FINDING
服部 木綿子(もめ) 2021.07.28

ええ空気を探して vol.3
分かりやすい結果を求めない。相手の文化に沿った関わり方を。
(NPO法人ヤウダゴベ代表 三木夏樹 )

こんにちは。ロフトワーククリエイティブディレクターの服部(通称:もめ)です。場やコミュニティの運営、クライアントとの協創。私たちロフトワーカーは、さまざまな場面で、「ええ空気」を醸成することが大切な役割のひとつだと信じ、私は取り組んでいます。最近では、COUNTER POINT(偏愛と個人的な衝動を動機としたプロジェクトを応援するレジデンスプログラム)のコミュニティマネージャーを担当しており、多種多様な人たちと関わらせていただいています。ロフトワークに入社するまで、日本のローカルエリアで主婦、宿の女将、農産物ショップのマネージャーをしてきた経験から「ええ空気」で人と接するのは、わりと得意な方です。拠り所とする過去の経験があるのは幸いなことでもありますが、場づくりに対するナレッジを自分の中でアップデートしていきたいと思い、改めてコツとなるような考え方や具体例を探るべく、ヒントとなる考えを持っていそうな人とおしゃべりすることにしました。名付けて「ええ空気を探して」。全3回シリーズの最終回です。

服部 木綿子(もめ)

Author服部 木綿子(もめ)(クリエイティブディレクター)

神戸生まれ神戸育ち。岡山で農林業や狩猟がすぐそばにある田舎暮らしを約10年に渡り経験。その中で2軒の遊休施設をゲストハウス(岡山県西粟倉村/香川県豊島)として再生し、自らも運営の第一線に立った。その後、神戸の農産物などを販売するショップで、マネージャーとして店舗の運営に携るなど、ローカルのコミュニティ拠点づくりに関わってきた。プロジェクトを通じて出会ったクライアントやクリエイター、ロフトワークのメンバーが、一個人として楽しく、持っている能力をシェアし合える「ええ空気」なプロジェクト設計が得意。社会が面白くなるのは、専門分野やバックグラウンドの異なる個人が肩書きを忘れてつながる瞬間だと信じていて、公私の境界線を往来しながら、さまざまな場づくりを行っている。

Profile

お話を伺ったのは、世界最貧国の一つと言われるアフリカの国、ニジェールの村で暮らす三木夏樹さん。三木さんがニジェールで行っていることは、言うなれば国際開発。と言っても具体的に何をしているのかがパッと聞いただけでは分かりづらい。ただ、知人の紹介で何度かお会いする機会があり、目の前の人にじっと向き合う傾聴力の高さが並みじゃないことを感じてきました。

三木さんは、ニジェールという国で、どんな風に異文化の人と対峙し、そこで暮らす人々のサポートをしているのでしょうか。私たちロフトワーカーも、常に外部の人間として、クライアントの課題解決をサポートしています。ニジェールの村人と向き合い続ける三木さんから、「ええ空気」づくりのヒントを探りたい…。

普段、土壁の家で暮らし、スマホを持つことなく、インターネットを通じた発信を行わない三木さん。日本に2年ぶりに一時帰国をしているところ、お話を伺うことが出来ました。

ニジェールの中でも、南部(ナイジェリアの国境近く)の村で生活されています。

世界の“普通”は、ニジェールの“普通”じゃない

服部 改めて…三木さんは、ニジェールでどんな支援活動をしているのですか…?

三木 ニジェールに対して、支援という形で、世界の「普通」がどんどん導入されていっているんですけど、ニジェールで暮らす彼らの「普通」からは、かけ離れているんですね。そんな風に当たり前になっている支援の在り方について、「そうじゃなくてもいいかもしれない」って問いかけるところから始めています。

服部 もうちょっと具体的に言うと…?

三木 組織化とか意識化ということを始めています。彼らが生きている上で大事にしていることを維持するために、制度みたいな仕組みとかをガラッと変えてみたりもするし、彼らのもともと持っている能力値を最大限に生かすために組織をいじったりってことをしています。ちょっと俯瞰した鳥の目みたいなところから。個人単位ではなく地域単位で見ていて、地域、つまり、暮らしの場を対象にしています

服部 誰と活動しているんですか?

三木 村人です。私が現場を回っていて、「この人いける」って思った一人がいたんです。なんでその人がいけるって思ったかっていうのは、はっきりと言葉に出来ないけど、その人の佇まいかなその人とゴザでしょっちゅう座ってしゃべっていて、視点が近いと思ったんですね。で、その人と活動を始めて、ちょっとずつ関わる人が増えていった感じかな。

服部 「当たり前になってきている援助」の在り方と、三木さんの関わり方はどう違うのでしょうか。

三木 私は、もともとの彼らのコミュニティの在り方とか、人のつながり方に沿った関わり方をします。彼らは、みんなで一緒に働いて、みんなで一緒に生きていきましょうっていう、共同原理がベースだったんですね。例えば、アフリカの村って村長がいるイメージでしょう?村長っていうのが住民の代表って思い込むんですけど、ニジェールにおける村長制って、植民地化の中で出来てきたので、彼らにとって馴染んでいる制度とは言えないんですね。一握りの人間がガツッと全部握っていて、他の人が彼らの下敷きになっていくみたいな感じで。

服部 なるほど。

三木 たとえば、組織化には、彼らがもともと持っている家父長制を採用しています。お年寄りだけのおしゃべり場があるので、そこでいろんなことを決めていくっていう形。村長は村長として飾りで置いておいてもいいんだけど。

服部 家父長制はもともとのあり方なんですね。

三木 そうですね。ニジェールだけでなくアフリカのいろんなところで、家父長制ってかなり大きな存在で。人権団体からは結構叩かれる対象なんですね。男や一部のお年寄りが決めてしまう。他の人の人権がないっていう風に見られるんですけど。私自身はそういう先入観を持たないで、実際、彼らがどういうオペレーションで成り立っているかを見て判断しています

服部 私も個人的な価値観から、家父長制を採用していることに違和感を覚えましたけど、彼らの視点で見た結果、村のお年寄りの男性が物事をジャッジしていくやり方が自然なんですね。

服部 今、ニジェールの女性が置かれている立場を考慮すると、いきなり外部の人間が入ってきて女性に権利をガーンって与えるようなことをしても、ついていけない人がほとんどなんですよ。自分たちの好き放題していいという理解をしてしまう人が出てしまうんです。それは悪意があるわけじゃなくて、分からないから。村全体がうまく回るかどうかは関係なしに、自分のやりたいことだけをやるっていう人たちが正当化されたりするんですよ。そうするとみんなの生活が成り立たなくなってきて。

服部 外部の人間が、上から目線で、自分たちの価値観を押し付ける構造はどこでも起こり得ますね。自分たちの正義が、相手を幸せにしているとは限らない。気をつけないといけない。

三木 そういうアプローチじゃなくて、もともとの彼らの基礎地から入る。それが人権的にみてちょっと問題があるなと思われても、彼らの今いる地点からスタート。いきなり女性の権利をぽこんと与えて変えてしまうんじゃなくて、彼女たちの置かれている状況というものを、もう一度捉え直していくということをやっています。

そこで生きる人が、どう決着つけるか

服部 すごく地道なスタイルのようですが、その先、どこを目指して支援しているんでしょうか。

三木 おそらくゴールが何かって、正解は誰にも分からない。そこに生きる人たちがどういう決着をつけるかしかないかな、と思っていますそこを拠り所にしてヨソモノとして関わる。がんじがらめにされている余計なものを取っ払って、彼らがどういう答えを出すか。

服部 決着をつけるサポートをするんですね。

三木 結果、女性たちも家父長制が大事ですって言うのであればそのままいったらいいし、生活のいろんな要件が変わることで、やっぱり別の道を選んで行かなくてはいけないねってことであれば、それを選んでいかないといけないし。

服部 村にも、いろんな人がいるわけじゃないですか。村人の総意かどうか分からない中でたった一人でも今の状況に抗おうとしている人がいたら、三木さんはどう考えるんでしょうか

三木 おそらく…これはどう言ったらいいのかな、全員がコピーロボットじゃないので、完全な合意は取れないと思うんですよ、誰かがどっかを我慢してますよ。どれくらい個人が我慢しなくちゃいけないかと言うのは、一人一人の生活が、個人で成り立ってられるかと関係すると思います。例えば日本なら個人が給料を獲得し、自分の思い通りに形成できるような生き方をしている人であれば、その人がどうしたいかという部分にクローズアップすることが出来るんですけど、今、私が関わるニジェールの村は、一人で生きていくことは、まず出来ません。たとえば井戸が壊れたら、一人で直せない。水道が通ってないから、みんなで使う井戸に関しては「私はこうしたい」が成り立たないです。こういう要素が、ニジェールにはすーごくたくさんあって。一人で生計が立てられないという状況にいる人たちにとっての自分の意思と、一人である程度生計を立てられますという人の自分の意思って全く別世界。

服部 生活資源が満たされてきたら、個人の選択が増えていくってことですか?

三木 そう、だけどそっちに持っていくとね、今の日本になるんですね。モノを増やしていって、じゃあ結果幸せになったかって言うと怪しいですよね。結局お金で自由を買っているように見えながら、一方で、お金を得るために自分の何かを売っている。私がしているのは、そういう葛藤もひっくるめての挑戦だと思います。これ、何を言っているのか通じるかな(笑)

服部 分かる、と言っていいのか分からないですが…。すごく難しいチャレンジですね。

分かりやすいサポートは誰のため?

三木 「セクターアプローチ」って言われるんですけど。教育セクターとか、医療セクターとか、何かに絞って支援するとすごく簡単なんです。たとえば、医療をものすごくよくして人が死ななくなりました…だと成果が見えやすい。だけど、その結果、人口が増え過ぎて、生きるために木を伐採して、畑を使い倒すことで環境要因が壊れ、結局、生活にまた跳ね返ってくるんですよね。ですから、セクターごとに割ってしまうと結局うまくいかないんですよ。これら全部包括して、真ん中にある生活の場をどういう風にマネージしていくか、バランスを取っていくかっていうのが大事なんですねヨソモノがずっと、全部のコミュニティのバランスを取れるかってやっぱ無理なんですね。そこに生きている人がやらなくちゃいけない。私がやってることはそういうことなんですよ。分かりづらいですよね。日本に帰ってきて活動報告しても全然伝わらないから「もっと分かりやすい活動してください」って言われてしまいます(笑)

服部 支援する側も、説明しやすいことをしないと、自分の評価に繋がらなかったり、お金が集まらないと、結局、支援を続けられなくなるから、分かりやすさに走ってしまうことがあるのかもしれないです。

三木 日本は、役割分業社会になっているんです。看護師さんは看護師なんですよ、先生は先生。これってセクターごとの関わり方をしてしまっていて。共同体で生きているニジェールの村人って、役割分業あんまりしていないんですね。井戸の修理はみんなでやるし、墓場の掃除もみんなでやるし、家の修理もみんなでやる。みんなでみんなのいろんなことをやっていく。だから、その視点で自分も関わっています。

三木 たとえば、家父長制度をとってみても、日本で培った経験値から見た時に「あれ、違うな」って思うと心が拒否をしますよね。それって当たり前の反応だと思うんですけど、本当に相手の視点に立って拒否しているのか、自分の経験値から見て拒否しているのかどうかは、すごく自分自身をコントロールしています。私の経験値から見て拒否してしまうことは、彼らにとっては、どうでもいいことなので。私自身の経験から来る価値観はどんどん排除していって。彼らにとってどうなのか?彼らにとっての心の拠り所になる生き方はどうなのかを常に出発点にしています。

アフリカで、自と他の境界線は溶けていった

服部 三木さん自身は、心の拠り所をどこに持っているんですか?そこまで相手の立場に立って、自己犠牲を感じることはないですか?

三木 アフリカの人に鍛えられたのかもしれないですね。自と他の区別があんまりもうない。アフリカでは、他者といろんなものを共有しているから。お金とか食べ物に限らず、時間とか空間とか、共有するのがものすごく強い中で生きてきて、自分の喜びや犠牲、他者の利益って切り離して考えることもないですね。そういう人に囲まれているから、だんだん自分という枠はどうでもよくなってくるんです。

服部 三木さん自身の人生の目標はあるんですか?

三木 ないですね。

服部 へー!そんなに清々しく言い切れるんですね。

三木 目標ってみんな掲げるんですけど、とりあえずの答えを決めているだけですよね。最終的な正解って誰も見えてないような気がします。

服部 そうですよね。一旦ここに向かってみようとう実験の繰り返しみたいなことですよね。

三木 誰かの影響を受けて、もしかしたら1年後の自分は全然違うことを言っているかもしれないけど。ニジェールの村の文化の中で、自分では自分のことが分からないってことがあるんですね。人を通してしか自分が分からない。これってすごく納得いくんですよね。

服部 いいですね。日本で暮らす私たちも、他者との関わり合いの中で生きていることには変わりがないはずです。サポートする立場にある時は、相手の文化、価値観が一体どこにあるのかを捉えることからスタートしたいと改めて思いました。三木さん、本当にありがとうございました!ニジェールではお気をつけて。またお会いしましょう!

対談相手

三木 夏樹
NPO法人ヤウダゴベ代表 西アフリカのニジェール共和国で、専門分野を限定せず、地域を包括的に捉える協力活動を展開している。2003年からアフリカで生活をしている。
ニジェールでの現場の活動を優先するため直接連絡先は公開していません。三木さんの活動を支援されたい方は、日本を拠点に三木さんの活動を応援するコミュニティ「となり」までご連絡ください。

Keywords

Next Contents

The KYOTO Shinbun’s Reportage
京都新聞論説委員が見る京都ルポ「課題の価値」