FINDING 服部 木綿子 2021.07.05

ええ空気を探して vol.2
理解できないことも、ツッコんで、面白がる。
(ぬかつくるとこ 丹正和臣)

こんにちは。ロフトワーククリエイティブディレクターの服部(通称:もめ)です。場やコミュニティの運営、クライアントとの協創。私たちロフトワーカーは、さまざまな場面で、「ええ空気」を醸成することが大切な役割のひとつだと信じ、私は取り組んでいます。最近では、COUNTER POINT(偏愛と個人的な衝動を動機としたプロジェクトを応援するレジデンスプログラム)のコミュニティマネージャーを担当しており、多種多様な人たちと関わらせていただいています。ロフトワークに入社するまで、日本のローカルエリアで主婦、宿の女将、農産物ショップのマネージャーをしてきた経験から「ええ空気」で人と接するのは、わりと得意な方です。拠り所とする過去の経験があるのは幸いなことでもありますが、場づくりに対するナレッジを自分の中でアップデートしていきたいと思い、改めてコツとなるような考え方や具体例を探るべく、ヒントとなる考えを持っていそうな人とおしゃべりすることにしました。名付けて「ええ空気を探して」。

服部 木綿子

Author服部 木綿子(クリエイティブディレクター)

神戸生まれ神戸育ち。岡山で農林業や狩猟がすぐそばにある田舎暮らしを約10年に渡り経験。その中で2軒の遊休施設をゲストハウス(岡山県西粟倉村/香川県豊島)として再生し、自らも運営の第一線に立った。その後、神戸の農産物などを販売する「FARMSTAND」で、マネージャーとして店舗の運営に携るなど、ローカルのコミュニティ拠点づくりに関わってきた。

2020年2月ロフトワーク入社。感性を頼りに現場どっぷりで培ってきた経験値に、ロフトワーク流のロジカルな手法を掛け合わせたアウトプットが出来る日を目指している。趣味は、自分の人生と感覚を観察して、文章を書くこと。イラストも描く。

Profile

第2回目は、岡山県早島町にある生活介護事業所「ぬかつくるとこ」(以下、ぬか)の丹正 和臣(たんじょう かずおみ)さん。「ええ空気の場」で一番最初に私の頭に浮かんだのが、ぬかでした。

18歳〜65歳までの人が1日約20名ほど利用する生活介護事業所。自閉症、統合失調症と言われる人、ダウン症の人などが日中生活している。

ぬかについて、公式ホームページで、このように説明されています。

「ぬか」という一風変わった名前の由来は、漬け物などを 漬けて発酵させる「ぬか床」から来ています。正面から捉えるとひるんでしまうことも、ちょっと角度を変えてみれば、だれも気付けなかった価値が生まれたりする。そういった価値や個々の魅力が「ぬか漬」のように時間をかけてゆっくりと発酵し、社会へと広がって行くことを願って付けました。

ぬかつくるとこ:http://nuca.jp/

「ええ空気」のヒントを探るべく、ぬかの立ち上げメンバーの一人で、十数年来の友人である丹正さんとおしゃべりして来ました。

理解できない人を通じて、自分の世界を拡張する

服部 丹正くん、お久しぶり!前にぬかにお邪魔させてもらって以来で、遡ってみると2016年ぶりだった!その時ぬかに滞在して、「ほんまええ空気やなあ」って、大好きになったので、丹正くんと久々にしゃべりたいと思ってやって来ました。

丹正 もうそんなに経つんだねー。

服部 最近、いろいろな人と関わる中で、私は、共感が下手かもしれないと感じていて。自分との共通項を見いだせたらそこをとっかかりにするんだけど、特に見つからなくて、素直に共感出来ない場合に、どう関わると「ええ空気」でいられるんだろうと考えています。ぬかは、本当に多様な人が、ごちゃ混ぜに集まっているじゃない?丹正くんは、どういう感覚で関わっている?

丹正 どちらかと言うと、「共感できなくてもいい」と思って関わっているかもしれない。家族や自分に近しい人を理解できないって思ったら、悲しい気持ちになるかもしれないけれど、面白味も感じれる気がしていて。たとえ家族であっても、自分ではない他者とは共感できない前提でつきあっている感じがするかな。他者は自分に理解出来ないことを感じているわけだから、世界はもしかしたら、その人を通じて拡張出来るかもしれない。別に拡張しなくたっていいんだけど。

服部 分かんないからこそ、知ろうとするし、楽しめるってことか。

無理に自分事化しない、ツッコんで他人事化

丹正 例えば、ひたすら新聞をちぎっては、ばら撒いているような人がいたら、無理に理解しようとはしないかな。「なんでそんなんしてんの?」って距離を置いてツッコミを入れる

服部 あ、「なんでそんなんプロジェクト」ってやってるね!

「人の行為から生まれる「よくわからないこと」に対して真摯に向き合い楽しむための方法を探るプロジェクト」

丹正 そうそう。「なんでそんなんしてるん?」って思うこと、ぬかの日常にはすごいたくさんあって。新聞をちぎる行為もそうなんだけど。「なんでそんなんプロジェクト」は他者の突飛とも思える行動に「なんでそんなんしてるの」とツッコミを入れて楽しもうとするプロジェクト。「クセ」とか「こだわり」が強い行為っていうのは、福祉や教育の現場では「問題行動」として取り扱われる可能性があるんだけど、周囲が楽しむことができたら、「問題行動」はなくなってしまう。行為者の行動を変えようとするのではなくて、周囲にいる「発見者」が楽しむための方法を模索しようと始まったんだよね。

写真提供:ぬかつくるとこ

丹正 「なんでそんなん」は「行為者」と「発見者」の間に生じる違和感のようなもので、「男」と「女」、「日本人」と「外国人」、「子ども」と「大人」など、何かと何かの間に現れやすい。だから福祉分野の中だけではなくて、対象を広げていくことができると思った。気づいてないだけで、自分にも「なんでそんなん」はあって、家族から見たら自分の行為も理解しがたいものもあるかもしれない(笑)。プロジェクトのホームページには「なんでそんなん」を投稿できるようにしていて。これまでに110ほどの事例が集まっているんだけど、「行為者」と「発見者」の事例の数だけ視点のバリエーションが感じれて面白いなと思う。それは「分からない」からこそ生まれる気がするんだよね。

服部 関西人で言うところの「なんでやねん」の岡山版が「なんでそんなん」なんやね。

なんでそんなんプロジェクトの投稿ページ
「あなたのなんでそんなん教えてください」

https://nandesonnan.com/post/

丹正 もともと、ぬかスタッフの会議で「アンデパンダン」という言葉と「なんでそんなん」ていう言葉が似てるねっていう話で盛り上がって。ぬかは言葉遊び好きだから(笑)「なんでそんなん」って事例ばかり集まった「*アンデパンダン展」があったら面白いなぁと妄想していた。けれども、展覧会自体が目的ではなくて。「なんでそんなん」な行為をする人の周辺にいる人たちが、ネガティブな気持ちに陥らず、ポジティブに転換できれば、「なんでそんなん」な行為を止めないで、「もっとやったら」って言えるかなって。一度自分から距離を離す、他人事に出来るといいよねって。

*アンデパンダン…フランス語で「独立派の意」。パリで、アカデミー(官設の美術展)に対抗して、1884年以来開かれている無審査・無賞の展覧会「アンデパンダン展」が始まる。日本では赤瀬川原平などが出展した「読売アンデパンダン展」が有名。

服部 他人事にするって発想、新鮮かも。自分事にしよう、共感しようってよく言われるし、私もそういう強迫観念を抱いているかも。自分事ってフレーズ、真面目な人ほど自己犠牲に向いちゃう傾向もあるよね。人を分かりたいっていう欲求、自分の事として理解出来なくて苦しいって感覚は、関係性が近ければ近いほど出てこない?

丹正 例えば、家族で、服の脱ぎ方がこうなんだな、洗濯の干し方ってこうなんだなっていう、生活の中で感じる相手のクセみたいなものを通じて理解出来ることってあるけど、今相手が何を考えているかまでは理解出来ない。それを理解出来たって勘違いするより、理解出来ないなって思う方が、もしかしたら楽かもしれないし、分からない方が面白いってのはある。

服部 簡単に分かっちゃったら、その関係性が面白くなくなっちゃうのかもね。

妖怪ウィークを開催していたようで、あちこちに妖怪的な造作物が。

丹正 そうそう。それと、ぬかで働いていて思うのは、障がいのある人たちは、周りの環境によって生きやすさが変化することが大きい気がして。けれども、障がいのある無しに関わらず、誰しも自分のことを寛容に捉えてくれる環境があると生きやすいに違いないと思う。環境に順応しようと自分を変化させる能力があればいいけれど、そのままの自分で生きやすいのならそれのほうがいい。だから周りの人の思考や視点にアプローチするにはどうしたらいいかを模索してる

服部 周縁の人たちの思考を軽くする「なんでそんなん」っていうアプローチは、負のスパイラルを断ち切るのに良さそうだね。

丹正 「なんでそんなん」の事例を一つ紹介すると。ぬか代表の中野が、扉を最後まで閉めないんだよね。いつもじゃないんだけど…。例えば冬に会議していて、「予定があるからお先にー」って中野が出て行った時に、寒いなあって思ったら、外の扉が数センチ空いている。そういうことがちょこちょこあって。ずっと本人には言わなかった。「開いてますよ」って言いすぎると説教になっちゃう。「これ、『なんでそんなん』やん!」って思ってから、こっそり定規で何ミリ開いているかって記録していった。中野のニックネームが「クロンさん」だから「クロンの閉め忘れ」ってタイトルもつけて(笑)記録したデータが溜まっていって、グラフ化して、クロンさんの月の予定とかと照らし合わせてみたら、もしかしたらクロンさんのバイオリズムと閉め忘れに因果関係があるんじゃないかって妄想してる(笑)違和感があるものを、とりあえず分かんないけど記録してネーミングすることで、人に話しやすくなったり、笑えるってことがある。

服部 優しくツッコミ合える場があるってのが重要だよね。ぬかは、その土台をつくったのが大きいよね。記録してても、それが嫌味な記録になったら…。

丹正 ただ嫌なやつだもんね(笑)

服部 自分の中に留めると「なんでそんなん〜(怒!!!)」ってなるけど、「なんでそんなーん♪」ってツッコミ合えると、ハッピーやね。

丹正 今まで障がい福祉の分野の中で、アールブリュットとか、エイブルアートとかいろんな言葉が生まれてきたけど、そういう言葉を使わずに「なんでそんなん」っていう言葉を新しく発掘しながら、社会に提案していくってのが、ぬかっぽいかなって。

「神様」のせいに出来る「ぬかるみ商店」

丹正 ぬかは、スタッフも含めた工作物が日々大量に出来るんだよね。あまりにも溜まってごちゃごちゃになって年に何回か捨てる。だけど、思い出も思い入れもあって捨てるのは心苦しい。その解決策として、「ぬかるみ商店」という無人の販売所をつくる予定(7/18オープン)。小さな移動式の屋台の上に様々な工作物を並べて、そこに来るお客さんは自由に持って行ってくださいって。で、ぬかるみ商店に出す前に、神様に託す、神棚のような場所を自分たちでつくったわけ。もし誰の手にも渡らなかったら捨てますよ、言いましたよ?と(笑)実際に神様が入っているわけではないんだけど、自分たちが捨てるんじゃなくて、神様がいいよって言ってくれたよって言うことにしようと。責任を神様のせいに(笑)

服部 「大切だから絶対私たちが捨てるわけにはいけない」って、自分の問題にしすぎたら苦しいけど、「神様が言うんだったら仕方ないか」って他人事化することで、状況がポジティブになるね。捨てることが出来ない苦しみゆえに、もう作っちゃダメって行為を制御しない。

丹正 もちろん、ぬかびとさん(ぬかの利用者さん)と保護者の方には断りを入れる。制作したものにはそれぞれ想いが含まれていたり、デリケートなものではあるので、作った大切なものを譲渡したり捨てますよって。だけど今まで福祉事業所で神様に委ねて人に譲渡したり、販売したり、はたまた捨てているところってないじゃないかなって(笑)

服部 それも、ぬかっぽいね。優しいユーモアでポジティブに転換して、多様さ、雑多さを受け止めているところが。

丹正 ぬかって組織全体がいい意味でビジョン型じゃないんだよね。目標立てて、それに対してどういうタスクを用意して目的を達成しよう!っていうプロジェクトの組み方はほとんどしなくて。たまたま現れたことを面白がって、粘土をこねて陶芸するみたいに、目の前のもので遊ぶことが多くて。ネガティブな言い方すれば、ビジョンがないんだけど、それで無理のないものづくりというか、プロジェクトづくりが出来ているのかな。展覧会とかイベントとか単発では、徹夜とか無理しちゃうんだけどね(笑)

服部 いいね、目の前のことを無理なく、誰も自己犠牲することなく営むスタンス。共感も理解も出来なくても、楽しむことは出来る。「ええ空気」のヒントをもらいました。ありがとうございました!

右手の離れのスペースで「ぬかるみ商店」と合わせて小さな3つのお店が、7/18にスタートするとのこと。

対談相手

丹正 和臣

ぬかアートディレクター。1983年奈良生まれ、岡山県在住。大学で美術を学んだ後、2011年よりフリーのデザイナーとして活動。通所施設の美術講師として5年関わる。「生活介護事業所 ぬか つくるとこ」の立ち上げメンバーとして2013年より勤務。コンセプトワーク、デザインワークを担当しており、2020年度よりスタートしたなんでそんなんプロジェクトの企画にも関わる。

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