新型コロナウィルス感染拡大後の中国で起こった
企業の取り組みと社会の変化
2019年11月に中国湖北省武漢市で発生し、2020年3月現在では東アジア・ヨーロッパを中心とし世界各地に拡散しつつある新型コロナウイルス(COVID-19)。
その感染被害が最も深刻な中国では、ウイルス感染拡大を防ぐため、生活から仕事、学生の勉強まで、あらゆる面でインターネットへの依存度を深めている。ここでは、新型コロナウィルス感染拡大後の中国で起こった企業の取り組みや社会の変化をいくつか紹介したい。
執筆:銭 宇飛(ロフトワーク クリエイティブディレクター)
オンラインでの医療提供
中国湖北省をはじめ、新型コロナウイルスによる病院内において感染ケースが次々と報告されている中、院内感染防止対策として様々な遠隔医療サービスが急速に広まった。
これらのサービスは基本スマホのアプリとしてリリースされており、アプリを開くと、受診を行える医師たちが、診療科目によってリスト化されており、その医師の特長、口コミ、平均回答時間などが表示されている。そして受診形式として「電話受診」と「画像+文字受診」を選ぶことができる。受診後は、アプリを通して医者が処方したお薬を、薬局から受け取るといった流れだ。
そして遠隔受診サービス丁香医生(DXY)では、新型コロナ感染マップや統計以外にも、インターネットに出回っている様々な新型コロナウイルスに関するうわさに対して「これはデマ」「これはホント」などと医療メディアとしての信頼性を使い情報整理をしている。
中国の大手ネット通販京東(JD)傘下の遠隔医療サービス京東健康(JDヘルス)では、新型コロナウイルス流行が始まって以降、1カ月当たりの診療件数がウイルス流行前の10倍の200万件に増えたと明らかにしている。
学校がそのままオンラインに
2020年1月29日、中国の文部科学省にあたる「教育部」が新型コロナウイルスへの対応方針として、「停課不停学(学校は停めるが、学びは停めない)」というスローガンを発表した。自宅待機の中、各教育機関へのオンライン教育をするよう呼びかけたのだ。
その2日後の1月31日には中国IT大手アリババが企業向けコミュニケーションサービス「釘釘(DingTalk)」を教育機関向けに無料で提供をはじめ、そして2月10日頃までには中国300都市にいる5,000万人の学生ユーザーを確保した。
自宅に待機しながら、遠隔授業だけではなく、朝会など学校が決めたタイムラインで過ごす。体育授業も遠隔で授業を行う学校もいる。先生がスマホ越しでお手本を見せ、学生が自宅でそれを見てマネして動くというらしい。
しかし、本来ウイルスの影響で春節休みが伸び、不謹慎ながら毎日家でゲームを楽しんでいた学生たちにとっては悪夢の始まりだった。自宅にいながらも、普段通りの登校時間にアプリで打刻をし、オンライン配信授業を受けなければいけない。授業を受ければ宿題も出る、宿題を写真でとり、Wechatなどで先生に送らなければいけなく、自宅でいつも通りの授業を受ける学生たちに不満が積み重なっていったのだ。
オンライン教育サービスを提供してくれてる釘釘(DingTalk)などのApp Storeで、学生たちは「こんなアプリを開発してくれてありがとう」「勉強をサポートしてくれるアプリに感動」などと皮肉ったコメントを記入し星一つの最低評価を残していった。
アップルのApp Storeで釘釘(DingTalk)の評価は、中国の小中生による低口コミ一斉攻撃により、本来の5点満点中4.9点から1.3点に落ちたが、3月の現在ではなんとか2.4点に回復している。
生鮮食料品のECがますます拡大
中国には「民以食為天(民は食を以て天と為す) 」ということわざがある。今回の新型コロナウイルスの影響の中でも、自宅待機している人々にとってもっとも大事なことは食料の確保だった。
交通規制は、生鮮食品の流通に大きな被害を与えている。本来、春節期間に向けて準備されていた野菜や精肉などが予定通りにパーチェシングすることができないため、時間が経ち過ぎて食べられなくなったり、腐ったりする問題が次々と起こった。
もともと中国でネット通販の利用習慣が十分に根付いているため、テンセントやアリババなどはECと即時配送が結びついた「生鮮食品EC」を昨年ぐらいから出していた。スマホのワンタップで、最短1時間で食品を配達してくれるというサービスだ。
自宅待機の中で唯一の食料確保の手段として、生鮮食品ECは市民のライフラインとなった。各社生鮮食品ECの売り上げは前年比4倍〜5倍伸びたという。
生鮮食品ECはオンラインの優位性を利用し、料理検索からレシピに含まれてる食品を、ワンタップでまとめ買いできる機能も付いている。生鮮食品はリピート率の高いカテゴリであると言われており、今回の新型コロナウイルスの影響が去った後でも利用者は伸びつつけるだろう。
最後に
春節期間で上映中止の映画をTikTokで有名なバイトダンス社が次々と買い取って無料公開したり、感染確定した人の移動経路を可視化するプラットフォームが生まれたり、テレビ番組の収録もコミュニケーションツールでオンライン収録したりなど、ここでは書ききれないほど様々な取り組みや変化が新型コロナウイルスの影響で起こった。
2003年の中国ではSARSの影響により、インターネットが広く認知され、消費者もオンラインで取引を行うようになりECサービスも進んだという過去がある。今回の中国で新型コロナウイルスの影響はすでに収束しているものの、社会で現在進行している変化は引き続き加速するだろう。
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