宇宙開発の先に、どんな暮らしをつくるのか?
2040年の未来をめぐる対話
FabCafeは、世界中に広がるクリエイティブコミュニティです。現在は国内6拠点、海外7拠点の全13拠点で、地域のクリエイターやアーティスト、研究者、企業などとともに、食、アート、バイオ、AI、教育まで、領域を横断した実践が生まれています。ロフトワークにとってFabCafeは、こうした出会いや実験を育む大切な場のひとつです。各地で生まれているプロジェクトや対話をお届けします。
今回は、視点を宇宙へと広げます。取り上げるのは、FabCafe Tokyoで開催されたトークイベント「The Future of Space: A 2040 Vision」。宇宙開発を、技術や産業の未来としてだけでなく、人間はそこでどう生きるのか、どんな社会をつくるのかという視点から見つめ直した対話です。このイベントでは、「新しい宇宙経済」「DIY Space」「人類の次なる挑戦」という3つの視点を手がかりに、対話が展開されました。
ここでいう 「人類の次なる挑戦」とは、宇宙開発そのものではなく、宇宙を誰にどう開き、どんな価値観で進めていくかという、人類全体に関わる問いを指しています。
「宇宙」というと、ロケットや衛星、あるいは一部の富裕層による宇宙旅行を思い浮かべる人も多いかもしれません。けれど今、宇宙は工学だけのテーマではなく、経済、政治、食、心理、倫理、デザインまでを含む、より複合的な問いになりつつあります。
ここで掲げられた「2040年」という時間軸は、遠すぎる未来ではなく、いま進みつつある変化の延長線上で考えられる、ひとつの現実的な射程です。新しい宇宙経済はどこへ向かうのか? 市民が宇宙に関わる余地は広がるのか? そこに格差や搾取は生まれないのか? 今回の対話では、宇宙を最先端技術の集結場としてだけではなく、人間はそこでどう生きるのかという視点から見つめ直しました。
FabCafe Barcelona
FabCafe Barcelonaは、デザイン、テクノロジー、未来思考が交差する文脈のなかで、多様な対話や実践を育んできた拠点です。スタートアップ、研究者、クリエイター、企業などが交わる場として、都市や社会の変化を見つめながら、新しい価値観や未来像を探るプロジェクトにも関わってきました。今回のイベントでモデレーターを務めたCecilia Thamも、FabCafe Barcelonaに関わりながら、テクノロジーと社会の未来を横断的に見つめてきた人物のひとりです。FabCafe Barcelona Webサイト
2040年の宇宙について、なぜ今考えるのか?

2025年10月25日に開催したイベントで対話を導いたのは、FabCafe Barcelonaを率いる、未来研究者であり起業家でもあるCecilia Tham(セシリア・タム)です。セシリアは、Futurity SystemsのCEO兼PhD Researcherで、ハーバード大学でデザインを学び、Makers of Barcelona、allWomen.tech など複数のプロジェクトを立ち上げてきた連続起業家でもあります。宇宙をめぐる議論でも、技術そのものより、その先にどんな社会や文化をつくるのかが重要なテーマになっていました。
セシリアに加え、Stanford d.schoolの非常勤講師で元国際宇宙ステーション(ISS) U.S. National LabのCommercial Innovation Program ManagerであったMiki Sode、建築と宇宙研究の背景を持つPwCのLuciana Tenorioが登壇しました。専門の異なる3人が交わることで、宇宙は専門家だけの話題ではなく、複数の領域をまたいで考えるべきテーマであることが見えてきました。
宇宙経済は誰に開かれるのか
この対話では、現在の宇宙開発が、場合によっては軍事的でもある宇宙開発競争と、宇宙を民主化しつつ搾取もしかねない商業的利害が同時に進む状況があるということが共有されました。つまり宇宙は、夢のあるフロンティアであると同時に、政治、経済、倫理の緊張が重なる場でもあるということです。だからこそ、ただ技術を前に進めるだけではなく、その方向を誰が、どんな価値観で決めていくのかが問われています。
このイベントで印象的だったのは、「宇宙は誰のものになるのか」という問いが、所有権の話だけではなく、アクセス、恩恵、言葉、制度まで含んでいたことです。このトークでセシリアが示していたのは、宇宙開発を技術の進歩としてだけ捉えるのではなく、その先にある文化、経済、文化の変化まで含めて考える視点でした。宇宙の未来を考えるには、ロケットや衛星の話だけでは足りない。そこにどんな価値観を持ち込み、どんな社会をつくろうとしているのかも、同じくらい重要だということです。

対話の中でセシリアが引用したのが、Stewart Brandの「Pace Layers」という考え方です。社会は、技術だけで一気に変わるのではなく、経済、インフラ、制度、文化、自然といった異なる速度の層が重なり合いながら動いている。そんな視点から、宇宙開発も技術だけでなく、その先にある社会や文化まで含めて考える必要があることが示されていました。
市民や小さなチームも宇宙に関われるのか
トークで語られた「DIY Space」は、単なる趣味的なものづくりの話ではありません。アマチュアや小規模なスタートアップ、市民科学者が、ホビーロケットや超小型衛星、オープンソースの宇宙技術などを足がかりに、宇宙に関わり始めている動きを指しています。以前よりも、宇宙を国家や巨大企業だけのものではなく、小さな組織や個人が宇宙の領域にアクセスしやすくなっています。
たとえば、ロフトワーク、FabCafe、千葉工業大学が進める「Project Apophis」のように、研究機関だけで閉じず、民間の立場から宇宙に関わろうとする試みも、そのひとつの例として見ることができます。
とはいえ、それは単純に「誰でも自由に宇宙へ行けるようになる」という話ではありません。資本や技術のハードルは依然として高く、新たな格差や搾取が生まれる可能性もあります。だからこそ、このトークで共有されていた “人類の次なる挑戦” とは、単に宇宙へ進出することではなく、宇宙へのアクセスやそこから生まれる価値を誰にどう開いていくのか、そして商業化や国家間競争が進むなかで、平和利用や公平性をどう守るのかを考えることでもありました。さらに、宇宙を目指すことが、地球の価値を見直し、守る視点へどうつながるのかも問われていました。
宇宙での暮らしは、どこまで人間的でいられるか
この対話が単なる宇宙ビジネス論で終わらなかったのは、宇宙での暮らしそのものに目が向けられていたからです。特に「食」に関する話は、宇宙で何を食べるのか、という、単なる栄養補給の問題ではない、という視点です。食事は、人間にとって記憶や文化、他者との関係を支える営みでもあります。長く滞在するほど、宇宙での食は「生き延びるための燃料」ではなく、「人間らしく生きるための環境」そして新しい文化の一部になっていくと言います。
トークでは、国際宇宙ステーション(ISS)で資源循環が重視されていることや、宇宙での食事が視覚や心理に与える影響についても語られていました。どんな設備で調理し、どう食事の時間を共有するかといった話題は、意外なほど地上の日常生活に近いところまで降りてきます。宇宙を考えることは、極限環境で人がどう平常を保つかを考えることでもあり、そこから逆に、地上の暮らしにとって何が大切なのかが見えてきます。

宇宙を考えることは、地球を考え直すことでもある
トークでは、宇宙で暮らすことが人の身体や心にどんな影響を与えるのか、という話題にも触れられていました。重力がほとんどない環境では、骨や筋肉の変化、長期滞在による心理面への影響など、地上とは異なる条件で人は生きることになります。ただ、それは宇宙だけの特殊な話ではありません。Miki Sodeは、微小重力下で進む骨量減少の研究が、地上での老化や骨粗しょう症の理解にもつながると語っていました。宇宙研究は、地球を離れるためだけのものではなく、地球での暮らしや健康を見つめ直す手がかりにもなっています。
ロフトワーク、FabCafe、千葉工業大学が進める「Project Apophis」も、そうした視点と重なる取り組みです。2029年4月の小惑星アポフィス接近を見据えた民間主導の探査構想であり、科学探査だけでなく、産業横断の共創の場としての側面も持っています。宇宙を研究機関だけのものにせず、クリエイターや企業、市民の視点とつないでいく。そうした開き方も、この対話で共有されていた感覚に通じています。
宇宙の未来は、地球から切り離された別世界の話ではありません。そこで問われていたのは、限られた資源のなかでどう生きるか、異なる人びととどう暮らすか、技術をどんな社会につなげるかという、地上でも切実な問いでした。宇宙を考えることは、地球での暮らしを考え直すことでもある。今回の対話は、その輪郭を具体的に見せてくれました。
※本記事は、FabCafe globalで2026年2月16日に公開された英語記事をもとに、日本語版として再編集・翻訳したものです。原文はFabCafe globalのWebサイトに掲載されています。
Project Apophis
ロフトワーク、FabCafe、千葉工業大学が進める、民間主導の小惑星探査プロジェクト。2029年4月13日に地球へ最接近する小惑星アポフィスの観測を見据え、探査ミッションに加えて、宇宙・非宇宙分野を横断する共創の場づくりも進めています。詳細は、ロフトワークのニュース記事で紹介しています。







