MVMNTが起こすムーブメントの広がり。
バンコク・MAB25での『[UN]REAL ESTATE』展示の裏側
「コンセプトに手触りを与え、世界線を具現化する」
現代社会の延長線上にある「ありうるかもしれない世界線」を提示し、未知のムーブメントを仕掛けるロフトワークのスペキュラティヴ・デザインユニット「MVMNT(ムーブメント)」。
2025年10月、アートとカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」において、展示した空間インスタレーション『TOKYO [UN]REAL ESTATE』でも、その根底に流れていたのはこのアプローチでした。
『TOKYO [UN]REAL ESTATE』は、都市に暮らす人々の「ありのままの日常」を3Dスキャンで記録し、その空間データを新たなデジタル資産(=“[不]不動産”)として展開するプロジェクトです。デジタル時代における“架空の不動産屋”というコンセプトに「手触り」を与えたことで、この試みはアート展示の枠を飛び越え、一つの展示が次の展開を呼ぶという繋がりを生み出してきました。
そして、プロジェクトは海を渡り、2025年11月にタイ・バンコクで開催された「Media Architecture Biennale 2025 (MAB25)」に参画し、『TOKYO [UN]REAL ESTATE』の展示とワークショップの開催、カンファレンスへの登壇を行いました。
実はタイでの展開も、2025年の2月に渋谷のシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]で開催した展示をFabCafe Bangkokの共同設立者であり、MAB25の実行委員会メンバーであるKalaya Kovidvisith氏がたまたま訪れたという予期せぬ出会いから発展したものです。そして、このプロジェクトは、FabCafeのグローバルなネットワークを介して、バンコクのローカルなクリエイティブコミュニティ(クリエイターや大学など)と接続することで、想像以上の広がりを見せました。
本記事では、バンコクでの展示の裏側を振り返りながら、一つのアイデアから「未知のムーブメント」を広げていくための3つの力を紐解きます。
MEDIA ARCHITECTURE BIENNALE (MAB25) について
「Media Architecture Biennale (MAB)」は、建築、都市計画、デジタルメディア、テクノロジーの交差点を探求する国際的なカンファレンス・展示会です。世界中から建築家、アーティスト、デザイナーをはじめ、都市デザインの有識者、産業界や行政、さらにはコミュニティ活動家が一堂に会し、都市という環境におけるメディアのデザインと役割、そしてそれがコミュニティやエコシステムにどのような影響を与えるかを探求する場として機能しています。
2025年の開催地は、タイの首都バンコク。「Urban Dialogue(都市の対話)」というテーマのもと、文化的コミュニティ、都市、そしてメディアテクノロジーの進化する関係性を紐解くプログラムが展開されました。期間中、展示やカンファレンス、ワークショップなどのさまざまな企画に1万5,000人以上が参加しました。
MVMNTは今回、メインプログラムの一環としてタイの現代アートの拠点であるBACC(バンコク芸術文化センター)にて『[UN]REAL ESTATE』のインスタレーションを展示しました。さらに、BACCの講堂で行われたカンファレンスにも登壇。世界中から集まった参加者に向けて、プロジェクトの背後にある文化的・経済的な意義や、活動理念を広く共有する機会となりました。

アイデアにカタチを与え、共鳴者を生み出す力
ムーブメントを広げるための第一の力は、頭の中にあるアイデアやビジョンに「形」「場所」「文脈」を与え、多様なクリエイターが関与できるプラットフォームとして機能させることです。優れたアイデアであっても、頭の中に留まっているだけでは決して社会を動かしません。
今回のバンコクでの実践において、私たちは単に東京で完成した展示パッケージを持ち込むことをせず、展示に先駆けて、2025年11月8日と15日の2日間にわたり、現地の参加者に向けた「URBAN Dialogue ワークショップ」を実施しました 。

FabCafe Bangkokを拠点としたこのワークショップでは 、参加者自身がスマートフォンやタブレットを手に、歴史あるタラートノイ地区へと繰り出しました 。街角のオブジェクトや何気ない日常の風景、都市の営みに埋め込まれた文化的な痕跡を、自らの手で3Dスキャンして記録していきました 。さらに2日目には、収集したスキャンデータをプラットフォーム「VIVERSE」にインポートし 、参加者同士で一つのメタバース空間を共同構築しました 。

最新のテクノロジーをただ「見せる」のではなく、「自分たちの街を記録し、新たな空間を創り出す」という具体的な体験としてカタチを与えたこと。これにより、参加者一人ひとりの創造的なエネルギーが引き出されました。彼らは、提供されたものを消費するだけの「観客」から、「共鳴者」としてプロジェクトを共に創り上げる存在となっていきます。
この「プロセスを共有する」というアプローチこそが、アイデアを広範なコミュニティへと力強く伝播させる、ムーブメントの原動力となります。
ローカルとグローバルを繋ぐネットワークという「結節点」
ムーブメントを地域や文化の境界を越えて展開するための第二の力は、グローバルかつローカルな基盤となる「FabCafe」のネットワークです。
FabCafeは、国内だけでなく世界13拠点に広がるグローバルコミュニティです。デジタルファブリケーションを活動のオリジンとしながら、さまざまなテクノロジーを巻き込み、それぞれの街でイノベーターやクリエイターのコミュニティを形成しています。それぞれの拠点が異なる文化や環境に根ざしながら、「シェア」と「オープンネス(ひらくこと)」の精神を共有し、新しいアイデアや技術を交換する場として機能しています。このネットワークは、国境を越えてムーブメントを広げていくための「結節点(ハブ)」の役割を果たします。
今回のバンコクでの展開において、私たちのアイデアはFabCafe Bangkokをハブとすることで、現地のローカルコミュニティと接続されました 。例えば、展示に先駆けて開催されたパブリックトーク「FAB MEETUP」では、多様な文脈を持つプレイヤーが交差しました 。
最先端の産業技術、学術的なアプローチ、そして未来のビジョンが1つの場でぶつかり合うことで、単一の場所では決して生まれ得ない、複雑で豊かな創造性が育まれました 。
FabCafeという「ひらかれた場」を介して、「点」のアイデアがローカルの文化や資源と結びつき、「面」のコミュニティへと広がっていく。この強固なネットワークとコラボレーションこそが、未知の世界を探索し、ムーブメントをグローバルに拡大していくための最大のエンジンとなっているのです。

非言語で伝わる「世界共通のメディウム」
ムーブメントを国境を越えて広げるための第三の力は、言語の壁を越えて直感的に伝わる「メディウム(媒体)」の強さです。
BACC(バンコク芸術文化センター)で6日間に渡って開催された展示には、多様な国籍の来場者が訪れました 。ここで実感したのは、「個人の住空間」という世界中の誰もが持つ普遍的なメディウムの力です。
「住環境を3Dスキャンし、デジタル資産としてクリエイターに貸し出す架空の不動産」というコンセプトは、複雑な言葉による説明がなくとも、来場者に直感的に受け入れられました 。会場では、スキャンデータから派生したゲームやマンガ、XRといったクリエイティブ作品も公開され、言語を問わず多くの人々がその世界観に没入していました 。
『[UN]REAL ESTATE』が集めた部屋のひとつひとつには、その都市の文化、歴史、個人の生きた証が刻まれています。”ありのままの暮らし”そのものをメディウムとして捉え直すことで、部屋という最小単位の空間を起点に、都市全体に広がる文化や生活の多様性、変容を読み解きます。
歴史的な遺産だけでなく、今の文化的生活をアーカイブする現代の「考現学(modernology)」としての3Dスキャン。東京、そしてバンコク──異なる都市の暮らしを記録し、比較し、再解釈することで、都市と個人をめぐる無数の対話を引き出し、メディアテクノロジーと都市の関係性を探る新たな「Urban Dialogue」を描き出していきました。
世界共通の「普遍性」と、そこに置かれたモノが語る文化の「多様性」。この2つを同時に内包したアプローチこそが、文化の壁を越えて人々の心を動かす鍵となりました。

Let's Start a MVMNT —— 未知のムーブメントを共に
デレク・シヴァーズの有名なTEDプレゼンテーション「How to start a movement(ムーブメントの起こし方)」では、「最初のフォロワー」の存在がいかに重要かが語られています。たった一人の突飛な行動も、それに共感し、一緒に踊り出す最初のフォロワーが現れることで、初めて世界を巻き込む「ムーブメント」へと変わるのです。
今回のバンコクでの広がりも、まさにこのプロセスを辿りました。私たちが持ち込んだ「架空の不動産屋」という少し奇妙なアイデアに対し、FabCafeのネットワークを介して出会った現地のクリエイターやコミュニティが、熱量を持った「最初のフォロワー(共鳴者)」となってくれたこと。それが、プロジェクトを国境を越えた大きなうねりへと変えてくれました。
MVMNT、そしてロフトワークが活動の基盤として大切にしているのは「OPENNESS(ひらくこと)」です。アイデアを自らの中に閉じ込めず、ひらかれた場に投げ入れ、グローバルなネットワークとローカルな熱量を接続すること。そうすることで、単一の組織では到底たどり着けない、未知の世界線を具現化することができます。
私たちはこれからも、アートとテクノロジーの境界を越え、共に新しい価値を生み出していくパートナーを探しています。グローバルなネットワークを活用し、未知なるムーブメントを一緒に作り上げませんか?
この連鎖の次なる「共鳴者」からのご連絡を、いつでもお待ちしています。
執筆:瀬賀 未久(MVMNT)
MVMNT
「20XX年の伝説を創造する」をビジョンに、未知のムーブメント=現代社会に新たな世界線を生み出すスペキュラティブアートの専門ユニットです。アートドリブンで思想性・社会性のあるコンテンツをプロトタイピング。現代社会に新たな世界線を表出し、コミュニティの力でXS~XXXLまで創造的な運動を起こすことを目指します。 2024年度、シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]のアーティストフェローに選出。
TOKYO [UN]REAL ESTATE
TOKYO [UN]REAL ESTATEは、都市に暮らす人々の「ありのままの暮らし」を3Dスキャンで記録・保存し、その空間データを新たな“[不]不動産”として展開するアートプロジェクトです。
収集した3Dデータは、ゲームやマンガ、アニメーション、映像、VR作品などに活用され、クリエイターたちの創造力によって新たな意味や物語が重ねられ、新たな世界線へと広がっていくことを目指しています。
TOKYO [UN]REAL ESTATE 特設Webサイト
※TOKYO [UN]REAL ESTATEはシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]の2024年度アート・インキュベーション・プログラムのアーティスト・フェロー活動の一環として制作されました。







