか・深めたいかを宣言する「チェックイン」、ワークショップの終わりに何を得たかを宣言する「チェックアウト」と呼ばれるアクティビティもKAOSPILOTでのワークショップでは名物のようで、その宣言はだいたい英語でワンワードもしくは非常に短い1文で行うのが決まりとなっていました。

みんなで円陣をつくり、ワークショップ開始時のチェックインであれば「new idea(新しいアイディア), check-in」、ワークショップ終了時のチェックアウトであれば「some of views(複数の視点), check-out」というように、ひとりずつ発していきます。

参加しているので写真を取れなかったのですが、円陣のイメージです。

ワークショップのフェーズが変わるたびにこのアクティビティが行われるので、その都度自分の学びを凝縮した言葉にまとめる行為が求められました。単にメンバー全員が感想を述べる方式ですと冗長になりがちですが、周囲の方の学びをこのアクティビティを通じて知ることができるのも、お互い何にフォーカスしてそのワークショップに参加したのかを端的に理解することができ、チームメンバーの相互理解に役立っていました。

大事なのは気づきを促す環境づくり

アイディア出しやコンセプトを導き出す手法に関しては、とりたてて目新しいと感じるものは正直そこまでなく、既存のデザインメソッドやフレームワーク(デザイン思考やビジネスモデルキャンバスなど)をベースにしたものが多い印象でした。

どうやって有効なアイディアを出していくか、どうやって多角的な意見や気付きを導き出すか、多様なバックグラウンドを持つ人たちをどうスムーズにコミュニケーションさせるか、アイディアを実践に落とし込むプロセスには、様々な気づきや相互理解を促す環境づくりが鍵なのだな、と改めて感じたワークショップになりました。

途中振舞われたデンマークスタイルのご飯も、とても美味しかったです :-)
岡田 恵利子

Author岡田 恵利子(デザイナー)

大学で情報デザインを専攻したのちキヤノンに入社、カメラなどの精密機器や写真関連アプリなどのデザインリサーチ・UI/UXデザインに14年従事したのち、2018年より参加型デザイン・共創・サービスデザインなどの知見を深めるため公立はこだて未来大学の博士後期課程に進学。2019年9月より半年、娘を連れてデンマークのITUに交換留学。好奇心の赴くまま色んな出会いを広げ、新しいことに繋げるのが大好きです。
https://note.mu/coeri

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場の仕組みで“ずらす”ことの価値