AIとクリエイティビティの境界線とは?
アーティストと探るレジデンシープログラム
AIは最適化の道具か、それとも破壊と創造のパートナーか?
急速に社会へ浸透した生成AI。日々の業務になくてはならないツールだと感じている人がいる一方で、その進化の速さにどう向き合えばいいか戸惑っている人も多いはずです。
“私たちは、AIというテクノロジーを真に創造的な活動に活かすことができるか?”
この問いは、表現の最前線に立つアーティストにとっても、チャレンジングなテーマのひとつと言えるのではないでしょうか。
ロフトワークのオフィス1階に位置する、クリエイターやビジネスパーソンが入り混じるカフェFabCafe Tokyo(ファブカフェトーキョー)では、この大きな問いに対し、実験的なアプローチで挑んでいます。それが「FabCafe Tokyo Creative Residency」(以下、レジデンシープログラム)です。
デジタルとアナログを横断しながら、既存のジャンルにとらわれない表現に挑戦するアーティストを支援する本プログラム。今回は、レジデンシープログラムの滞在制作とその成果展「AI-ダダ|Weaving the Landscape 〜 織り交ざるランドスケープ」に参加した、アーティスト 市川大翔さん、武信朱璃さんの取り組みを紹介します。

混沌をひらく「AI-ダダ」というテーマ
AIの存在は、今なおクリエイター全員から手放しで歓迎されているとは言いがたい状況です。制作の効率化や未知なる共創の可能性に期待が寄せられる一方で、著作権の問題や、AIによる排外的なコミュニケーションの量産といった社会的な懸念もあります。
レジデンシープログラムが掲げたテーマ「AI-ダダ」は、こうした混沌とした状況を、あえて20世紀初頭の芸術運動「ダダイスム」の精神で捉え直す試みです。当時のダダイスムが既存の芸術の常識を破壊し、新たな価値観を提示したように、現代のアーティストもまたAIを「創造の道具」として、あるいは「既成概念を壊す道具」として実験的に活用できるのではないか。そんな期待を込めて、このテーマを設定しました。
2人のアーティストが提示する、AIとの対話の形
今回のプログラムに参加した市川さんと武信さんは、AIとどのように向き合い、何を表現しようとしたのでしょうか。2人の作品を通して、その足跡を辿ってみましょう。
市川大翔:ネオンという物質と、AI・CGの演算が交差する場所

市川大翔さんは、デザイナーとしてのキャリアを持ちながら、現在はネオン管を主な表現媒体(メディウム)として制作活動を行っています。工学的な制約が多く、職人的な手わざを必要とするネオンをあえて「絵の具」として選び、デジタルテクノロジーなどと融合させるスタイルが特徴です。
今回のレジデンシーで制作された《False Texture》では、AIを用いて「現象の連続性」を問い直しました。CGやAIが演算によって生成する「もっともらしい表層的な質感」と、現実のネオンが放つ光の「物理的な奥行き」。これらを対比させることで、デジタルとリアルの境界線で、私たちが何をもって「そこに実存がある」と感じるのかという認知の仕組みを紐解こうとしています。


武信朱璃:AIの視覚で捉える、都市の不可視な風景

武信朱璃さんは、写真やCGなどを用いながら、人間の知覚では捉えきれない領域を可視化しようと試みるアーティストです。
制作された作品《2025-12-23 Shibuya》は、FabCafe Tokyoという日常的な空間を赤外線カメラで撮影し、そこから得られた不可視の情報をAIに入力するという「疑似実験」のプロセスを経て作られました。AIに、「人間の目には見えない事実(データ)」を読み込ませることで、奇妙で不可思議な風景を生成。そこから得たインスピレーションを立体的なオブジェクトとして具現化しました。武信さんはAIという装置を介して、私たちのすぐ隣に隠れているかもしれない、もうひとつの世界の形を提示しています。


最適化の先にある、人間ならではの問い
市川さんと武信さんに共通していたのは、AIとの協働を通して誰もが納得する最適解を得ようとするのではなく、むしろ問いを深めていこうとする姿勢でした。彼らは、最適化や効率化が求められる日常の中で見過ごされがちな好奇心や違和感の種を掬い取り、AIやテクノロジーとの対話的な協働を通して鑑賞者の感覚を揺さぶる体験へと昇華させています。
ともすれば、AIは単に物事をスムーズに進めるための道具だと思われがちです。しかし、二人のアーティストが示したのは、AIをパートナーとして人間ならではの感覚や思考を刺激し、いつものやり方とは異なる創造的なアプローチを獲得する道筋でした。
今回のレジデンシープログラムでは、こうした実験的な制作プロセスとそのアウトプットとしてのアート作品が、日常の風景であるカフェという空間で展開されました。私たちFabCafe Tokyoにとっても、アーティストとのコラボレーションの意義と可能性を改めて実感できる機会となりました。
「AI-ダダ」をテーマにしたアーティストとの探求は、これからも続いていきます。次はどんな表現が生まれてくるのでしょうか? 気になる方はぜひ、FabCafe Tokyoに足を運んでみてください。
執筆・編集:岩崎 諒子(FabCafe Tokyo)
レジデンシー企画・運営:ユンボム(FabCafe Tokyo)
写真:松永 篤(Loftwork)








