FINDING 加藤 大雅, 小川 敦子 2021.08.23

経営と美意識—組織を調和させる言語化プロセスとマインドセット
[Creative Black Box]

組織と人を、より良い方向へディレクションする仕事とは?

クリエイティブプロジェクトにおいて「表側からは見えない、クリエイティブな仕事」を紐解く、ディレクター対談シリーズ「Creative Black Box」。今回のテーマは「経営と美意識」です。

クリエイティブディレクターの加藤大雅がナビゲーターとなり、「デザイン経営」において未だあまり語られていない「企業の美意識」の重要性と、その顕在化によって組織をデザインするためのアプローチを紹介します。

登場するのは、さまざまな企業のブランディングやデザイン経営導入を支援してきた、ロフトワーク 京都ブランチのアートディレクター 小川敦子。二人が語った内容を前後編にわたってお届けします。

前編では、企業における美意識を言語化し組織変革につなげる上で、いかに社員一人ひとりから「生きた言葉」を引き出し、組織全体の共通言語として編み直すのかを具体的に紹介しました。

後編となる本記事では、企業や人の「本質」を引き出し、言葉やビジュアルに落とし込むための視点とアプローチをさらに深く掘り下げます。さらに、「美意識は、人の生き方そのもの」と語る小川が、自らの美意識を高めるために訪れている場所もご紹介します。

企画・編集:加藤 大雅、岩崎 諒子(株式会社ロフトワーク)
執筆:佐々木 まゆ
写真:古徳 信一
イラスト:野中 聡紀

加藤 大雅(以下、加藤) /写真右。
ロフトワークのクリエイティブディレクター。本対談のナビゲーター。経営者と長期的に関わりながら、デザイン経営を企業内外に浸透させていくプロジェクトづくりを行っている。
>Profile

小川 敦子(以下、小川) /写真右。
ロフトワークのアートディレクター。京都ブランチにて主にブランディングを担当。これまでの様々なキャリアを活かし、デザインだけでなく経営も考慮したプロジェクトを手掛けている。
>Profile

ビジュアライズから着手しない理由

加藤 ここまで、インナーブランディングのための「言葉」をいかに紡ぐかについてお話しました。今度は「ビジュアライズ」について伺いたいです。

ブランディングをする際、ビジョンやミッションなどの言語化に併せてVI(ビジュアル・アイデンティティ)を制作することがありますよね。ビジュアライズを行う場合、どのタイミングで行うのが適切だと思いますか?

小川 コンセプトが明確に言語化された後だと思います。先にビジュアルから作ってしまうと、クライアントから「なにかが違う」と言われてしまうことが多いですよね。それは、デザインを判断する基準がない状態だからなんですよ。パッと見た印象や、個々人の感覚的な話に終始してしまう。

ビジュアルは目的を達成するために作るべきものですから、目的がはっきりしていない状況だと作れないと思います。

加藤 実際に、ビジュアライズを急いでうまくいかなかった経験はありますか?

小川 沖縄大学のプロジェクトで、VIとWebサイトのアートディレクションを担当したのですが、そのときに提案したVIがクライアントの納得感を得るのに、なかなか時間がかかりましたね。

コンセプト策定のための言語化とVI制作を並行して進めていたんですが、ディスカッションしてもVIの決め手が欠けてしまって。すでに緊急事態宣言が発令されていた時期でもあったので、すべてオンラインで完結しなくてはならず、コミュニケーション面でも苦戦していました。

加藤 プロジェクトとしては難局ですね。どうやって乗り越えたんですか?

小川 思い切ってやり方を変えたんです。言語化とビジュアル制作を並行させるのをやめました。そこからは、コンセプトの言語化に専念したんです。沖縄大学の方たちに、「自分と沖縄大学」「自分と沖縄」の物語を書いてもらい、ブレストを重ねていきました。

加藤 人それぞれ、慣れ親しんでいる言葉や愛着のある言葉がありますよね。それを「自分と〇〇」という形で引き出したんですね。

小川 書いていただいた文章から、私が一つずつコンセプトのエッセンスとなるような言葉を抽出して。それらの言葉を象徴するビジュアルを、デザインに落とし込んでいきました。やり方を変えてからは、クライアントとロフトワークのコミュニケーションそのものを醸成することができました。

結果として、新しいVIをクライアントがとても喜んでくださって。プロジェクトメンバーの納得感を得た上でデザイン設計が実現できたのが功を奏したんだと思います。

加藤 やはり、ブランディングでは、組織の一人ひとりが言葉を紡ぐプロセスが欠かせないですね。

プロジェクトで制作した沖縄大学のVI。「日本タイポグラフィ年鑑2021」入選。(デザイン:本田 篤司)
沖縄大学公式Webサイト。進路を考える17歳の高校生たちに向けた新コンテンツ「17歳へ。」も制作した。

「本質」を引っ張り出す仕事

加藤 小川さんは、ロフトワークの中で唯一「アートディレクター」という肩書きを持っていますよね。これまでどんな仕事をしてきたんですか?

小川 以前まではビジュアライズを中心にデザインの品質を高めながら、世界観そのものを構築する仕事が多かったのですが、ロフトワークに入ってからは、人や組織をデザインすることが増えています。

人や組織をデザインする仕事は、私にとってクリエイティブの究極形で。人や組織に直接働きかけ、変化を促すことにディレクションの醍醐味を感じます。

加藤 同じアートディレクションでも、「ビジュアルのディレクション」と、錦城護謨のブランディングのような「人・組織のディレクション」では、手法や考え方を変えていく必要があるんじゃないですか?

小川 それが、どちらも同じことをやっている感覚なんです。私にとってアートディレクションの軸は「人をどうデザインしていくのか」ということ。言い方を変えれば、その人の「本質」を引っ張り出す仕事です。

ビジュアルを中心としたアウトプットを作る場合は、一緒に仕事をするデザイナーのクリエイティビティを最大限発揮できるように働きかけます。彼らの「美意識の核」をどんどん刺激して、本人が本当に作りたいと思っているものを引き出すことに注力するんです。

その人がなにを考えているのかを静かに観察する。その上で相手と対話し、相互作用しあいながら作り上げていくことが、私のアートディレクターとしての役割です。

加藤 なるほど。ここでも、鍵となるのは「相互作用」なんですね。アウトプットの種類が違っても、そのプロセスや考え方は変わらない。

小川 私は「いいアウトプット」を作る以前に、「その人にしかできない表現」を引き出したいんですね。だから、私自身の思い込みや決めつけを一切捨てて、自分をニュートラルな状態にしてから相手と向き合います。

加藤 一方で、プロジェクトの中でクライアントの本心を引き出そうとすると、ともすれば拒否反応やコンフリクトが起こりそうですね。

小川 そうですね、コンフリクトは起きます。なので、起こった後のことをきちんとデザインする必要があります。

加藤 どのように乗り越えて、着地させるのか気になります。

小川 人との関係性において、どうしても分かりあえないことってありますよね。そんな時はわだかまりを排除せず、常に対話を重ねながら調和させることを念頭においています。

相手や自分の粗探しをするのではなく、共にどう乗り越えていくのかを設計する。そのために対話し、言葉を尽くす。互いに分かりあえていなかったポイントを見つけて、調和できるよう努めます。

加藤 小川さんのアートディレクターとしての姿勢には、常に「対話」があるんですね。

小川 本質を引き出すことは、相手にとって怖いことでもあるんですよ。自分の中にある「未知なる部分」があらわになって、そこに向き合わなければならないから。

でも、未知の自分を認知することは変化するきっかけにもなりうるんです。ディレクションの仕事を長くやってきたおかげか、人や事業、組織がどんなふうに変われば良い方向に行くのか、イメージできるようになりました。

大切なのは、自身の心と向き合う時間

加藤 小川さんとお話していると、仕事の中でも普段のコミュニケーションにおいても、非常に言葉を大切にしているなと感じます。言葉に対する姿勢や言葉遣いに影響を与えた人物や作品はありますか?

小川 岡倉天心の『茶の本』はバイブルで、何度も読み返しています。

『茶の本』は元々英語で書かれた本なのですが、岡倉天心はこの中で、西洋社会に向けて難解な「タオ*」の精神を紹介しています。彼はシンプルな言葉を使いながらタオの調和という世界観を豊かに伝えているので、難しさを微塵も感じさせない。私にとってこの本は、言葉の力を強く感じさせる一冊です。

*タオ:道教(Taoizm)における「道」の意。岡倉天心はタオの概念について、“宇宙変遷の精神、すなわち新しい形を生み出そうとして絶えずめぐり来る永遠の成長である。(中略)主観的に言えば宇宙の気であって、その絶対は相対的なものである”’(『茶の本』村岡博 訳)と伝えている。

加藤 今回の対談テーマが「美意識」ということで、昨日、小川さんがお勧めする「美意識を体感できる場所」を二人で巡りました。その中で、陶芸家にとって聖地とも言える、大阪市立東洋陶磁美術館に行きましたね。

小川 加藤くんに、陶芸家の黒田泰蔵さんの展覧会を観て欲しかったんです。作品はさることながら、キャプションに書かれている黒田さん自身の言葉にも触れてもらいたくて。

私にとって美意識とは、人の生き方そのもの。あの展覧会では、作品や言葉を通して黒田さん自身の生き様を感じられるんです。

加藤 まさに、黒田さんの美意識に触れたのは目が覚めるような体験でした。

小川さんは、東洋陶磁美術館や南禅寺の金地院など、気に入った場所を繰り返し訪れていると言ってましたね。

小川 そうですね。同じ場所に行っても、そのときの自分の状態によって感じることが違うのが不思議で。

加藤 それを聞いて、自分と向き合う場所や時間を大切にされているんだなと感じました。ディレクターとしてクライアントの心と向き合い続けるには、自分自身の心を見つめ直すことが大切ということでしょうか。

小川 まさにその通りです。ブランディングや組織デザインを行うとき、私自身も自分の心の内が分かっていないと、クライアントとの対話を通して調和をとることができないんです。

なにか問題が起きているときは、自分の心や思いを見失っていることが多い。そういうときは相手のせいにせず、自分のなかにどんな問題があるのかを振り返っています。

加藤 なるほど。僕は、プロジェクトをやっているとついつい一人で抱え込んでしまうことがあるんです。でも、なにか問題があったときは対症療法をするのではなく、本質的な原因を見つけ出していきたい。

今日のお話を通して、「そういう時は、小川さんと対話しよう」と思えたのは、嬉しい発見でした。

小川 私自身が酸いも甘いも経験してきたので、関わった人全員にできるだけ幸せでいてほしいんです。やっぱり、笑っていられるのって一番大切なことなので! いつでも相談してくださいね。

加藤 小川さんとご一緒するクライアントの方々が、ストレートな思いをぶつけたくなる気持ちが、よくわかりました(笑)。今日はありがとうございました!

Next Contents

横山禎徳氏に聞く、真の組織変革をもたらす組織デザインの極意とは

お困りですか?