なぜ“好き”や“夢中”が子どもたちの未来をつくるのか?
Unlock PROGRAMから見えた、新しい共創のカタチ
2025年大阪・関西万博に出展したパナソニックグループパビリオン「ノモの国」は、「解き放て。こころと からだと じぶんと せかい」をコンセプトに、「Unlock your nature」をタグラインに掲げていました。“好き”や“夢中”を起点に、思いも寄らない未来へと踏み出す体験をより多くの人々に届けたい——そんな思いで生まれたのが、「Unlock PROGRAM」です。
このプログラムは、パナソニックセンター東京のパナソニッククリエイティブミュージアム「AkeruE(アケルエ)」で行われていた「アルケミストプログラム」をベースに、丸の内のコワーキングスペース「point 0 marunouchi」に舞台を移し、約6ヶ月間にわたって実施されました。ロフトワークは、「アルケミストプログラム」から継続して、本プログラムの企画・運営を支援しました。
Unlock PROGRAMはどんな変化をもたらし、私たちにどんな問いを残したのか。そして、そこから見えてきた、年齢や所属にとらわれない”新しい共創のカタチ”とは? 本プログラムの企画・運営に携わった3名が語り合います。
「Unlock PROGRAM&DAY」のプロジェクト概要は以下の記事でご紹介しています。
話した人

株式会社ロフトワーク Layoutディレクター 星安澄
株式会社unworkshop 代表 / プログラムディレクター 鈴木順平さん
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 ブランド・コミュニケーション部門 寺岡宏恵さん
他者との“共鳴”から始まる自分だけの物語。「Unlock PROGRAM」誕生の舞台裏とは?
“社会との接続”でUnlockを仕掛ける。公教育ではないオルタナティブな場だからこそできること
株式会社ロフトワーク Layoutディレクター 星安澄(以下、星) まずは、パナソニックさんが2025年大阪・関西万博に出展されるにあたり、パビリオンのターゲットをα世代に設定された理由を教えてください。
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 ブランド・コミュニケーション部門 寺岡宏恵さん(以下、寺岡) やはり一番の理由は、弊社が大阪の企業であり、1970年の大阪万博の原体験を鮮明に覚えている社員が、今でも多く在籍しているからです。当時の「未来へのワクワク感」や「自分の世界が拓けた感覚」を持つメンバーにとって、「次は自分たちが次世代に夢を与える番だ」という思いを抱くのは、ごく自然なことでした。
星 今回、寺岡さんから「子どもたち一人ひとりの成長を大切にしてほしい」というリクエストをいただきました。「Unlock PROGRAM」にどんな思いを込めていましたか。

寺岡 前身となるアルケミストプログラムが本当に素晴らしかったので、今回もロフトワークさん、unworkshopさんとぜひご一緒したいと思っていましたし、「さらに進化させたい」という思いもありました。アルケミストプログラムでは、「活動を披露する」のは同世代の子どもたちに向けてでしたよね。でも、今回の舞台はコワーキングスペース。だからこそ、「子どもたちの活動を大人の方々にも共有したい」と考えたんです。

株式会社unworkshop 代表 / プログラムディレクター 鈴木順平さん(以下、鈴木) とはいえ、「子ども“なのに”すごいでしょ」と下駄を履かせるつもりは、一切ありませんでした。このプログラムは「子ども向けの教育」でもなければ「習い事」でもない。我々のような、公教育ではないオルタナティブな場にとって、“社会との接続”こそ大きな役割だと考えています。
そこで「Made in Innocence」という企画を立ち上げ、オフィスの一角に子どもたちの成果を展示したり、大人たちと共創の可能性を探るミートアップの場を設けたりしました。
星 鈴木さんは、アルケミストプログラムでもディレクターとして関わっておられましたが、今回は以前にも増して振り返りの時間を大切にされていた印象があります。どのような意図があったのでしょうか。
鈴木 このプログラムの強みは、「時間をかけて子どもたち一人ひとりとじっくり対話する」ことです。それを通じてしか見えてこないものがありますし、 一人の人間として向き合うことで、彼らのユニークな個性や感性を最大限に引き出すことができる。そんな非効率からしか得られない価値があると信じていました。
寺岡 今回のプログラム設計では、ロフトワークさんから「Unlockを“共鳴”させよう」というキーワードをご提案いただきました。誰かがUnlockする様を見て、他の子もUnlockされる——。この連鎖を生むには、あえて人数を絞り、目が届く範囲で取り組む必要がありました。規模を小さくしたからこそ、子どもたち同士が共鳴しあえる空間になったし、一人ひとりが限界を突破して、高い次元での成果を出せる環境が整ったと感じています。
Unlock PROGRAMが教えてくれた「他者へのリスペクト」と「協働の楽しさ」
真似するのは悪いこと? “他者との比較”をしなければ、本当の自分には出逢えない

星 どんなときに子どもたちの成長を感じましたか? 子どもたちがUnlockした瞬間のエピソードを教えてください。
鈴木 保護者の方から「“あの子のここがすごかった”と家で話すようになった」と聞いたときですね。他者をリスペクトできる心が育まれている証ですから。学校教育では“オンリーワン”が重視されますし、「真似をするのは良くない」という風潮もありますよね。だから、ものづくりが好きな子ほど、“オリジナリティ”にこだわりがちです。
けれど、本当は“他者との比較”でしか、自分の特性は見えてきません。もちろん、それは劣等感を感じて自己肯定感を下げるためではない。「比較から見えた差を、どう埋めて、いかに戦うか」を前向きに考えるためです。
それに、ものづくりはひとりで完結しません。大人の世界でも、社内外の人とチームで協働しているはずです。なのでUnlock PROGRAMでは、他の子がつくった3Dプリンターのデータをもらって、真似する機会を強制的に設けています。自分がつくったものとの違いを意識せざるを得ませんから。それに、中間審査では、「他の子の良い点や真似したい点」を具体的に挙げて、次は必ずそれを実践するよう求めます。
他者と比較するからこそ、自分の「好き・嫌い」「得意・不得意」が浮かび上がり、論理的かつ戦略的に物事を進められるようになるのです。
寺岡 それができたのも、私たちが学校教育をリスペクトしたうえで「企業だからこそできること」を模索してきた結果だと思います。
星 寺岡さんの印象に残っている子はいますか?
寺岡 HARUくんですね。彼はもともとペン回しが好きで、最初はひとりで完結して満足していたんですよね。
鈴木 そうそう。彼はアルケミストプログラムの頃からいたのですが、最初はあまりやる気も感じられなくて、「とくにやりたいことない」という感じで。
寺岡 だけどあるとき、ワークショップを主催したことで、人に教える楽しさを知ったんですよね。
鈴木 「主張する」「主催する」「表現する」といった力を手に入れたことで、彼のマインドセットが大きく変わったようです。それからは、ペン回しチャンピオンに自分から会いに行ったり、学校で「ペン回し係」を立ち上げて仲間を集め始めたりして、著しい成長を見せてくれました。「自分の好きなことで仲間が増えたのが、何よりも楽しい」と言っていましたね。
寺岡 なぜ“係”だったのかは謎ですが(笑)そうやってUnlock PROGRAMの外に飛び出して、学校でも共鳴させることができたという話を聞けて、とてもうれしかったです。
星 そうした子どもたちのUnlockから刺激を受けて、パナソニックのみなさんにも何か良い影響があったのでは?
寺岡 そうですね。α世代の子どもたちの“好き”や“夢中”と向き合う中で、私たちの使命である「物と⼼が共に豊かな理想の社会の実現」に立ち返り、「私たちは未来をつくるために働いているんだ」というアイデンティティを強く意識することができました。
鈴木 年齢は記号に過ぎませんからね。「教育は子どもに“施すもの”ではなく、互いにリスペクトを持って“ともにつくるもの”だ」と改めて感じています
星 本当にそうですね。私たち大人が子どもたちから受けた影響は、計り知れないと感じます。

“好き”や“夢中”でみんながつながる異年齢の集団形成を目指して——。
子どもたちの成長を見届けるために大切なこと。これからのオルタナティブ教育のあり方とは?
星 Unlock PROGRAMは、単なる次世代支援の域を超え、子どもと大人が対等に向き合う新たな共創のカタチを見せてくれたと思います。寺岡さんは、今後どのような発展を期待しますか?
寺岡 そうですね。だんだん年齢層が広がってきていると感じるので、このまま自然と「“好き”や“夢中”でつながる異年齢の集団」になっていけたらいいなと思いますね。それを弊社だけでなく、このような取り組みに“共鳴”してくれる複数の企業と連携して、みんなで支えていける体制を築けたらうれしいです。
星 鈴木さんのunworkshopでは新しいFabスペースを設計中だと伺いました。どのような場になる予定ですか?
鈴木 3Dプリンターやレーザーカッターなどを備えた工房兼R&Dスタジオのような場を計画しています。そこで来年度からもUnlock PROGRAMに近いプログラムを実施して、子どもたち一人ひとりの人生を、長編物語のように、しっかりと見届けたいんです。
とはいえ、そんな非効率な教育を継続するには、お金が回る仕組みをつくって、事業として真っ当に成立することが不可欠です。そこで、子どもたちのプロジェクト成果を外向けにパッケージングして、商業施設で実施したり、子どもたちの探求(R&D)活動で生まれたライツやノウハウ、見出された彼らのパーソナルバリューを、unworkshopの企画に転化するなど、回転率を重視しないプログラムによって“稼げなかった”ところを、補填できるようなビジネスモデルをつくろうと模索しているのです。
加えて、子どもだけではなく、大人が悪ふざけや悪だくみを楽しめる探求(R&D)の場もつくり、相乗効果を狙いたい。まさに寺岡さんのいう「“好き”や“夢中”でつながる異年齢の集団」の中で、子どもと大人が交差して、面白い化学反応が起きると思うんですよね。「ヤバい」と言われるようなプロジェクトをどんどん生み出して、子どもも大人もみんながハッピーになるような仕組みづくりを、教育という手段で実現していけたらと考えています。
星 いいですね! Unlock PROGRAMが形を変えて続いていくのは、とてもうれしいです。ロフトワークとしても今後こうしたプログラムを他の場所でも展開できればと思っていますので、今回見えてきた“子どもと大人の新しい共創のカタチ”をみなさんと一緒にぜひこれからも追求していきたいです。
※本記事は「Unlock PROGRAM&DAY」活動報告冊子より、内容を一部再構成した上で転載しています。
執筆:野本 纏花
編集ディレクション:星 安澄(株式会社ロフトワーク)
撮影:村上 大輔







