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伊藤 望 2019.10.31

常識を覆すアイデアの引き出し方
#3 自由な発想を手に入れるワークショップ

2時間のワークで、「思い込み」から新しい視点を引き出す

新規サービスや新規事業の立ち上げ時に求められる「創造的なアイデア」を創発するための視点やアプローチを紹介してきた当コラムも、いよいよ最終回。これまで、クリエイティブなアイデアの構造について紐解き、そして、アイデア発想を阻む「思い込み」を外すためのトレーニングやアプローチについて述べてきた。

今回はコラム連載の締めくくりとして、誰もが新しいサービス・事業のアイデアを発想できるという成功体験を提供することを目指して、私を含めたロフトワークのメンバーが企画したイベント『Service Design Scramble〜勝手に他社の新サービスを考えてみる』のワークショップについて紹介したい。

Service Design Scrambleについて

ロフトワークが企画・開催するイベント『Service Design Scramble(以下、SDS)』は、様々な業種や職種の参加者が一つのチームとなり、テーマオーナーに選ばれたチームメンバーの抱える課題をお題として、勝手に新サービスアイデアを考え合うワークプログラムだ。

テーマ―オーナーは他人の視点を借りることで、凝り固まっていた「自社の常識」を解体し、新しい切り口や自分たちだけでは気づけなかった価値を発見できる。また、ワーク参加者は、他者のためにアイデアを出すプロセスの中で、自身の中から新しい視点や切り口を紡ぎ出すことができる。テーマオーナーとワーク参加者、どちらもWin-winになれるような場を目指した。

ワーク設計のポイント

斬新なアイデアは、「テーマの分解 × テーマ外のインプット × 発想の筋力」の組み合わせによって創発できるというのは、当コラムの第1回で述べたとおりだが、今回のワーク設計においてはこの3つの要素をプロセスに落とし込んだ。

ワークショップの設計ポイントは、3つ。

  1. 他者の視点を借りることで「思い込み」を取り除く。
  2. ワークのプロセスによって、「テーマの分解」と「発想の筋力」をサポートする。
  3. グループワークによって「テーマ外のインプット」を物理的に増幅する。

以下で、各ポイントについて詳しく解説していく。

ポイント1:他者の視点を借りることで、アイデアの着想を阻む「思い込み」を取り除く。

社内からなかなか斬新な発想が生まれない原因のひとつに、社内のメンバーがそれぞれ自社事業を深く知っている専門家であるがゆえの強い「思い込み」や業界内の「常識」がある。(この思い込みについて、詳しくは当コラムの第2回で解説している)

そこで、わたしたちは思い込みを外す仕掛けとして「テーマオーナー制」というルールを導入した。あらかじめ参加者から、アイデア発想のための題材となる自社事業(テーマ)の提供を募集。テーマオーナーになれば、ワーク参加者に自社の既存事業に関連する新しいサービスを考えてもらうことができる。

実際に、8社から「エアコン」や「ホワイトワーカーの働き方」「占い」などのテーマが上がってきた。参加者には興味のあるテーマごとにグループに分かれてもらい、ワークに取り組んでもらった。

ポイント2:ワークのプロセスによって、「テーマの分解」と「発想の筋力」をサポートする。

アイデア発想を得意とするクリエイターであれば、テーマから新しいアイデアまで一飛びでたどり着ける。しかし、今回のワークはそのようなやりかたに慣れていない人が対象だ。

そこで、「今まで思いつかなかったアイデア」に段階的にたどり着けるように、プロセスごとにアウトプットとディスカッションの機会を設けた。いわば、「発想の筋力」をサポートする試みだ。

同時に、ワークの中でテーマに関する常識を疑う「テーマの分解」―たとえば、「エアコンは四角い」「エアコンは壁に固定するもの」など―の工程をしっかりと組み込むことで、自分の中から新しい視点を紡ぎ出せるよう誘導した。

ポイント3:他者とのグループワークによって、着想のもととなる「テーマ外のインプット」を物理的に増幅する。

今回は、ワークのチームを構成する際、さまざまな企業の参加者を混ぜ合わせた。参加者同士のインプットを足し算することで、着想のタネが物理的に増幅されるという仕掛けだ。

一方で、グループワークの課題として、初対面のメンバー間で「アイデアを言い出しにくい」「合意形成することがゴールになってしまう」という空気がある。この点は、アイディエーションの過程で、参加者が各自Post-itにアイデアを書いて貼り出し、それらをロフトワークのファシリテーターがKJしていくことで払拭した。

以上が、今回のワーク設計のポイントだ。

SDSのワークショップは、参加するメンバーには絶えず高い集中力が求められるため、時間は2時間とした。

ワークショップのプロセス

ワークショップのプロセスについて紹介していきたい。構造自体はとてもシンプルだ。

Step1で、テーマとなる他社の事業に関する世の中の「常識」や自分自身の「思い込み」を「定説」と位置づけ、できるだけ多くPost-itに書き出す。
Step2で、Step1で書いたPost-itを統合する。
Step3で、逆転の発想で新しいサービスを着想する、というものだ。

まず、ステップ1では、参加者にテーマに対する定説をひとつずつ付箋に書き出してもらった。たとえば、テーマが「エアコン」であれば、「四角い」「白い」「部屋の空気を快適に保つもの」「壁に固定する」…などだ。

ステップ2では、グループの中で各メンバーが付箋に書き出した定説をホワイトボードに貼り出していった。この後、ロフトワークのメンバーがファシリテーターとなり、ディスカッションしながら定説をグルーピング。抽象度を一段上げたラベルを付けていった。

ステップ3では、統合された定説から、個々人が「もしも…だったら(いいのに)」という仮説を考えて言語化し、付箋に書き出していった。

出てきた仮説をホワイトボードに貼り出し、「実現した場合に、よりインパクトのある仮説はどれか」をグループ内で投票。最も人気だった仮説1つをもとに、メンバー各自がサービスのアイデアを考え、ワークシートにまとめた。その後、グループ内で最終プレゼンテーションを行った。

ワークシートはValue Proposition Canvasを採用した

ここまでで2時間。会場内の壁とホワイトボードに貼られた付箋の数は圧巻だった。8つのテーマに対して、50人分のサービスアイデアと2,000枚以上の付箋で、「定説」と「仮説」が言語化された。

このワークショップのゴールは「誰もが新しいサービス・事業アイデアを発想できるという成功体験を提供すること」だったが、同時に参加者のみなさんに発想することそのものを楽しんでほしいと考えていた。実際に、参加した多くの方からプログラムに対して、以下のようなポジティブな感想をもらった。

視点が広がり、有意義な時間を過ごすことができた。このフレームワークを自社のブレストにも取り込んで行きたい。

価値観の違う人とアイデア出しできたのは非常に楽しかった。もう一回と言わず、何回もやりたい

「私の」自由な発想が、明日の世界を変えるかもしれない

これまで、「誰もが斬新なアイデアを発想できる」というテーマで、3つの記事を執筆してきた。

書籍やWebコンテンツを探ってみると、アイデア発想のためのナレッジや手法は数多く存在する。それでも今回、あえてこのテーマで執筆したのは、新規事業や新サービスのアイデア創発に苦しんでいる人たちの多くは、無意識に自分自身が設定したさまざまな制約―組織の規則や常識、義務感など―にしばられているのではないかと感じていたからだった。

まずは「思い込みに囚われない」という思考態度を、日々の身近なところで実践することをおすすめしたい。そのために、これらのコラムがすこしでも役に立てばと思う。

【申込受付中!】11月21日、Service Design Scramble Vol.3 開催!

他人の視点を借りて自社の「常識」を解体し、新たなサービスの着眼点を探るワーク、Service Design Scramble。これまで2度開催し、延べ100名以上に参加いただきました。

この度、2019年11月21日にVol.3を開催します!
興味のある方はぜひご応募ください。

Service Design Scramble―勝手に他社の新サービスを考えてみる Vol.3

開催日 2019年11月29日 14:00〜18:00
定 員 40名
場 所 Loftwork COOOP10
申 込 こちらをクリック

伊藤 望

Author伊藤 望(VU unit リーダー)

2018年ロフトワーク入社。機会発見のためのリサーチや、リサーチに基づく新規事業開発、未来洞察、新たなコンセプトを生み出すためのフレームワーク開発、アイデアソンなどのプロジェクトに従事。人がアイデアを思いつく仕組みについて研究中。2023年よりトランジションデザインと出島型開発を通じた事業開発を支援するVU unitの立ち上げ支援を行うチームを立ち上げ。足立区東京2020大会記念協創提案型事業審査委員長など。文房具探しと書店めぐり、サウナ通いが生きがい。

Profile

Service Design Scramble

  • 企画:岩沢 エリ、原 亮介
  • ワーク設計:伊藤 望
  • 設計サポート:多田 麻央

Keywords

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複雑な世界で未来をかたちづくるために。
いま、デザインリサーチに求められる「切実さ」を問い直す