ええ空気を探して vol.1
テクノロジーの研究者と探る場作りのヒント
(現代アーティスト/研究者 川端 渉)
今一度、場づくりについて考えたい
こんにちは。ロフトワーククリエイティブディレクターの服部(通称:もめ)です。場やコミュニティの運営、クライアントとの協創。私たちロフトワーカーは、さまざまな場面で、「ええ空気」を醸成することが大切な役割のひとつだと信じ、私は取り組んでいます。最近では、COUNTER POINT(偏愛と個人的な衝動を動機としたプロジェクトを応援するレジデンスプログラム)のコミュニティマネージャーを担当しており、多種多様な人たちと関わらせていただいています。ロフトワークに入社するまで、日本のローカルエリアで主婦、宿の女将、農産物ショップのマネージャーをしてきた経験から「ええ空気」で人と接するのは、わりと得意な方です。拠り所とする過去の経験があるのは幸いなことでもありますが、場づくりに対するナレッジを自分の中でアップデートしていきたいと思い、改めてコツとなるような考え方や具体例を探るべく、ヒントとなる考えを持っていそうな人とおしゃべりすることにしました。名付けて「ええ空気を探して」。3回シリーズでお届けします。
第1回目は、COUNTER POINTの第4期として現在活動中の川端 渉さんにおしゃべり相手をお願いしました。川端さん(通称:ばたやん)は、「テクノロジーの視点は私達の日常に変化をもたらすのか」という問いを持って「LOST」というプロジェクトでCOUNTER POINTに参加中です。ばたやんと話すと、私の今の問いのヒントが見つかりそうだと直感し、対談スタートです。
テクノロジーから見た世界を妄想してみた
服部:ばたやんが現在COUNTER POINTで取り組んでいるプロジェクト「LOST」は、テクノロジーの視点から物事を見る実験ですが、初めて聞いた時「テクノロジーの視点?!何それ?」ってハテナが飛びました(笑)現代のあらゆるシーンで、「多様性」が重要視されるけれども、あくまでもそれは人間中心の視点。テクノロジーの視点まで追いかける、ばたやんの考えていることをじっくり聞かせてください。
川端:テクノロジーって、僕ら人間では見れない世界を見ているんじゃないかと妄想しています。例えば、シュレッダーは情報を消し去るために細かくしますが、果たして本当にそうなのかと。僕は製造業界で研究をしているので、グラフィックスのコアになるソフトウェアを作っていた時に、「情報を細かくすればするほど鮮明になる」という世界を見てきました。だから、シュレッダーにかけた方が、逆に詳細な情報を与えやすくするんじゃないか。人間は捨てるつもりでシュレッダーにかけたのに。
服部:これまで場づくりに関わってきて、多様な視点を取り入れることを考えたことは幾度となくあったけど、あくまでも人間中心の世界でした。
川端:自分の子どもに、サン=テグジュペリの「星の王子さま」を読み聞かせた時に、キツネが王子さまに「大切なことは目に見えない」ってみたいな事を伝えていて、ゾワっとした経験があって。もしかしたら僕はこの一文に書かれている本質を探ろうとしているのかなって。
“かくれんぼ”している自然を発見するテクノロジー
川端:テクノロジーっていうのは「隠れている『自然』を、表に出すものだ」という定義を、僕の中でしているんですね。「自然」とは、草木のようなものもあれば、「自然な素振り」と使われるものもあるじゃないですか。僕は、そういうのも含めて「自然」と定義しています。自然はね、隠れるのが好きなんです。意味分かんないこと言ってると思うだろうけど(笑)
服部:分かるような、分からないような。
川端:例えば、「電気を発明したのは誰ですか?」って言ったら、みんなエジソンって答えますよね?
服部:まさに、答えるところでした!違うんですか?
川端:電気を「発明」したのは自然なんですよ、エジソンはそれを「発見」しただけなんです。つまり自然は隠れているんです。かくれんぼしているのを、テクノロジーを使って表に出してきた…っていうようなイメージを僕はしています。こういう仮説を立てては実験をひたすら繰り返しているんです。特許を取って製品に採用されることで、世に出るものもある一方で、埋もれていくものも無数にある。この埋もれた考え方を、僕はアートの作品にすることで、表に出しています。
ノイズは美しく、自然にあるもの
服部:ばたやんの過去のアート作品に、Noise;nse(ノイセンス)というものもありますね。
川端:あの作品は、モアレっていう自然現象をモチーフにしています。カーテンとか重なってできるモヤモヤ、隠れている縦線と縦線のことですね。普段は「ノイズだから気持ち悪いな」ってなるけど、ノイズの美しさみたいなところを見せようと試みました。
服部:ああ、それで思い出しましたが、私がかつて宿を立ち上げようとした時に、子どもが走り回っている宿を目指してたんですね。子どもって、店のような場所では、ノイズとして扱われがちじゃないですか。「子どもお断り」の店が存在するように。当時読んでいたノイズ音楽の大友良英さんが書いていた本の中で、音はノイズを取り除こうとすると、すごく不自然な音に聞こえるってことが書いていました。その言葉に背中を押されるように、ノイズを取り除かず共存する自然な場所を作りたいと強く思いました。
川端:テクノロジー、つまり技術ってね、何でもいいんですよ。自然な仕草とか、その人の持っている自然な考えとか隠れているものを表に出す、会話のファシリテーションとか、空間の作り方とかも技術。
服部:なるほどー!そういう意味では、ばたやんと私は、一見、やっていることは違うけど、私も、関わる人の「自然な状態」を表に出したい、そして大切にしたいという点で同じかもしれない。例えば職場での働き方、お店でのお客さまの過ごし方が、不自然じゃないようにしたいというのが願いとしてあるかな。クライアントとの仕事も、所属先の役割ではなくて、その人個人の想いやキャラクターを引き出したい。
川端:僕が作った「行為体」って言葉があるんです。主体と客体の間に、影響を与えるようなもの。音楽だと演奏する主体がありますよね、音源やCDを売ったりする客体がありますよね。それ以外に、ライブをした時に、知らない人たちが一つの共通する話題で話して仲良くなったりするじゃないですか。コミュニティみたいなものを作り出す、得体の知れない存在のこと、それを僕は行為を促すものってことで「行為体」って名付けました。こういう存在って幽霊みたいなもんなんですよ。気配だけを感じる。
服部:「ええ空気」を生み出している正体は「行為体」ってことなのかも知れないですね〜。
探求しよう、大切なものを見つけるために
川端:僕は海外で活動することが多いんですけど、海外の人が僕の作品を買いたいって言う時、作品を見て、僕の話を聞くんです。「Why?」って。ステートメントを話すと、「僕はあなたの考えに共感して作品を買います」と。アートって作品しか見られないことが多いんですけど、作品に至るまでの、探求した部分を評価してくれたわけです。まさにCOUNTER POINTってのは、探求が存分にできる場だと思っています。
服部:3ヶ月の活動の最後に、成果発表がありますけど、どう考えていますか?
川端:探求のため、たくさん実験したんだけどうまくいかなかった場合、課題や発見が出てきますよね。課題や発見が成果になるんです。研究は答えがない世界でやっているので、結果が出ないことはありますけど、会社にいると成果がないとダメなんで「課題や発見した事があります」「こういう問題があります」「それによって僕は課せられたものが出てきました」「だから来年もこれをやるべきです」「今年の成果はこの課題や発見したことです」って言いますね。COUNTER POINTでの成果も、作品の完成以上に、いかに自分にとっての課題や発見に出会えるかだと思っています。
服部:とりあえず手を動かしてみるって大事なんですね。
川端:だって大切なものは隠れているんでね。見つけないといけないんです。
服部:見つけるために技術を磨いたりするんですね。
川端:アーティストって作品を作る前に、彫刻するなら彫刻する道具を作ったりするんです。その人はそういうものを作ってからじゃないと発見ができないからですね。探すために、世の中の今ある道具じゃ探せない。なので僕も、これを探すために、自分の得意なソフトウェアだったりハードウェアだったりいわゆる装置を作って、実験してます。今あるテクノロジーをうまく利用して。
服部:場やコミュニティの運営をする私の場合だったら、技術って、例えばファシリテーションの技術を学んでみましょうか、ってそういうことだったりするんですね。関わる人の中に隠れている何かを発見するための術が足りないなら、技術を磨く、時には道具すら作ってしまう!とっても刺激になりました!
対談相手
川端 渉
アートとサイエンスの狭間で活動する研究ベースの現代アーティスト。
私達の身のまわりには、人から取りのぞかれていくものが多くある。ノイズ、錆、滲み、しわなど。人からは不要と思われるこれらも、テクノロジーではその性質を活用している。
人の環境から取り除かれるものに存在感を与えたとき、見慣れた日常はどのように変化していくのかを探究している。
http://showkawabata.net/
第5期の応募締め切りは2021年6月21日
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