リペアの視点で考える、地域のものづくりとコミュニティのこれから
映画『リペアカフェ』から始まった、コミュニティ・リペアをめぐる対話・後編
2009年にオランダのアムステルダムで発祥した、「リペアカフェ」という市民活動を知っていますか? この場所では、誰もが壊れたものを持ち込み、地域のリペアラーの協力のもとで修理を受けることができます。さらに、リペアカフェではモノを直すだけでなく、そこに参加する人々の間にケアの関係が生まれ、コミュニティを回復させる効果も期待されています。
私たちFabCafe(ファブカフェ)は、ものづくりコミュニティを運営するカフェとして、今、リペアカフェに強い関心を持っています。日本でも活動の萌芽がみられるリペアカフェと、そこで実践される「コミュニティ・リペア(みんなで修理する活動)」。この活動は、地域や社会の未来にどのようなインパクトをもたらし得るのでしょうか?
こうした問いを深めるために、2025年12月、私たちは東京・名古屋・京都・大阪の4つの拠点で、ドキュメンタリー映画『リペアカフェ』(制作:IDEAS FOR GOOD)の上映会を開催しました。本記事では、イベントを振り返る座談会の模様を前編・後編に分けてお伝えしています。
前編では、企業とユーザーの間にある「修理の主体」のあり方から、コミュニティにおける“ケアを実践する場”としての役割まで、リペアカフェの意義や可能性について語り合いました。後編では、FabCafe各拠点のメンバーが映画や上映会での対話をきっかけにどんなことを考えたのか、さらに「実践の一歩」をどう踏み出すのか、アイデアを交わしました。

話した人

瀬沢 正人/IDEAS FOR GOOD クリエイティブディレクター
オランダ在住。サステナビリティ領域で映像制作を手がける。監督作『リペアカフェ』はアムステルダム地域映画祭にノミネート。日本の主要メディアで紹介され、大阪・関西万博では経済産業省の展示に採用された。企業や行政と協働しリペア文化の社会実装に関わる。今回、FabCafe4拠点で開催された上映会に参加した。

岩沢 エリ/Loftwork Inc. Culture Executive, マーケティング リーダー
今回の連続上映会の仕掛け人のひとりであり、東京の上映会の企画責任者。サステナブル・ビジネスに取り組む企業の事業創出や自治体のビジョン策定などのプロジェクトデザインを実践している。日本において「修理する権利」が浸透する際に必要な仕組みやルールメイキングに関心を持っている。

木下 浩祐/FabCafe Kyoto ブランドマネージャー
京都の上映会の企画・運営をサポート。FabCafe Kyotoの顔として、関西エリアのものづくり事業者の方々との幅広いネットワークを持つ。また、循環型社会の実現に向け、企業・自治体・大学の垣根を超えて学習プログラムの設計からコミュニティ運営まで数多く手掛けている。

森田 湧登/FabCafe Nagoya ディレクター
名古屋の上映会で企画を担当。FabCafe Nagoyaで行われるプロジェクトやイベント、プロモーションのプランニングを手掛けている。FabCafeの場と設備を生かしながら、ものづくり企業や自治体・行政などと共に、東海エリアの産業振興やまちづくりに取り組む。

葉山 いつは/Loftwork Inc. 京都ブランチ マーケティング
大阪の上映会で企画を担当。マーケティング担当として、FabCafe Osakaの立ち上げに伴うフィールドリサーチや、ロフトワークのパートナー開拓などに取り組んできた。サステナビリティやまちづくりに関する活動に強い関心を持ち、日々社内外を問わず実践の場に足を運んでいる。
リペアの「おもろさ」で、つくる人/つくらない人の断絶を超える
葉山(Loftwork Inc. 京都ブランチ) リペアカフェが世界で盛り上がった理由のひとつに、リペアそのものの面白さがあると思います。参加する人たちは、必ずしも難しい社会課題に向き合わなくていい。そして、「なんかおもろい(面白い)こと」をやるのは大阪の土地柄にも合っています。
木下(FabCafe Kyoto) FabCafeはこれまで、「つくる技術を社会に向けてオープンにする」ことに取り組み続けてきましたが、「つくる人」と「つくらない人」の間にはなかなか越えられない断絶がありました。その点、リペアカフェの気軽さと面白さなら、より多くの人が「つくることへの参加のハードル」を超えられるかもしれません。
瀬沢(IDEAS FOR GOOD) 大阪のような商業都市の人々は、コミュニティへの帰属意識の強さと同時に、「合理的に得をする」という感覚も持ち合わせていますよね。そもそも修理してモノを長く使うことは、生活者にとって合理的な営みです。リペア文化の浸透も、大阪らしい楽しさ・フレンドリーさに加えて、誰もが腹落ちできるような経済的合理性をより実感できるしかけがあると、盛り上がりそうです。
Keywords: “FabLab”、“Fab”
デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房のネットワーク。MIT(マサチューセッツ工科大学)のニール・ガーシェンフェルド教授がMITで始めた講義「(ほぼ)あらゆるものをつくる方法」をきっかけに生まれた。個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」の醸成を目指している。「ファブ(Fab)」には、「Fabrication」(ものづくり)と「Fabulous」(楽しい・愉快な)の2つの意味が込められている。

岩沢 葉山さんは、FabCafe Osakaとしてリペアの領域でチャレンジしてみたいことはありますか?
葉山 地域の特性を生かしたリペアイベントを企画してみたいです。例えば、大阪の日本橋(にっぽんばし)という地域には、ラジオなどの電子機械・部品を販売するお店が集まり、多くの技術者や電子工作の愛好家たちが集まります。そうした方々や企業と一緒に、電子工作に特化したリペア会を開催したら、きっと面白いんじゃないかと。
葉山 もしかすると、大阪では「リペアカフェ」というタイトルだと少し行儀が良すぎるかも知れません。打ち出し方を変えてチャレンジしてみたいですね。
瀬沢 そもそもリペアカフェという名前や活動に縛られなくてもいいのかもしれません。機械をバラバラにして、もう一回組み上げるとか。ゲームやエンタメの要素があるような活動で、みんなでワイワイ盛り上がれるような体験でも、面白そうですよね。
FabCafe Osaka
蒸留器を使って、水都大阪を舞台に新たなカルチャーを育むFabCafe。形式に縛られない美しさを追求する近代から現代の美術思想「L’Informe(アンフォルム)」をコンセプトに、形を持たない「感性」や「情緒」を、具現化する新たな体験を提案している。
Address:大阪府大阪市北区天神橋2丁目2−4
Website:https://fabcafe.com/jp/osaka/
デジタルファブリケーションをハブに、エリアの修理可能性を高める
岩沢 FabCafe Nagoyaは、今回の上映会をきっかけにどんなことにチャレンジしたいですか?
森田(FabCafe Nagoya) 僕たちとしては、周囲の人々をリペアに巻き込むきっかけをどうデザインしていけるかという問いがあります。例えば、壊れたモノの部品データをアーカイブして、3Dプリンターで出力するサービスなど。デジタルファブリケーションが関与する修理のあり方を模索しています。
木下 コミュニティ・リペアとFabに共通するのは、誰かと一緒に「つくる」行為によって、自分自身もまた使い手としての主体性が「つくられる」点だと思います。こうした体験をカフェという空間で閉じるのではなく、外に向かってシェアしていくのは面白そうですね。「特別なスキルを持った人」じゃなくてもアクセスできる仕組みによって、リペアの幅が広がるかもしれません。
FabCafeが道具や部品のデータ、あるいは物質的な情報だけでなく、リペアカフェで試行錯誤したプロセスや実践知などもアーカイブし、それらをさらに社会にひらき直すことでどんな広がりが生まれるのか。僕自身、とても興味があります。
瀬沢 FabCafe Nagoyaの特色として、製造業が集積している大垣市や、絞りという伝統産業が生業の町・有松といった特色ある地域との距離の近さがありますよね。こうした地域から名古屋に足を伸ばせば、デジタルファブリケーションが使える。「こういう工具があったらいいのに」「こういう部品を作れたらいいのに」という要望が、FabCafe Nagoyaで叶う。こうした土地性を生かして、リペアの活動を展開できると良さそうです。
森田 そうですね。今回のイベントでは、近隣の自治体職員の方々も参加してくださいました。名古屋という場所は東海エリアで強い求心力があります。FabCafe Nagoyaがハブになり、この地域でリペアムーブメントをどう盛り上げていけるのか。その方法を考えたいです。
FabCafe Nagoya
久屋⼤通公園芝⽣広場に⾯した、カフェとモノづくりスペースを融合した共創スペース。 広葉樹の耳材を活⽤した天井意匠と開放的な空間が特徴。レーザーカッター、UVプリンター、デジタル刺繍ミシンを利用できる。Fabのワークショップから、地域の産業振興イベント、SF思考ワークまで、幅広い活動が行われている。
Address:愛知県名古屋市中区丸の内3丁目6−18 レイヤードヒサヤオオドオリパーク ZONE1
Website:https://fabcafe.com/jp/nagoya/
事業としてのリペアの可能性を、多角的に捉えなおす
岩沢 FabCafe Tokyoはロフトワークとも連携しながら、企業・組織の中で活動されているみなさんと、リペアが今の日本社会の中でどんな価値を持っているのかを探索する活動をしていきたいですね。さっきも話題に挙げた通り、リペアの事業性を高めるにはPL法や電波法など法律へのアプローチが必須になります。また、リペアによって生まれる美意識や情緒的な価値なども含めて、多角的なリサーチと分析が必要です。
もちろん、リペアカフェのようなコミュニティ・リペアも実践したいです。ただ、FabCafe Tokyoのある渋谷は他の拠点と比べて生活圏からやや遠いところにあるので、リペアしたいモノや人が集まるかどうか……ちょっと工夫が必要そうですね。
森田 名古屋も渋谷と同様に、都心部では密な関係や地に足のついたコミュニティが生まれづらい側面があります。便利さと効率の良さゆえに消費者の行動主体性が育まれにくいというか。でも、リペアカフェのいいところは、コーヒーを飲んで見ているだけでもいいという、参加のグラデーションがあるところですよね。自分たちでコミュニティ的な活動に参加できるという気づきを得る最初の一歩として、リペアカフェの活動に触れられる機会をつくれるといいのかもしれませんね。
岩沢 そうですね。たまたまカフェに入ったら、レーザーカッターでものづくりをしているのと同じように、そこでリペアをしている人たちがいるのが見える。シンプルに、そのような状況をつくってみるところから始めてみてもいいのかもしれません。商業施設やオフィスが集積している街だからこそ「リペアしたいもの」が現れてくる可能性もありますね。
FabCafe Tokyo
渋谷・道玄坂上にある、FabCafe1号店。レーザーカッター、UVプリンターが利用できるほか、ロフトワークのプロジェクトを紹介する企画展を随時開催。アーティストインレジデンスやバリスタセミナー、勉強会など、多彩なプログラムを実施している。
Address:東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピアビル1階
Website:https://fabcafe.com/jp/tokyo/
ボランタリーな活動を続けるための、フェアネス(公正さ)へのまなざし
木下 FabCafe Kyotoでの上映会は、有限会社ひのでやエコライフ研究所(以下、ひのでやエコライフ研究所)が主催するイベントに、京都市とともに僕たちが協力する形で開催しました。ひのでやエコライフ研究所の山見さんと大関さんは、これまで地域で継続してリペアカフェを開催していて、今回の上映会には、いつもそこに来ている方々も参加してくれたんです。
上映会後、実際にリペアカフェも実施しました。その場の空気は、心理的に安全でありつつも閉じすぎていない感じで。お互いに「あ、どうも」と言えるような雰囲気が醸成されていました。
瀬沢 京都は人々が暮らす身近な場所に多様な職人さんたちがいるからか、皆さんの中にモノを大切にして、修理しながら長く使うという概念が受け入れられていているように見えました。
山見さんと大関さんは地域で8年あまり、市民に向けて技術の使い方をひらく活動を続けています。そうした活動を通して形作られてきた「顔が見える関係性」がFabCafe Kyotoという場に現れたので、誰もが安心して参加できる空気が生まれたのではないでしょうか。

岩沢 これからFabCafe Kyotoとして、どのようにリペアの取り組みに関わっていけそうですか?
木下 僕たちとしては、「カフェ=どこにも所属していなくても、誰でも来れる場所」として何ができるかを考えています。周りには、社会的な課題に向き合っているアクティビストの方々や、昔からコミュニティで活動してきた方々が多くいらっしゃいます。そうした皆さんにリスペクトを示しながら、僕たちはより横断的な動き方をするのが「らしさ」かなと。
また、もうひとつの視点として、インディでボランタリーなリペアカフェの活動に企業や行政が合流する際、全員にとってポジティブな関係をどうデザインできるかを考えたいです。リペアラーの「誰かの役に立ちたい」という善意を大切にしながらも、彼らから搾取する構造は避けなければなりません。
Keywords: “フェアネス(Fairness:公正さ)”
立場や属性に関わらず、誰に対しても偏りなく、合理的な機会や待遇を提供すること。単なる「一律の平等」ではなく、状況に応じて調整を行う公平性(Equity)を含み、社会的な平等を図る考え方。公平が「偏らない」ことであるのに対し、公正は「正しい、道義に反しない」というニュアンスを含む。
岩沢 その視点はとても重要ですね。企業や自治体との関係で言うと、まちづくりなどのプロジェクトであれば、どういう文脈で何のためにリペアカフェを取り入れるのか。権力勾配によってフェアではない状態に陥らないよう、有識者や実践者の方々と対話を重ねる必要がありそうです。
瀬沢 そうですね。それと、山見さんと大関さんが地域の中で築いてきたような「顔が見える関係」にこそ、リペアラーへの搾取を抑止する力があるように感じました。リペアを一回きりの体験で終わらせるのではなく、利用者とリペアラーの双方にとって互助の営みとして継続することが大切だと考えています。

FabCafe Kyoto
五条河原町にある、築約120年の木造建築をリノベーションしたFabCafe。サーキュラーエコノミーに関連するワークショップやプロジェクトインレジデンスなど参加型プログラムを数多く実践している。また、京都在住のアーティストやデザイナーなどによる展示企画も開催されている。
Address:京都府京都市 下京区本塩竈町554
Website:https://fabcafe.com/jp/kyoto/
終わりに:ものづくりとリペアを通して、ケアと循環への参加をひらく
映画『リペアカフェ』の上映会をきっかけにFabCafeの各拠点で始まった、コミュニティ・リペアをめぐる対話。欧州と日本との違いを踏まえつつ、小さなものづくりカフェがこれからの地域や社会に対してどんな役割を果たせるのか。その場所を担うメンバーそれぞれが改めて問い直す機会となりました。

視点を変えれば、人口減少という抗い難い構造変化の渦中にある日本。あらゆる産業や地域活動をいかに維持できるかが課題となる中で、既存の資源や資産、コミュニティの人的リソースをいかにケアし、その活力を高められるかを模索していく必要があります。このような社会状況の中で、モノの修理にとどまらず、希薄化した人と人との繋がりをも修復するリペアカフェとコミュニティ・リペアのアプローチに対し、より注目が高まっていくのではないでしょうか。
FabCafeはこれまで、多様な人々を巻き込みながら、テクノロジーを通して「つくる」行為をひらき、他者同士が創造する機会や方法論を実践してきました。今回の上映会とトークで見えてきたのは、これまでのFabCafeの実践と経験にリペアの活動を編み合わせることの価値と可能性でした。小さなカフェという場所から、社会を修復していくこと。そのための道をそれぞれが探り、歩んでいくことができそうです。
これから各拠点のFabCafeがリペアの領域でどんな活動をスタートするのか、どうかお楽しみに。また、共にリペアの活動を仕掛ける仲間をお探しの方は、ぜひ、FabCafeやロフトワークのメンバーに声をかけてみてください!
執筆:岩崎 諒子(FabCafe Tokyo)
編集:乾 隼人(Loftwork Inc.)








