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小檜山 諒 2021.08.31

行動科学とデザイン、学び続けて2年半経ちました。

クリエイティブディレクターの小檜山です。
「行動科学や行動経済学×デザイン」を学びはじめて約2年半ほど経ちました。読んだ関連記事は150以上。見つけた事例は60、フレームワークは10個ほど、関連本は25冊以上。

行動科学は、人間の行動を科学的に研究し、その法則性を解明する学問。また行動経済学は、人間の行動は感情や心理に左右され、必ずしも合理的ではないという前提のもと、社会の中で人間がどう行動するかを観察し、分析する経済学です。

このコラムでは、「行動科学や行動経済学×デザイン」を学んでいくなかで集めた、人の習性や思考のクセを、スキとキライで分類してみました(学術的な分類や表現については正確ではありません……。普通に生活していてスキ・キライの感覚に「納得できるか」を基準にまとまっています)。

普段何気なく目にしているけれど、気づかないことが多いこれらのスキとキライを、改めて意識してみると、仕事でも生活でもみえてくるものがあるかもしれません。

*本記事は、小檜山のnoteを編集して転載しています。
小檜山のnoteオリジナル記事はこちらをどうぞ。

小檜山 諒

Author小檜山 諒(クリエイティブディレクター)

非営利団体にてソフトウェア販売事業を担当し販売データの分析を通して事業実績に貢献する。地方の現実を知るため、沖縄に移住するタイミングでライフスタイルホテルの立ち上げからPR、一貫したブランディングを行う。その後、国際感覚を身につけるべく、フリーライターとして欧州で活動。多くの起業家、デザイナー、アーティストに単独取材を行ううち、「正しい答えよりも、正しい問いが必要」と感じ、常に問いを設計し実証を重ねることでサービスの質を高めるUXリサーチの分野へ。自動運転から音声UIまで幅広く手がける。2018年ロフトワーク入社。冬でも毎週末海に出かけるサーファー。

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まずは、人がスキなものをご紹介します。

1. 人は、そこそこ選びやすくて満足できる選択肢がスキ

脳は常に省エネを考えています。とにかく考えたくない。なにか新しく問題に当たると考える必要が出てくるためすぐに「分かった」状態を作りたくなります。

そこで自分の経験則や知識を「いい感じ」にミックスさせて答えを出しておくことで、脳自身はそれ以上考える必要がなくなります。

情報や感情に圧倒されたとき、人間は一番簡単でわかりやすい解決策を自然と選ぶ。サティスファイシングを行う場面は無数にあり、デジタルインターフェースとのやりとりもそこに含まれる。

ものすごくごちゃついたページを目にして、そのページを離れ、安心確実な好みのページへ移動する人もいるだろう。商品の選択肢、あるいは州の予備選挙の候補を無数に提示され、細かな部分を検討するのが面倒くさくなり、一番目立って見える物や人を選ぶこともあるかもしれない。

ストレスがたまっていたり、よく探す時間がなかったりして、割高な商品をパッと買ってしまうケースもある。

引用:脳の仕組みとユーザー体験

わたしたちの毎日の行動は、目的のある動因や選択ではなく、もっとも目につく選択肢によって決められている。

引用:複利で伸びる1つの習慣

 

脳の立場に立ってみると毎秒ものすごい量の情報が感覚器からやって来るので、脳は「予め答えを用意しておく」ことも身につけています。

予測符号化理論と呼ばれるものです。

予測符号化とは,環境から感覚器を通してボトムアップに入力される信号と,脳が過去の経験や知識,また他の感覚からの信号をもとに,内部モデルを通してトップダウンに予測する信号の誤差を最小化するように,情報処理を行う仕組みである。

引用:東京大学 認知発達ロボティクス研究室

まず脳が独自の仮想現実を作り出し、感覚器官から来た現実の情報との誤差を調整して、人は世界を認識しているということです。誤差が少ない場合は調整すらしません(もちろん個人差あります。職人や専門家が素人が気づかないような違いを判別できるなど、その人の内部モデルがあくまで基準です)。

つまり、現実世界をいちいち認識しているのではなく、脳内で作り上げた現実との誤差を修正しながら人間は日々生きているということになります。

2. 人は、カンタンなことがスキ

ちょっとでも難しいな、面倒だなと感じると行動を躊躇します。これは前述した「考えることを最小化する」脳の働きがあるためでしょう。

たとえばAmazonの「今すぐ買うボタン」のカンタンさです。

支払い情報や住所、配送日などを気にせず購入できます。最近は他のECサイトでも「ゲストとして購入」があり、会員登録の手間を省いています。会員になれば次回以降は住所や連絡先、支払情報が自動で入力され、より購買体験がカンタンになります。

実際にカンタンであるかはとても大切ですが、カンタンそうに見えるor 感じることも同時に大切です。

「パッと見て難しくなさそうだから、やってみようかな?」と思って行動したことが皆さんにもあると思います。

Source:Youtube

これはIKEAが展開したキャンペーンの1つです。特製オーブンシートの上に決められた材料を置くだけで誰でもカンタンにレシピ通りに料理ができます。料理初心者の方がこれを見たら実際の調理は手間も時間もかかりますが、少なくともカンタンそうに感じるでしょう。

カンタンさはモチベーションに勝ります。モチベーションを上げる解決策はたいてい時間とお金がかかる場合が多いです。それよりはプロセスの一部をなくす、もしくはサービス側が肩代わりする方が良いでしょう。

行動の実行は、やはりユーザーにとってとても負担がかかることだ。(中略)ユーザーの厄介な問題を、はるかに単純なものに置き換える。そのときユーザーは、プロダクトに行動を肩代わりしてもらうかどうかを決めるだけでいい

引用:行動を変えるデザイン

これはチート戦略と呼ばれています。たとえば、選択肢の1つをデフォルトにしてしまう、今すでに行っている行動に相乗りさせる(Suicaのオートチャージ機能など)こともその1つです。

では、どんな風にカンタンにすればいいのか。カンタンさの5つのポイントがあります。

・時間をかけない
・お金をかけない
・身体的努力をかけない
・精神的努力をかけない
・習慣化されていることに相乗りする

逆に望ましくない行動は難しくする(ユーザーとサービスの摩擦を増やす)ことも可能です。TikTokやTwitterではフェイクニュースの拡散を防ぐためにシェアする際に警告を出すことをしています。

3. 人は、なんでも自分で決めるのがスキ

「宿題やりなさい」と言われるとなんだか急に(余計に)やりたくなくなる。これは親が子供のコントロール感を奪っているからです。

他人の行動を変えたければ、コントロール感を与えるべきだ。主体性を奪われたら、人は怒り、失望し、抵抗するだろう。社会に影響を与えることができるという感覚が、意欲や順守率を高めるのだ。

引用:事実はなぜ人の意見を変えられないのか?

子供ですら嫌がるのですから、大人はもっと嫌がりますね。心理的リアクタンスと呼ばれるもので「天の邪鬼な心」を誰しもが持っています。

人間にも「他人による説得」から自分を守るレーダー が装備されているのだ。 人間には、人の影響を受けたくない、自分の自由意志で決めたいという本能がある。

私たちはつねにこのレーダーで周囲の環境をスキャンし、自分に影響を与えようとする存在を警戒している。そしてレーダーが敵を探知すると、あらかじめ用意されている対抗策をくり出すのだ。

引用:THE CATALYST

たとえば、もしユーザー名やプロフィール画像を自由に決めれなかったらどうでしょうか? WEBサイトやアプリに「戻る」方法がなかったら? 追加料金を払ってもいいのに船便しか配送方法がなかったら? 認知負荷が高くない限り、人は選択肢があることを好みます。選べること自体が快感なのです。

ここで注意したいのは、あくまでも自分で決めていると「感じること」です。AIに勝手にスマホプランを決められたり、回転寿司で流れてくるものしか食べれなかったりしたら、契約もしないしリピートはしないでしょう(寿司屋の大将のおまかせコースですら、それを選んでいます)。

最終的な判断(ギガ放題プランにする、大トロにする)は決して強制せずに「どうするかはあなたの自由です」とすると心理的リアクタンスを回避できる可能性が高まります。

4. 人は、自分に都合がいい情報がスキ

確証バイアス(自分にとって都合の良い情報や意見を取り入れ、それ以外は排除してしまう働き)が影響しており、詐欺や新興宗教などはこのバイアスを非常に上手く使っています。

「自分の中にある信念と関係のある証拠を吟味するとき、人は見たいものだけを見て、出したい結論を出す傾向がある。期待通りの結果を見たとき、私たちは自分に『これを信じることはできるだろうか?』と尋ねる。

しかし、気に入らない結果を見たときは、『これを信じなければならないのか?』と尋ねるのだ。

引用:THE CATALYST

なぜ、人は信じたいことを信じてしまうのか?  これは認知的不協和を解消するためだと考えられます。認知的不協和はアメリカの心理学者フェスティンガーが提唱した理論で、かなりわかりやすく一言でいうと「自分の認知と現実が矛盾したときに感じる不快感」です。

人は、見たいものを見て、聞きたいことを聞いている。正しさよりも「信じやすさ」を優先してしまいます。

 

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ここからは人が嫌いなことをまとめます。

5. 人は、不確実なことが嫌い

少しでも不確実なこと、不安なことがあると人は行動を止めます。僕の推論ですが大昔、人がまだ狩猟を生活の中心においていたころ、数メートル先で草むらが揺れたとしたら、一旦は動かず様子を見ていたと思います(逆に我々の祖先が積極的に草むらへ向かったら、今人類は存在していないかもしれません)。

結果がわからない状態は、マイナスの結果が起こると決まっている状態よりもさらに忌避される。ミーティングに遅刻するのが確実な状況は、たしかに気分がいいものではない。しかし、遅刻するかどうかわからない状況のほうが、それよりさらにネガティブなものとして捉える。(中略)

引用:THE CATALYST

こんな小話があります。イギリスの鉄道では列車がダイヤ通り運行せず乗客からの苦情が殺到していました。そこで列車があと何分で来るか電光掲示板に表示したところ劇的に苦情が減ったそう。

ちなみに本当かどうか分かりませんが、この提案をした人物は役員へのプレゼンにわざと遅刻し、役員がカンカンに怒っているタイミングでゆったり入室。「これが皆さんの鉄道運行です」と伝えたそうです……。度胸ありすぎだろ。

もう少し現代的な例だと最近ではUberのみならず他のタクシーアプリにもある機能。あと何分で迎えに来るのかおよその時間がわかるものです。Uber Eatsにもありますね。

人は分からないものや不確実なものを嫌う傾向があります。車がいつ来るのか? 今どこにいるのか? どんな車なのか?など待ち時間以外にも情報を教えてくれます。

Amazonのチェックアウト画面を思い出してください。支払い方法や合計料金、届け先、配送方法と日時、ギフトカードやポイント使用の有無など詳細な情報が表示されていませんか? さらにその情報を変更することもできます。

購入に関わる不安や不確実性をなくすためにたとえ情報量が多くなったとしても、きちんとユーザーに伝えようとしていることが分かります。

さらに、Kindleストアでは本の試し読みが可能です。無料で一部公開されている部分を読むことが出来ます。本屋の立ち読みと一緒ですが、試せることで「買うまで内容が分からない」不確実性を低減できます。不確実=ネガティブと捉えると、ネガティビティバイアスも関与して来ます。これはポジティブなものより、ネガティブなものにより注意を向け、関心を抱き、記憶に残る認知バイアスです。

心理学者のバーバラ・L・フレドリクソン氏が提唱する3:1の法則では、ネガティブな感情を上回るには3つのポジティブな感情が必要だと言われています。つまり、メリットやベネフィットをどれだけ伝えてもたった1つの不確実性が原因で人は動いてくれないことがあります。「どうしたら人はその行動をしてくれるか?」を考える前に「どうして人はその行動をしていないのか?」を考える方が良いのかもしれません。

6.人は、失うことが嫌い

損失回避(失う痛み)

人は得ることよりも、失うことを回避することを好む

およそ2倍、失うことのほうが効用があります。「5000円お得です!」よりも「5000円損します!」のほうが避けたいですよね。明日失効するポイントが1500ポイントあります」と言われると使わなきゃ!と思ってしまいます。

たとえば、Spotifyは退会時のフローで「失う痛み」を強調して退会をとどまるように訴えています。

・同じメールアドレスで再登録ができなくなること
・同じユーザー名を使うことができなくなること
・自作のプレイリスト・履歴・フォロワーなどが復元できなくなること

退会ではなく無料プランへのダウングレードすれば、プレイリストやフォロワーとの繋がりをキープできることを伝えています。

損失回避のウラには保有効果(IKEA効果)も背景にあります。

保有効果(IKEA効果)

保有しているor 保有していると感じているものを高く評価してしまうこと

上場間近のD2C企業Warby Pakerは5つまでメガネを自宅に届け、試着できることで有名です。試着しているだけなので、自分のモノではありません。しかし、家に置いてあり身につけるメガネであれば所有している感覚が生まれます。返品することは失う痛みに感じてしまうでしょう。

7. 人は、変化が嫌い

現状維持バイアス

提示された選択肢にメリットもデメリットもある場合、リスクを恐れ合理的な判断ができず、現状維持を好んでしまうこと。

わかりやすく言えば「前例踏襲」。明らかに格安SIMにしたほうがおトクなのに高額なスマホ料金を払っている人がいるなどが身近な例です。

特に変化が大きくなると不確実性が高まるのも伴って、行動を促すことが難しくなります。

現状が最高ではないが最低でもないとき、凡庸ではあるが悲惨ではないときは、たいていわざわざ変えるまでもないと思ってしまう。今の状態でもそこまで悪くはないからだ。

引用:THE CATALYST

今までの生活を今まで通りに続けたい。そんな気持ちが無意識下にあるのかもしれません。変化が起これば少なからず問題が起こり、それを解決するために脳はエネルギーを使う必要があります。

省エネマニアの脳にとっては避けて通りたいことです。新しいサービスに登録する、引っ越しする、転職や運動など普段していないことをするにはハードルがあるのです。

では、どうすれば変化を拒まずに行動をしてくれるのか?いくつか方法があります。

1つは「行動を起こさないことのリスク」を強調することです。イギリスのEU離脱を促進したブレグジット・バスが好例です。

そこでカミングスは、ヴォウト・リーヴ専用の大きな赤いバスを購入した。離脱派の政治家がそのバスに乗り、全国を回って有権者に訴える。バスの車体には、白い大きな文字で次のように書かれていた。 「イギリスからEUに払うお金は1週間に3億5000万ポンド。そのお金をNHS(国民保険サービス)に使おう」

やがて「ブレグジット・バス」と呼ばれるようになったこのバスは、ただ人々の注目を集めただけではない。行動しないことのコストを明らかにしたのだ。

引用:THE CATALYST

もう1つは、変化を小さくすることです。朝から活発に活動したいから10kmランニングするのではなく、玄関にランニングシューズを置く、ランニングウェアを枕元に置く、もしくはカラダを起こすために水を一杯寝起きに飲むでもいいかもしれません。

その人が変化を許容してもいいラインを探るために変化を小さくしてみましょう。小さい変化を受け入れられれば、次は中くらいの変化に対しても抵抗感が減ります。少なからず変化を受け入れた自分の行動が以前の自分の認識を変えているからです。

簡単に言えば、変化を起こすには、「 大事な一歩の台本を書く」ことが必要なのだ。

引用:スイッチ

参考書籍

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複雑な世界で未来をかたちづくるために。
いま、デザインリサーチに求められる「切実さ」を問い直す