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越本 春香 2023.05.08

「作って、壊して、また作る」工作素材の探求。
子どもと一緒に始める手触り感あるサーキュラー

LAYOUT事業部の越本です。現在は、ロフトワークが運営を行っているパナソニックのクリエイティブミュージアム「AkeruE」で総合ディレクターとして、年間計画から予算管理、人材育成、企画立案、展示整備など多岐にわたる仕事をしています。ひとことで言えば館長のような存在です。

突然ですが、もし「1万円あげるから、欲しいもの何でも買って良いよ」と言われたら、買いたいものが思い浮かびますか?意外にパッと答えられない方が多いのではないでしょうか。それは今の子どもたちも同じです。昔は玩具や食べ物などカタチのあるものをあげる子が多かった気もしますが、最近ではゲームソフトなどのコンテンツになることが多いなと感じています。

モノがあふれた世の中で、必要なものがすぐ簡単に手に入ることが当たり前の時代。生まれた時からそんな環境で育った若い世代は、これからの地球環境やサーキュラーエコノミーなどの考えをどう感じているのでしょう。

AkeruEでは、先の見えない時代でも突破口を切り開く力をつけてほしいという思いから、子どもたちにサーキュラーエコノミーの考え方や視点を、自然に学び実践してもらえる仕掛けをしています。実際にAkeruEで行われている取り組み、そして子どもたちに感じて学んでほしい視点をご紹介します。

越本 春香

Author越本 春香(Layout シニアディレクター)

大学卒業後、広告代理店のプランナーを経て、2012年ロフトワークに入社。クリエイティブディレクターとしてWebサイトの上流設計や、ワークショップ・イベント運営も手がける。産休後はLayout Unitにて「100BANCH」や「SHIBUYA QWS」など共創施設の事業とコミュニティの立ち上げからPR・ブランディング活動を担当。現在は企画構築から運営まで担う「AkeruE」の総合ディレクター。AkeruEプロジェクトは「日本空間デザイン賞」銅賞、「ディスプレイ産業賞」奨励賞、「iF Design Award」、「キッズデザイン賞」子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門を受賞。普段は子どもを送り出した後、木更津(千葉)から高速バスに乗りアクアラインで海を渡って出社しているのでエクストリーム出勤と言われている。

Profile

AkeruEについて

社会はますます予測不可能になり、変化のスピードが速く、さまざまな事象が複雑に関係しあうようになっています。そんな時代を生き、この先の未来を築いていく子どもたちにとって、大切なことはなにか——同じ未来を創っていく企業市民として、わたしたちにできることをパナソニックのメンバーと一緒に考えて開設したのが「AkeruE」です。

年間16万人の方に体験を提供しているAkeruEは、子どもたちがつくりたいものをつくり、遊ぶように学ぶことを尊重するクリエイティブミュージアムです。一方的な展示学習に留まらず、実際に自分でモノやコトをつくってみる経験の提供を重視しています。そこから得られる発見は、子どもたちが身の回りのことに知的好奇心を持ち、自信をもって活動するきっかけになる、そしてその発見を少しずつ積み重ねることが、この社会を”生きる力”になり、ポジティブに行動を起こす力につながっていくと考えています。
ロフトワークが関わるAkeruEの活動

編集:鈴木真理子

視点は限りなく柔軟に

AkeruEではものづくりへの第一歩として、見たことのないものに出会った時の好奇心を大切にしています。それはアーティストの作った完成品だけではなく、工作するための素材でもあります。扱う材料の多くは、空の容器や段ボールなど、普段の生活で使わなくなってしまったものや、廃棄されてしまうものをベースにしています。

一見不要に見えるものも”材料になる”という視点を持つことで、普段の生活から材料を生み出すこと、さらに「こんなに使えるものを捨てていたんだ」ということに気づき、ものを大切にする気持ちが芽生えることが重要だと考えています。

商品ではなく「素材」の形で出会う

COSMOSというものづくりをするコーナーでは、ビュッフェ形式で好きな素材を選んで工作をすることができます。そこでは、AkeruEでしか出会えない素材も用意しています。その中でも特にユニークなのが、AkeruEに集まるメーカーさんが提供してくれている素材です。さまざまな形状のゴムや、大きな金属の塊。普段見たことのない形の穴になっている特殊なネジや、バラエティー豊かな色や形のボタンやリボン、ファスナーなどを提供いただいています。

そのまま再度販売することもできるくらい立派な製品も含まれていますが、事情があって販売できなくなってしまったものが、この場を通して子どもたちのアイデアで「その素材がどんな形に変化するのか?」に興味だけではなく夢を持っていただき、活動を応援してくれています。

手前側:松山工業の鵜久森さん、奥側:左から ロフトワーク越本、高橋商店の高橋さん、クロップオザキの野崎さんと大平さん、サイマコーポレーションの角田さんと加瀬さん、乙女電芸部の矢島さん。

建材メーカーのサンゲツさんではこれまで毎年100万冊以上の見本帳を制作しています。入れ替えの時期に大量廃棄していることを知り、AkeruEの構築を担当してくれた乃村工藝社さんが紹介してくれました。廃棄の過程で可燃・プラスチック等の分別作業を行っており、細かく分解されたパーツは子どもたちがとても扱いやすいサイズだったことも、継続的に供給関係を繋げられる大切なポイントでした。

作って終わりではなく、また素材に戻す

子どもたちはAkeruEでつくった作品を自宅に持って帰ることができます。持ち帰らずにステージ上に展示しておくことでたくさんの人にみてもらうことも可能です。展示された作品は一定期間を過ぎるとステージ上の作品を入れ替えます。展示しなくなった作品は解体され、また一つ一つの素材に戻っていきます。作業はAkeruEで働くクルーが行っていますが、分解するのはとても大変な作業です。(素敵な作品を壊すのは精神的に辛い部分もあります)

普段使われていない素材が作品になることで新たな可能性を生み出し、また素材に戻り次の可能性につながっていくというサイクルがAkeruEのサーキュラーな取り組みへの第一歩です。こういった活動と体験を通して”ゴミ”と言う概念がなくなったら良いなと思っています。

モノがあふれた世の中で、子どもたちの変化

AkeruEでの体験後の変化としては、自宅にある使わなくなった空の容器を工作素材として次の来館時に持ってきてくれる子がいたり、保護者の方からは「自分の家でもこんなに使えるものをゴミとして捨てていたんだね。」という会話ができたというお話をいただくこともありました。

また、パナソニックセンターの展示の中で、余ってしまったものを「これ何かに使えないかな?」と相談いただくこともあり、常に素材を活用するアイデアが試されています。

一過性のムーブメントに留めず、この活動をいかに継続させていけるか。アイデアの掛け合わせによりクリエイティブに課題を解決していく方法を、子どもも大人も一緒になって探求していきます。

Keywords

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対話を重ねる、外の世界に触れる。
空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡